街と人をつなぐ、「関係人口」という関わりしろ。(前編) ~新潟市と地域おこし協力隊が描く、新しい『都市と地方の交差点』~
新潟市 経済部雇用・新潟暮らし推進課 井部智さん/地域おこし協力隊 MJさん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2026/03/27 (金) - 11:45

なぜ今、「関係人口」なのか

米どころ、酒どころ。豊かな自然と食文化に恵まれた新潟市は、本州日本海側唯一の政令指定都市として、高い都市機能を備えています。一方で、若者の首都圏流出が止まらず、生産年齢人口の減少、市内企業の慢性的な人材不足という課題に直面しており、「移住」というハードルの高さにも頭を悩ませてきたといいます。そこで新潟市が着目したのが、移住でも観光でもない「関係人口」という新しい関わり方です。

2023年度から始まった「副業関係人口創出事業(副業カンケイ人口プロジェクト)」では、都市部で働く副業人材が新潟市を訪れ、リモートワークも活用しながら、市内企業の経営課題解決に挑む、“実践型”のモデルを展開しています。多くの自治体が、「イベント参加」や「一時的な観光」といった交流に留まっているなか、新潟市はこれまでの3年間にわたる副業カンケイ人口プロジェクトの取組をとおして、外部人材活用スキームを確立し、先進事例として注目を集めています。

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今回お話を伺ったのは、この事業を担当し、行政の立場で旗を振る新潟市 経済部雇用・新潟暮らし推進課の井部智さんと、その想いを現場で形にする地域おこし協力隊のMJさん。行政と協力隊がタッグを組んで挑む、先進的なプロジェクトの舞台裏に迫ります。


新潟市の課題と、新たな挑戦

―まず、2023年度から始まった「副業関係人口創出事業(副業カンケイ人口プロジェクト)」について、概要を教えてください。

井部さん:首都圏を中心とした市外の副業・兼業・プロボノ人材と、課題を抱える市内企業や団体をマッチングする取り組みです。単なる業務委託の関係で終わらせず、プロジェクトを通じて継続的につながる「関係人口」を創出する狙いがあります。
将来的な目標は、行政が介在せずとも、企業と人材が自律的にマッチングする土壌をつくることです。その持続的な運用に向けた仕掛けとして「地域おこし協力隊」に参画していただいています。市が事業全体を統括し、協力隊が現場で企業と外部人材の橋渡しをしながらプロジェクトに伴走する。この体制によって、関係人口が新たな関係人口を呼び込む「好循環」を生み出したいと考えています。
令和7年度(2025年度)には、観光施設「ピアBandai」のブランド力強化や、豊栄地区の空き店舗活用、西洋梨「ル レクチエ」の認知度向上など、地域の魅力を引き出す多岐にわたるプロジェクトが実施されました。

事業の詳細>https://niigatashi-kankeijinkou.jp/


―まだ「副業人材活用」が一般的でなかった3年前、なぜ新潟市はこの事業をスタートさせたのでしょうか。背景にあった課題について教えてください。

井部さん:最大の課題は、20代前半の若者が大学卒業と同時に県外へ転出してしまうことです。特に東京圏への転出超過が続いており、市内企業からは「採用難」という声が常に上がっています。中小企業では労働力不足だけでなく、デジタル化などの変化に対応するための「専門知識を持つ人材」の確保にも苦慮しているのが現状です。

一方で、都市部の若年層を中心に、地方で働くことへの関心が高まっているというデータもありました。私たちの部署は移住促進も担っていますが、いきなり移住してもらうのはハードルが高い。まずは「副業」という形で関係人口を生み出し、それが将来的なUターンや移住の呼び水になるのではないか―。そう考えて事業を組み立てていきました。

―「移住」をゴールに置く自治体が多い中、あえて「関係人口(副業)」に着目した理由は何だったのでしょうか。

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井部さん:もちろん移住促進にも取り組んでいますが、いきなり生活の拠点を移すのは心理的にも物理的にもハードルが高いのが現実です。そこで、まずは「副業」という形で、市外にいながら新潟市と多様につながる機会をつくることが重要だと考えました。コロナ禍でのリモートワーク普及や、国が推進する「地方創生テレワーク(転職なき移住)」によって、首都圏を中心に「住む場所を問わない働き方」が広がったことは大きな後押しになったと思います。まずは副業を通じて関係人口をつくり、ゆくゆくはUターンやIターン移住につなげていきたいという想いがあります。

