副業人材×地方企業。今まで出会えなかった人材がもたらしてくれたもの
株式会社オキス 岡本 雄喜さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2020/05/25 (月) - 08:00

最近、都会のビジネスパーソンの間で、「出張スタイルの副業」という働き方が静かに広がり始めているのをご存知だろうか。そうした副業人材を採用し、成果を上げているのが、鹿児島県鹿屋(かのや)市にある農業法人「株式会社オキス」だ。同社はなぜ、副業人材の採用に取り組むことになったのか。そして彼らは何をもたらしたのか。最新型の副業の実態や、副業が企業側と人材側の双方にもたらすメリットについて探ってみた。

副業プロジェクト「Skill Shift」

株式会社オキスの紹介をする前に、1つのプロジェクトを紹介しよう。東京都港区に本社を置く株式会社スキルシフトが運営する「Skill Shift(https://www.skill-shift.com/)」という、これまでになかった副業プロジェクトである。

「Skill Shift」は、厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表し、「副業元年」と呼ばれた2018年の前年に立ち上げられた。その目的は、都市部の人材と地方企業を「副業」でつなぐこと。都市部の人材がより気軽に取り組めるよう、「月に1回の面談+普段はオンラインで遠隔サポート」「平均謝礼4万円」という出張型の副業スタイルを提案している。現在、全国45の市町村と169の企業が同プロジェクトを利用して副業人材を募集しており、登録者はすでに1500人以上にのぼっているという。

「株式会社オキス」が、そんな「Skill Shift」を利用し始めたきっかけは、経営企画部の課長・岡本雄喜さんの、「このままでは、鎖国の中での経営だ」という危機感だった。

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今回お話を伺った、株式会社オキス 経営企画部課長 岡本 雄喜さん

厳しい立地だったからこそ生まれた、乾燥野菜

鹿児島市から高速道路を使って約1時間半。株式会社オキスは、鹿児島県鹿屋市にある農業法人だ。
場所は、錦江湾を挟んだ、鹿児島市の反対側。森林と農地がひろがる大隅半島のほぼ中央に位置しており、同社の社屋も四方を広大な畑に囲まれている。
しかし、この辺鄙な環境こそが、今のオキスを育んだといっても過言ではない。

オキスの母体である「岡本産業」は、運送会社である。鹿児島県は農業生産額が全国2位を誇る農業県。鹿屋に本社を置く岡本産業にとって、農産物は格好の配送商品だった。しかし、県内一の人口集積地である鹿児島市内は遠く、輸送には時間も経費もかかる。そこで思いついたのが、野菜の乾燥加工だった。

野菜の不必要な部分をカットしたうえで乾燥させれば、重量は軽くなり、一度に多くの商品を運べる。しかもメリットはそれだけではなかった。野菜の種類によっては、甘みが増し、栄養価も高まるのだ。そのうえ常温でも保存ができるようになり、調理にも手間がかからず、廃棄ロスも出ない。

ちなみに、後の話だが、熊本地震の直後には、7000食分のみそ汁の具と炊き込みご飯の具を、自家用車1台で届けることができたという。

多彩な利点を兼ね備えた乾燥野菜は、平成18年に株式会社オキスが設立され、加工販売を本格化させると、着実に販路をひろげていった。

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現在は、100haの直営農場と120haの連携農家から仕入れた約二十種類の農産物を、自社工場で加工している。乾燥だけでなく、ボイル、製粉、焙煎など、用途に応じてさまざまな加工を施された商品は、東京を中心とした量販店や、健康食品メーカーの機能性原料として供給されているほか、自社サイト「薩摩の恵(https://shops.okisu.co.jp/」を通じてネット販売もされている。

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東京からUターンし、人材不足を痛感

そんなビジネスモデルを一代で築いてきた岡本孝志社長の長男が、現・経営企画部課長の岡本雄喜さんである。

岡本さんは東京の大学を卒業後、ITベンチャーで3年間勤務。27歳の時にUターンし、オキスに入社した。もともと「自分で起業したい」という希望があったが、「1から作るより、今あるもの(会社)をより大きくする方が自分の目標に早く近づく」と考え、自らUターンを決意し、オキスへ飛びこんだという。
「ベンチャー時代は社員が5、6名しかいませんでしたから、営業から企画、人事、経理まで、なんでもやらせてもらいました」という岡本さん。オキス入社後も、ひと通りの部署を体験してみた。すると、社内に足りないものが見えてきたという。それは、中間管理職の人材不足だった。

「中間管理職の役割は大きく、部署の組織を作ることと、事業の流れを作ること。しかしそれを的確にやれる人がいないから、社長が現場におりてきて、その仕事をやっていたんです。だから社長の仕事量が過多になる。その繰り返しでした」

