【地方移住の手引き】withコロナ時代に考える田舎暮らし ―後編:生活編
GLOCAL MISSION Times 編集部
2020/09/04 (金) - 07:15

「with コロナ時代に考える田舎暮らし」の前編では、新型コロナウイルスが変えてしまった仕事のスタイルにより、「地方で田舎暮らしを楽しみながら現在の仕事をする」可能性を提案しました。「基本テレワークとする」といった方針を打ち出した大企業も次々現れています(2020年9月時点)。地方企業に転職する必要がなくなれば、ハードルのひとつは低くなります。それを飛び越え、次に待ち構えているハードルが「住むところ」。地方自治体には、移住希望者の住まい探しを後押しする支援制度を整えているところが多くあります。それらを紹介しながら、満足のいく移住実現について見ていきましょう。

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【地方移住の手引き】withコロナ時代に考える田舎暮らし ―前編:生活編

求められる条件は「広さ」

2020年5月、富士通グループは「緊急事態宣言解除後も在宅テレワークを基本とし」「出勤率を最大25%程度に」する発表をしました。日立製作所も、「在宅勤務活用を標準とした働き方」を推進する表明。NTT、日清食品、Twitter、Facebookといった企業も同様の方針を打ち出していて、都心部の社屋に毎日出社する必要は薄れていくと考えられます。同時に、地方移住への興味はさらに高まるでしょう。首都圏在住でマイホームを検討中の男女を対象とした調査では、「検討物件のエリアが郊外や地方に」「マンションから一戸建てに」変化しました(SUUMO調べ)。「密」になりやすい都市の集合住宅を避ける傾向へのシフトです。さらに、仕事に集中でき、小さな子どもにリモート会議を邪魔されない独立したワークルームを求める人も増えています。このように、広くて部屋数の多い住まいを手に入れるには地方への移住が手っ取り早い、という考え方が広まりつつあることを示しています。

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都会と違う「家」の概念

さて、一言で「家」と言っても、実は都会と地方ではその観念が違う場合もあります。都会では住むためのスペース全体を指し、マンションなどの集合住宅も一戸建てもすべからく「家」。一方地方では「一戸建ての持ち家」だけが「家」であることも多いのです。集合住宅に住んだことのない人も少なからずいるという事実は、時として都会在住者を驚かせます。「家」という言葉ひとつ取ってもこのギャップがあることを、まずは認識する必要があるでしょう。
また、「持ち家」であることが当たり前の社会であるため、「借家」に対する微妙な意識も踏まえておいた方がいいと言われます。「いつか引っ越してしまう人」と見られるからです。つまり、定住しない可能性が高い人。あからさまではなくても、一人前の社会人の条件が持ち家であるという通念は多かれ少なかれ、あります。そんな地域での賃貸住宅探しは、苦労するという話も聞きました。そもそも「賃貸住宅」という概念がないからです。かと言って、まったく知らない土地で最初から家を購入するのもリスクがあるでしょう。
では、どのようにして住まいを探すか。購入を前提としなければならないのか。賃貸物件はないのか……。それらの疑問や期待に応えられるよう、移住促進を掲げる自治体にはいろいろな制度が整備されているのです。

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家と住人をマッチングする「空き家バンク」

2000年代初め頃、人口減少、経済構造の変化などによる空き家問題が深刻化の兆しを見せていました。そこで、自治体などが地域の空き家情報を集め、入居希望者に提供するシステムが始まります。これが「空き家バンク」制度です。人口減に悩む自治体にとっては定住者の増加を図ることができるため、急激に増えていきました。そして各地で立ち上げられている空き家バンクを一元化するため、2017年には国土交通省が「全国版空き家・空き地バンク」を開始しました。運営に当たっているのは「LIFUL」「アットホーム」という不動産関連情報を扱う会社。全国どこからでも検索できるようになっています。2019年2月時点で、全国603の自治体が参加し、延べ9,000件以上の情報を掲載。累計制約数は1,900件を超えました。

株式会社LIFULL https://www.homes.co.jp/akiyabank/
アットホーム株式会社 https://www.akiya-athome.jp/

それぞれのサイトでは空き家物件情報の他、農地付き・店舗付き物件、古民家特集、眺望のよい物件、リフォーム済み物件など、特徴ごとに分類したページも設置。より探しやすく工夫されています。例えば「古民家でテレワークをしたい」という希望があれば、「古民家」で検索した中からリノベーションしやすい物件を探し、立地や条件などで絞り込んでいくことができます。
注目エリアの紹介や支援制度も網羅しているので、定期的にチェックしてみるといいでしょう。