MJさん:私がこの事業に携わって痛感したのは、政令指定都市の中でも新潟市の若年層減少は非常に顕著だということです。地域の活力を維持するには、都市部との交流を増やし、経済や人・情報の流れを加速させることが不可欠だと思います。私自身、移住する前は「関係人口」の一人でした。自らそのステップを歩んできたからこそ、新潟市が「外部人材を柔軟に受け入れている」というイメージを、中長期的に定着させていく意義を感じています。

―市内事業者の方々は、関係人口や副業人材の必要性をどう捉えていますか?

井部さん:正直なところ、温度差はあると思います。深刻な人手不足ではあっても、「副業人材を活用しよう」という段階にはまだ至っていない企業も多いように思います。多くは「昔ながらの新卒一括正社員採用」を第一に考えていて、「副業活用」という選択肢が、まだ一般的ではないのかもしれません。

―その点、このプロジェクトに参加しているのは、志の高いオーナー企業が多い印象があります。そうした企業はすぐに集まったのでしょうか?

MJさん: 実をいうと、初年度は本当に苦労しました。足を動かして、さまざまな団体や企業を訪問し、プロジェクトの意義を説明して回りました。「いま抱えている本当の課題は何なのか」を深掘りし、共感していただけるパートナーを探す日々でしたね。


「行政・民間・協力隊」の三者連携が生む価値

―この事業の特徴は、行政と民間だけでなく「地域おこし協力隊」が加わった三者体制であることだと思います。この狙いはどこにあるのでしょうか。

井部さん:一番の目的は、将来的な「事業の自走化」を見据えた設計にあります。行政が主導するプロジェクトは、いつかは地域や民間が主体となって動いていく必要があります。そこで「地域おこし協力隊」制度を活用し、スキルや経験をお持ちの方に参画していただくことで、行政職員だけでは届かない視点や発想を取り入れることができると考えました。また、協力隊制度の本来の目的は「任期終了後の地域定着」です。3年間、市とともにプロジェクトに関わり、地域に深く根付いてもらう。そうして築いた知見やネットワークが任期終了後も地域に継承・展開されれば、市としてもこれほど心強いことはありません。
「一過性の事業で終わらせず、次世代へつなぐハブになってほしい」という期待がありました。

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MJさん:実際、3年もどっぷり関わると自然と「何かしたくなる」んですよね(笑)。東京生まれ・東京育ちで、自分が移住するなんて、全く想像していませんでした。それが今では新潟市に住み、協力隊として「新潟のために何ができるか」を日々考えている。自分自身が一番驚いています。これも一つの“自走化”の形なのかもしれません。

―地域おこし協力隊という存在だからこそ、行政や民間企業に対して果たせる役割とは何だとお考えですか?

MJさん:「半民半行政」という中立的な立場だからこそ、行政の意図を正しく汲み取りつつ、外部人材の視点で地域に寄り添うことができるのが、強みだと思っています。私自身、もとは外部人材であり、今は一人の新潟市民でもあります。双方の立場を経験したからこそ、それぞれの想いを丁寧に繋ぐ「橋渡し」ができるかもしれません。地域おこし協力隊として培った経験やネットワークを糧に、これからも新潟のさまざまな地域と関わり続けていきたいと思っています。自分自身の変化が、関係人口が地域に根付いていく一つの形になれば嬉しいですね。

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後編では、プロジェクトを通じて起きた市内企業の変化や、外部人材がもたらした意外な効果、そしてこの先に描く新潟市の未来図についてお話を伺います。

▶︎ [後編へ続く] 街と人をつなぐ、「関係人口」という関わりしろ。(後編)
~プロジェクトがもたらした変化と新潟市の未来図~(後編)

事業概要はこちら:https://niigatashi-kankeijinkou.jp/
事業の様子はこちら:https://www.instagram.com/niigata_kankei_pjt/

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