【伊那食品工業】 毎年1200人の学生が集まる、48期連続増収増益を達成した年輪経営とは
GLOCAL MISSION Times 編集部
2021/09/15 (水) - 14:00

長野県伊那市のアルプスの山間。約3万坪の「かんてんぱぱガーデン」敷地内に伊那食品工業の本社はある。社員の幸せを第一に、木の年輪の如くゆっくりと着実な成長を目指す「年輪経営」を掲げ、48期連続の増収増益を達成してきた。「利益は幸せになるための手段であり、目的ではない」と断言する同社会長の塚越寛氏に、伊那食品工業の経営哲学について伺った。

伊那食品工業は、「かんてんぱぱ」ブランドで知られる寒天のトップメーカーだ。同社は、全社員の1割を研究開発にあて、常に寒天の新しい可能性を模索し続けている。急成長の難しい食品・原料メーカーにもかかわらず、増収増益を実現してきた背景には、21歳で社長代行となり、以来60年間に亘って寒天商品の開発製造に尽力してきた、会長の塚越氏の存在がある。

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さぞ、利益重視、効率優先の経営をしてきたのだろうと思いきや、その経営理念は真逆を行くものだった。

実は、塚越氏は17歳のとき肺結核にかかり、3年間の闘病生活を送っている。「生死と向き合う中で、“生きること”や“幸せ”の意味について考え続けました。そして、せっかく与えられた人生なのだから、すべての時間を幸せに過ごしたいと、思うようになったのです。」

会社で働く全社員に幸せを提供しようと、本気で考えるようになったのは、塚越氏にとって自然のことだった。そして、この哲学は社員の「幸せ」の実現を目指し、リストラなしで永続できる経営方針、事業戦略を礎にした「年輪経営」につながったのだという。

利益は社員のために使ったあとの「残りカス」

塚越氏は60年間、一度も「経費削減」を求めたかとがないという。オフィス内で快適に過ごすための電力や、清潔を保つための環境づくり、いい仕事をするための備品など、社員の幸せの実現のためには投資を惜しまない。

「利益とは、給与や福利厚生などに使った後の“残りカス”です。無理な利益追求は社員を疲弊させ、非効率を生み出します。」

驚くことに、塚越氏は社員に対して営業目標も課さず、売り上げが前年より下回らなければいいとだけ言っているという。正しい努力をすれば、必ずファンが増えて、会社は報われると信じ、その軸がぶれることはない。

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48期連続増収増益の基盤には、当然、練られた経営戦略と努力もある。品質や生産量にばらつきのあり、国内での安定的な入手が難しい寒天を確保するため、30代の塚越氏は、世界中を飛び回って工場を探し求めた。契約後は定期的に社員が現地を訪れ、技術指導を行うことで、関係性を深めていったのだという。

また、寒天の研究開発に力を注いできたことで、結果、食品のみならず、化粧品や医薬品などの市場開拓も可能にした。

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感謝の気持ちが福利厚生を充実させた

伊那食品工業の経営哲学は、ユニークな福利厚生にも表れている。社員旅行の費用や転勤先の住宅手当、がん保険料、高利息の社内預金制度など、さまざまな制度がある。また、全国の支店や営業所が建つのは、地震や火災の危険性が低い高級住宅街だ。

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これだけ福利厚生が充実しているのも、社員への感謝の想いがあるからだ。「本社が位置するかんてんパパガーデンは、年間35万人が集まる観光スポットで、地域の憩いの場。敷地内の清掃は社員が自主的に行っており、そんな一生懸命な社員への感謝の気持ちが福利厚生に反映されています。すると社員からも「感謝」が返ってきて、結果的に業績につながるといういいサイクルが生まれています。」

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“いい会社”が優秀な社員を育てる

伊那食品工業のウェブサイトを訪れると、「いい会社をつくりましょう」という社是が目に飛び込んでくるが、実は「良い会社」ではなく「いい会社」にしたところに意味があるのだという。

「“良い会社”は売り上げで測れますが、“いい会社”の価値は数値化できません。あの会社はいい会社だね、と周りに言ってもらえるような“いい会社”を追い求めています。」

都心から離れた長野県伊那市。この人材難の中でも、毎年1200人を超える学生から応募があるのも、「いい会社」づくりに猛進してきたからこそだ。

那食品工業が求める人材は、「忘己利他(己を忘れて他人を利する)」の精神を持った人だという。「他人を憂うことができるのが“優しい人”であり、それに秀でたのが“優秀”な人。優秀な社員たちと、感謝し合いながら、ともに成長できるのが、理想の会社のあり方なのです。」

闘病体験から生まれた「たった一度きりの人生。一日一日を大事に生きなければいけない」という塚越氏の信念と優しさが、那食品工業に伝播しているようだ。

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