ブランド化推進に挑む首都圏人材/ポスト平成の働き方
ブランド化推進に挑む首都圏人材/ポスト平成の働き方
日光水産株式会社 常務 齊藤 庄哉さん
月刊事業構想 編集部
2019/01/24 (木) - 08:00

水産会社で経営と事業承継を経験した齋藤庄哉氏は、遠洋カツオ一本釣りで国内シェアトップの日光水産(静岡県御前崎市)に転職。常務取締役として、カツオのブランド化や水産加工会社との業務連携推進に取り組む。

「釣るだけ」の会社から脱却を

静岡県御前崎市は、明治初期からカツオ漁の根拠地として発展してきた水産のまちだ。日光水産はこの地で創業約70年の歴史を持ち、現在「人材」の力を活用しながら水産品のブランド化を進めている。
 
日光水産はグループ船を含め「日光丸」という6隻のカツオ漁船を運航しており、遠洋カツオ一本釣りでシェアトップの実力を持つ。
 
一本釣り漁は、文字通りカツオを一本ずつ釣りあげる品質を重視した漁法だ。専用の釣り竿を使い、船員が一本ずつ釣っていくという伝統漁法であり、魚体が大きく損傷を受けることがない。また釣り上げてすぐに、生きたままを瞬間凍結させることが可能で、鮮度をそのままに保つことができる。

日光水産

日光水産は創業当時から一本釣りにこだわり、最新鋭の冷凍設備を備えた漁船を多数運航しているが、これまで「品質」という優位性をほとんど消費者に伝えてこなかったという。
「私達は70年間、カツオを釣ることばかり考えてきました。釣ったカツオは市場で競りにかけて、あとは仲卸さんにお任せしていました」と専務の薮田洋平氏。多くのスーパーでは、一本釣り漁であってもまき網漁であっても「カツオ」という同じ商品名で売られているというのが現状だ。
 
漁業を取り巻く環境が厳しさを増すなかで、日光水産が今後10年、20年と事業を続けていくためには、商品の価値を消費者にしっかりと伝えてブランドを築き、品質に見合った適正な利益を得ることが不可欠である。
 
そのため日光水産は近年、加工・直販・飲食の部門を強化しており、日光丸が釣り上げたカツオやマグロなどの海の幸を販売する直販店や、海鮮レストランの運営に取り組んできた。

外部人材を登用、戦略を推進

このようなブランド戦略をさらに強化していく上で、ネックになっていたのが「人材」であった。日光水産はここで思い切った手を打つ。社外から経営人材を招いたのだ。それが現常務の齊藤庄哉氏である。
 
齊藤氏は数多くの企業の経営再生に携わり、また漁業や水産流通にも精通する人物だ。もともと父親が築地市場で鮪の仲卸会社を経営していたが、21歳の時に父親が急逝、年商300億円、従業員300人の会社を引き継いだ。

バブル期の過重債務が経営を圧迫していた同社を立て直し、最終的にM&Aで売却。「自分の会社を売却した過去の経験を、同じような状況に苦しむ人のために活かしたい」(齊藤氏)と考え、事業再生コンサルタントとして東北の中小企業の支援などに携わる。 その後、日本人材機構において地方創生事業領域で活動。そこで縁ができたのが御前崎市の日光水産だった。2017年7月に日本人材機構から日光水産へ出向し、同社から転籍の要望を受けて、2018年1月から常務として正式に社員の一員になった。
 
齊藤氏の日光水産での主な役割は、カツオのブランド化や、焼津市の水産加工事業者との業務連携の推進だ。
「カツオの捕り方や価値を認識して頂くために『日光丸』というブランドを作り、中でも船上で血抜きをしている最高品質のものは『かつおの頂(いただき)』と名前を付け、ブランド化を進めているところです」(齊藤氏)
 
齊藤氏は「地域企業の一番の課題は『投資意欲』に欠けるということです」と指摘する。「ここで言う投資とは、新規事業への投資だけでなく、人材育成や社内教育も含みます。もっと言えば、各個人が目の前の仕事に力を注ぐということも投資意欲の一つです」
 
「新たな財を生み出すためには、資金や労力を何に投資するかという戦略を立て、利益目標も明確にしなければいけません。しかし、地域企業にはそういう実務を行える人間がいないため、素晴らしい経営資源があっても『現状維持』を選択してしまう。私の役割は、新しい戦略に踏み出すためのエビデンスを作ることです」
 
「現場への浸透を含め、まだまだ課題だらけなのは事実です。誰もが給料を上げてほしいと思っているし、そのためにはどう会社に返ってくるのかを誰かが示さないといけない。今はその仕事をする人がいなくて、誰がやるのかといえば自分です。自分で仕事を生み出すことが会社全体に利益につながります。伝統的な水産業の会社ですが、もっともっとクリエイティブな仕事が眠っていると思います。そのあたりは大きなやりがいだと感じています」

地域に「誇り」を取り戻す

日光水産のブランド戦略は、ただカツオを高く売ることが目的ではない。取り組みを通じて、漁師のモチベーションを高め、次代の育成に繋げ、しっかりとした品質の商品を持続的に消費者に届ける仕組みを作ることが狙いだ。
 
「日光丸という名前の付いたカツオを直接消費者に届けることで、『美味しかった』という声を漁師に伝えたい。そして家族にも、お父さんの仕事がいかに大切かを伝えたい」と専務の薮田氏は語る。
 
齊藤氏は、「モノづくり企業の地域に対する波及効果は大きい」と言い、これらの企業群を再生させることが地方創生のカギだと指摘する。日光水産のカツオで考えれば、カツオを捕る、加工する、運ぶ、商品をデザインするなど、様々な仕事を地域に生み出す。
 
そしてモノづくり企業の再生では、「誇りと強みを再認識する環境づくり」が肝心だと齊藤氏は述べる。「地域や働く人々、そこで作られている商品へのリスペクトが形成されて初めて、本物の誇りや強みが生まれるのです」
 
「日光丸」という強いブランドと誇りを生み出すために、薮田氏と齊藤氏の挑戦は続く。

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日光水産株式会社 常務 

齊藤 庄哉さん

創業者であった父の急逝により、家業の水産卸・加工会社を大学在学時に承継。若き二代目として経営に携わり、大手量販店・飲食チェーン向けの営業、商品開発に従事し、実務者として過重債務解消に向けた事業計画策定、金融機関交渉、M&A等を執行。同社売却後、金融機関・コンサルティング会社等より、中小企業十数社の資金調達、事業再生・承継、販路拡大などの業務を受託。日本人材機構で地方創生事業領域で活動後、現職。

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