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外国人旅行者に向けた新たな観光資源「発見」の意義/地域活性機構リレーコラム
藤岡 比左志
2019/06/12 (水) - 08:00

訪日外国人旅行者数と消費額が順調に伸びています。日本経済にとって、外国人旅行者による消費は、もはや重要な「産業」となったと言ってもいいでしょう。ただ、この成果をさらに伸ばしていくためには新たな施策は必須です。日本の観光には何が必要か。外国人旅行者の視点に立った「日本再発見」の意義を考えてみましょう。

訪日外国人は旅行者数も消費額もさらに拡大へ

令和元年となった2019年も、多くの外国人旅行者が日本を訪れています。JTB総合研究所の「2019年の旅行動向見通し」によれば、2019年の訪日外国人旅行者数は3550万人に達する見通しで、2018年度から12.3%の伸び。政府が目標に掲げていた2020年=4000万人も視野に入ってきました。

一方、訪日外国人の旅行消費額も順調に伸びており、観光庁の発表によると、2018年の消費額は4兆5189億円と過去最高になりました。2019年には、さらにそれを上回ると期待されています。消費額を国籍別・地域別に見てみると、中国、韓国、台湾、香港、アメリカの順となっており、これら上位5カ国で全体の73.9%を占めています。

費目別に見ると、買い物、宿泊、飲食の順。注目すべきは費目別の伸び率で、2017年に比べ、宿泊と飲食の構成比率が1%以上増加しているのに対し、買い物の構成比率は2.3%減少。金額的にも500億円以上減っている点です。

これは明らかに中国、香港からの旅行者による、いわゆる「爆買い」がピークを越えたことを意味しています。実際に、消費額自体も中国と香港は2017年より減少しています。とはいえ、消費額としては、中国は1兆5450億円と圧倒的で(ちなみに2位の韓国は5881億円)、重要な「顧客」であることに変わりはありません。

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(資料:観光庁「訪日外国人消費動向調査」より筆者作成)

訪日外国人旅行者による消費額は、2011年にはわずか8135億円でした。7年でその額は5倍以上に拡大。まさに隔世の感がありますが、何よりもこの間に訪日旅行者の数が劇的に増加したことが最大の要因です。

外国人旅行者は、何を求めて日本を訪れているのでしょうか。日本政府観光局の調査によると、第1位が日本食を食べること(日本酒を飲む、を含む)、次いで買い物、自然・景勝地観光、繁華街の街歩き、温泉入浴など。

外国人旅行者の動向は、観光関連産業のみならず、日本経済に大きな影響があります。「国策」として、外国人の消費額を増やしていくためには、彼らがこれからどのように行動していくのかを考えることが必要になるはずです。

時代とともに変化する外国人旅行者の関心や旅行先

その観点から、2018年秋に出版された『外国人が見た日本』(内田宗治著・中公新書)という本の中に、非常に興味深い調査が掲載されていました。幕末から明治にかけて活躍したイギリス人外交官アーネスト・サトウらの編著による『明治日本旅行案内』(以下、『明治』)と、現代の外国人向け日本旅行ガイドブックの代表『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』(以下、『ミシュラン』)との内容を比較したものです。

まず驚かされるのは、『明治』では日本食について、ほとんど評価がされていない点です。東京ですら、料理店の案内はわずか7行ほど。それも店名の列挙のみで、名物料理の紹介など一切ありません。買い物の案内もわずかです。

これに対し、自然・景勝地や名所旧跡には多くのページが割かれていますが、その内容は『ミシュラン』とはかなり違っています。例えば、現代の『ミシュラン』で三つ星の高評価(わざわざ訪れる価値がある観光地)を受けている場所で、『明治』にはまったく記載のないところがいくつもあります。具体的には、髙山・白川郷、姫路城、知床、屋久島、京都では龍安寺、桂離宮、西芳寺など。白川郷や姫路城、龍安寺、桂離宮などが、明治期の外国人(主には欧米人)に見向きもされていなかったというのは衝撃でもあります。

