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閉鎖商圏のスーパーマーケットを新しい“場”に――。飛騨高山33歳社長の挑戦
駿河屋魚一 代表取締役社長 溝際 清太郎さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/06/11 (月) - 08:00

岐阜県・高山市のスーパーマーケット『エブリ東山』の一角に、2年前に登場した「FRESH LAB.TAKAYAMA」(以下、フレッシュラボ)。広々としたオープンキッチン、そして3Ⅾプリンター、レーザーカッターなどのファブリケーションが並ぶスペースでは、「あそぶ・つくる・まなぶ」をテーマにワークショップなどが開かれており、地域住民の交流の場となっている。仕掛け人は、同スーパーを運営する駿河屋魚一の3代目社長・溝際清太郎さん。若干33歳の若き社長が、地方のスーパーマーケットに新しい場を設けた理由とは?お話を伺った。

“健康で安心”な食シーンを継ぐ3代目社長

―まずは、溝際さんのこれまでのご経歴を教えていただけますか。

高校生まで地元の飛騨高山で育ち、東京の国際基督教大学に進学しました。もともとは生物が好きで生物学を専攻していたんですが、父と接しているうちに「この人と仕事をしたい」と思い、大学3年生の時に家業を継ぐことを決めて、卒業後は父を支えるために会計を学ぶことに。それからすぐに地元に戻って父の跡を継ぎました。

―東京で就職してから地元に戻る、という道もあったかと思いますが、すぐに地元に帰られたのはなぜなのでしょう。

もともとは私も、東京で会計やスーパーマーケットのことを勉強してから地元に帰ろうと思っていたんですが、卒業して間もなく父が倒れてしまったので、急遽帰らざるを得なくなってしまったんです。なので、今でもどこかで修業したいという気持ちはあります。ただ、大手に就職して知識や経験をした後に地元に戻ると、いろいろ否定的な部分が見えていたかもしれません。その点、僕の場合はまず現状を受け入れるところから見ることができた。それは自分の強みになったと感じています。

―もともと地元に対する愛着は強いほうだったんですか?

地元は大好きです。この地域は狭い文化圏なので、人と人との距離が近いんです。田舎から東京に行くと寂しい思いをすると言われますが、僕も東京に出た時は、良さは感じつつ、やっぱり寂しさを感じてしまった。だから飛騨高山に帰って来て地元の人の温かさに触れると、郷土愛がますます強まりました。

―溝際さんが跡を継がれた『駿河屋魚一』は、おじい様の代から続いているそうですが、どのようなお店なのでしょうか。

地域に根付いたスーパーマーケットです。飛騨高山は、どの主要都市からも1時間半以上掛けないと来られない閉鎖商圏で、このように外から断絶されている場所は日本の中でも珍しいのではないでしょうか。そのなかで、より健康的に、より安心していただける食シーンを目指そうと、創業者の祖父のころからずっとやってきました。

―その一方で、『フレッシュラボ』をスーパーマーケットの横に併設するという新しい取り組みも始められました。それは先代が築いてきたものに対して、変えなければならないと感じたことがあったということですね。

生産者の方が真面目に作った、本当に安心できる食をお伝えする、という駿河屋の本質は祖父の代から変わりません。ただ、インターネットで物が買えて、届けられるようになっているなか、商品とお金を交換するという機能的な場としてのスーパーマーケットは今後廃れていってしまう。そんな危機感があり、スーパーマーケットの価値をどうやったら高めていけるかを考えた時に、地域の場所として「伝える」「つなげる」という役割を担わなければならないと思い『フレッシュラボ』を設けました。だから過去を否定して変えたわけではなくて、+αの要素として、新しい取り組みを付け加えたという認識でいます。

―東京に一度出られた経験は、新しい取り組みをする際に役に立ちましたか?

そうですね、大学でつながった友達やコミュニティの影響は大きいです。フレッシュラボの立ち上げも、大学時代の友人が企画などを一緒にやってくれました。ただ、やっぱり外の力だけでもダメで、地元の人の思いがなければ作れなかった場所だと思います。フレッシュラボのテーマとして「つくる・あそぶ・まなぶ」という3つを掲げているのですが、これは企画書を作る段階で地元の若者から60代の人々まで集まってもらって、この地域に何が必要なのかをブレストして、生まれたテーマです。

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代表取締役社長 溝際 清太郎さん

「自分でもできるんだ」という気付きを与え、地域の子どもたちの可能性を広げたい

―『フレッシュラボ』では普段どんな取り組みをされているのでしょうか。

“食”と“ものづくり”にテーマが分かれています。“食”の部分では、フレッシュラボにあるキッチンで、地元のおばちゃんたちが集まって伝統料理をわいわい作ったり、シェフからお客さんに教える料理教室を開いたり。あとは、私たちの社員が出汁の大切さを伝えるために使ったりもしています。“ものづくり”でいうと、ラボのなかに3Ⅾプリンターやレーザーカッターがあり、使いたい方にお貸出ししたり、ワークショップを開いて子どもたちに参加してもらったりもしています。

