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東北のシリコンバレーで、テクノロジーを武器に地域課題と向き合う(前編)
株式会社デザイニウム
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/07/02 (月) - 08:00

「Apple」「Google」など名だたる企業が本拠地を置くシリコンバレー。世界のイノベーションをリードしてきたIT産業の中心地だ。ノーベル賞学者でスタンフォード大学のウィリアム・ショックレー教授が同地域に半導体研究所を設立したことが、シリコンバレー誕生のきっかけだとされている。スタンフォード大学などの優秀な頭脳がシリコンバレーの企業の成長を支えており、強固な連携がイノベーションの原動力になっている。

日本にもそうした地域ぐるみでシリコンバレーを目指している地域がある。その一つが福島県会津若松市だ。
インターネット黎明期の1993年にコンピュータ専門の単科大学として会津大学が開学、そこから今も多くの起業家が生まれている。その生態系の中から2005年に設立されたのが株式会社デザイニウムだ。「最先端技術こそ地域が抱える課題解決に使うべきだ」と語る、代表取締役の前田諭志氏に、起業の背景や事業内容を聞く。また後編では、ディレクターの西本浩幸さんに、デザイニウムで叶えたい目標やビジョンについて語ってもらった。

東京に就職するのはもったいない!友人が創業メンバーに

―前田さんは香川県で育ち、会津大学に入学されたとのこと。進路はどのように選ばれたのでしょうか?

高校時代、パソコン関係の部活に入ったことをきっかけに、コンピュータに興味を持ったんです。ちょうどWindows95が出た時期で、もっとコンピュータを勉強したいという思いから大学を探し始めました。ただ、僕は理系があまり得意ではなかったですし、親は国公立じゃないとダメだと。そんなこんなで偶然見つけたのが会津大学でした。当時からコンピュータ理工学部という1つの学部しかなく、コンピュータ“しか”やらないというのがとても魅力的に見えたんです。コンピュータを学ぶならここが一番だと思い、会津大学を志望して無事入学できました。

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代表取締役 前田 諭志さん

―大学の環境はいかがでしたか?

24時間365日コンピュータが触れる環境で、ずっとコンピュータを触っていたいというような人が集まっていたのでとても刺激的でした。僕はプログラミングとCGやデザインのような表現にも興味があって、ただ周りを見るとプログラミングではちょっと敵わないなって。もう1つの表現のジャンルを追求している人はあまりいなかったので、じゃあそっちを目指そうかなと。それでサークルを立ち上げたり、インタラクティブな作品を作っていた先輩の仕事を手伝ったり、会津の白虎隊をモチーフにしたCGの映画製作を始めました。
大学の場所と機材が無料で使えたので、やりたい人だけ集めて泊まり込みで制作するとか、新しく入った学生にちょっとずつ制作方法を教えるという活動に没頭しました。特に映画製作はなかなか大変で、何度も作り直したりメンバーが入れ替わったりして、30分の作品を完成させるのに結局3年くらいかかっちゃいましたけどね(笑)。

―それでどうして起業することになったんでしょう?

まず好きなことを優先し過ぎた結果、大学の講義には出席しなくなっちゃいました。親との関係も気まずくなり、自分で生活費も稼がないといけなくなって、先輩が立ち上げたベンチャー企業で働かせてもらうようになったんですね。さらに、また別の仲のいい先輩が起業するという話があって手伝えることがあるかなと思っていたらその先輩が就職することになり…「やっぱり自分でやるしかないか」とCG映画制作のチームやサークルのメンバーに声をかけて、最終的に僕を含めて5人でデザイニウムを創業するに至りました。僕は最終的に大学を辞めましたが他のメンバーはきちんと卒業したので、みんなの親に心配かけられないと思って株式会社にすることにしました。

会津地域をフィールドに、地域の困りごとをITで解決する

―紆余曲折の末に起業の道を選ばれたわけですが、ユニークな社名がとても印象的です。どんな想いを込められたのですか?

「Design」と「ium」を掛け合わせた造語で、「Design」は「見やすく整える・使いやすくする」という狭義のデザインもありますが、意図としてはグランドデザインのような広い意味でのデザインを指していて、「意図する・構想する」という意味です。そして後ろの「ium」は「空間・場所」という意味。つまり、世の中に対して便利なサービスや解決方法を提案・提供する人が集まる場所でありたいという想いを込めた社名になっています。

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―地元から遠く離れた会津に残ったのはどうしてでしょう?

