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エンタメで生き残れ!銚子電鉄の諦めないアイデアフラッシュ
銚子電気鉄道株式会社 社長 竹本 勝紀さん
鳥羽山 康一郎
2018/04/16 (月) - 08:00

千葉県銚子市を走る銚子電気鉄道(愛称:銚電)は、総延長6.4kmの単線だ。
1923(大正12)年の開業で地域住民の足となってきたが、モータリゼーションの波に押され乗客が減少し、何度も経営危機に陥った。それを救ったのが「奇跡」と言われる「ぬれ煎餅」の大ヒット。以来、お化け屋敷電車やイルミネーション電車、駅名のネーミングライツなど、ユニークな施策を次々と打ち出し続けている。先頭に立ち、さまざまなアイデアを繰り出す竹本勝紀社長に話を聞いた。銚電仲ノ町駅構内に保管されている旧車両の中で、竹本氏は大いに語ってくれた。

「みんなの夢AWARD8」で準グランプリを受賞

6.4km。ジョギングでも1時間足らずで走り終えてしまう距離が、銚子電鉄の総延長だ。しかし、その中には実に濃い要素が詰まっている。そう、銚電観音駅で売っている鯛焼きのあんこのように。
「先日、『みんなの夢AWARD*』というイベントで準グランプリをいただきました」
運転士の制服を着て、何千人もの前で銚電のこれからのビジネスプランについてプレゼンテーションを行ったという。その企画は「ふるさと運転士」。電車の運転を希望者に教えて資格を取ってもらい、休日には運転士として銚電に乗務するというものだ。教習料金の収入も見込まれ、収益の柱に育て上げる。規制などにより若干の壁はあるそうだが、目の付け所はユニークだ。
「『乗り鉄』ならぬ『運鉄』を集めたいんです。余暇を利用して都会から優秀な人材に来てもらい、力を発揮する。それが町を救うロールモデルになればと」
高度経済成長期、都市と地方が均等に発展することを目指して整備新幹線や高速道路が出来上がった。しかしそれは、地方の人材や富を都会へ吸い上げるストロー現象の原因となった。竹本氏は「逆ストロー現象」を起こそうと目論む。
「一般論ですが、田舎の方が都会に甘えていることがある。ある村役場の依頼を受けた都市プランナーが、地元の重鎮に集まってもらい村の活性化に関する事業計画を説明したところ、『誰がやるんだ』『誰が金を出すんだ』という議論に終始したという話を聞いたことがあります。都市部と比べると、専門的な知識を持った人が少なく、どうしても視野が狭くなりがちです。どうやって地方に優れた見識を持ってくるかが今後のテーマです」
働き方改革も意識した地方創生モデルと言える。しかしこれは、銚電・竹本氏が無尽蔵に秘めているアイデアのほんの一部に過ぎない。

*みんなの夢AWARD:渡邉美樹氏が主宰する公益財団法人「みんなの夢をかなえる会」が毎年開いている「夢」を応援するためのイベント。社会課題を解決する自分の夢をどうビジネス化するかのプレゼンテーションを行い、応援企業からの支援を勝ち取る。2018年2月に開催された第8回では525組のエントリーがあり、竹本氏は準グランプリを獲得。企業家で構成された審査員評ではグランプリと同点だった。

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「みんなの夢AWARD8」でのプレゼンテーション。千葉県・舞浜アンフィシアターにて。

