IoTでいち早くワンストップソリューションを実現 特許取得のセンサデバイスで上場を狙う
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/07/03 (月) - 13:00

特許取得のセンサを武器に世界へ進出

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株式会社MM総研の「国内IoT(Internet of Things)市場規模調査」によると、IoT市場は2019年度には国内で7,159億円に達するという。センサでモノから情報を取得し、インターネットを使ってモノの制御やデータを蓄積するIoT分野で、今、注目されている企業が福岡市にあるスカイディスクだ。

九州大学の学生だった橋本司代表取締役CEOが、温度・湿度・照度などのセンサを最大3種、自由に組み合わせられる日本初の脱着式センサデバイス「SkyLogger」を2012年に開発し、特許を取得。IoTシステム導入のイニシャルコストを大幅に抑えたこのデバイスを武器に、在学中の2013年に起業した。

スカイディスクの強みはIoT機器開発からデータの分析までワンストップで提供できる技術力にある。たとえば農業や物流、環境保全の分野では、クライアントのニーズに合わせたセンサを独自に開発し、人工知能(AI)を使ったデータ分析までを一手に引き受けている。

この「SkyLogger」をあらゆる分野で展開し、国内外でシェアを広げるため、2015年12月にベンチャーキャピタル数社から1億円を調達。さらに西松建設株式会社やKDDI株式会社、沖縄セルラー電話株式会社、台湾のKiwitec社との共同開発や実証実験がスタートした。「日本を変える100社」(2017年2月/週刊東洋経済)にも選出され、上場を目指す同社が挑む「IoT革命」に迫る。

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株式会社スカイディスク

2013年に橋本氏を含む3人の社員で起業。脱着式センサデバイス「SkyLogger」、データ蓄積クラウド「SkyAnalyzer」、AI分析「SkyAI」を組み合わせたIoT技術開発・データ分析を手がけている。

住所
〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-6-11
FUKUOKA growth next 217
設立
2013年
従業員数
20名
資本金
1億2,702万円

2013年10月

スカイディスクを創業。産学官連携でのIoT技術開発をスタート

2015年12月

ニッセイ・キャピタル株式会社などから1億円の資金を調達

2016年06月

「九州アントレプレナー大賞」を受賞

2016年11月

脱着式センサデバイス「SkyLogger」特許取得

2016年12月

西松建設とLoRa内蔵「SkyLogger」の実証実験を都内で開始

2017年02月

週刊東洋経済「ベンチャー沸騰!日本を変える100社」に選出

台湾Kiwitec社とIoT向け次世代通信規格「LoRaWAN」を使用したIoT関連製品・サービスの研究開発、ビジネス展開をスタート

2017年03月

KDDI、沖縄セルラー電話とIoTを活用したマンゴー栽培の実証実験を開始

受託の研究・開発からオリジナルの製品販売へ

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創業からの2年間は、地元の大学や大手企業と組んだ研究開発、実証実験を中心に事業を進めてきた。やがてそれも落ち着くと、橋本氏は経営のかじを大きく切る。

「クライアントのニーズに合わせて研究・開発をするのはもちろん大切です。しかし、これからは潜在ニーズを掘り起こして製品を開発し、市場に打って出るほうが重要だと考えました」

まずは資金と人材の強化だ。2015年12月に計1億円の資金を調達し、資本金を1億700万円に増資する。また、エンジニア3人だけだったところにビジネススキルの高いメンバー2人が加入。脱着式センサデバイス「SkyLogger」を武器に、販促・営業チームで販売を広げていった。

ターゲットのひとつは農業だ。作物の病気を予測し、育成のタイミングをはかるにはIoTシステムで得られる温度や湿度、CO2、照度などのデータが有用だった。ただ、イニシャルコストが高額で、運用には月額数十万円かかることも珍しくないため、簡単に導入できるものではない。そこで同社は月額費用だけ、それも安価にスタートできる農業向けのIoTシステムを提供し始めた。

奇跡のメンバーがそろう

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数十件の農家とすぐに契約を結んだが、ここで農業向けIoTシステムの弱点が浮かび上がる。農作物の成長に合わせて温度や照度などのデータを収集しようとすると、作物を収穫するまでに少なくとも数カ月から1年かかる。分析して結果をフィードバックするまでキャッシュ・フローが動かないのだ。

そこで農業向けIoTシステムをセールスしつつ、工場の設備保全のためのIoT技術の開発に乗り出した。機械装置に取り付けたセンサで振動や音の情報を収集して故障を検知する事業は、早ければたった数時間でデータがとれる。短期間で売り上げにつながるのだ。この設備保全のIoT技術が今、事業の主力を担っている。

農業や工場の設備保全だけではなく、今や幼稚園や学校、フィットネスクラブの室内環境管理や生鮮食品の管理など、さまざまな分野でIoTサービスの提供を可能にした「SkyLogger」。同社の強みは、このセンサデバイスを開発した技術力だけではない。それぞれの分野に特化した分析を可能にするデータ蓄積クラウド「SkyAnalyzer」と、AI分析「SkyAI」を組み合わせてサービスを提供している。

