【木下斉】ライフスタイル産業が作り出す、多様な地方産業の姿

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【木下斉】ライフスタイル産業が作り出す、多様な地方産業の姿
木下 斉
2018/02/09 (金) - 08:00
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近年イノベーション産業集積や、ITなどの狭義のクリエイティブクラスの人材を集めようとして、かなり熾烈な獲得競争を繰り広げています。ただ各地で同じようなテーマに取り組めば、当然ながら競争は激しくなり、時に競争の中で共倒れになってしまうこともまた、過去の工場誘致やリゾート誘致で地方が経験してきたことで、あまり同じ分野、同じ内容での競争は好ましくないと言えます。

民間主導で勝ち抜く、都市間競争という舞台

そもそも都市間競争で大切なのは、他がやっていない領域にいち早く取り組み、それを伸ばして競争優位に持ち込んでいくことにあります。そしてそれは補助金などの公的財源に依存するのではなく、民間中心に取り組むことで「尖り」を出していく必要があります。前例のないこと、他と異なること、一部の人達に向けた取り組みというものは行政はなかなか適していません。民間が主導して取り組むほうが、いち早く事業に着手し、成果をあげ、うまくいくことが多くあります。

そのような中、今、都市において民間主導で動きが活発化し、なおかつ行政発信ではなかなか着手が困難な領域があります。その一つが「ライフスタイル産業」です。人々の多様化するライフスタイルを背景にして、余暇に過ごし方、趣味や趣向といったものもどんどん専門化しています。

例えば、ランニングを健康のみならず自らの趣味として楽しみ、日々ランニングを生活に取り込み、さらに地方で開催されるマラソン企画などにエントリーして回る方も少なくありません。これによって、ランニングシューズやウェアといった商品市場も成長、さらに都市部などでもランニングステーションなどといったグッズを保管したり、シャワーを浴びるといった機能を提供するサービス産業も多様に伸びています。このように一つのライフスタイル自体を中核にして、その周辺に多様なビジネスチャンスが花開いていくのがライフスタイル産業です。

地方においてはその地域が持つ自然環境などをアドバンテージを活かした新たな産業の芽になる可能性があり、国内外で長く成果をあげている分野でもあります。

伸びゆく、地方におけるライフスタイル産業の芽

前述のようにランニングを軸とした都市部や地方部での市場開拓は、観光事業などと組み合わされて進んでいます。しかしながら、ライフスタイル産業で重要なのは特定の分野において、「商品」と「サービス」が組み合わさった地域産業になっていくことです。単にランニング客を集めてランニングイベントを開催、宿泊需要などで稼ぐというのも一つではあるのですが、それだけではライフスタイル産業を地域に形成できているとは言いにくいところがあります。

(1)特定のライフスタイルに合致した体験サービスを提供して地域全体の稼ぐ
顧客にきてもらう観光などの形式でその土地を訪れて楽しむ各種サービスを作る形式で地域外需を取り込んでいく。

(2)特定のライフスタイルに必要とされる商品市場で独自のブランドを築き稼ぐ
その土地にきた人たちを基礎としつつ成長し、商品が地域外にも出ていって広く地域外需を取り込んで成長していく。

…といった2つが同時に展開されると、ライフスタイル産業を最大限に地域に取り込めるというところがあります。

例えば、新潟県三条市に本社を置くスノーピーク社などは地方におけるライフスタイル産業の好例と言えます。キャンプ・登山といった市場に様々な商品を投入して国内外市場で展開し、高く評価されています。それだけでなく、自らがオートキャンプ場を本社敷地内、大阪・箕面市、大分・日田市、北海道・十勝で運営したり、さらにアウトドア好きに最適化した住宅開発など多様な形でアウトドアというライフスタイルに適合した事業展開を行っています。近年では十勝における観光開発DMOに出資し、自ら地方の自然環境に恵まれている地域での活用シーンの積極開発に乗り出しています。

また宮崎県宮崎市の青島における青島ビーチパーク(http://www.aoshimabeachpark.com/)も好例です。
観光地としての人気が下火になっていた宮崎市・青島ですが、サーフィンを楽しむというライフスタイルを中核においた、夏限定の「青島ビーチパーク」を開設。魅力的な波と砂浜をベースとしながらも、より大人な洗練された空間が人気を呼び、観光客が一気に倍増しています。県と市は民間から砂浜などの貸出の対価としての収入も得ているという、公共資産活用の好例でもあります。また、青島ビーチパークの成功によって周辺のホテル跡地などに民間が投資をして新たな開発プロジェクトが動き出したり、また青島ビーチパークで人気だった店舗が固定店舗を出店するなどの波及効果も生まれています。九州はもとより、宮崎市は空港からすぐに海や市街地があるという好立地を活かして東京からも広くサーフカルチャーを支持する人々が訪れており、ライフスタイル産業のより大きな動きが始まっています。次はより独自のサーフブランドなどが立ち上がっていくなどの展開が期待されます。

実際に、本連載でも以前取り上げた美食のまちで有名なスペイン・バスク地方のサン・セバスチャンも実は周辺にサーフィンに適した波のある海が多々あり、世界中から人をサーフィン好きを集めています。PUKASというサーフブランドショップもあり様々な商品群を揃えるだけでなく、レンタル事業、スクール事業などで広くサーフィンというライフスタイルを軸に地域経済を作り出しています。

クリエイティブ×垂直統合化の可能性をもつ、ライフスタイル産業

地域経済は、東京本社が画一的に決めたサービスをただ消費するだけでは成長を得ることはできません。独自の環境を活かし、一定の創造性を発揮して大きな付加価値を生み出さなくてはならず、そのためにクリエイティブは極めて重要です。しかしながら、冒頭指摘したようなデザインや情報通信産業などの特定産業といったものだけでなく、地域環境を活かした独自性を作り出す意味においてはライフスタイル産業はとても良い、地方分散型の高いクリエイティブを活かせる領域と言えます。

さらに、これらはサービス産業としての可能性だけでなく、必要なグッズやアパレルといった商品群を作り出すことが可能であり、それらは地域内で製造から販売までを一貫する垂直統合化の可能性を持っています。地域の特性を活かし、付加価値を伸ばせる領域で、さらに垂直統合化までを達成すれば、さらに大きな付加価値を生み出し、雇用機会の拡大にまで広がる可能性を秘めています。

全国各地で画一的なクリエイティブ産業の誘致合戦に明け暮れるのではなく、地元の特性を活かしたライフスタイル産業分野におけるクリエイティブ×垂直統合化を目指した地域産業のあり方を模索すべき時がきていると思います。

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木下 斉

木下 斉

一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2007年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。 主な著書に「地方創生大全」(東洋経済新報社)、「稼ぐまちが地方を変える」(NHK新書)、「まちづくりの経営力養成講座」(学陽書房)、「まちづくり:デッドライン」(日経BP)などがある。毎週配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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