学生時代の活動を通して、バラバラに東京の企業に入らなくても今暮らしている地域に自分たちができることはあるんじゃないかっていう話はしていましたね。個人的な仕事の手伝いで1ヶ月ほど東京でホテル暮らしをしたけどピンと来なかった。あとは学生だった時に地元で商売をしている人や行政の人からよくしてもらったのも大きかったと思います。本当に残ってよかったと思っていますが、地域のハブになる大学がある、知見と技術を持つ先生・学生がいる、そして自分たちにこそ解決でき地域にる課題が地域にはいっぱいある。だからまずはここをフィールドにしようと思いました。

―創業からどのように事業を展開されてきたのでしょうか?

今思えば創業時はかなり大変でしたが、当時はあまり気にしてなかったですね。ITベンチャー企業にはありがちだと思いますが、最初は簡単なウェブサイトの制作から始めて、ガラケー用のコンテンツが人気が出たので待ち受けアニメを作ったり、一時はミクシィのようなSNS向けにソーシャルゲームを作ったりもしました。そして東京オフィスを開設し、スマートフォンが一気に普及してきてiPhoneやAndroid向けのアプリを作るようになりました。

それでも仕事の合間に地域SNSを立ち上げたり、震災があって売れないと言われた福島の日本酒を応援する企画をやったり、ちょっとずつでも地域に関わることは続けていました。ここ最近になって高性能で面白いセンサーが安く手に入るようになりインタラクティブなコンテンツを作ったり、センサーから集めたデータをクラウドに集約して分析するような、いわゆるIoTなシステムの設計・開発をするようになってきて、これまでやってきたことが1つになりつつあると感じています。

―現在はどのようなサービスに注力されていますか?

まず会津と東京ではニーズが異なりますので、それに合わせたビジネスを展開しています。東京は様々なセンサデバイスを用いて新しい表現やコミュニケーション方法をR&Dとして請け負うラボのような仕事をしています。それに対して会津では元々得意であったモバイルアプリ、その後ろで動くクラウドシステム、エッジのデバイスを組み合わせたいわゆるIoT領域の仕事が多いですね。分かりやすい事例でいうと、3年前くらいから除雪車の位置情報システムを手掛けています。会津の山間部は豪雪地帯で、限られた人員と予算で効率よく除雪業務を行う必要があり、除雪車の位置がリアルタイムにマップ上に表示されるシステムをつくりました。使い勝手としてこだわったのは当初はスマートフォンを使う案もありましたが、運転する方が高齢であったり、振動が大きく手袋も付けている環境での操作は難しいだろうと考え、シンプルなGPS トラッカーを置くだけで自動的にデータを集約できる仕組みを構築しました。最低限必要な機能に絞ってローコストかつスピーディに、2ヶ月程度の期間で開発・導入しています。さらに最近は福島県と実証実験を行いまして、車両の稼働時間を自動集計することで、県の担当者と除雪業者の間で行っていた確認作業における事務コストを劇的に削減できることが分かりました。

他にも、猪苗代町のふるさと納税の案内をLINEアプリ上で行うチャットボットを手掛けたり、郡山市にある日本大学工学部とベッドセンサや水流センサを用いて独居する高齢者の方を地域で見守るためのシステムを開発するなどしています。

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除雪車両の位置情報把握システム

地域だからこそ、最先端のテクノロジーが活かせる

―さらにバックグラウンドである会津大学とも連携され、ビジネス展開されているそうですね。

はい、やはり会津大学の存在は大きいです。学生や先生が集まる拠点として、技術や知見を含めそこのリソースを活用させていただきながら、大学に持ち込まれる地域課題や地域企業の課題を解決し、一緒に新しいビジネスを作る取り組みを行っています。例えばここ数年は地元のスーパーマーケットが持つPOS データを解析し、現場の方でも使えるアプリケーションとして実装して、業務改善を行うプロジェクトをやっています。地域には魅力的な企業がたくさんありますが、共通する課題はデータ活用です。それはまさに大学と大学発ベンチャー企業が連携して取り組むべき課題だと思います。しかし、いくらすごい技術や知見だとしても押し付けになったら使ってもらえませんので、現場の課題を本質的に理解するために対話や観察するところから始めます。「会津オープンイノベーション会議」と呼ばれるこうした取り組みは県内に広がりながら、具体的な成果を生み出しつつあります。