しかしそんな状態になるのも無理はなかった。優秀な人材は、都市部に集中しがちだ。鹿屋市の出身者でさえ、多くは地元を離れていく。事実、オキスがこれまでどれだけ採用活動に力を入れようとも、なかなか求めるような人材と出会うことはできなかったのだ。

「この現状を変えるために、どこかから力を借りることができないか?」
そう考えた岡本さんがネットで検索しているうちに見つけたのが、「Skill Shift」だった。
「見つけた瞬間に、これだ!と思いましたね。すぐに社長に提案に行きました」

しかし社長は当初、副業という言葉に、良いイメージを持っていなかったようだ。
「でも、よく考えみたら、社長がいちばん副業をやっているんですよね。農業、運送業、林業など、グループ内のいろんな会社を経営していますからね。自分がやっていることを否定してはいけない、それと同じだから、と説得しました。」

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応募者の人数と顔ぶれにびっくり

岡本さんには、特に気になる部門が2つあった。

1つ目は、ネット通販の部門だ。
「ネットの売り上げが横ばいのままでした。理由は明らかでした。やっていることがずっと変わっていませんでした。その状態を脱却するために何をすべきか。スペシャリストの力を借りて、1からちゃんと洗い出したほうがいいと考えていました」

もう1つは、営業部門。こちらも旧態依然の状態が続いていた。昔ながらのやり方、すなわち商談会で出会った会社へ手あたり次第にアプロ―チするという営業手法を繰り返すのみで、過去の分析に基づく予測や、将来を見すえた戦略が見えてこなかった。

そこで岡本さんはまず、「Skill Shift」を通じて、「Webマーケティング」と「営業分析」の2職種を募集することにした。

「はたしてどれだけ反応があるのか?」

不安だらけのチャレンジだったが、予想を超える反応に驚いた。
「2つの職種をあわせて、約30人の応募がありました。その9割が東京の方。年齢層もほとんどが20代から30代の方でした。」

しかも、応募者たちの肩書には、そうそうたる会社名が並んでいた。世界的なIT企業や、国内業界でトップクラスのメーカー、有名ITベンチャーなどの社員が応募してくれていたのだ。それまでの採用活動を振り返ると、夢のような顔ぶれだった。

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出社は2ヵ月に1回。報酬は月5万円

岡本さんはその中から、Web面接を通じて、2名の採用を決めたという。人選のポイントは何だったのだろうか?

応募者には2つのタイプがあることが分かりました。地域の活性化に貢献したいという想いが強い「パッションタイプ」と、自分の力を試してスキルアップしたいという想いが強い「スキルアップタイプ」です。私が優先したのはスキルアップタイプで、そこにパッションが伴うと最高。実際に選んだのもそういう方々でした。面接で私たちの話を受け、自分のスキルと照らし合わせたうえで、『これをやります』と私たちが可視化できていないことを提案してくれた人たちを選びました」

採用されたのは、世界的IT企業でマーケティングを担当している人材と、マレーシアに在住しながらフリーランスで活動しているWebマーケティングのプロフェッショナルだった。

契約期間は、企業によって異なるが、オキスの場合は半年間。その間の報酬は、月5万円だ。そのかわり、会社に常駐する必要はなく、2ヵ月に1回対面式でのミーティングのため交通費を会社持ちで来てもらった。その他は、チャットやメールでコミュニケーションをはかるのみ。

それでも、成果は大きかった。
「営業担当の方には、5年分の販売データを渡しました。すると、売り上げの構成比、対前年比、既存の顧客と新規の顧客の割合、商品別の割合、何月に何がどれだけ売れるのかといった、あらゆる角度からの分析をしてくれました。おかげで社長も的確な指示ができるようになりました」

一方、Webマーケティングの人材も大活躍。わずか半年間でネット通販の売り上げが、前年比で120%に伸びたという。

やってみて感じた、失敗とメリット

この成功に手ごたえを感じた岡本さんはその後も、「海外ビジネスの開拓」「自社メディアの構築」など6つの職種で、副業人材の募集を継続。これまでに7名を採用している。

その中には、失敗と感じる事例もあった。「総務の改善」をテーマに掲げたときのことだという。
「社内に常駐していないと難しい仕事もあるとわかりました。そもそも総務の仕事は、社外秘の内容も多いので、どこまで話していいかが非常に難しいです。もう1つの反省点は、副業人材の採用数をいっぺんに増やしてしまうと、対応が難しくなるということ。特にうちの会社は私が1人で副業人材のケアをしていましたから、手が回らなくなってしまいまして…。受け皿づくりは、募集する企業側の重要なポイントだと思います」

