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地方を変える「新教育」。EdTechと教育改革は地方をどう変えるのか
木下 斉
2019/09/06 (金) - 08:00

地方発展において教育は極めて重要な機能を果たします。これは子どもたちに向けたものだけでなく、大人の世代の再教育においても言えることです。学ぶことなくして、正しい事業も取り組みも進めることは難しく、また学ぶ機会を作らなければ新たな技術や知識を共有していくこともできません。

1.従来型教育は「地方が不利」になる設計だった

従来の学校システムは、地方に不利になる設計だったと言えます。

巨額の予算を投じて校舎を建て、校庭を作り、プールを開発する。さらに日々通学して教室に入り、その場にいる先生が講義をする。教科書も統一のもので、成績評価も全国統一されます。しかし、都市も地方も一緒に作られた学校というシステムは、同じシステムだからこそ地方に不利になっています。相対的に都市部より生徒数は少ないのに、同じようなハードが要求され、さらに先生も集めなくてはならない。そして、より成績の良い子供たちは、競争の激しい都市部の学校に小学校、中学校、高校、大学と段階を追って集められていく。結果として、地方に人材は残らないように設計されていたとも言えます。学校関連の大きなハード投資と多人数の教員を揃えるランニングコストがかかる学校は少子化が先んじて進む地方では維持ではなくなり、廃校に追い込まれてきました。

衰退局面に至ると、これまではどうにか財政支援などを国から得るなどして従来型の学校を統合して残すこと、専門高校なども廃止して普通高校にすることを地方は選択してきましたが、これも時間稼ぎにすぎなかったと言えます。従来の仕組みのままでは、遅かれ早かれ廃止に追い込まれざるを得ない仕組みになっていたわけです。

都市部も地方も同じ教育モデルを採用せざるを得なかった原因。その多くは、技術的制約に紐づいていることがうかがえます。大人数に決められた情報を伝達していくには、教室に生徒たちが収容され、先生が黒板を利用して語るのが最も効率的だった時代があるわけです。
しかし、現代ではインターネットの登場、情報端末の発達によってこれらの前提が大きく変わってきました。従来のような個別の学校が独立し、全国に分散したスタンドアローン型ではなく、全国でむしろ個人や様々なモデルのグループがネットワークで統合され、最も最適な学習をどこの地域にいても選択できることが技術的には可能になりました。

この前提に立ち、地方は新たな教育機会を作り出すことが可能になろうとしています。

2.EdTechが導く、技術制約の破壊

近年、文部科学省、経済産業などがEducation と Technology とを組み合わせたEdTechの日本での振興策を展開し始めています。世界をみると中国市場におけるEdTech分野の巨大企業が台頭し、次にアメリカ企業があるわけですが、日本はまだまだ黎明期というところです。例えば、動画学習サービスをMOOC(ムーク)と呼びますが、MOOCを通じて学習する人は今や世界中に1億人以上に登り、900以上の世界中の大学が参画し、1万以上のコースが提供されています。その中から実際にカリキュラムをやり遂げ、奨学金を得て留学して教育を受けたり、研究活動に従事する人も出てきています。

国内をみても、オンラインでの学習支援サービスとして全国の高校などでも2000校以上が採用しているリクルートのスタディサプリは、50万人以上が利用しています。日本でも有数の優秀な講師陣の講義を受け、各種テストを受けて苦手分野などを克服していくシステムを月980円で使えるのですから、驚きです。さらにネット通信制高校であるN高は、すでに開設3年目で1万人を超える生徒が通っています。ネット専門であれば、通常だと3400時間学校に通わなくてはならないところを、約10分の1である340時間程度で高校卒業が可能になるため、余剰時間を使って生徒たちは様々な社会的活動や事業、スポーツなどに専念できるわけです。従来の学習からすれば大きく異なりますが、1学年100万人程度の高校において、今後数万人がネット通信高校で学習しながら、従来は不可能だった実践活動などに取り組むようになれば、社会的に大きな変化を作り出すでしょう。新たな商品サービスの普及を分析するキャズム理論をもとにすれば、イノベーター層は全体の2.5%と言われています。ネット学習はすでにイノベーター層の取り込みに成功し、次なる全体の13.5%を占めるアーリーアダプター層の取り込みに入っていると言えるでしょう。この段階に入ると一気に利用者が拡大します。

実は、単に教育に向けたサービスだけでなく、インターネットは様々なカタチで学ぶ機会を与えています。例えば海外にいくと外国語学習などもYoutubeで行う若者は多数います。また、私の周りでもパン屋をオープンするのに修行に出ることなく、世界中の有名パン屋がInstagramで公開しているパンの作り方に関する動画を見て学んだ人もいます。従来のような学び方ではなく、経済的格差も克服されるほどに安価で、地理的制約もゼロのものばかりです。そして皆が集まり学ぶことは単に講義を聞くなどのスタイルではなく、皆でのディスカッションや合同研究活動など、物理的に皆が集まることで成立する内容へとより精査されるようになってきています。

3.教育にも求められる、特化戦略

ネットを通じた教育方法は一つの手段に過ぎません。単にそうなったからといって、地方においては、それは高速道路や新幹線が開通するのと一緒で、あくまでも教育選択の幅が広がるだけであって、地方の教育に多くの人が集まるわけではありません。そのためには、内容を変えなくてはならないのです。

さらに地方教育に求められるのは、都市部と同じような教育だけでなく、「特化型教育」です。これまでは、商業高校、農業高校、工業高校、水産高校、林業高校など専門教育高校を減少させながら、普通化に変更しました。しかし、汎用的な教育に統合してしまったことは、地方にとっては大きな間違いだったと言えるでしょう。むしろ地方にしかできない、都市部では不可能な特化戦略をもつことが大切です。

例えば、島留学など立地の特異性を利用し、島での生活を含めた新たな教育を作り出すことで人気を集めているのも特化戦略の一つです。地域内での予算配分などを見直しながら、教育投資を強化すると共に、不便だけれども都市部にはない環境を強みにした教育に人気が集まったわけです。さらに岩手県紫波町には民間資金によって合宿機能付きバレーボール練習専用体育館が作られました。これも特価戦略の一つです。今やここには全国各地から中学生の都道府県選抜チームからプロチームまでが集まっていますが、一般的な多目的体育館であれば、わざわざこのような状況にはなりません。全国でも稀有な特化型施設を、バレーボールを自ら続けてきた経営者が立ち上げたことで、全国から人が集まる仕組みを構築したのです。スポーツも教育の一貫であると考えれば、このような特化戦略の有用性が理解できる取り組みと言えます。

地方の場合、どこにでもあるものを都市部と同じようにやっては確実に力負けします。そうではなく、都市部が打ち出せない特化型の教育ができれば、ネットを介して全国へと独自のプログラムを配信し、実地で実践しなくてはならない学びを得るために、その地域に訪れる人は確実に出てくることでしょう。そしてそれは、従来のような多額の教育コストをかけ、巨大なハードを建設し、固定人員を多数雇うというモデルとは異なるやり方で実現できるわけです。

すでに従来の切り口とは異なる新たな教育を作り、多くの地域から人を集めている学校が地方に誕生しています。次回は、地方における新たな教育変革の事例を見ながら、今後の地方教育の可能性を考えたいと思います。

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