いま最先端を行く地方創生とは? 「伴走者」と共に切り拓くローカルベンチャー・サミット/イベントレポート
BizReach Regional
2018/02/14 (水) - 08:00

NPO法人 ETIC.とは、「起業家型リーダーを育成し、社会のイノベーションに貢献する」をミッションとして活動している団体です。日本人材機構と共にSELF TURNプロジェクトも推進するなど、目標に向かってさまざまな活動を行っています。今回の「ローカルベンチャー・サミット」は、地域の資源を活用して、新たな経済や暮らしを創造する「ローカルベンチャー」のイベント。ETIC.の呼びかけに賛同してローカルベンチャー活動を推進している全国10の自治体が、東京・虎ノ門の公益財団法人 日本財団に集まり、その成果をプレゼンテーションしました。(2018年1月25日開催)

「ローカルベンチャー」が持つ可能性

「ローカルベンチャー」とは、地域の資源を生かした新しいビジネス。2016年9月にローカルベンチャー推進協議会が発足し、今まで1年間の成果や取り組みを振り返るイベントとしてこの「ローカルベンチャー・サミット」が開かれました。本来は2017年10月に開催予定だったのですが、台風の直撃によりこの日へ延期されたという事情があります。
さて、ローカルベンチャーを推進する上では、2つのポイントがあります。

●企業型人材の育成と発掘
●首都圏の企業が地域の資源を生かしたビジネスを始める

この2つを実現することで、今まで都会でしかできなかった魅力的な仕事を、地元でもできるようになります。ICTの発達、働き方の改革が、そのバックグラウンドにあります。
ローカルベンチャー推進協議会は5年という期間を区切り、全国の自治体が採り入れることのできるプラットフォーム開発、共通プログラムづくりをゴールとしています。今回の推進協議会発足にあたり、参画するための要件を3つ設定しました。

1. 首長のコミットメント
2. 各地独自のローカルベンチャー推進施策
3. 各地での民間パートナーの存在

これらの3要件を満たした10の自治体が賛同し、それぞれのローカルベンチャーを推進しているのです。10の自治体は以下の市町村です。

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想いを実現するためのエコシステムに

この推進協議会に参画している10の自治体は、いずれも上記に挙げた3つの要件を満たした市町村。進めていくためには首長のリーダーシップがまず欠かせません。サミットにも首長の出席者も多く、抱いている想いを短い時間ながら発表しました。特徴的なのは、参画10自治体のうち東日本大震災で大きな被害を受けた3つの市が含まれていること。推進協議会が誕生するきっかけのひとつが東日本大震災でしたから、被害を受けた市町村にとって見逃すことのできないチャンスなのかもしれません。
各自治体のプレゼンテーションでは、地域の特徴を踏まえながらこのプロジェクトで取り組んでいる事業や起業家育成システム、成果、民間パートナーとの関係性などを、行政側とパートナー側から報告しました。どの市町村も自ら手を挙げて参画しただけあり、特徴の分析から出された強い点弱い点、課題と仮説が事業にうまく生かされています。その市町村ならではのエッジの立ったプランが次々と発表されました。
「企業に要する経費を最大250万円補助。これまで16件起業し、廃業や倒産は現時点でゼロ」(厚真町)
「震災までは『眠っていた』町にローカルベンチャーが数多く生まれた」(石巻市)
「持続可能な地域づくりにフォーカスし、森林資源を活用。人口減少を食い止める」(下川町)
「首都圏企業などと連携し、人材を呼び込み定着させる。Airbnbとも連携しインバウンド誘致を図る」(釜石市)
など、抱えている課題をどう生かしているかの実例やビジョンが語られました。
地方自治体やその住民が胸に持っている想いを実現していくためのシステムづくりが目標である、ローカルベンチャー。エコシステムとして回していくことができるかは、これからの運営にかかっています。

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伴走者との二人三脚が欠かせない

参画要件の中に「民間パートナーの存在」があります。各自治体のプレゼンテーションでは、それらパートナーの担当者も発表の場を持ちました。推進協議会の幹事である西粟倉村のパートナー・エーゼロは「村役場はベンチャーマインドが高く、枠組みにとらわれない総力戦を戦っている」と報告。ローカルベンチャーの始まりが西粟倉村だったこともあり、村全体の意気込みが高まっているようです。エーゼロは厚真町のパートナーも務めていて、気候も風土も違う西粟倉村とは別の路線をとっています。農業以外の定住率が低いという課題も聞かれました。
また、三井不動産やハウス食品といった大手企業も参画しています。三井不動産は下川町に森林を保有している縁があり、森づくりを基軸としたスマートシティ実現への道を探っています。ハウス食品は七尾市の人材育成研修に協力し、発表者は「東京に帰ってからは地域事業にもチャレンジしたい。インターンからプロボノにシフトしていく」と語りました。
ローカルベンチャーが重視している言葉として「伴走者」があります。地元の企業、起業家などをサポートし、背中を押していく立場としての行政という文脈でよく使われます。起業の支援をするだけではなく、その後もずっと一緒に走っていくイメージです。行政側だけではなく、民間パートナーも伴走者のひとりです。伴走する相手は企業であることはもちろん、行政でもあるのではと感じました。

