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場所を選ばない働き方を実践。世界に羽ばたいた福岡スタートアップ(後編)
株式会社ヌーラボ 代表取締役 橋本 正徳さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2019/02/20 (水) - 08:00

劇団、建築業、八百屋、広告制作…。自分探しの旅の末にたどり着いた派遣プログラマーを経て、福岡市で起業した橋本正徳さん。仲間と立ち上げた株式会社ヌーラボは、今やニューヨーク、シンガポール、アムステルダムなど海外にも拠点を持つグローバル企業へと成長している。後編では、「福岡で最も成功したスタートアップ」といわれるヌーラボの会社作りや、社員の働き方、今後のビジョンなどについてうかがった。

>>>こちらも合わせてご覧ください。
働き方を変えるソフトが大ヒット。世界に羽ばたいた福岡スタートアップ(前編)

1億円の投資を受けた狙い。海外進出への思い

―2017年にはベンチャーキャピタルから1億の融資を受けられたそうですね。その狙いは?

世界進出に向けたマーケティング費用と開発費用のために、融資を受けました。アメリカやイギリスなど、先進国のマーケットを視野に入れたときに、日本円で一億円準備をしてアメリカで満額使ったとしても、物価の差によって効果は3000万や5000万程度になってしまう。資本を厚く持つために、融資は不可欠でした。いろいろなベンチャーキャピタルとお話をさせていただいた上で、East Venturesさんに投資をお願いしました。

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―融資の効果はお感じになっていらっしゃいますか?

そうですね、ちょっと雰囲気が変わったと思います。調達する前は、事業でチャレンジするにしても、ちょっと躊躇してしまうところもあったんです。でも今はそれなりに会社も成長してきて、売り上げも伸びているし、外部資本も入ってきた。心の面でも余裕が生まれ、いい感じにはなっていますね。
投資して、利回りを生むのがビジネス・商売だと思うので、後ろ盾があるのと無いのとでは全然違うと思います。

―ニューヨーク、アムステルダム、シンガポールの3か所に拠点を構えていらっしゃいますが、その狙いは?

もちろん海外のユーザーさんを獲得していくためです。市場調査をして、すでにお客さんがいるところに対して手を打っています。

―自社製品をリリースされた当初から、グローバルな視野をお持ちだったのですか?

そもそもCacooは、世界に視点を向けていたからこそ生み出された製品なわけですが、起業する前、オープンソースをやっていた頃に、すでに海外の人とやりとりしていたというのもベースとしてあると思いますね。
もう1つのきっかけとしては、父が建築業を営む前に、石油タンカーの外航船員をやっていて、ときどき自宅に国際電話がかかってきたり、実際に電話口で対応することもあったんです。そんな環境にいたこともあり、昔から日本を出てみたいなぁという気持ちはありました。

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いいと思う方向へ、直感で動く

―起業する以前に、海外に馴染みはあったのですか?

全然行ったことがなかったです。Cacooを出す頃、2009年に初めて行ったのがニューヨークですね。僕はもう30歳を超えていました。僕は直感で行動してしまうところがあるので、Cacooのベータ版をリリースするときも、失敗を恐れるよりもまずは海外へ行ってみてから考えよう、というスタンスでした。

―人材も海外の方を積極的に雇用されているそうですね

ヌーラボの製品の最初のユーザーが僕たちだったので、製品を海外へ売っていくためには、社内に海外の人たちがいた方が絶対にいいと思いました。開発者として入ってもらって、一番のユーザーになってもらって。「こうした方がいい」っていうのを取り込んでいければいいと思っています。

パパ・ママ社員が増加中。子育て世代に人気の理由

―海外の方は、どういった理由で入社されてくるのですか?

いろんなタイプがいます。アニメが好きで日本に移住したくて、日本で暮らすために仕事を探したらヌーラボっていう会社を見つけた、という人もいれば、ヌーラボに入りたくて来たという人もいます。

―現在は何割くらい、外国人の方がいらっしゃるんですか?