しかし、逆にいえば、社内のあらゆる部署に一気に増やしたくなるほど、副業人材の採用は魅力的だということでもある。

岡本さんに改めて、副業人材を採用して感じたメリットを聞いてみた。
「社長や私自身の相談相手が確保できたことですね」
例えばオキスでは、シンガポールでのネット事業を検討していた時期があった。そこで「Skill Shift」を通じて採用した海外ビジネスに強い副業人材に相談したところ、3か月間のリサーチを経て、「やめる」という判断ができたという。
「この判断をきちんとできたのは大きかった。しかもこれをコンサルに頼んだら、何倍ものお金がかかったと思います。しかも副業人材の提案は、基本的に営利目的ではありません。営利目的でない客観的な提案をしてくれると思います。」

岡本さんが感じたもう1つの大きなメリットは、社内の活性化だ。
「今まで会ったこともないような、すごい企業の人と一緒に仕事ができるわけですからね。それだけでわくわくしてくるし、いつでもチャットで会話できるわけですから、社員たちの意識も変わりました。『自分も仕事のことを聞いてみたい』という社員が次々に表われましたよ。相談すれば、目からうろこが落ちるようなアドバイスをもらえますし、私自身も非常に刺激を受けました。目指すべき仕事の基準値が上がったと思います」

副業人材が与える影響は、社員だけでなく、経営陣に対しても大きいようだ。

優秀な人材たちが副業をする理由

一方、副業人材側のメリットは何だろう。

オキスが採用した人材の中には、複数の企業で副業をしている人も多く、中には、本業の収入と合わせて数千万円もの年収を稼いでいる人もいたという。つまり、彼らの目的は、お金ではないのだ。
「だから、彼らはただお金を求めて副業をしているのではないです。ここで食べていかなくてもいい方ばかりです。だから月5万円ぐらいで引き受けてくれる方々がほとんどです」

では、何を目的に応募してくるのか?
「自分の経験値を増やしたいんだ、と話していました。ここでやることが、自分の肩書になると。地方のこんな会社でこんな仕事をしたということが、彼らにとっては、次のステップアップになるみたいです」

また、地元を離れて都会で働いている人たちにとっても、副業は、地元に恩返しをする格好の機会になると岡本さんはいう。
「私の同級生にもたくさんいます。地元に貢献したいと思っているけれど、その手段がわからない、といっている人が。そういう同級生たちにも、うちで副業をしないか?と声をかけています。私は、人材版のふるさと納税だと思っています。地元にお金を落とすだけじゃなく、スキルやノウハウを落とすことで地元企業が元気になれば、本当の意味で、地域活性化の理想的な循環が生まれていくと思っています」

本当にクリエイティブなのは、地方だ

オキスでは、副業人材が来鹿する際は、時間があれば、大隅半島を案内することもあるという。会社でミーティングをした後は、宴会を開くのが恒例だ。おいしい地元料理と焼酎を囲む。ときにはその輪に、鹿屋市の副市長など、地元のリーダーたちも加わって、鹿屋の未来について語り合うこともあるそうだ。
「最後はやっぱりアナログ。飲み会は大事にしています。鹿屋という土地と人の肌感を感じてもらいたいです。一緒に飲みながら話せば、鹿屋に対する愛着もわき、その愛着がオキスでの副業に生きると思っています。」

そうした宴会の場で、副業人材がこぼしたなにげない言葉が、岡本さんには忘れられないという。
「東京は何でも揃っているけれど、生んでいるものはすくない。鹿屋の方が生んでいるものが多い、といってくださいました。本当にそうだと思いました。それまで私は、鹿屋はなんにもない田舎だと思っていました。でも違うと。ふるさとは可能性の宝庫だと思えるようになりました。」

大隅半島の肥沃な土壌は、一年間を通して豊富な農産物を育む。それらを最大限に活かすために、オキスでは冷凍加工を行える新工場が稼働し始めた。健康意識や防災意識の高まりとともに、乾燥野菜の需要そのものも拡大している。「2年後には会社の売り上げも、今の2倍から3倍近くになっていると思います」と岡本さん。

その一方で、個人としての目標もこう語る。
「民間企業型の地方活性化の解決モデルを作りたいと思っています。農業、林業、水産業といった一次産業を中心に、地方にある資源をどう使い、どう動かせば、活性化につながっていくのか。その実現のためにも、副業人材が持つスキルやノウハウは欠かせないと考えています」

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最後に、岡本さんは、「副業」の魅力についてこう語ってくれた。

「副業人材を受け入れることで私たちも『井の中の蛙』にならずに済みます。でもそれは、人材側にとってもそうだと思います。しかも副業はお互いに負担が少なくて済みます。正社員としての採用に比べると、簡単ですから。しかも今はまだ募集している企業が少ないので、1つの求人で10人の募集が来ることも当たり前。今までの求人では絶対に会えない人たちと出会うことができますし、地方の企業が成長するためには、非常に大きなチャンスだと思います。」

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