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反対者ばかりの「ソレントレモン」がなぜ成功したのか 地域共益主義の可能性
木下 斉
2019/06/28 (金) - 08:00

前回はEU規制で生活転換が必要になったイタリア・ソレントの漁民たちによる協同組合設立とペスカツーリズモ事業について取り上げました。今回は同じソレントの山側に目を移し、農業における協同組合の挑戦を追います。

1. 10名から始まったソレントレモンの取り組み

訪ねたのは、Solagriという1994年設立の協同組合。日本では大手飲料メーカーとも取引をしたこともある地元を代表する協同組合の一つです。レモンといえば隣接するアマルフィが有名ですが、ソレントレモンもまた一つのブランドとなっています。

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綺麗に実るソレントレモン

1994年の設立当初は10戸の農家だけでスタートしたものの、2019年現在は205戸、実に地域全体の7割の農家が加盟する協同組合へと発展しています。メインの事業は地元の生産農家がレモンを持ち込み、それをそのまま出荷したり、皮と身を分け皮は皮としてレモンチェッロの材料にしたり、身はジュースにしてジャムなどに加工出荷する事業です。農薬仕様などは制限しているようで、農園管理まで口出しをするので面倒がられることも多々あるようですが、生産方法から厳しく管理していかないと自信をもったレモンは作れないというこだわりを持っています。そもそも理事長自身がレモン農家のご出身でもあり、まずは自分農園の農薬などを制限していき、徐所にまわりも変えていかれたそうです。

さらに組合とは別に2002年に非営利法人を設立し、現地生産、現地加工ということから「IGP」というEU認証を受けています。その認証を得るのに2年かかったとのことですが、この現地生産、現地加工の認証を受けたレモンだけが、「ソレントレモン」オリジナルのシールをつけることが可能で、ブランド価値の基礎となっているそうです。粗悪品と混在することなく、ブランド管理を徹底しているのです。

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ソレントレモンを出荷する協同組合Solagriの理事長と理事

1994年の組合設立当初は、加盟してくれた仲間も含めて、地元のレモンの品質を管理し、現地生産現地加工などを行うような事業が成立するはずがないと言われたそうです。しかしながら、25年の努力によって、地域加盟率が7割にまで成長。地元の多くの農家がここへ出荷に訪れます。

協同組合の事業モデルは明瞭で、まずは一人ずつ26ユーロの登録料を支払って加盟。できたレモンの出荷量と品質に応じて、加工販売で生じた利益を組合員に配当するというモデルになっています。全体利益の5%は再投資のためにプールするものの、利益の95%を皆で配当するということで、出荷すればするほどブランド価値が上がり、単価が上がれば上がるほど配当が大きくなっていく仕組み。付加価値を上げることにより、組合員のインセンティブも上がるわけです。取引先として、レモン製品の加工会社7社が大半を占めるものの、そういった加工もすべてソレント半島内でやらなければならないため、無作為に営業はしないとのこと。地域内での経済に立脚するという社会的メリットとともに、ブランド価値の源泉になっているという極めて合理的な構造です。

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自慢のソレントレモンを見せる理事長

加盟料の26ユーロというのは、協同組合の法律における最低出資額。多くの農業者に参画してもらい、よりよいものを広げていきたいという理事長の方針がここに表れています。

そのような社会的な志の源泉は、実は、山ではなく海にありました。

2. 見渡す限り泡とプラスチックの大海原

理事長はもともと貨物輸送船の船乗りだったとのことで、かつては日本の神戸港にも来たことがあると語っていました。そんな中、80年代に海を航行していたところ、見渡すかぎりの泡立った海と、その上に膨大なプラスチックのゴミが散乱している海域を、幾度となく目にしたことがあったそうです。「今でこそプラスチック規制が議論されているけれど、僕が海に出ていた頃から既に問題は発生していたのだから、今から皆で対応を考えても間に合うのか分からない」と真剣な顔つきで語っていました。