技術と分析ノウハウ。加えて、それらをオぺレーションする人材にも自信がある。2016年に大量採用を実施し、社員を5人から4倍の20人に一気に増やした。

「社会経験が豊富で、それこそ、一人一人が会社を経営できるくらいハイレベルな知識と技術を身につけた人材が集まっています。それが福岡で、スカイディスクという船に乗っている状況は奇跡です」と橋本氏は語る。

競合が少ない今こそ一歩先へ

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実は、「スカイディスクのような事業は誰にでもできる」と他社から言われ続けていた。しかし創業して4年がたっても競合は少ない。センサの開発からデータの分析まで、ワンストップで提供している企業はほとんどないのが現状だ。だからこそ、どこよりも早く同社のIoT製品のシェアを広げることを重視している。

まずは、同社の売り上げの30%を占める中小企業向け設備・環境保全分野で業界トップを目指す。それには単にサービスを販売するだけではなく、同社の価値を高めるブランディングが先決だ。また、セールスをするときに「何ができるか」だけではなく、「クライアントの事業にどう生かせるのか」を明確にしている。結果は運用してみないことにはわからないが、IoTが有用な点をできるだけ具体的に提示するのだ。

さらに、福岡に拠点を構える企業として国内の市場を狙うのと同時に、海外・アジア市場も見つめている。2017年2月には台湾のKiwitec社との共同開発、実証実験に合意。アジア地域でのサービス提供の足掛かりにしている。福岡から東証一部上場、そして世界へ。スカイディスクの快進撃は始まったばかりだ。

ブームを予測し、再度大学の研究室へ

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「実は、スカイディスクを創業する前は失敗ばかりだったんです」と橋本氏。長崎大学工学部を卒業後は、データ分析専門の会社のほか、いくつかの会社を経営していた。しかし、すべてがうまくいっていたわけではなく、研究開発費不足、運営資金不足などでたたんだ会社もあったという。

IT業界に身を置く橋本氏はやがて、IoTやクラウドの大きなブームが来ることを予測し、誰にも負けない強みを身につけるため大学で学び直すことを決意する。34歳で福岡市にある九州大学に入学。コンピューターを並べて同時に起動して分析する「人工知能での分散処理」を専攻した。そして創業するきっかけとなった「データ収集装置」の必要性に気づく。

「私たちはすでにデータがある前提で分析していましたが、そもそもデータを収集するほうが大変であり、重要ではないかと感じたのです」。センサを開発して人工知能で分析する研究を進め、事業化するため2013年に学内ベンチャーを立ち上げた。

社内の壁を取り去る「全員会議」

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3人でスタートしたスカイディスクは2015年12月の資金調達、2016年の人材採用をきっかけに事業規模拡大を続けている。20人いる社員のほとんどが社歴1年未満のため、今同社が何をやっているのか、どういう方向へ進もうとしているのか「意識の共有」が何より大切だ。

「常に方向性を確認して一丸となれば、事業展開や技術力向上のスピードが大きく変わります。そのために情報を共有する機会を設けています」

毎週月曜に1時間から1時間半の会議の場を設定し、月に1度は全社合宿を実施する。どちらも全員出席がルールだ。誰が何をしているのか相互に理解を深めることで、エンジニア系のメンバーとビジネス系のメンバーの間に壁が生まれないようにしている。

また13項目からなる行動指針を作成し、指針に照らし合わせて事業を進めている。たとえば「アンマッチを起こさない」。お客が買ってくれるからといって安易に商品を売らず、本当に必要とするものを提供するのが同社のスタンスだ。ほかに「失敗を許容する。失敗を恐れない土壌をつくる」というものもある。

「失敗を恐れることで、ビジネス全体の速度が停滞するのが怖いんです。ベンチャーは足回りの良さが強み。足踏みするのはリスクでしかありません。失敗したら、みんなで笑って許し合える土壌をつくりたいと考えています」

ビジネスの勝機を「変化」に見いだす

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顧客接点を積極的に持つことも重視している。社内での人間関係だけでは知識の幅も技術力もすべてが停滞してしまう。受け身では新規の仕事は獲得できない。だから同社では、外に出ていろんな人と接点を持つことを推奨している。

「社長としての職務も皆と同じだと考えています。新規の案件や契約につながらないとしても、2年後に契約に結び付くかもしれない。別のお客につながることもある。他人から『無駄じゃないのか』と思われても、外に出てたくさんの人に会うようにしています」。そうして接点を持ち続けてきた結果、重要な局面で協力してくれる仲間が増え、確実に仕事が生まれているという。

橋本氏には好きな言葉がある。「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という『方丈記』の一節だ。「毎日、いろいろな変化があって当たり前。しかし、気をつけなければ変化は見つけられません。水面上は何もないからといって見過ごすのではなく、どんな小さな変化でも感じ取れる会社にしたいんです」

