「複業」のススメ──日本の社会を変える働き方になるか!?
鳥羽山 康一郎
2018/04/26 (木) - 08:00

「会社員たるもの副業は禁止」というのがこれまでの常識でした。就業規則に明記している企業も多いでしょう。しかし、社外で別の仕事を行うことを認める企業が増えているのをご存じですか。ITベンチャー企業から歴史ある大企業まで、その動きはますます広がっています。これまでの働き方が、またひとつ変わっていく現状についてお伝えします。

「副」と「複」ではまったく違うニュアンスが

「副業」とも「複業」とも書く、社外での仕事。今までは「副業」の表記が主流でした。そこから受けるイメージは、本業からの給与の少なさを補うアルバイトといったニュアンスが強いものでした。禁止されていることでもあり、後ろめたさも付いて回ります。しかし「複業」と書く場合、給与の補填が目的ではなく、「もうひとつの本業」の意味が強くなります。空き時間を利用した社外での仕事ということには変わりがないのですが、より前向きな存在感を感じます。複業を実践している社員の意識としては、「副」ではなく、両方とも「本」と捉えているケースが多いのです。

なぜ、複業を勧める・許す企業が増えているのか

従来の倫理観では、「会社の仕事がすべてでありそれに悪影響を与えるおそれのある副業などはもってのほか」という考えが支配していました。しかしそれではいい人材が育たない、むしろ育成を阻害している、という意見が強くなってきたのです。たったひとつの会社だけでの経験よりも、複数の職場を経験した方が見聞を広げられ、社会の仕組みを知ることができる。社外のコネクションやネットワークを構築できる。そして自己実現の達成感を感じることができる。経営者としては、他にやりたいことができるとそちらへ転職してしまう人材を留めておくことができるというメリットがあります。複業によって社員のスキルが上がれば、本来の業務にとってもプラスとなるわけです。終身雇用制度が崩壊していることとも併せ、一つの働き方に固執しないことが新たな経営のカタチになってくることでしょう。

こんなにある!?──複業OKな企業

かつては「こっそりやるもの」「怪しい仕事」という日陰のイメージが付きまとった「副業」は、「複業」と名前を変えることによって、ポジティブな働き方となりました。副業禁止どころか、複業を積極的に勧める企業も増えています。リクルートキャリアが2017年2月14日に発表した「兼業・副業に対する企業の意識調査」によると、「兼業・副業を容認・推進している」企業は全体の22.9%。その理由として「特に禁止する理由がない」がトップ。ほかには、「従業員の収入増」「人材育成・スキル向上」「定着率の向上」といった理由が挙げられています。
では次に、複業を積極的に勧めている事例をいくつか見ていきましょう。

ロート製薬:熱を持って動く人が社外の仕事にチャレンジ

2016年2月、ロート製薬のある発表が大きな話題を呼びました。「社外チャレンジワーク制度」といい、社外での兼業を認める制度です。「これから倍量・倍速で成長していくために、こんな働き方をしたい」という有志社員の発案が元になっています。事業領域を拡大させている同社は、社員一人ひとりがこれまでの働き方を変えなければ、会社や個人の成長にはつながらないという考えのもと、制度の導入に踏み切りました。これに対し60名以上の応募があり、新たな挑戦を始めています。知名度のある大企業の試みは、働き方の変革は本格的に進んでいる証拠とも言えます。このサイトでもレポートをした「働き方を考えるカンファレンス」(https://media.selfturn.jp/career/381)の公開インタビューにも同社社員が登場。制度の利用者は各年代まんべんなく存在していて、「熱を持って動く人」という特徴があることを語りました。

サムネイル

サイボウズ:ここでの仕事を「複業」とする採用も

2012年から社員の複業を認め、個人の自立と多様な働き方の実現を目指して取り組んできたサイボウズ。「『副業禁止』を禁止にする会社」として、注目を集めてきました。サイボウズの社名を出さない複業であれば上司の承認はおろか報告の義務もありません。同社社長の青野慶久氏は複業のメリットとして「人材不足解消」「給与の増加」「生産性向上」「マネジメント力の向上」「ベンチャー支援」「ベテランの再活躍」「イノベーションの創造」「個人の自立促進」を列挙(『note』より https://note.mu/)。「複業」をマルチキャリア、パラレルキャリアと捉えています。そしてそれをさらに進め、2017年1月17日のプレスリリースでは「サイボウズでの仕事を複(副)業とする方を積極募集」として、同社での業務を「複業」対象とする募集を打ち出しました。自社だけではなく、全体が複業社会になるための積極的な施策と言っていいでしょう。

エンファクトリー:「専業禁止」で知られる複業社会の推進役

オンラインショッピング事業を手がけるエンファクトリーでは、堂々と「専業禁止」を謳っています。同社サイトでは、「生きる力、活きる力を身に付ける」ために専業禁止とし、パラレルワークを、「これからの不確実な社会を個人として対応していくため」に支援していくと打ち出しています。センセーショナルなキャッチフレーズですが、全員が複業を持っているわけではありません。とは言え、社員の半数以上が別の仕事を持っていて、事業に本腰を入れて取り組んでいる人も数多いと言います。人材の自立を促すため、成るべくしてできあがったものであると、社長の加藤健太氏はインタビューで語っています。(CAREER HACK http://careerhack.en-japan.com/report/detail/461)残業時間が20%減ったほか、人材育成におけるメリットが非常に大きいと述べます。社員の能力を伸ばすための施策は、いままで研修に頼ってきましたが、「外での他流試合」を行う方がよほど効果的であると分析しています。

メルカリ:才能の芽を伸ばすために複業を推奨

「Go Bold─大胆にやろう」をバリューの一つにしている、フリマアプリのメルカリ。「merci box」という新人事制度では産休・育休支援を拡充するなどして注目を集めましたが、複業を推奨する会社としても知られています。エンジニアやデザイナーはすべて自前という同社。優秀な人材は短時間で効果を出せるがゆえに、プライベートの時間を使ってその才能を生かし社会に貢献してもらうとの考えです。(ログミーLIVE http://logmi.jp/129759) 「副業禁止規定は才能の芽を摘み取ってしまう」と同社執行役員の掛川紗矢香氏はトークイベントで語っています。社外で複業を持つことが、才能の芽をさらに伸ばすことにつながるわけですね。

どんな仕事を「複業」しているのだろうか

それでは、複業が認められている会社の社員は、実際にどのような仕事をしているのでしょうか。ロート製薬では、届け出のあった複業はライター、ドラッグストア勤務、地ビール製造、NPO法人などさまざまな職業にわたっています。さらに特徴的なのは、通常業務に支障をきたすかどうかを判断していない点。自分のやりたい仕事を自分の時間を使って行えばよく、例えば夜間に行うから認めないということはありません。公序良俗に反しない、社名が出ると支障をきたす、同業他社での仕事という点だけが問題とされています。上記に挙げた他社の事例でも、自分自身を高められる、社会的な意義がある、趣味や好きな分野を活かす、といった内容の仕事が多く見られます。いわゆる「小遣い稼ぎ」ではなく、「人生を主体的に生きていくために行うパラレルワーク」(エンファクトリー・加藤健太氏)が「複業」であると結論付けることができます。日本人の働き方は、こういう部分からも変わっていくのかもしれません。

サムネイル

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索