一方その逆に、『明治』では詳しく紹介されていた場所が、『ミシュラン』では未記載になっているところもあります。具体的には、鹿野山(千葉県)、成田不動・香取神宮(千葉県)、身延・七面山(山梨県)、秋葉山・天竜川(静岡県)、池上本門寺(東京都)、北野天満宮(京都府)など。確かに、観光地としては地味な印象を与える場所が多いですが、明治期の外国人には人気の場所であったのです。

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(出典:『外国人が見た日本』(中公新書)掲載の内田宗治氏作成の図表を基に筆者作成)

『ミシュラン』の評価はともかく、『明治』で紹介される場所は、われわれ現代の日本人にとっても、なぜここが選ばれているのか不思議な印象を持ちます。これについて、著者の内田氏は、『明治』の編者たちが欧米人から見て異質である「宗教の歴史」に重きをおいていた点と、当時の西欧社会で登山が盛んだったことが背景にあると推測しています。

『明治』から『ミシュラン』の間には、100年を超える時間の乖離があります。これほど長期でなくても、外国人旅行者の関心は、短期間でもどんどん移っていく傾向にあります。その場合、新たに誕生する施設に人気が集まる場合もありますが、多くはこれまで見過ごされていた価値が外国人旅行者に「再発見」されて、新たな人気観光地として登場しています。また、そうした発見がなければ、今の3000万人の外国人旅行者を5000万人、6000万人とすることは難しいのではないでしょうか。

海外旅行とは本国では見られないものを体験しに行く行動

外国人が「発見」した観光スポットとして、思わぬ場所が人気を集めるケースも出ています。そのひとつが、新倉富士浅間神社(山梨県)。富士山が目の前にそびえる高台に朱塗りの五重塔。周囲に植えられた桜が咲く季節には「富士山と京都と桜」という、外国人の抱く日本のイメージそのものの風景が広がる場所です。地元の富士吉田市民にすれば、見慣れた平凡なところでした。それが最初はタイ人の間で口コミによって話題になり、いまや外国人旅行者に知らない人はいないほどのメジャーな場所になりました。

そもそも海外旅行とは、本国では見られないもの、見たことのないものを体験しに行く行動です。雪に縁遠い東南アジアからの旅行者が雪に歓声をあげたり、野生の猿のいない欧州や豪州の旅行者が地獄谷温泉(長野県)のスノーモンキーに見入ったりしているのは、その現れでしょう。その意味では、日本的なるもの、外国人が抱く日本のイメージに合うものをどれだけ用意できるかも重要でしょう。

政府が発表した「観光に関して講じようとする施策」の中には、そうしたニーズに応えて「魅力ある公的施設・インフラの大胆な公開・開放」する方針が打ち出されています。すでに具体的に名前が挙がっているのは、京都御所、京都仙洞御所、桂離宮、修学院離宮。予約不要で通年での参観を可能にします。いずれも日本庭園として非常に評価が高く、美しさに定評のある場所です。

山陰本線の安来駅から車で約20分というアクセスの悪い場所にある足立美術館(島根県安来市)が年間64万人(2018年)も入館者を集めている理由も、日本庭園の圧倒的な美しさにあります。ちなみに、足立美術館の2018年の外国人入館者数は4万5000人を超え、前年を1万人以上も上回り、7年連続で過去最高を更新しました。地域別にみると、韓国、台湾、中国、香港などアジア圏からが大半を占めています。優れた日本庭園は間違いなく強いコンテンツ力があるようです。

また、2019年度予算で新たに、皇居東御苑にある「三の丸尚蔵館」の展示面積を8倍に拡大するための整備工事が施策として取り上げられました。三の丸尚蔵館には、狩野永徳、伊藤若冲をはじめ、天皇家に代々受け継がれてきた一流の絵画・書・工芸品9800点あまりが収蔵されています。これまでは展示スペースの関係で十分な展示ができませんでしたが、2019年度より工事に着手、2022年に一部開館、2025年に全館開館する計画。日本の一流の伝統美術品に接することのできる観光スポットとして、外国人旅行者にも活用が期待されています。

外国人旅行者に向けた施策はまだまだ発展途上であり、今後の努力によってはさらなる発展が期待できると思われます。

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