好きなものに囲まれた暮らしを求めて地方移住を決意
GLOCAL MISSION Times 編集部
2021/09/27 (月) - 18:00

能登半島のほぼ中央に位置する石川県七尾市は、穏やかな波が美しい七尾湾を擁する人口5万人ほどの小さな街です。海の幸を堪能できる能登食祭市場をはじめ、のとじま水族館で知られる能登島や能登半島屈指の和倉温泉街など、魅力的な観光地として全国から多くの人々が訪れます。

2018年、単身Iターン移住した小川枝里子さんは、現在、株式会社ホテル海望で経営企画課長として勤務しながら、七尾市での穏やかな暮らしを満喫しています。

そんな小川さんが生まれ育ったのは大阪府高槻市。移住するまでは、東京の大手スポーツアパレルメーカーで10年間、主にECサイトのカスタマーサポートを担当してきたといいます。小川さんにとって、七尾市は縁もゆかりもない未知の土地。好きなものに囲まれた暮らしを求め、誰一人知る人のいないこの街で暮らすことを決めました。

いったいどのような経緯で七尾市を知り、移住することになったのでしょうか。これまでのキャリアを含め、七尾市を移住先に選んだ理由やここで働き、暮らすことで見えたものについて、小川さんにお話をうかがいました。

NAGISA DININGから眺める七尾湾.jpg (1.46 MB)

東京での10年間を一区切り。移住を決めたその理由とは

−まず、小川さんのご経歴についてお聞かせください。

小川さん(以下、敬称略):京都の大学を卒業後、定職につかず、しばらくフラフラしていました。自然に囲まれながら働きたかったのと、ニホンザルが大好きなので、卒業後1年間は京都市にある野猿公苑でアルバイトをしながらお金をためていました。

大学ではビジュアルコミュニケーションデザインを学んだのですが、映像に興味を持ち始めまして、短期で映像が学べる東京の学校に入学することを決めました。そこで、野猿公苑のアルバイトを辞めて上京し、働きながら夜間学校に通うことになったのです。

スタジオでアルバイトをするなどしていましたが、定職に就くまでは至らず。それでも、そろそろきちんと働いた方がいいだろうということで、派遣会社に登録し、約2年間で3社の事務職を経験しました。

その後、紹介予定派遣に登録し直しまして、そこで紹介されたのがGOLDWINという、スポーツアパレルメーカーだったのです。GOLDWINでは契約社員を経て正社員になり、渋谷で10年間働くことになりました。

―GOLDWINではどのような業務をされていたのですか?

小川:EC部門で主にカスタマーサポートを担当していました。お客様からの電話やメール対応、商品説明、修理の受付など諸々です。

接客業務は大学時代から経験しており、面白いと感じていましたし、専攻していたコミュニケーションデザインに通じるところがあって、自分の性に合っていたと思います。

カスタマーサポートとして業務を始めた頃は、クレームの電話を多く受けました。初めはまだ派遣社員だったので、業務時間が終われば、仕事のことはそれ以上考えなくて済むような働き方を望んでいましたが、長くここで勤務するにつれ、もっと違う働き方をしたいと思うようになりました。

当時、ここで働く人たちは、日々の業務に追われ、商品について新しく知識を得る時間がほとんどありませんでした。それなのに、ブランド数はどんどん増えていくのです。私たちがもっと商品について学べば、お客様にさまざまなご案内が可能になりますし、そうすれば、お客様も満足され、社員にとってのやりがいにもつながるはずです。私はそこを変えていきたいと思っていました。

こうして10年間を過ごすうちに、私も周囲も変化し、受注業務などシステムでできることは時間短縮して、お客様との関係に力を注げるようになっていったのです。さらに、ほかの部署にお客様の声を伝えて、商品開発に活かすためのディスカッションもできるようになりました。こうして10年の間に、クレームよりも商品についてお客様とお話できる時間が増えていったのです。

―クレーム対応の中で、どんなところに面白さを見出したのですか?