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気になる、医療と福祉への取り組み

移住先の生活で気にかかるのは、医療体制と福祉への取り組み。どちらに関しても、いざという時のために知っておかなければ安心できません。移住支援を掲げる自治体には、それらをしっかりと謳っているところも少なくありません。
移住者を迎え入れる自治体にとってはさらなる人口増に結び付けるため、妊娠〜出産〜子育て過程への厚い支援をアピールしたいところです。また、地方では高齢化がいち早く進んだこともあり、介護に関する支援制度が整っていることも挙げられます。いくつかの例を見てみましょう。

医療・福祉に関する補助の例

●宮城県気仙沼市「妊婦健康診査」
https://www.kesennuma.miyagi.jp/kosodate/k002/040/010/020/20160906215020.html 
妊婦健康診査の14回分の健診費用を助成。

●香川県丸亀市「丸亀市こうのとり支援事業」
https://www.city.marugame.lg.jp/itwinfo/i20691/
特定不妊治療を受けた夫妻に対して治療費の一部を助成する制度。また、丸亀市は中学卒業までの医療費が無料です。

●「北海道で暮らそう!」
https://www.kuraso-hokkaido.com/live/life.html
北海道への移住・定住を応援するサイトにある暮らしに必要な情報ページ。

●富山県「ふれあいコミュニティ・ケアネット21」
http://www.toyama-kyosei.jp/carenet/
全国より高齢化が早く進んだ富山県が、高齢者・障害者・子育てに悩んでいる人たちなどを支援するサービスを提供。住民参加によるコミュニティをつくります。

●秋田市「エイジフレンドリーシティへの取り組み」
https://www.city.akita.lg.jp/shisei/hoshin-keikaku/1011481/1004689/index.html
支援や助成ではありませんが、WHOが提唱する高齢者に優しい都市づくりをいち早く導入している秋田市の取り組みです。全国からの視察が多い事業でもあります。

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近所付き合いは生活の潤い

田舎暮らしと言うと、「濃密な近所付き合い」を連想する方も多いでしょう。町や村は、人の移動が少なかった時代から築き上げてきたコミュニティがベースになっており、その地域特有のコミュニケーション方法は今でも存在します。そういったものの希薄な都市部から移住すると、面食らうことも多々あります。しかしそれを「うっとうしい」と思うのではなく「未知との遭遇」としてポジティブに捉えることで、移住の成否は変わります。移住者を迎え入れる側にとっては、都会から来てくれた人にいろいろ教えてあげたい気持ちを持っています。「知りたい」と「教えたい」のニーズが合致すれば、そこにプラスの価値が芽生えます。コミュニティで過ごすノウハウが得られると共に、会社の仕事とは無関係な友人ができるかもしれない。情報と頼もしい味方の両方が手に入るのです。
町内会や自治会、青年会や子供会、婦人会や老人会、草刈りや側溝の清掃、お祭りや年末年始の行事、冠婚葬祭……その地域によって顔を出す場はさまざまですし、付き合いの深さも違います。今までの取材で田舎暮らしを始めた人々からは、「挨拶はまめにする」「誘われたら断らない」「ディープ過ぎる話題には立ち入らない」などの声を聞くことができました。農産物や海産物のお裾分けをもらったり、頼まれた作業の手間賃をもらったり、表に出てこない経済活動も存在します。ただし、与えられたらお返しする、という暗黙のルールは踏まえておかなければなりませんが。

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「withコロナ」であることを胸に

2020年9月現在、新型コロナウイルスの影響は未だ収束が見えていません。東京都ではPCR検査での陽性者数が未だに高い水準を示し続けています。東京からの旅行は控えてほしい、はては東京ナンバーの車はお断りなど、地方には東京拒否の空気が漂っています。自治体が実施してきた「お試し移住」は中断されたものも多く、説明会はオンライン開催が主体となっています。こんな状況下、地方移住や田舎暮らしのスムーズな実現は果たして可能なのでしょうか……。
東京拒否反応には、かなりの部分心理面が影響しています。情報量の少なさや思い込みが、「来ないでくれ」につながっているようです。しかし、このまま閉塞していたら経済はさらに悪化することは明らか。それは誰もが理解できる事実です。今日明日とは行かないまでも、遠からず状況は変わるでしょう。その時のために情報を集めておく時間はかえってたっぷりあります。そして、移動の心理的枷が外れて地方へ行けるようになったなら、自分も家族も感染していないことを伝えたり、都会での自粛の様子を話題にしたりなど、安心させてあげることが大切です。
既に、「with コロナ」時代は始まっています。田舎の濃いコミュニケーションはどう変わっていくか、地元の人たちと一緒に「新たな移住のスタイル」を考え創り上げていくチャンスかもしれませんね。

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