副業・兼業など新たな働き方を通じた地方創生
亀和田 俊明
2020/02/21 (金) - 08:00

東京一極集中を是正するため、転入と転出を2024年度までに均衡させるという地方創生戦略のなかで、「副業・兼業」を通じて地域と関わる「関係人口」が注目されています。地方における人手不足がより強まるなか、都市部のスキル・経験・知見を有する人材を必要としている地方企業は数多く存在しています。今回は、「副業」「兼業」という働き方から地方創生を考えてみたいと思います。

地方創生基本方針案で地方での副業・兼業を後押しへ

大企業によるテレワーク制度の導入や「副業」の解禁、2019年4月からの「働き方改革関連法」の順次施行により日本の働き方は大きな転換期を迎えています。デロイトトーマツグループの調査でも「働き方改革」に取り組む国内企業は9割(上場会社を含む回答企業)に上り、副業や兼業の許可・推奨の伸び率は12ポイントと高かったといいます。副業・兼業への関心が高まるなか、政府も成長戦略の柱のひとつとして副業がしやすい環境づくりを掲げています。

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2018年1月には、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成するとともに、発表された「改訂版モデル就業規則」の中で副業・兼業に関するモデル規定も明示しました。副業・兼業は、社会全体としてみればオープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面があると考えられています。

また、令和2年度の地方創生予算では、都市に住む人の地方での副業・兼業を促すため、プロフェッショナル人材戦略拠点の人員を倍増し、500人体制とするとともに、地方での副業・兼業等に要する移動費を3年間で最大150万円支援するなど、副業・兼業などで地域と関わる「関係人口」の拡大を柱に据え、副業・兼業により地方と関わりたい人と地方の中小企業を結び付け、継続的に都市住民と地方との多様な関わりを創出する取組を支援していくとしています。

今年度、人材のマッチングや移動費支援を行う新たな制度を創設することになりますが、1人当たり年間50万円を上限に3年間で最大150万円が支給され、交通費が1万円の場合は国と地方自治体がその半分を副業や兼業先の企業に支給します。主に東京と神奈川、埼玉、千葉の1都3県から他の地域へ副業・兼業として通勤する人を対象とするもので、1都3県の中でも交通の利便性が低い過疎地などへの通勤は対象に含めるとのことです。

副業・兼業など「しごと」を通じた地域との関わり創出

地方創生にとって柱のひとつである「関係人口の創出・拡大」ですが、副業・兼業など「しごと」を通じた地域との関わりの創出は、重要なテーマです。プロフェッショナル人材事業への支援の拡充とともに、企業人材の地域展開促進事業として、副業・兼業等を通じた東京圏の企業人材による地域での活躍を促進するため、プロフェッショナル人材戦略拠点の全国事務局機能の強化が図られるとしています。

さらに、地域企業の経営課題の解決に必要な人材マッチング支援を抜本的に拡充する「地域人材支援戦略パッケージ」が推進されます。地域金融機関等による地域企業の人材ニーズの発掘の強化、人材の送り出し元となる東京圏の企業の開拓・連携強化等により副業・兼業等も含めた多様な形態による地域への人材供給を大幅に拡大するというものです。拠点は45道府県に設置され、3年半で約3万5,000件の相談と約5,800件のマッチングの成果があるといいます。

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政府もまち・ひと・しごと創生会議で、2020年度からの5年間の地方創生の方向性を示す基本方針のポイントのひとつとして、「地方での副業・兼業を後押し」を打ち出しています。「地方への新しい人の流れをつくる」の取り組みを強化していくためにも地方での副業・兼業などで関わる関係人口の創出・拡大は、地方創生の視点からも新しい「働き方」の定着と広がりとして可能性が感じられます。

60%の首都圏管理職が副業・兼業による地方支援に関心

さて、若い世代を中心に移住への関心や副業・兼業への興味が高まっていますが、日本人材機構が2018年1月にまとめた「首都圏管理職における就業意識調査」では、首都圏における管理職(課長職以上)の副業や兼業、地方で働くことへの意識などが浮き彫りになりました。調査では副業・兼業に取り組むことは可能である人材が多いにもかかわらず、副業・兼業に積極的な人材はまだ少ないという現状も明らかになりました。

同調査によれば、「所属先で副業・兼業が許された場合、副業・兼業に取り組めるか」という質問に対し、過半数の52%が「できる」と回答しています。一方で、「平日の労働時間が2時間減ると仮定した場合、その時間をどう使うか」との質問に対しては、「副業・兼業」を選択した割合は6%。同様に、「自由に使える休日が増えた場合、何に取り組むか」という質問には、「副業・兼業」と回答した割合も5%にとどまりました。

ただし、「月に1~2度、休日を使い、自分の力を発揮して地方企業の業務支援をする機会がある場合、やってみたいと思うか」という質問に対し、「思う」と回答した割合は半数を超える60%。「複数の地方企業で働く副業・兼業のスタイルが浸透し、さらに現在の収入と変わらないとした場合、地方での働き方に興味はあるか」との質問に対しても「興味がある」「やや興味がある」と回答した割合の合計は46%に達しました。

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同社が運営する管理職や経営幹部のための地方求人メディア「Glocal Mission Jobs」には、「地方✕副業求人」というサイトもあります。地方への移住を伴わない、正社員での転職に比べハードルが低く、課題と取り組み内容がフルタイム勤務より明確な各地の副業の求人情報を掲載しています。地方企業のニーズの高まりとともに、情報掲載や応募も増え、マッチングも活発化しているようです。

地方おいては東京圏へ労働人口が流失し、働き手不足が深刻な上にスキルや経験を備えた人も都市部ほど多くはありません。移住、転職の前に副業・兼業という形で都市部に住み、働く人材を地方企業が活用できることは、この上ない好機です。これまでは地方での副業情報が乏しかったり、受け入れ側の事情もありましたが、都市部で仕事をしながら空いた時間を使って得意な分野による地方企業での副業は高まりつつあるといえます。

地方企業は、副業・兼業用の仕事を積極的に供給することにより、地方にとっては必要とする人材を安価で得やすくなり、人手不足の解消にもつながります。今後は副業・兼業等も含めた受け入れ側の企業ニーズの掘り起こしや人材の供給側となり得る首都圏の企業の理解のもと、副業・兼業等を含めた多様な形態の人材の活用を図ることが望まれますが、何より移動費など支援を得て地方との関わりを持つ都市部の人材が増えることが期待されます。

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