グループ全体で3割ぐらいですね。子育て世代も多く、関係人口がどんどん増えています。

―そういった方が入ってきやすい環境があるのでしょうね

そうですね、新しいことにトライしている会社ですが、意外と体制的には重厚にできているので、安定感があるのでしょうね。なので、ヌーラボに入ってから結婚するとか、子どもが生まれるっていう社員も結構います。
特に福岡は子育てに参加している男性社員も多いので、感心します。自分自身は、会社の立ち上げ時期とも重なり、あまり子育てに関与できていないんです。自分の子どもを風呂に入れたのも10回もないかなって感じで。だから、できればヌーラボの社員には仕事と子育てを両立できる環境を整えてあげたい、という想いもありますね。

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―具体的にどういう制度を導入されているのでしょうか

まずはコアタイム無しの完全フレックス制度を導入しています。最近だとスーパーフレックスというのも行っています。有給休暇も、入社した時点で10日付与します。翌年からは20日。有給があると家族サービスにも使えますし、海外にも旅行がしやすくなります。あとは男女限らず、3歳くらいまでの子どもを持っている社員は、月に1日、有給休暇とは別に休暇を取得することができます。

―まだ先進的ではない組織だと、なかなか周りがそれを許容できなかったりしますよね

それはおそらく、ビジネスモデル、収益構造に紐づくところがあると思います。ヌーラボの場合は、サブスクリプションで、毎月定額をお支払いしていただくので、言ってしまえば休んでいても売り上げは上がる仕組みじゃないですか。もちろん休むことが先行して、創意工夫を止めていたらどんどんしぼんでいくんですけれども。収益構造的には、休みは取りやすいです。

アイデアや働きやすい環境は、トップダウンではつくれない

―ITを駆使できる御社だからこその工夫もありますか?

それもありますね。例えばTypetalkの中で、出勤退勤がカウントできるようにしています。席について出社というのではなく、今日はちょっと家庭の事情でリモートで働きたいという時に、家からTypetalkにログインして、出社して、ということもできます。

―まさに、場所を選ばない働き方ですね

僕らの仕事って、どれだけ良いアイデアを生むかっていうのがポイント。必要以上のストレスは無い方がいいと思うんです。こういう機能をこの日までに作らなくちゃいけないというような軽いストレスはあって当然だと思うんですが、家庭のことを心配したりだとか、集中できない要因があるなら、それは取り除いた方がいい。社員のためにというよりも、ヌーラボの製品が良くなるために必要なことだと思っています。

―自由度が高いぶん、個々が自主性を持って仕事をする必要もあると思います

そうですね、しんどい人もいると思います。自主性を持つって、けっこう才能なので。ただ、良い製品を作っていくとか、アイデアを出していくっていうのは、トップダウンで作れるものではないと思っているので、やっぱりそれぞれが自主性を持って取り組むことは大事ですね。

―社内制度も社員の方々から自発的に生まれたものがあるとか

けっこうありますね。僕自身が会社の制度を考えるということをあまりやらないので。

―そこはあえて社員に任せていらっしゃるということですか

いえ、任せているというよりも、僕にはできない。社内で一番自由にやっているのは僕なので、「こういう制度があった方がいい」ということに気付けないんですよ。なのでそこは、社員の意見を第一に尊重しています。

―新たな制度をつくる際、具体的にどういったフローで形になるんですか?

Typetalkで誰かが声を出して、賛同が多かったらそれを拾い上げて、管理部の方で検討します。労基的に大丈夫か、会計的に大丈夫か、とさまざまな角度から検討・調整をしたり、施策を行ったりします。

―例えばどういうものがありますか?

最近だと、リモートワークについては、労基などをいろいろ調べて、ルールを設計しました。社内の部活動もそうですね。部活動に対しても、部員1人につき月額1,000円まで支給しています。それも社員から「部活動はどうにかならないか」という声が上がって、制度の導入に至ったんです。

「らしさ」を発信することで、自社に合う人を増やす

―社員の平均年齢は?