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株式会社スカイディスク 代表取締役CEO

橋本 司

1975年生まれ、福岡県北九州市出身。長崎大学工学部卒業後、システム会社を設立し開発を担当。2010年に九州大学システム情報科学府博士課程に入学し、人工知能での分散処理を専門に学ぶ。2012年に脱着式センサデバイス「SkyLogger」で特許を取得し、2013年にセンサデータの収集・分析やクラウドサービスの提供に特化したスカイディスクを創業する。

最先端の技術で戦うため福岡へ

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最高技術責任者CTOの大谷祐司は大学卒業後、エンジニアとしてシステム開発から事業の企画・立ち上げまでを手がけ、実績を重ねてきた。株式会社リクルートエージェント(現・株式会社リクルートキャリア)では5人でスタートした新規事業の企画・開発部門を1年半後には50人に増員。人材会社の株式会社インテリジェンスでも新規事業にかかわり、3年間で6つの新サービスをリリース。1人目のエンジニアとして入社して、3年後には60人の技術組織に育てた。

事業を創出し、軌道に乗せる手腕は高く評価されている。しかし、機会があれば地元・山口で働きたいと考えていたという。技術イベントの参加がきっかけで、福岡は創業支援が盛んで、スタートアップ系の企業によるイベントや勉強会が頻繁に開催されていることを知る。

「今、福岡のスタートアップかいわいが面白い、と感じました。なかでもスカイディスクは、最先端のIoTで新たな市場をつくっています。ここでなら、新しい市場を創出して軌道に乗せていく楽しさが味わえると思ったんです」

また大谷氏は、部長職としてマネジメントや事業運営に携わることがほとんどで、現場で開発する時間が著しく減っていた。スカイディスクであれば好きな開発に携われるうえに、常に最先端の技術に触れられると考えた。

「何を開発してどの分野に打って出て、どう勝っていくのか。それを考えるのが好きなんです。スカイディスクは立ち上がったばかりのベンチャーだけに、現場での経験も積めると考えました。IoTの最先端で戦うには、ハイレベルな知識と技術が必要ですから」

2017年1月に同社に入社すると、「CTO」のポストが待っていた。大谷氏も予想だにしないスタートだった。

地方にいながらIoTの先端をひた走る

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「社内の雰囲気は“超フランク、超フラット”。立場に関係なく、互いに言いたいことは言い合える環境です。社員一丸となって事業に取り組んでいるところはベンチャーならではでしょう」

技術に触れる時間が圧倒的に増えた。コードを書いて、製品をリリースする。さらに、市場で価値を発揮するテクノロジーを見つけて、それを同社の武器に変える企画・開発にも携わる。求めていた現場の仕事はやはり刺激的で、10年以上毎日続けている技術学習にもますます熱が入るという。

「今は作業着を着て工場や発電所でセンサを取り付けてデータを収集したり、お客様向けのレポートを数百枚単位で書いたりもしています。初めてのことばかりですが、『この一つ一つの作業が市場をつくっていくんだ』と楽しんでいます」

また、CTOのコミュニティーや同業他社との勉強会には積極的に出かけ、福岡でのネットワークも勢いよく広げている。都市の規模がほどよいためか、業種を超えてすぐに仲良くなり、和気あいあいとした雰囲気でコミュニティーが生まれている。しかも、地方にいながら東京と遜色ない先端技術に触れられるのだ。「転職してみたら『福岡は最高』でした」と大谷氏は言う。

データが持つ価値からビジネスが生まれる

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今、大谷氏に求められているのは、「ハイレベルな技術があり、技術を向上し続ける組織をつくること」だという。高い能力を持った人材を組織の方向性にマッチさせることができれば、事業は勢いよくドライブしていく。そのための採用も担当するようになった。

「持論ですが、エンジニアの採用はエンジニアにしかできないと考えています。技術力や知識がどのレベルなのかは、技術者同士だとわかるもの。現状を把握したうえで、互いの目指す方向をすり合わせ、理解し合うことを大切にしています」

夢は、働き始めてからずっと変わっていない。最高の技術チームをつくって、最高の技術を使い、新たな市場を切り開いていくことだ。今同社が手がけている農業、物流、環境といった分野も、事業全体のほんの一部にすぎない。

「重要なのは顧客価値の創出です。クライアントがほしかったデータをそろえるだけではなく、そのデータがどんな価値を生むのかを共に見つける。結果を何に生かすのかを提示して、デバイスという“形あるもの”ではなく、“価値”に投資していただく。私たちが新たな価値を見いだすことでビジネスチャンスはもっと広がるはずです」。そう語る大谷氏は日本の市場、そして海外市場をも見つめている。

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株式会社スカイディスク 最高技術責任者CTO

大谷 祐司

1980年生まれ、山口県下関市出身。大学を卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。2007年にリクルートエージェント(現・リクルートキャリア)に入社。事業企画・運営を経験し、2008年に株式会社サイバーエージェントに転職。インターネット広告を展開するシステム開発部署を立ち上げ子会社の技術責任者に就任。その後、インテリジェンスではマーケティングや新規事業の開発などを担当。2017年1月よりスカイディスクの最高技術責任者CTOに就任。

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