眠れる資源、磨き上げ届ける「地域商社」
【地方転職・起業の先駆者】眠れる資源、磨き上げ届ける「地域商社」
月刊事業構想 編集部
2019/02/19 (火) - 08:00

農産品や工芸品など、地域の魅力ある産品やサービスを磨き上げ、全国に届ける「地域商社」。近年は政府の支援もあり、自治体や観光協会による地域商社の設立が相次ぐ。地域商社の醍醐味とは何か。同分野のイノベーター2人の視点を紹介する。

愛媛の特産を守り、育てる

今治タオルの専門店『伊織』や砥部焼食器ブランドの『白青』、道後旅館『道後夢蔵』『道後やや』、宇和島鯛めしの店『丸水』、愛媛みかん加工品のリアル・オンラインショップ『10(TEN)』――。様々な分野の事業を立ち上げ、成功させている企業が愛媛県松山市のエイトワンだ。多岐にわたる事業の共通点は、愛媛の地域資源を発掘し、ブランドとして磨き上げ、全国に価値を伝えている点にある。
 
エイトワン代表取締役の大籔崇氏は1979年広島県生まれ。愛媛大学を卒業後は、定職につかずパチンコで稼ぎ、そのお金を元にした株式投資で成功を収めたという異色の人物だ。「一生遊んで暮らせるだけのお金があったし、好きな物も買えてそれなりに楽しかったのですが、どこか虚しさがありました」

大籔崇 エイトワン代表取締役社長
大籔崇 エイトワン代表取締役社長

そんな時、道後温泉界隈の旅館への参入話が巡ってきた。当時は宿泊業など全くの無知で、素人同然。それでも大籔氏は投資家を辞め、ホテル経営に乗り出す。営業を引き継いだ温泉宿『夢蔵』は地産地消をテーマに再建に成功させ、さらに道後エリアにもうひとつ『道後やや』という宿を新規開業。温泉地でありながら温泉を引かず、外湯や外食を楽しむ宿という逆手の戦略で人気宿に育てあげた。

“外湯を楽しむ宿”がコンセプトの『道後やや』
 “外湯を楽しむ宿”がコンセプトの『道後やや』

その後は宿泊業以外にも進出。今治タオル専門店『伊織』ではタオル生地のベビー用品などが人気を博し、現在は全国21店舗に拡大。みかん農家が1kg数円というタダ同然の卸値に苦しんでいることを知り、愛媛みかんの加工品ブランド『10』を立ち上げ、成功させている。

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カラフルな今治タオルが並ぶ『伊織』松山店

新規事業が成功するための最大のポイントは“人”だと大籔氏は断言する。エイトワンの事業は、扱うモノやテーマを探すのではなく、何かに情熱を捧げている人に出会うことから始まるそうだ。
 
「私が何かビジネスの種を見つけてきて、それを社員に担当させると、経験上、なかなか上手くいかない。なぜなら、その担当者にとっては自発的に始めた事業ではないので、どうしても“やらされている感”が出るからです。すると、仕事に対する情熱が失われていくんですよ。そのパターンで失敗したことが何度もありました。でも、それは社員が悪いわけではなく、やる気の出ない環境を作ってしまっている経営者が悪いのです」
 
そして辿り着いた結論は、“好きなことをやってもらう”ということ。何かに情熱を捧げている人がいて、その情熱に共感できれば、事業にするためのアイデアを出し、出資もする。その意味で、大籔氏の立場はベンチャー投資家に近いのかもしれない。

60代で地域商社を起業
能登半島に新しい息吹を

中巳出理 Ante代表取締役社長
中巳出理 Ante代表取締役社長

2009年、石川県に創業したAnte(アンテ)。石川・能登の食材や伝統技術を利用した商品開発、限界集落でのカフェ建設、技術継承に向けた塩田事業の立ち上げなど、独創性の高い取り組みで、過疎の地に常に新しい話題を創りだしている。
 
創業社長の中巳出理(なかみで・りい)氏は幼少期、厳格な母のもと、お茶、お花、日本舞踊など、様々な伝統芸能をたしなんだ。その反動で現代美術の世界に惹かれ、現代アート彫刻家の道をめざす。世界的な彫刻家を夢見てニューヨークに行くも、挫折。その道はキッパリあきらめ、帰国後は一転、アメリカ人向けECビジネスを立ち上げ成功を収めた。
 
40代後半から12年続けたECビジネスからあっさり手を引いたのは「残りの人生を地域に貢献して生きたいと思ったこと」が理由だ。「若い頃は地域に背を向けて生きてきました。60歳を過ぎて、残りの付録の人生は地域に目を向けて生きていきたいと思ったんです」と中巳出氏。
 
Anteは地域資源を活用したさまざまな商品を世に送り出しているが、「モノを作る時にはストーリーと意外性が大事」と中巳出氏は言う。
 
例えば『奥能登地サイダー しおサイダー』は全国区のヒット商品になり、各地でのしおサイダー製造ブームの先駆けとなったが、発端は奥能登・珠洲市で500年の歴史を持つ伝統的な塩づくり「揚げ浜式製塩」を“発見”したこと。500年以上受け継がれてきた能登半島にしかない技術というストーリーに加え、塩×サイダーの意外性が多くの人の心に刺さった。

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Anteが開発する地域資源を活用した清涼飲料

珠洲市の当時居住者8人という赤島地区では、美しい日本海を臨める空き屋を買い取り、喫茶店『しお・CAFE』に改築した。改築は金沢工業大学の建築デザイン学科へ依頼。“限界集落にカフェ”という驚きのミスマッチと学生による改築が話題を呼んだ。限界集落のプロジェクトに約2年間にわたってテレビ局が密着。ドキュメンタリーが放映されたことで、人気に火がついた。オープンから3年半、28席しかない喫茶店に、3万2000人もの客が訪れている。限界集落に若者の行列のできるカフェが登場した。

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奥能登の限界集落にオープンした『しお・CAFE』

能登半島を舞台に中巳出氏が立ち上げた企画は様々あるが、どんな企画も「話題づくり」がポイントとなっている。「限界集落のカフェに行列ができれば、もちろんマスコミは取り上げます。地域の中でキラ星のごとく輝いて話題を作っていけば、必ず大手企業や商社の目にとまり、全国展開できます」
 
2名に共通するのは、異分野での経験も活かしながら、外部視点で埋もれた地域資源を発見したり、磨き上げる姿勢。年代や経歴に関わらず、アイデアが活かせる環境が地域にはある。

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