main.jpg
地方創生の主役は、地域でなければならない(後編)
静岡銀行 常務執行役員 地方創生担当 大橋弘
鳥羽山 康一郎
2018/05/04 (金) - 08:00

「県境のない地図」がもたらした発見と成果

そして、静岡県内のみならず隣接するエリアとの協働も動き出した。その一例が、「県境のない地図」だ。静岡県の中部・富士山静岡空港と東京都の羽田空港までを記載エリアとした観光地図で、正式名称は「富士山美景遊観」という。インバウンド客をメインターゲットとしていて、彼らにとって県境など無関係という割り切りから生まれた。富士・箱根・伊豆はインバウンド客の多くが訪れるゴールデンエリアだ。そこが一体となってアピールすれば魅力は何倍にもなって届く。富士山ビューを一番のキーポイントとして、主要スポットに配されたQRコードから情報ページに飛べるようにしてある。ニューヨークとパリのプリンス系ホテルにも置かれていて、好評だ。

「市町のつくった地図を見るにつけ、自分のエリアは事細かに書いてあるのにそれ以外は真っ白けなんですよ。海外から来た人たちに、そんな地図は役に立ちません。富士・箱根・伊豆というキラーコンテンツを持っているのだから、一帯の観光地図をつくりたいと思い、横浜銀行さんにお声がけしたんです。発表の翌日、静岡県から一緒にやりたいと申し出があって、そこからの横展開はとても早かったですね」

ワーキンググループを複数立ち上げ、いろいろな方向から形づくっていったのだ。それを見て商工会議所や地元企業も手を挙げ、どんどん広がっていった。このスピード感が、地方創生部のひとつの特長だ。

「私はいつも『仕事は速さ・スピード・速度だ』っていってます(笑)。少子高齢化がすごい勢いで進んでますから、ゆったりしてたら間に合いません」

とはいえ、さまざまな成立過程を持つ企業体や自治体の間では、そのスピードに関する捉え方の違いもあるという。それらを調整するのも大切な役割だ。また、しっかりとした自立心と、目先の利益より地元への思いを持っている経営者を大切にし、応援するという姿勢を崩さない。

20180409_38.jpg
県境のない地図には富士山のビューポイントを中心とした観光情報が掲載される

他の金融機関との提携でファンド設立

金融機関の役割として、地域企業への資金的な援助も重要な位置を占める。地域密着型の営業を行ってきた静岡銀行の本質ともいえるだろう。地方創生部ではこれをさらに進め、地域活性化ファンドをいくつか立ち上げている。そのひとつが13億円の規模を持つ「しずおか観光活性化ファンド」だ。2本柱のひとつである観光活性化の側面支援を受け持つ。

「これはREVIC(地域経済活性化支援機構)さんにも出資していただいています。もともと企業再生支援機構ですから、私たちの支援先が財務的に大変な場合すごくチカラを発揮していただけるんです。再生のプロがハンズオンで入ったりもしています。このファンドには後にスルガ銀行さんや地元の信用金庫さんにも出資していただいています」

通常は競合関係にある金融機関も、手をつないでコトに当たる。そうしなければならない状況であることを、みんな実感している。また、もう一方の柱である農業関連では「しずおか農林漁業成長産業化ファンド」がある。1次産業者と2次・3次産業者とが共同出資し、6次産業化へ事業の投資を行う。静岡県産の農作物をアジアへ輸出することにも注力する。
ファンドは出資のみにとどまらず、経営ノウハウや人的ネットワークの提供など幅広いサポートを展開する。「どこの金融機関からの持ち込み案件でも、平等に扱っています」と大橋氏が語る通り、静岡県内の総力を挙げて産業振興に当たっている。
こうして設立されたファンドやビジネスマッチングによって、上に挙げたようなスケールするプロジェクトが次々に誕生しているのだ。

「ノウハウは全部オープンにしています。うちだけが肩に力を入れてやっててもしょうがない。要は真似してもらいたいということです。民間とも行政とも取引があるのが地域の金融機関。その間に入ってコーディネーター役をやらないと、絶対うまくいきません」