―地域におけるアナログからデジタルへの転換にまつわるニーズは高そうですよね。

先ほどのPOSデータなどは昔からある典型的なビッグデータですが、全国チェーンのスーパーやコンビニであれば当然のように活用しているものが、地域の企業は予算も潤沢ではないですし、分析ソフトだけあっても活用し切れていないのが現状だと思います。地方は特に労働人口の減少によって、これまでのビジネスを維持しにくくなる事態に直面していますが、それでも何とかしなきゃいけないというリアリティがある分、真剣です。だから、「予算がないけど何とか出来ないか?」という相談も多いですし、我々としてもそうした相談に対して、テクノロジーを駆使していかに費用対効果が高く顧客の課題解決に資する仕組みが作れるかということを考えてやっています。

―収益を一旦脇に置いて考えると、求められている分だけ仕事のやり甲斐も大きそうです。

そうですね。こちらとしても、「こういう新しい技術があるのでうまく使えば安く早くできますよ」と提案しますし、相手も真剣なので受け入れてもらいやすい環境にあると思います。余計なことまで心配している余裕はないのですぐやりましょうと即決してくれることも多いです。特に今のトレンドになっているAIやIoTの技術もクラウドサービスを組み合わせれば大きな予算や時間をかけなくても導入できるので、そうした最先端のテクノロジーこそ、地域で積極的に活用されるべきだと思います。そして地域の課題は日本全国、そして世界でも共通だと思うので、他の困っている地域でも横展開できるなどビジネスとしてのポテンシャルも感じています。

全国の地域が抱える悩みに寄り添っていきたい

―新しい技術でコストをかけずに課題解決に導く。まさにテクノロジーのなせる業ですよね。

地域にいる以上は「予算がないならできません」って言いたくないんです。そういう意味では、今は高性能で安価なクラウドサービスも充実していますし、多種多様なセンサがネットで手軽に手に入る、さらにそこから集めたデータを集約する端末として誰もがスマートフォンを持っています。スマホは10年前の超高性能なコンピュータが手のひらにあるようなものです。これらを組み合わせ、様々な地域課題を解決するサービスを作る、そんな仕事はクリエイティブでチャレンジングだし、とても楽しいですよ。

―では、最後にデザイニウムの今後の展望について教えてください。

道路の除雪のようなインフラ維持から、農業、小売業、ものづくりといった業種に至るまで地域の課題はあらゆるカテゴリにおいて存在します。それぞれのカテゴリで本質的な課題解決ができ、地域が持続的に発展・自立できるように、その支えとなるサービスを開発・進化させたいですね。基本的にはテクノロジーで業務の効率化など地域の事業者のビジネスを支援するという形を取りますが、会津は観光都市なので外貨を稼ぐための仕組みも必要ですし、地域には独自の文化や価値観もあるので地域の経済圏で独自に価値を流通させる仕組み等にも興味があります。そうしていずれは地域の枠を超えて展開していきたいです。そのためにも同じ課題意識を持ちテクノロジーの使い方を考えたい人と繋がっていきたいと思っています。

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株式会社デザイニウム 代表取締役

前田 諭志 (まえだ さとし)さん

1979年香川県生まれ。1998年大学入学を機に福島県会津若松市へ。2005年株式会社デザイニウム設立。ウェブ、スマートフォン、デバイス連携アプリ等の開発を事業としながら、創業時より地域に根ざしたサービスを手がける。地域のIT企業・団体・行政の有志や学生などが中心となって、地域の抱える様々な課題を解決する方法を考え、アプリケーションやウェブサービスとして開発・提供する「CODE for AIZU」のメンバーとしても活動。テクノロジーを駆使した地域課題解決型のサービス、持続可能なビジネスモデルを作るべく奔走している。

デザイニウムで叶えたい目標やビジョン

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