そんな状況をみて自然環境、そしてひたすらに利益拡大へ向かうグローバル経済に対する問題意識を持ち、衰退する地元ソレントのレモン農業をどうにかしたいと考え、船を降り、実家のレモン農家を継いだそうです。当時は「もうレモンは儲からない、駄目だ」と言われていた中、しっかりとしたレモンを作り商売をすれば生活はできると信じ、挑戦したとのこと。理事長は当時、ちょうど私と同じ30代だったと語っていました。

そのため農薬を可能な限り使わない栽培方法や“地元生産・地元加工”を貫き、過剰な利益よりも、より良いものを地元の皆で作りながら身の丈にあった生活を維持できるよう、適切な経済を作ることに強いこだわりを持っていました。

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レモン畑は接ぎ木の工夫で強く育つ工夫をしていた

自分だけでできることには限りがあるということから、94年に協同組合を設立。前述の通り周囲からは反対を受けながらも着実に成果を出し、今日のソレントレモンのブランドを確立しています。彼の持つ農園も案内してもらいましたが、素晴らしく綺麗な場所で、海から見たソレントも良かったのですが、綺麗な海と果実が生る木々が生い茂る畑もまた大変魅力的でした。畑の一角では、家畜を飼育する知人を招いて堆肥を作っていました。外国からの資本が入る観光地・ソレント市街地よりも、海や畑の方に豊かさを感じるのは、取り組む人たちのポリシー、プライドの現れからくるものではないかと思います。

3. 国家と企業の間を埋める、地域共益主義

ソレントペスカツーリズモ、ソレントレモンの取り組みを通じて最も感じるのは、国家と企業の間を埋める地域共益主義の存在です。国家としては漁業についても農業についても規制を行います。時にそれは漁民生活を変えることもありますが、一方でペスカツーリズモや地元生産・地元加工の認証などブランド価値を形成する規制であったりもします。一方で、企業からすれば成長する地域にグローバルで資金が移動し、その資金は常に利潤を拡大し続けることを望みます。これによってメリットもあればデメリットもあることは誰もが知る話です。

国家としての規制、企業としての資本移動という中で地域は常に翻弄されるようになっていますが、その中で安定的かつ持続的に地元経済を回していく上で、地域共益のレイヤーはとても重要です。地域の皆で資金を出し合い事業を自分たちで育てたり、決められた規制をむしろ追い風にしたり、企業が撤退するときには地域を支えたり、むしろ企業が積極的に進出し不動産価値などが上がるときには防衛敵な意味合いで資産を保有し続ける…といったやり方が、さまざまな上げ下げを緩和していく存在になるのではないでしょうか。

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農薬を極力使わずに生育したレモンの皮はレモンチェロやケーキの材料として地元加工業者に出荷され、さらに付加価値を増す

日本国内においても人口減少地域では今後さまざまな企業が撤退していくでしょう。既にさまざまな店が閉鎖し、日常生活の利便性がどんどん低下している地域も多数存在していますが、それはより効率的な地域に資本を移動せざるを得ない企業からすれば、仕方がないのです。このときに協同組合としての防衛的な役割りが発揮され、残存者利益で地域を支えていくこともできるかもしれません。

またさまざまな規制によって水産資源保護などが進展すれば、短期的には地方漁業は事業のあり方を変化させざるを得ない。このときに単に補償といったことだけでなく、地域で資金を出し合い別軸での事業を推進するという道も、協同組合を活用すれば可能になっていくでしょう。地元の宿泊施設も巻き込んで運営をすれば、関わる人達への適切な配当も可能になり、地域で協力者をさらに増加させることもできるかもしれません。国によって地域生産・地域加工といった認証のハードルが高い場合にも、ソレントレモンのように協同組合、NPOを駆使してクリアすることでブランドを作り上げることも可能かもしれません。

地域が単に対立し消耗して終わるのではなく、経済的に適切に連帯し、資本を持ち合い、互いで協力すること。それが共益拡大、しいてはそれぞれへの配当にも繋がるといった“利益共同のポイント”をつくることができる否か。地方における観光振興ばかりが先行する昨今、それだけではない、観光地域に古くから存在していた一次産業を変化させているソレントの海と山の協同組合に学ぶことは多分にあるのではないでしょうか。

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