小川:お客様は一人ひとり、考え方が違います。それぞれのお客様が持つ価値観に出会えることが、接客の面白さだと思います。

「人として、あなたと話します」という気持ちで接することで、お客様とどういう関係が築けるか、探りながら進めていました。

―「人対人」を大事にされていたのですね。GOLDWINで10年働いて、一区切りついたことから移住を考えるようになったのでしょうか。

小川:GOLDWINでの最後の上司が病気で亡くなったことがきっかけになりました。10年間勤めてきて、一度立ち止まることにしたのです。GOLDWINで私がやりたかったことは既に実現できた気がしました。

―そこで、なぜ七尾市に移住しようと思われたのでしょうか?

小川:これからどんな生き方をしたいのかを考えたとき、「好きなものに囲まれた暮らし」をイメージしました。

これまでは、東京で転職先を探していましたが、東京にこだわらず、日本全国、どこでもいいと思えるようになったのです。

私がこれまで訪れた中で、最も良かった場所はどこだろうと考えたとき、一人旅をしたカルフォルニア州のモントレ―という町を思い出しました。モントレ―ヘは、モントレ―ベイ水族館のジャイアントケルプを見学する目的で行ったのですが、本当にいいところで。海が穏やかで、こんなところで暮らせたら幸せだろう思いました。そこで、日本のモントレ―を探すことにしたのです。

Monterey Fishermans Wharf.jpg (1.65 MB)

好きなものに囲まれた暮らしを求めて、見知らぬ土地へ。

―日本のモントレ―。それが七尾市だったのですね?

小川:七尾市はモントレ―の姉妹都市だと知りました。七尾市へは行ったことがなかったので、まずは、Googleマップで調べるところから。

七尾湾という穏やかそうな湾があり、のとじま水族館もあり、島もある…。のとじま水族館ではジャイアントケルプの飼育に挑戦したこともあるらしい。七尾フィッシャーマンズ・ワーフ(能登食祭市場)はモントレ―をモデルにしているとの話も聞きました。こうして、いろいろ調べているうちに、私が求めているのは「七尾じゃないかな?」とほぼ気持ちが固まってきたのです。

そこで、東京にあるいしかわ移住UIターン相談東京センター(ILAC東京)を訪問し、七尾市に移住したいと相談しました。そこでILACの石川拠点の川上さんを紹介してくださり、一緒に七尾見学ツアーに参加することになりまして…。そして、このツアーで、私の住む場所は「七尾に違いない」と確信しました。

―移住を考えている方の中にはUターンを希望される方も多いのですが、ご両親の近くに住むことは考えませんでしたか?

小川:両親には自由にさせてもらっていて、上京したときも、七尾に移住するときも、事後報告です。いつものことだと思われていたのではないでしょうか。地元の大阪府は、東京よりも石川県の方が近いですしね。

―縁もゆかりもない土地に移住することに不安はありませんでしたか?

小川:知り合いが全くいない環境ですから、仕事先で人間関係がうまくいかなったら悲惨だろうとは考えました。また、ネットの情報で、田舎には近所付き合いがあると知り、自分を受け入れてもらえるかどうか、不安もありました。

そこで、七尾市内ではなく、和倉温泉に住もうと考えたのです。

和倉は観光地の温泉街ですから、外から働きに来る人が多く、いろいろな土地から来る人を受け入れてきた風土があるはずだという、私の勝手な判断です。私が一人で入っても安心できるだろうと自分なりに不安を解消しました。

―ホテル海望とはどのような接点があったのでしょうか。

小川:ILACの相談員から、「小川さんは海望の仕事にむいているのではないか」と、川上さんにお話があったそうです。

実をいうと、七尾に移住を決めたとき、仕事は何でもよいと思っていました。この土地で働くということは、どんな仕事でも七尾にかかわれるということ。どんな仕事でも楽しいに違いないと思っていたのです。

川上さんから、ホテル海望を紹介されまして、お世話になることにしました。接客業は好きですし、ホテルの前に海が広がっていて、こんなところで働けるなんて、なんて素敵なのだろうと。

―ほかに選択肢はあったのでしょうか。

小川:ほかの選択肢もありましたが、七尾ツアーのときに、ホテル海望の人事担当の方と話をさせていただき、仕事の内容などもうかがいました。そのとき、既にここにしようと決めていたと思います。

―仕事はゼロからのスタート。暮らしも大きく変わって、移住から最初の数カ月はいかがでしたか?