37歳くらいです。いわゆる「新卒採用」をしていないので、中途入社の社員が多いですし、それなりに技術を持った人を採用していくと、おのずと年齢は高めにはなりますね。ベンチャー企業の中でも高い方だと思います。

―地方企業の採用はなかなか難しいと言われますが、貴社における採用の秘訣はありますか?

僕らは採用にはあまり苦労していません。秘訣は何かというと、採用費の使い方でしょうか。普通は月に何百万も払って求人メディアに広告を出しますよね。そういうことをせずに、例えばその予算をヌーラボが開催する技術イベントなどに投資して、社外からどんどん集まってきてもらう仕組みをつくっています。その方が社内の空気も良くなるし、外から足を運んでもらう機会も増える。そういうことはだいぶ前から取り組んでいますね。

―それはつまり、インターンシップみたいなものですか?

いえ、もっとフラットな、飲み会みたいなものですね。以前は東京で、カレーライスに興味がある人を集めてイベントを行いました。意外と話題になって、人が集まるんです。

―リアルな接点と、そうでないところをうまく使い分けていらっしゃるんですね

そうですね。地方だと“人が少ない”と言われるんですが、だからといって採用候補者数を増やせばいいというものでもない。ヌーラボに合う人を増やすという意味では、オンラインでもオフラインでも、会社の考え方や理念を表にどんどん出すようにはしています。カレーも最初は「ふざけてる!」と思った社員もいるみたいですけど(笑)、そういうのも含めて当社ですので。ヌーラボらしさを発信することは、常に意識しています。

―今は求職者が自ら情報を取りに行く時代ですもんね

ヌーラボに面接に来る方は、そういったこちらからの発信に目を通してくれているので、面接の時点で、既にだいたいのことは理解されているケースが多いですね。だから面談であまり質問がなくて、すごく時間をもてあますことがあります(笑)。

―なるほど。入社してからのギャップもなさそうですね

そうですね。ギャップは無いように、気をつけていますね。ヌーラボの人事も、“会社をあまりよく見せすぎない”という点を意識していると思います。働きやすさばかり取り沙汰されることもあるので、あえてキツイところも表に出すようにはしています。

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福岡パワーの秘密。それは自分の街が好きな人が多いこと

―福岡に全くゆかりのないIターンの方もいらっしゃいますか?

はい。います。

―そういう方には、移住のサポートも何かされていますか?

外国人に関しては、サポートしています。当たり前ですけれども、ビザが発行されるまでは家が借りられないので、ホテルを提供したり。でも国内の移住の方に関してはあまり行っていません。そこまで不自由はないはずなので。

―国内のIターンの方の入社理由というのは?

福岡に移住したかったという声はよく聞きます。福岡で検索したら、ヌーラボが出てきたと。

―今や移住先として、福岡は大人気ですよね

そうですね。街が発展するときの傾向として、「その街が好きな人が住んでいる」というケースが多いらしいんです。シリコンバレーもサンフランシスコも、「自分たちの街が好き」っていう話をよく聞くし。福岡もそういう人が多いですね。自分の街が好きな人がそこに住んでいると、街が発展していく。福岡はその傾向がかなり強いですね。

―地方でビジネスを展開される上で、見出された戦い方やコツみたいなものがあればぜひ教えてください

東京で目立ちにくくても、地方だと目立つし活躍できる、というランチェスター戦略が、地方では成り立つんです。東京で「福岡から来ました」って言ったら、「福岡?」ってまずは関心を持ってもらえるんです。あと、東京には意外と福岡民族みたいな人たちもいて。地元が福岡で、今は東京に住んでいる、みたいな。実はベンチャーキャピタルを紹介してくれた人も、元ライフハッカーの編集長も、バズフィードの編集長も、みんな福岡出身なんです。東京で活躍している福岡民族は大勢いるんです。そういう福岡民族たちは、同じ地元の人間がいたら応援するんですよ。福岡って聞いたら、それだけでシンパシーを感じて。そんな感じで、僕も福岡にゆかりのある人からいろいろ助けてもらったと思います。

海あり、山あり、英語あり。大満足の子育て環境

―橋本代表も東京からUターンされたご経験があるとのことですが、地方での暮らしの中で不便なことや苦労される点はありましたか?

