ウィズコロナ時代に移住で考える地方創生③ テレワーク活用した地方移住と二地域居住の現在地
亀和田 俊明
2021/07/02 (金) - 10:00

6月に政府の地方創生の方向性を決めた「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」が閣議決定され、総合戦略に掲げた政策体系に基づいて取組を進めるに当たり、新たに「ヒューマン」「デジタル」「グリーン」の3つの視点を重点に据えました。また、都市部から地方への人の流れを創出するため、東京の企業に勤めたまま地方に移住する「地方創生テレワーク」の推進や子育て世代の移住に力を入れることが明記されています。今回は、テレワークなどを活用した地方移住や二地域居住について紹介します。

東京圏のテレワーク経験者は地方移住への関心が高い

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、人の流れに変化が生じています。2021年4月~5月にかけ実施された「第3回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、テレワークの実施率は上昇。東京23区の実施率は53.5%と全国の30.8%に比べ高くなっているほか、東京圏在住者の地方移住への関心は下表のように増加傾向にあります。特に東京23区の在住の20歳代では約半数が地方移住への関心を示しています。

地方移住への関心(東京圏在住者)

「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、下表の「3つの視点」が重点に据えられ、「ヒューマン」では、都市に立地する企業に勤務したまま地方に移住して地方で仕事をする「転職なき移住」の推進、企業の地方移転の促進、地域における人材支援の充実、子育て世代の移住等の更なる推進などに取り組むとしています。なお、第3次補正予算で「地方創生テレワーク交付金」が設けられていますが、企業のサテライトオフィス誘致やテレワーク推進に取り組む自治体を2024年度末までに1000に増やすとしています。

地方創生の3つの視点

東京都や大阪府など大都市圏を中心とした地域での「緊急事態宣言」下で、国民に対して外出の自粛が求められたためにテレワークを実施する企業が増えたほか、対面ではないウェブ会議が普及し、新たな働き方が広がりました。感染症拡大の影響により、東京23区で5割以上の人がテレワークを経験し、地方移住や副業・兼業などへの関心の高まりも見られますが、地方移住への関心はテレワーク経験者の方が高いという結果に。

このようにテレワーク実施率が急増するとともに、若い世代の地方への関心の高まりなど、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機として、地方で暮らしてもテレワークで都会と同じ仕事ができるとの認識が拡大しています。これらを背景に、政府は地方創生テレワーク交付金によるサテライトオフィスの整備・利用促進、企業と自治体を結ぶ情報提供・相談体制等の整備、企業による取組の見える化などに取り組むとしています。

テレワーク推進へサテライトオフィスの施設整備・開設

コロナ禍で多くの人がテレワークを経験し、東京圏在住でなくとも仕事はできるとの認識が拡大していますが、政府は、都市部社員等による地方へのひとの流れ(移住・滞在)の創出、地方における魅力ある働く環境の創出、新しい生活様式に必要なテレワークの地方での普及等により、国全体のリスクとして顕在化した「東京圏一極集中」の早期是正、「分散型社会の構築」を目指すとしています。

「地方創生テレワーク交付金」の予算額は100億円ですが、地方でのサテライトオフィス等の施設整備・運営や民間の施設開設・運営への支援等、地方創生に資するテレワークの推進により地方への新たなひとの流れを創出する地方公共団体の取組を支援するものです。地方創生に資するテレワーク推進の実施計画を地方公共団体が策定し、計画掲載事業の実施に対し、国が交付金により支援します。

事業イメージ・具体例

2014年度以降、サテライトオフィスの開設は右肩上がりで、2019年度末までの開設総数は822ヵ所でしたが、その反面、168ヵ所が減少しており、地方公共団体が誘致または関与したサテライトオフィスの設置数は、2019年度末時点で654ヵ所です。北海道が最多の74ヵ所で、徳島県が67ヵ所、沖縄県が52ヵ所、宮城県が50ヵ所で続いています。そうした中で注目される先行事例が下表の市町です。

サテラライトオフィスの先行事例

自治体によるサテライトオフィスの整備や既存施設への企業誘致などを財政面で支援する「地方創生テレワーク交付金」ですが、今春の公募では14都道府県と124市町村、合わせて138の取り組みが交付対象事業とされ、40億円の交付が決定しました。交付金によりサテライトオフィス等の施設整備や民間のコワーキングスペース等の開設支援を着実に進め、地方への新しい人の流れを加速させることが期待されます。

コロナ禍で移住・定住よりも二地域居住に強い関心

昨今、都会と地方の両方に住まいを持つ「二地域居住」に関心を持つ人も増えています。3月に発表された「東京都民が移住・二拠点居住したいエリアランキング調査」(リクルート住まいカンパニー)では、移住・二拠点居住に対して都民の約36%が「関心があり」、新型コロナウイルスの感染拡大で、「関心が生まれた・高まった」と答えた人が52%と半数を超え、希望する理由として、「自然豊かな環境で暮らしたい」という人が56%で最も多かったといいます。 

テレワーク等を前提に地方での新しい生活様式に沿った新たな二地域居住が可能となるとともに、そのニーズが高まりつつあることを踏まえ、国土交通省など4府省や地方公共団体、民間企業も参加し、都市と地方など二つの生活拠点を持って暮らす「二地域居住」を促進する「全国二地域居住促進協議会」が3月9日に設立されました。さまざまな施策や事例等の共有・発信により、定期的な滞在を通じて将来の移住も促していくといいます。

二地域居住は、都市と地方、都市内、地方内などさまざまなパターンで行われており、主な生活拠点とは別の地域に生活拠点(ホテル等も宿泊施設含む)を設ける暮らし方とされています。都市に拠点を置きながら定期的に地方でのんびり過ごしたり、仕事をしたりする新しく多様なライフスタイルの一つです。いわば人生を2倍楽しむ豊かなライフスタイルとして提唱され、促進されていますが、定期的な滞在を通じて将来の移住が期待されています。

(出典:国土交通省ホームページより)
(出典:国土交通省ホームページより)

二地域居住の受け入れ側のメリット

こうした二地域、多拠点生活を後押しするサービスとして、全国の空き家や使われていない別荘などを活用し、地域の人(家守)に管理してもらう「定額住み放題」サービスを展開する株式会社アドレスの「ADDress」が人気です。当初はフリーランスや自営業者などの利用が多かったものの、最近ではテレワークの広がりとともに、会社員が急増して約4割で最多。利用目的のトップは、「ワーケーション」で、会員数も前年の約5倍に増えているといいます。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で、東京都の人口減少のほか、テレワークをはじめとした柔軟で新しい働き方の広がりや都心企業のオフィス縮小・分散化等の変化が生じるとともに、大都市の問題点も明らかになってきました。こうした変化を背景に地方移住を現実的に考える人や移住はしないまでも地域と関わりを持つ人が増えてきています。地方創生の目的でした東京一極集中の是正がコロナ禍を契機として、今後進んでいくものと思われます。

地方への移住や就業、テレワークやウェブ会議など働く場所を問わない新しい働き方が広く認知される至り、移住・定住ではなく、二地域居住や多拠点生活といった多様な形で地域と関わりを持つ首都圏の人材が増えています。地域の担い手として活躍することにとどまらず、地域住民との交流がイノベーションや新たな価値を生み、地方とのつながりが構築され、将来的な移住者の増加にもつながることが期待されています。

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