小川:これまで、人と接する仕事が多かったのですが、海望では、経営企画部門に配属され、従業員の方と多くかかわるようになりました。会社での新しい取り組みを推進していく部署なので、やることが多く、挨拶を含めて社内ではどのような仕事あるのか実際に見て回りながら、頭に詰め込んでいく感じでした。

暮らしについては、新しいことが多く楽しくて!休日や仕事帰りはフラフラしています。

NAGISA DINING.jpg (912 KB)

移住して3年。じっくりと人と向き合う七尾での仕事場

―七尾に移住されて3年経ちました。今、ここでの仕事について、どのように捉えていらっしゃいますか?

小川:東京の大企業と地方の中小企業ではギャップがあるのは確かです。大企業では、いろいろな人がそれぞれの専属のカテゴリーをもって働いていますが、ここでは、1人ひとりが複数の仕事を抱え垣根がありません。人との接し方も時間の使い方も都会とは違います。

都会は情報過多で、多くのものを受け過ぎる気がします。

何か新しいことを始めるとき、「どう思いますか?」と問いかけるところから始まり、みなさんがこれまでやってきた仕事を大事にしながら、じっくりと、新しいことを取り入れていくところは、都会のやり方とは違うところだと思います。

スピード感を重視すれば効率的だと思いますが、それをしたら、ここでは、みんな置いて行かれてしまって、いい仕事ができません。もちろん、地方や中小企業でも、スピード感をもって業務をこなしている会社はあるかもしれませんが、海望は、じっくりと人と向き合うことを大事にしています。そこに時間を惜しまないのです。

―みんなで対話しながら、納得しながら進めていくところは、小川さんにマッチしているのですね。東京だと従業員同士に距離があるところもあるでしょう。社長と話したことがない人も珍しくないと思います。

小川:社長と毎日のように話しますし、社員全員の顔と名前が一致しています。性格もわかりますよ。大企業だと、知らない人が多いですね。

―移住の経験がある方からは、最初は「東京者がきた」といった穿った目で見られることがあったという話を聞きます。その点はいかがでしたか?

小川:「東京者が来た」というよりも、新しいことに対する抵抗の方が大きいように思います。

土地の年齢層が高いこともあるかもしれませんが、今までやってきた仕事を急に新しく変えようと言われても…という感じです。

―新しいことを受け入れられないとき、工夫されたことはありますか?

小川:なぜできないか原因をしっかり考えます。

そして、そのときに受け入れられなくても、数カ月、1年経過してから状況が変わることもあります。例えば、新型コロナウィルス感染症拡大によって海望も状況が変わり、今は何か新しいものを取り入れないといけないという従業員の意識が高まっています。

今はできなくても、諦めない。みんなが納得してやってみようと決めたときに始めればいいと思っています。

なぜ移住をしたいのか、紙に書き出すことで見えてくるものがある

―石川県に来て3年経ち、暮らしぶりはどうですか?

小川:七尾湾には新鮮なお魚が豊富で、スーパーには安くておいしい魚がいっぱい並んでいます。周囲にも七尾の食材を使った美味しい料理を提供してくれるお店が多く、自分でも料理しながら幸せな気持ちになります。

―好きなものに囲まれた暮らしをしたいとおっしゃっていましたが、それは成し遂げられた感じですね。今後の展望をお聞かせください。

小川:私が魅力を感じ、実際に住み、いい時間を過ごしていると確信できる七尾のすばらしさを多くの方に伝えたいです。もっと七尾を好きになってくれる人を増やしたい。人に大切にされる観光地にしていきたいですね。

―最後に、これから移住を考えている方たちへのアドバイスをお願いします。

なぜ、移住したいのか、理由を書き出してみることをお勧めします。もし、不安があれば、それも書き出してみてください。書き出すことで具体的になってきます。それをすることで客観的に見えてくることがあります。

私は単身での移住だったので、自分のことだけを考えればよかったのですが、もし、家族がいらっしゃるのであれば、相談しながら書き出してみるとよいでしょう。移住をしてから、やっぱり嫌だと思っても、すぐに戻れません。決めるときに家族の方といっしょに、思いを書き出すことはとても大切です。

後にこの紙を見返すときも、「あー、このときは、こんな気持ちだったのだ」と、心の支えになるかもしれません。

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