「ぬれ煎餅」に続くヒットを探せ

2006(平成18)年11月、あるムーブメントが起きた。「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」という一文が、ネット上を駆け巡ったのだ。発信元は銚子電鉄のWebサイト。その頃、当時の社長に横領が発覚して行政からの補助金が打ち切られ、国交省から老朽施設の改修を命じられ、さらに1か月後に迫った車両の法定検査に200万円支払わなければならない事情があった。絶望的な状況の中、当時の経理課長が思わず書き込んだのが、その文章だった。これがネット掲示板で紹介され、ブログやSNSで拡散された。当時、銚子電鉄の顧問税理士であった竹本氏が立ち上げたオンラインショップには2週間足らずで1万件を超える注文が殺到し、爆発的な売上を記録。廃線の危機を回避できたのだ。この文章は『現代用語の基礎知識』にも収録された。
「現在、ぬれ煎餅の売り上げが収益の7割を占めているんです」と竹本氏は明かす。収益の柱としてはあまりにも数字が偏っているのは、経営者でなくても自明だ。ゆえに、他にも収益確保の取り込み口を作らねばならない。ひとつのアイデアが上記の「ふるさと運転士」だが、既に実現して売上に貢献している企画に2015年からの「お化け屋敷電車」がある。走る電車内をお化け屋敷にする企画だ。
「私が社長に就任して3年目、何か足跡を残したいと始めたんです。シナリオライターが参加し、お化けづくりの第一人者も紹介してもらいました」
そして、テレビ局に勤める竹本氏の知り合いがニュースなどで採り上げてくれた。こうして縁がつながり、チケットは完売が続く。竹本氏自身も「めちゃくちゃ怖い」と漏らす企画、2018年は「ぬれ女」だそう。「ぬれ煎餅を売ってますから」と意欲を燃やす。

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起死回生のヒットとなったぬれ煎餅。バリエーションも豊富だ。

「×(かける)企画」は地元とのWin×Win

銚子の特産品に絡んだ企画もある。「鯖サミット2017」は、サバの水揚げ量日本一の銚子港で行われた。東日本では初めての開催で、延べ3万人が来場。銚電では電車のヘッドマークに「3843=サバ読み」の数字を付け、サバ関係の駄洒落ポスターを車内に吊って盛り上げた。
その他、「東京に電車の車内みたいな店を作って、吊革につかまって飲み食いできるようにするとか。プロジェクターで車窓の景色を流したり、寝台車で休めたり」と披瀝するメニューは、「漁師のプリン」とも言われる銚子独特の伊達巻き寿司、ヒラメの棒寿司や金目鯛のなめろうといった銚子のご当地グルメ。
また、特産品のほか地元の店舗とコラボレーションする企画も打ち出している。
「ボジョレーヌーボーやハロウィーンなど、季節のイベントと絡めています。例えばボジョレーヌーボーでは地元のフレンチレストランとコラボして、電車内にテーブルを置いてワインと地元の食材を楽しみながら乗ってもらいました。その時の売上を何と全額寄付してくださったのですが、テレビなどで紹介された結果、逆に新規のお客様が増えたとオーナーに喜んでいただけました」
こういうWin×Winの企画を「×(かける)企画」と呼んでいる。これには「共に天翔ける」という意味も込められている。そして単に企画するだけではなく、お化け屋敷電車のようにメディアに載せて拡散する戦略にも長けている。ぬれ煎餅がバズッたのが、そのルーツかもしれない。

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アイデア、そして駄洒落が止めどなく飛び出してくる。

海外とのビジネスも視野に入れて

近年、外国人旅行者の行きたい場所は、大都市圏から地方へ分散する傾向があるという。
「銚子を世界的な観光地にするのは無理な話ですが、インバウンドにはもちろん力を入れています」
特に台湾は、鉄道会社・台湾鉄路と提携している日本の電鉄会社が15社あるように、相互の交流を図っている。銚子電鉄は、台湾鉄路の「蘇澳線」と姉妹鉄道となった。両線ともに漁港に通じる路線という共通項がある。
「向こうのメディアでも紹介されているので、犬吠駅でぬれ煎餅を売っている女性社員を指差して『TVスター』と呼ぶお客様もいました」と台湾からのさらなる観光客を呼び込みたいと語る。
この他、事業領域の切り換えも狙ったフィービジネスも視野に入れている。1950(昭和25)年に製造された「デハ801」車両が外川駅に展示されているが、錆により腐食した状態を修復したのが銚子電鉄・銚子駅のネーミングライツ・パートナーでもある会社の錆止め剤だ。銚子電鉄が代理店となり、これを海外に売り込むプロジェクトが進む。またインバウンド施策の一環として、銚電のサイトに掲載されている「奇跡のぬれ煎餅」の物語を英語、中国語にそれぞれ翻訳し、各国メディアに紹介してもらえるようエージェントに働きかけている。
「生き残るためには、総合的な力が必要です。フィービジネスや飲食店など、できることはどんどんやっていきたいですね」
その先鞭は鯛焼きやぬれ煎餅で付けているから、多角的な展開はお手のものだ。後はどんなアイデアが実現できるかである。

