【地方移住の手引き】withコロナ時代に考える田舎暮らし ―前編:生活編
GLOCAL MISSION Times 編集部
2020/08/07 (金) - 17:00

新型コロナウイルスは、私たちの生活を大きく変えました。自宅でリモートワークやリモート会議の日々を送ることで「仕事はどこでもできる」との気付きも得たことでしょう。コロナ禍が収束しても、以前のように毎日満員電車に乗らなくてもよい、と。ならば、地方で田舎暮らしをしながら仕事はリモートというライフスタイルも浮上します。そのためのヒントを、「生活編」と「実践編」の前後編に分けてお届けします。今回はその前編です。

そもそも「田舎暮らし」とは?

「田舎暮らし」──もう何十年も前から、都会で暮らす人々にとってまるで魔法のような効力を持って存在してきた言葉です。ある種のユートピアをイメージさせる、第二の人生の選択肢。都会で疲弊する日々を救ってくれる生き方、とも言えたでしょう。ところが、そんな幾分後ろ向きではない、新たな田舎暮らしのスタイルが生まれ始めています。きっかけは新型コロナウイルスです。出社ができなくなり、自宅などでリモートワーク。会議もオンライン。朝から家族との時間を過ごします。すると、出社する日に乗る通勤電車がまるで馴染みのない空間に思えることも。コロナ以前はさらに過酷な満員電車に乗っていたとは、信じられないでしょう。
こうなれば「通勤しなくてもいいのでは?」との疑問が生まれることも自然です。それが地方移住への動機につながります。自宅で仕事も会議もこなせるなら、都会に住む必要はない。のびのびと生活を楽しみながら家族と暮らしたい。何度も耳にはしている「スローライフ」を、自身で送る機会が来ます。疲れを癒やすためではなく、前向きな生活様式をつくるための移住なのです。新たな「田舎暮らし」が生まれようとしています。

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4人に1人が地方移住に関心

コロナ禍が地方移住への意識を変えたことは、統計でも明らかになっています。緊急事態宣言が全面解除された2020年5月25日から6月5日までの間、内閣府が1万人を対象に調査を実施。その結果、リモートワーク経験者のうち24.6%、つまりおよそ4人に1人が地方移住への関心が高くなったことがわかりました。さらに、リモートワーク経験者の64.2%、およそ3人に2人は「仕事より生活を優先させたい」と答えています。一方、リモートワークや時差出勤をしていない人の関心は34.4%とはるかに薄い結果となりました。
また、若い世代でも地方移住の関心は高まっていることも、この調査で明らかになりました。特に東京23区在住の20代では35.4%という高い数値に。
やはり、コロナ禍をきっかけにして働き方、暮らし方への意識が変化したと言ってよさそうです。その背景には、ネット環境やアプリなどインフラが整ったこと、出社を最優先にしなくなった企業の考えの変化があるでしょう。

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地方移住にはいくつかのスタイルが

では、地方移住しての田舎暮らしは、人生にどんな変化をもたらすか見ていきましょう。「田舎」という言葉から連想されるのは、里山の風景ではありませんか。藁葺き屋根の家の前に田んぼや畑が広がり、小川が流れる背景に緑深い山……。日本人なら誰もがそんな原風景を思い描くでしょう。でもそれはあくまでもイメージの集約。田舎・地方と言っても、都市から過疎地までさまざまな現実があります。自分にとってどんな地方移住がしたいのか、という部分から考えていきましょう。その指針となるツールがあります。それが──
「いなか暮らしはじめませんか?」〜内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が発行している地方移住ガイドブックです。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/info/pdf/panf_iju.pdf
地方移住、田舎暮らしとは何か、どんなステップで進めたらいいか、移住体験者のインタビュー等の他、「オススメの地方移住スタイル」を知るためのマトリックスも載っています。田舎暮らしに求めるものは何か、全く違う仕事や生活がしたいのか、人との関わりに興味があるか、自然の中で暮らしたいかなど、設問に答えていくとオススメのスタイルに導かれます。例えば、体験移住、長期滞在、往来移住、しっかり移住など6つのスタイルを紹介し解説。お試し移住、住宅探し、仕事探しなどの情報収集ノウハウや心構え、地方生活の本音まで掲載しています。心強いガイドブックとして活用することをお勧めします。

