ウィズコロナ時代に働き方で考える地方創生② 都市部人材の移住と地方での活用について
亀和田 俊明
2021/09/06 (月) - 10:00

このほど、2022年度予算に向けた各省庁の概算要求額が111兆円を超えたことが分かりました。コロナ対策をはじめ、現政権の看板政策である「脱炭素化」や「デジタル化」と並ぶ重点分野の「地方創生」関連では、、都市と地方の2拠点居住やワーケーションの推進が含まれる「個性ある多様な地域生活圏の形成」に225億円の予算が要求されています。「働き方」で考える地方創生シリーズ2回目は、都市部人材の移住と地方での活用について紹介します。

テレワークの普及によりミドル世代の地方求人が増加

7月に発表されたウォンテッドリーの「コロナ禍の移住と働き方に関する調査」では、全回答者(1968名)の約20%が3年以内に移住を経験したと回答。コロナ禍で月次の移住者は増加し、2021年6月の移住者は前年同月比で4.1倍に上ったといいます。移住の理由としては、テレワークの普及による居住地域の見直し(26%)が挙げられているほか、地元へ移住した人が約27%でした。なお、移住しなかった人でも24%は移住を検討していたといいます。

また、5月に実施されたエン・ジャパンが同社転職サイトを利用する転職コンサルタントを対象にした調査で、コロナ禍以前と比べミドル人材対象の地方の求人が「増えていると感じる」が7%、「どちらかと言えば増えていると感じる」が25%、と合わせて3割以上が増えていると感じています。コロナ禍を経た働き方の変化で、地方に拠点を持つ企業の採用意識が変化していると見られます。増加の理由としては、下表のように「テレワークの普及」が半数を超えました。

fig1.png (11 KB)

一方で、人材側も地方へ関心を寄せています。コロナ前と比べUターンやIターンによる転職を希望するミドル世代の人材について、「増えていると感じる」が11%、「どちらかと言えば増えていると感じる」が45%、合わせて56%に上ります。新型コロナウイルス感染対策を考えると都市部より地方が安全で住みやすいと思われているのかもしれません。働き方や暮らし方に多様性が生まれ、都市部での生活に固執しなくなっている考えが定着してきたのでしょう。

fig2.png (7 KB)

地方への大きな人の流れを生み東京一極集中の是正へ

さて、6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針2021」によれば、「次なる時代をリードする新たな成長戦略の源泉」として、「グリーン社会の実現」や「官民挙げたデジタル化の加速」と並んで「日本全体を元気にする活力ある地方創り~新たな地方創生の展開と分散型国づくり」が掲げられています。地方への関心の高まり、テレワーク拡大、デジタル化という変化を後押しして地方への大きな人の流れを生み、東京一極集中を是正するというものです。

同方針では、地方の中小企業等への就業、就農、事業承継、起業等をきっかけとして、地方をフロンティアと捉える都市部人材が地方に移住・定着できるよう取り組むといいます。このため、地域経済活性化支援機構の人材リストを早期に1万人規模へ拡充しつつ、地銀等の人材仲介機能を強化し、地域活性化起業人制度等と連携や地域おこし協力隊等を充実させ、地方自治体の移住支援体制を強化するとしています。主なポイントは以下になります。

fig3.png (13 KB)

大企業から地域の中堅・中小企業への人の流れを創出し、地域企業の経営人材の確保を後押しする「地域企業経営人材マッチング促進事業」ですが、大企業の人材リストを地域経済活性化支援機構に整備し、地域企業の人材ニーズを把握する地域金融機関等を活用して人材マッチングを進めるものです。地域企業への転職に関心のある人材については大手銀行からリストアップを開始し、地域金融機関へのリスト提供を開始。今後、対象を他業種へ拡充する模様です。

地域企業の経営人材獲得支援としては、人材リストを活用して経営人材を獲得した地域企業に対し、地域経済活性化支援機構から一定額が補助されます。また、大企業人材に地域の実情や中小企業の経営の実態を事前に理解してもらうための研修やワークショップの提供や先行例、優良事例の広報を実施するといいます。地域企業の人材ニーズを把握する地域金融機関等による人材マッチングが進められますが、下図は人材マッチングのスキームです。なお、金融庁はスキームの構築や運用に当たって必要な調整や働きかけを実施するといいます。