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銚電仲ノ町駅構内。ローカル線ならではの風情は外国人にとっても引きとなる。
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手作り感がいっぱいの車内吊り広告は、見ているだけで楽しい。

アイデアを途切らせず「日本一のエンタメ鉄道」に

竹本氏は、「折々に出逢う人がチャンスをもたらしてくれる」と言う。
「私一人では何もできません。出したアイデアを具現化してくれる人が必要です。銚電を応援してくれる人たちもたくさんいますし、キーマンとの出逢いが与えられるまで諦めてはいけません」
だから、とにかく動く。そしてさまざまな人たちにアプローチする。「みんなの夢AWARD」のプレゼンテーションで見せたような説得力のある話術は、腕利きの税理士業を続ける中で養った。
コアとなるアイデアは、社内のブレーンストーミングでも引き出される。そこでは「AIDMAの法則」を使っているという。この古典的なマーケティングの法則は、いつの時代も通用する普遍性を持つからだ。
「特にイベントでは、AttentionとInterestが大切です。面白そう、行ってみようとなるかどうか」
移動時間や料金を費やして来てもらうために、どうなっていくのが正しいのか。輸送手段としての役割は後退している。ならば、楽しませることに主眼を置く。竹本氏は「日本一のエンタメ鉄道を目指します」と断言する。
「どうせなら楽しくやりたい。常に面白いことをやっている鉄道会社のイメージがブランドをつくりますから」
地域のブランド化は、銚子市と進めている日本版DMO登録にも大きな武器となる。
「DMOへの人材供給にも関わっています。その強力なパートナーが、沖縄の旅行会社です。犬吠駅のネーミングライツ・パートナーであり、沖縄から100人単位で観光客を呼び込んでくれています。その社員が今度銚電の取締役にもなりました」
こうして、他地域・他業種の人材が銚子に来て協力したりアドバイスしたりしてくれる。ふるさと納税の加速にも注力が欠かせない。鉄道を軸として、行政と一体となって盛り上げるロードモデルが出来上がりつつある。
「鉄道が寂れると地域も寂れます。あがきながら存続に向けて頑張って、地域も一緒になって活性化できればという気持ちです」と言った後、「アフリカのある部族は雨乞いを100%成功させるんです。なぜだかわかりますか」と唐突な質問が飛び出した。
「それはね、雨が降るまでやるからですよ」
諦めず、とにかくアイデアを出し続ける、挑戦し続ける。そこに降り注ぐ恵みの雨は、きっと虹も運んでくるに違いない。

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現役で走行する車両(上)と引退した車両(下)。他の電鉄会社での役目を終えた車両を再整備して運用。
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銚子電気鉄道株式会社 社長

竹本 勝紀(たけもと かつのり)

税理士を本業とし、2005年より銚子電気鉄道の顧問税理士に。オンラインショップの立ち上げにも関わり、2006年にはぬれ煎餅のブームが巻き起こる。2012年、銚子電気鉄道の社長に就任。当時会社の預金残高は50万円であった。月額の報酬10万円は交通費で消える。2016年には電車の運転免許を取得。鉄道会社の社長が就任中に取得するのは異例のことである。ちなみにお化け屋敷電車でお化けを製作する会社は、竹本氏が小学1年生の夏休みに入って恐怖のあまりトラウマとなったお化け屋敷も手がけていたとのことである。

銚子電気鉄道株式会社

1922(大正11)年設立の銚子鉄道が前身。1923(大正12)年、銚子〜外川間開業。1948(昭和23)年銚子電気鉄道設立。1976(昭和51)年、観音駅にて鯛焼きの販売開始。度重なる経営危機に瀕したが、ぬれ煎餅などの販売により回避。2014年、脱線事故を起こし運休。その修理代の一部を、県立銚子商業高校の生徒たちが発案してクラウドファンディングによってまかなった。

住所
千葉県銚子市新生町2丁目297番地(本社)
設立
大正12年7月 ※銚子鉄道株式会社として営業開始(銚子-外川)
企業HP
http://www.choshi-dentetsu.jp/
鳥羽山 康一郎

鳥羽山 康一郎

ライター/コピーライター/プランナー

文字を通じてのコミュニケーションを真ん中に置きながら、映像、画像などにも手を出しつつ活動。数多くのインタビューを通じ、その人の数だけの生き方に感動し感化される。自身もオフィスを持たない生き方を模索している。

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