地方創生部には、全国からの視察や問合せが絶えない。焦眉の事態の中、一筋の光明に見えたに違いない。

常に第三者的な眼で見ること

県境のない地図の誕生にあたって重要視したのは「外からの目」だ。大橋氏自身、10年間の海外拠点勤務を経験している。外からの目の大切さを十分に理解しているのだ。たとえば、下田市にあるグランピング施設。前述の観光ファンドの第一号だが、経営者は佐賀県出身だ。伊豆を旅行中に、この場所でグランピングをやればいけるんじゃないかと閃いた。また、荒れた山道を整備してマウンテンバイクで走れるツアーコースをつくった人も、県外出身者だ。これらは、地元で何十年も暮らしているサービス業関係者は気付かない。「地域を変えるのは、よそ者・若者だ」というフレーズが真実であることに異論の余地はない。そして、そういった気付くチカラを養う試みも行われている。

「もう11年前から、Shizugin-ship(シズギンシップ)という次世代経営塾を始めています。県内企業の若手経営者や2代目3代目を集めた勉強会です。今800社、1,200人の会員がいて、年間100プログラムぐらいやっているんですよ。1日おきくらいの頻度で、静岡や浜松で何らかの勉強会を開いています。少人数で、まるで大学のゼミナールみたいに。討論したり意見交換したりで、新しい視座を得られます」

参加者はShizugin-shipを離れてからもつながっていて、次世代経営者の強固なネットワークができあがっているという。他に、伊豆地方の若手経営者のミーティング「ミライズキャンパス」も横のつながりを築きつつある。

20180409_40.jpg
Shizugin-shipではゴルフとお酒は禁止という

地方創生をライフワークに。寺子屋も開きたい

地域観光を経営的視点で捉え、地方創生政策とともに全国から名乗りを上げた、日本版DMO。静岡県内でも、いくつものDMOが立ち上がっている。それらにも静岡銀行ならではのフィルターがある。

「第二の観光協会をつくるのだったら応援しませんと、はっきりいっています。DMOによって温度差がありますから。現在うまくいってるなというところが、静岡市を中心とした5市2町の広域DMOです。ここはチーフマネージャーを公募して、クックパッドの事業部長だった人物に来てもらいました。マーケティング力と実行力を高く評価したんです。地方創生部は、その面接も手伝いました」

「都会から地方へ」と人の流れを変える施策は、静岡県でもチカラを入れている。内閣府の「プロフェッショナル人材戦略拠点」が静岡商工会議所内に開設された。2016年は、静岡県のマッチング成約件数が日本一を記録した。静岡銀行も設備投資を支援し、47カ月連続で融資が増加している。新たに工場を作ったりラインを増やしたりしたときは、東京で経験を積んだプロ人材を紹介されることも多い。人手不足をきたしているホテル・旅館関連、物流、介護などの人材も採用が増加している。

そして県外からの人材転入と同時に、地元における郷土愛を育てる必要も感じている。「しずおかキッズアカデミー」では地域の小学生を対象に、歴史や文化、地域産業を通じたキャリア教育を実施している。地元の大学生によるワークショップや実体験を通じて、郷土の魅力を学ぶ場を提供する。

「最終的にはシビックプライドですよね。自分の生まれ育った土地を誇りに思ってくれる子を増やしていきたいんです。そうそう、私は退職したら『寺子屋』をやりたいんですよ。地元の名物や遊びを一緒に勉強するような」

生まれ育った町の地盤沈下を目の当たりにして、地方創生に情熱を傾けるようになった大橋氏。いつしか、それがライフワークになった。地元の誇りを胸に、静岡県をさらに活気づけてくれる人材が現れるのは遠い将来ではないだろう。

20180409_81.jpg
profile_takemotoshi.jpg

静岡銀行 常務執行役員 地方創生担当

大橋 弘

1957年、静岡県沼津市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、静岡銀行に入行。富士中央支店、沼津支店などの支店長を歴任。欧州静岡銀行など10年間の海外勤務経験を持つ。2015年、地方創生を担う常務執行役員となる。

株式会社静岡銀行

1943(昭和18)年、静岡三十五銀行と遠州銀行の合併により設立。「地銀の雄」として全国的に知られる。海外にも支店・関連会社を展開。邦銀トップレベルの盤石な財務体質から、トップレベルの信用格付けを有する。本部機能は静岡市清水区。静岡市葵区にある1931(昭和6)建造の本店営業部本館は、国の登録有形文化財に指定されている。

住所
静岡県静岡市葵区呉服町1丁目10番地(本店所在地)
設立
昭和18年3月1日
企業HP
http://www.shizuokabank.co.jp/index.html

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索