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離れた地域間での連携も重要な鍵に

ローカルベンチャーで特徴的なポイントはもうひとつ、「共有」という概念です。ビジネスにプラスとなる人やアイデア、ノウハウを他の自治体と共有することを頻繁に行っています。このサミットでは、日南市と雲南市の「南南同盟」が報告されました。他にも釜石市・気仙沼市・石巻市の東北三市による「東海岸連合」も結成されています。
もともと地域間で各地を視察し合い学び合う自治体合同研修や、相互にゲストとして訪問し合う各地域でのローカルベンチャーフォーラムなどを開催していました。このナレッジシェアを進めて、各地域でさまざまにシェアし合う仕組みがつくられ始めています。
また、自治体での担当者や責任者が中央官庁(財務省、総務省など)からの出向者であるケースも多く、東京とのパイプを通じて全国の自治体と横のつながりを媒介する役割も果たしているようにも見受けられます。自治体にとっても、単独ではできなかったことがネットワークを活用することで可能になるわけです。サポート役の企業や団体は例えばエーゼロのように他の自治体との事業を横展開していくきっかけともなります。
これらのコーディネート役を務めるのがETIC.で、自治体と企業・団体との橋渡しをうまく行っているようです。

SDGsを実践するラボとなる

各市町村の発表の中で、「SDGs」という言葉がよく使われていました。これはご存じのように「持続可能な開発目標」のことで、国際社会に共通する目標となっています。この言葉を特に前面に押し出していたのが下川町。SDGsが定める17の目標ごとの色を使ったバッジも作っているくらいです。これを切り口とした連携プロジェクトが立案され、やがてCSV経営や人材育成につながっていくというもの。ESG投資をも意識するプロジェクトとなります。「パートナーシップが重要」と結んでいましたから、豊富な森林資源を活用しての事業を柱に、起業家を集めていくのではないでしょうか。
釜石市も次の目標が「SDGs未来都市へ」と謳っていますし、石巻市や気仙沼市も、復興支援に入ってきた人たちとのつながりを維持していくことも、SDGs実現への手がかりとなります。また、発表資料には出てこないものの各市町村の関係者は、胸の中できっとこの言葉を唱えているに違いありません。10の市町村のプレゼンテーションを聞いて、今行っている試みのすべてがSDGsにつながっているのではと筆者は思いました。ETIC.の宮城代表理事は、「ローカルベンチャーは、SDGsを実践するラボになる」とも述べています。

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ここで閉じては、絶対にいけない

「地方創生」というと、「助成金」がまるでセットのように欠かすことのできない存在として語られてきました。確かに助成金はモチベーションを上げ、シードマネーとして有効に活用されるでしょう。しかし、助成期間が過ぎたら後が続かない、消費されてばらまきに終わるなどのマイナスイメージも持たれがちです。やはり事業を続けるための施策を確立していかないと、持続可能な地域づくりには結び付きません。
例えば上勝町は、「おばあちゃんたちが山から採ってきた葉っぱ」を料亭などに卸す事業で成功し、全国的な知名度を得ています。しかし一方でさらに稼ぐために欧米でも需要を見込める葉ワサビの栽培に寄りだしています。また、ゴミをゼロにしようという「ゼロ・ウェイスト運動」は世界から注目を浴びました。担当者は「他(葉っぱビジネス以外のビジネス)が育ってこないという傾向を打破したい」と語りました。「町はないものだらけだが、なければつくればいい」との言葉も聞かれ、アイデアはもちろん重要ですが、それらを拾い上げ、形にして世に送り出すためのシステムが必要です。ローカルベンチャーは、まさにそれを構築するための研究開発機構。宮城代表理事は「5年という区切られた期間だが、それで閉じては絶対にダメ。これは未来への投資だから」と述べました。
ここからどんなアイデアが実現し、日本の市町村がどう変わっていくのか、期待しながら見続けていきたいものです。

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<参考リンク>
ローカルベンチャー推進協議会 http://initiative.localventures.jp/
NPO法人 ETIC.  http://www.etic.or.jp/

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