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―スーパーを利用される主婦層や小さなお子さんはファブリケーションに触れる機会というのはなかなかないと思います。スーパーとはかけ離れた異質なもののようにも思えるのですが、なぜ導入に踏み切られたのでしょうか。

地方は都会と比べると便利ではないので、好きなことを見つけたりしても諦めてしまう部分がどうしてもあると思うんです。でも、この場を通して、子どもたちに「自分たちもできる」「自分で作れる」、そして「なければ作ればいいんじゃないか」というマインドになっていってほしいと考え、このスペースを作りました。
実際、レーザーカッターで何かを作っている様子を見ている子どもたちは「自分で作ることができる」と感じるようで、とても素敵な顔をしている。そういったシーンを増やしていきたいと考えているので、まずは夏休みの講座だとか、小さな小物をつくるワークショップなど、最初のきっかけづくりとなるような企画を打ち出しています。

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―『フレッシュラボ』を設けたことで、お店に影響はありましたか?

『フレッシュラボ』をオープンしてから1割くらいお客さんが増えています。また、私たちとお客様だけではない、さまざまな “つながり”ができているという実感があります。たとえば、SNSでのつながりだったり、農家さんとのつながりだったり、直線的じゃなくて“有機的”なつながりがだんだんとできている。このつながりは、きっと飛騨にとってもプラスになると感じています。

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フレッシュラボにて行われたワークショップの様子

―この場所をどのような場所にしていきたいか、その思いをお聞かせ下さい。

フレッシュラボが始まって2年が経ちますが、今まではこちらが提案していることに対して、お客様に反応していただくことが多かった。けれども、これからは“自分が教えたい”という人たちがもっと集ってきたりとか、そういうコミュニティのシーンを生み出せるようにしていきたいと思っています。また、私たちは“食”が一番のテーマなので、消費者と農家さんをつなげる役目だったり、ここからもの作ることを通してビジネスが生まれたり…。たとえば若いママが“自分でもできる”と思って起業できるとか、そういった機能が一部でも担えたらいいなとは思っています。子どもが自分のすきなことを気付くきっかけの場になるのはもちろんですが、大人も「自分でもできる」とか、ちょっとした気づきで変わると思うので、そういった部分が伝えられる場にしていきたいですね。
また、地方のスーパーはどこも僕たちと同じ課題を抱えていると思うので、フレッシュラボのモデルをひとつの形として、ほかの地域にも提案できればと考えています。

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(上)フレッシュラボ内観 (左下)テープクリエイター (右下)レーザーカッター

持続可能な地域を実現し、帰りたくなる故郷へ

―ほかにも、地域のための取り組みをされているそうですね。

そうですね。この地域を持続可能にするために、何ができるか考えています。たとえば、今は地域の健康寿命を延ばす取り組みを始めています。将来的には、健康寿命を延ばすことで余った社会保障や医療費を教育に投資して、子どもたちが自分のやりたいことを見つけて輝ける、勉強したいと思えるような環境をつくりたい。そうやって育ち、一度は外へ出ていったとしても、そこで「地元にこんな大人がいてさ」と熱く語り、自身もいずれは地元へ帰って地域の力になってくれるような循環を生み出したいなと考えています。

―今は会社として人材募集をかけていらっしゃいますか?

全体としては、全国区で人材募集をしています。もちろん地元が理想的ではありますが、多様な価値観が入った場にしたいです。応募してくる大学生は中部圏の子が多いですが、日本に限らず、全世界から来てもらえたらいいなと思っています。

―最後に、溝際さんにとって働くことの意味、そして今後実現したい目標があれば教えて下さい。

働くことは当たり前のことであり、また、他者のための自己実現だと思っています。具体的な目標としては、うちの会社の理念が「幸せ創造」なので、短期的にも長期的にも、社員、お客様、そして地域の方が、本当に幸せになることだけを目指している。それに尽きます。

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駿河屋魚一 代表取締役社長

溝際 清太郎(みぞぎわ せいたろう)さん

1985年岐阜県高山市生まれ。国際基督教大学を経て、2010年、家業の駿河屋魚一の 代表に就任。地域に根付いて、健康で安心の食のシーンを提供するという祖父からの意志を受け継ぎながら、スーパーマーケットの“場としての価値”を高めていこうと、2016年、「FRESH LAB.TAKAYAMA」を立ち上げる。大切にしている言葉は、「尽くして求めず、尽くされて忘れず」。

駿河屋魚一

1933年創業。飛騨・高山市内に5店舗のスーパーマーケットチェーンを展開するほか、2016年には宅配事業「駿河屋おうち便」、「FRESH LAB.TAKAYAMA」を開始。「幸せの創造」を企業理念とし、食をテーマとして地域に密着した事業を展開している。

住所
岐阜県高山市岡本町2-45-1(本社)
社員数
299人
資本金
48,000千円
事業内容
・生鮮食品
・一般食品
・デリカ食品
・日用雑貨
・ベーカリー
・衣料品
・ファーストフーズ
・酒
・宅配
会社HP
http://hida-surugaya.com/

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