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趣味時間との距離の近さ

地方移住して田舎暮らしを実践している人に話を聞くと、「お金より時間」という言葉が頻出します。仕事をして稼ぐお金よりも、そこで得られる豊かな時間に価値がある。「何もしていない」時間こそが、今まで得られなかったもの。時の流れが都会とは違うというのは、何となく想像がつきます。そもそも一日の組立が変わるわけです。リモートワークを前提とすると、通勤の時間がありません。所属企業や部署にもよりますが、仕事を開始する時間は個人の裁量の場合もありますし、就業時間や昼休みも自由に決められることもあるでしょう。こうして仕事以外の時間を創出できたら、何をするか? 今までできなかったことをリストアップしてみてください。
例えばサーフィンが趣味であれば、スポットへのアクセスがいい場所が移住候補地となるでしょう。海が近いということは、その他のマリンスポーツへ挑戦する時間ができるかもしれません。スキーが趣味なら、雪のない季節は同じ山へトレッキングに行くこともできます。郊外に家庭菜園を借りていた人なら、今度は自宅の敷地内で野菜作りを楽しむことだってできるでしょう。趣味と隣り合わせの生き方──もしかすると、これが地方移住の最大の醍醐味なのかもしれません。

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子育て世代の心配事は待機児童

保育園に子どもを預けなければならない家庭にとって、待機児童問題への関心は大きいでしょう。移住先の保育園にうまく入れるだろうか、向こうで子どもが生まれても待機児童にならないだろうか……。移住に当たって、心配になる事柄です。厚生労働省が毎年発表している「保育所等関連状況取りまとめ」の令和元年版では、同年4月(平成31年)の待機児童数トップ5は、1. 東京都 2.沖縄県 3.兵庫県 4.福岡県 5.埼玉県という順です。沖縄県が多いのが意外です。また、待機児童率では、1.沖縄県 2.兵庫県 3.宮城県 4.滋賀県 5.岡山県。地方だから待機児童が少ないわけではないことがわかります。少子化で保育園が少ない、保育士不足、共働きが増えニーズが高いといった理由が挙げられます。もちろん国でも各自治体でもそれらの解消に向けた施策や努力は続けています。同省が行ってきた「子育て安心プラン」では、2018〜2020年度末までの3年間で受け皿は29.7万人分確保できたと発表しました。もちろん、待機児童ゼロという市区町村もたくさんありますから、下記のサイトで確認してみてください。
移住先候補を奥さんの実家がある町にする、保育料金は上がるけれど無認可保育園に入れる、といった手段もあります。家族ごとで事情はさまざまですから、まずは情報を集め、夫婦で話し合ってください。

参考:保育所等関連状況取りまとめ(平成31年4月1日) 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000176137_00009.html

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授業のあり方はこう変わる

緊急事態宣言が続く中、ほとんどの学校は休校となっていました。学習進度の確保や健康観察のため、リモート授業を行った学校も数多くあります。こういったケースはもともとICT教育に力を入れてきた下地がある学校ですが、コロナ禍を機会にタブレットやパソコンの導入が一気に進むという見方もあります。海外に比べICT教育に遅れを取っていた日本ですから、その必要性は以前から叫ばれてきました。通信インフラでは5G化が進行していけば、ますますリアルに近いスムーズな授業が可能となります。親はリモートワーク、子どもはリモート授業というスタイルは、地方都市の方が先に定着するかもしれません。生徒や児童個別に最適な学習を送ることができれば、住んでいる土地がどこであれ、良質の教育を享受できるわけです。
また、受験生にとって地方移住は不利に感じることもあるでしょう。しかしこうやってリモート授業が浸透していけば、予備校の授業も家にいながら受けられます。通信制の予備校は以前からありましたが、さらにインタラクティブになるなど進化していくことでしょう。

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日本語が通じ、日本円が使える

これまで「Glocal Mission Times」では、地方移住を果たして新しい生活を始めている、たくさんの人たちに話をうかがってきました。一大転機として移住を考えた人もいれば、「国内への引っ越し」という感覚で捉えた人もいます。後者の方は、「日本語が通じて円が使えるんだから」と言っていたのが印象的でした。いずれにせよ住むのは日本国内です。あまり移住を大上段に構える必要もないのでは、とも思いました。肩の力を抜くと見えてくるものもあります。仕事の仕方をしっかりと定め、自分のライフステージに合った暮らしができるかどうかの情報を集め、家族と一緒にいろいろな面から検討することで、失敗のない地方移住=田舎暮らしを実現することができるでしょう。
次回「後編:実践編」では、移住先での具体的な住まい探しの方法、移住を成功させるためのノウハウなどを紹介する予定です。ご期待ください。

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