福岡ぐらいになると、東京と変わらないですね。ちょっとはずれた田舎の方になると、コンビニがすぐにないとかでしょうか。美輪明宏さんがテレビで言ってたんですよ。年をとったら都心に住めばいい、若い人は田舎に住んでいた方がいいって。都市機能っていうのは、老人にはいいんです。ちょっと行けば何か買えるから。でも若いうちは、ちょっと不便でも、不便を楽しめるじゃないですか。不便を楽しみにして、地方にいくのもいいんじゃないかなと思いますね。

―子育てしていくうえでの福岡の環境はいかがですか?

すごくいいですね。そもそも東京で子育てができるとは思っていませんでした。運動場もアスファルトですし、転ぶと痛いじゃないですか。ちゃんと土でないと嫌で。家を一歩出たらすぐに交通量が多い環境もどうかなぁって思いますし。僕は地方は福岡しか知らないので、福岡はやっぱりいいですね。すぐに遊べる海も川もあるし、ちょっと行けば山もあるし。

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―意外と海外も近いですよね。東京に行くより、韓国のほうが近くて

そうですね。だから学校教育もけっこうグローバル感があります。僕が住んでいる学区は、英語教育にも力を入れているので、最近は地元の人より東京から移住してくる人の割合の方が多いですね。

垣根を超えたコラボレーションが、世界中の仕事を楽しくしていく

―最後に今後のビジョンを教えていただけますか?

今は海外のユーザー獲得というところに注力していて、新しいサービスはそんなに考えていないんです。どうやったら世界中にもっと広がるかというところに、今後2~3年は集中したいと思っています。そのためにはJBUGのような活動が重要。やっぱりファンになってもらって、楽しく仕事をしてもらうっていうのが、僕らがいちばんやっていきたいところなので、そこは大事にしていきたいと思います。

―会社として成し遂げていきたいことは?

仕事を楽しくしていくコラボレーティブなワークですね。異質な人たちが一緒の目標を持って、明るく楽しく働くっていうね。それは稀有なものなのだと思うし、それだけ価値の高いものなので、そういう活動ができる企業や組織を増やしていきたいし、僕らもそうでありたいなと思っています。

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株式会社ヌーラボ 代表取締役社長

橋本 正徳(はしもと まさのり)さん

1976年福岡県生まれ。福岡県立早良高等学校を卒業後上京し、飲食業に携わる。劇団主催や、クラブミュージックのライブ演奏なども経験。1998年、福岡に戻り、父親の家業である建築業に携わる。2001年、プログラマーに転身。2004年、福岡にて株式会社ヌーラボを設立し、代表取締役に就任。株式会社ヌーラボは、現在、チームのコラボレーションを促進する3つのWebサービス[Backlog][Cacoo][Typetalk]を開発・運営。また、福岡本社のほか東京、京都、シンガポール、ニューヨーク、アムステルダムに拠点を持ち、世界展開に向けてコツコツ積み上げ中。

株式会社ヌーラボ

2004年、福岡市でソフトウェア開発企業として創業。「チームのコラボレーションを促進する」をテーマにした自社製品を開発。プロジェクト管理ツール「Backlog」、ビジュアルコラボレーションツール「Cacoo」、ビジネスチャットツール「Typetalk」が次々と国内外でヒットしている。現在は本社のある福岡のほか、東京、京都、ニューヨーク、シンガポール、アムステルダムにもオフィスを構える。

住所
福岡市中央区大名1-8-6 HCC BLD(本社)
会社HP
https://nulab.com/ja/

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