【人材マッチングのスキーム】

image001.jpg (374 KB)

(出典:金融庁「地域企業経営人材マッチング促進事業」資料より)

「先導的人材マッチング」と「プロフェッショナル人材」

人材不足や後継者難をはじめ、コロナ禍で地方の中堅・中小企業を巡る事業環境は厳しさを増しており、生産性の向上は喫緊の課題であるほか、課題解決を任せられる外部人材の活用が不可欠となっています。このために以下の「地域人材支援戦略パッケージ」の取組がありますが、具体的には「先導的人材マッチング事業」と45道府県に拠点が設置されている「プロフェッショナル人材事業」の体制強化と機能の拡充があります。

fig4.png (15 KB)

コロナ収束後に向け、ますます地域を支える専門人材の確保が必須となりますが、地域企業の経営課題を把握している地域金融機関等が地域企業の人材ニーズを調査・分析し、職業紹介事業者等と連携してハイレベルな経営人材等のマッチングを支援する「先導的人材マッチング事業」を実施し、マッチングの促進に向けて地域金融機関等の取組について横展開するとともに地域金融機関等に総合的なコンサルティング機能の発揮を促すとしています。

「プロフェッショナル人材事業」の全国事務局を通じ、企業が都市部を中心に地域への人材の送り出しに取り組むことを促すとともに、人材の出し手、受け手双方への企業へのセミナー等を通じて、副業緒・兼業を含めた多様な働き方に対する意識醸成等を進め、地域におけるプロフェッショナル人材の確保を支援するといいます。さらに、戦略拠点と地域金融機関との連携強化を通じ取引先企業への支援対象を拡大するとともに、地域におけるプロフェッショナル人材市場の整備を進めるとしています。

image002.png (64 KB)

(出典:内閣府「プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト」より)

地域の取組を支援する企業版ふるさと納税(人材派遣型)

さらに、「ひと・まち・しごと地方創生基本方針2021」では、地域における人材支援の充実の項で、地方創生人材支援制度により国家公務員及び民間専門人材等を積極的に地方公共団体に派遣していくほか、2020年10月に創設された「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」の仕組みを活用して専門的知識やノウハウを有する企業の人材への地方公共団体等への派遣を促進し、地域の取組を支援するとしています。

image003.jpg (134 KB)

(出典:「地方創生サイト」より)

「企業版ふるさと納税(人材派遣型)」において、地方公共団体のメリットとしては、専門的知識やノウハウを有する人材が寄附活用事業・プロジェクトに従事することで、地方創生の取組をより一層充実、強化することができるほか、実質的に人件費を負担することなく、人材を受け入れることが可能になり、関係人口の創出・拡大も期待できます。

一方、企業としては、派遣した人材の人件費相当額を含む事業費への寄附により当該経費の最大約9割に相当する税の軽減を受けることができます。寄付による金銭的な支援のみならず、事業の企画や実施に派遣人材が参画し、企業のノウハウの活用による地域貢献が容易になるほか、人材育成の機会として活用することができるなどのメリットが挙げられています。

コロナ禍で打撃を受けている中小企業ですが、特に地方にあっては企業を巡る環境が激変し、深刻度が一層増しています。こうした状況を踏まえ、「新たな日常」に対応した強靭な地域経済を構築するために求められる「新たな人の流れ」の促進ですが、都市部から地方へ、大企業から中堅・中小企業へ、新たな人の流れをつくり、次への成長へとつなげるために紹介してきたような、さまざまな都市部人材の地方での活用が望まれます。

今後、「働き方改革」によって人材流動が加速度的に進むと見られていますが、地方企業が必要としている都市部の豊富な知見やネットワークを持ち、経営課題を整理し、成長戦略を描くことのできるノウハウを持った経営・専門人材が求められています。そして、マッチングの担い手となる地域金融機関や提携先の人材紹介会社の取り組みが期待されます。次回は、地方への新たな人の流れを促進する「都市部人材の副業・兼業による地方支援」について紹介したいと思います。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索