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「今、地方のデザインが面白い」瀬戸内の若きデザイナーの挑戦
ツネイシLR株式会社 長友 浩之さん
イソナガ アキコ
2019/04/15 (月) - 08:00

東日本大震災、そして子どもの誕生をきっかけにこれからの人生と家族の暮らしを見つめ直し、2016年に妻の故郷・広島県へ移住・転職した長友浩之さん(36歳)。時代の変化を敏感にキャッチしながら、自身が「ここだ」と思うタイミングで転職、キャリアを積んできた。現在は“せとうちと共に生きる”を企業理念に掲げる「せとうちホールディングス」でグラフィックデザイナーとして、広島県尾道市の独創的なプロジェクトの企画・制作に携わる。「今、地方は面白い」と言いきる長友さんに、地方ならではの魅力や転職・移住成功のヒントを聞かせてもらった。

東日本大震災をきっかけに人生を見つめ直す

音楽が好きでバンドやDJをしていたという長友さん。デザインの専門学校を卒業後、音楽に関わる仕事がしたいと、インディーズのレコード会社にグラフィックデザイナーとして就職した。デザイナーは社内で長友さん一人。個人の裁量に任されることも多く、CDジャケットやライブのチラシ、ツアーのグッズのデザインなどを次々と担当させてもらった。

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音楽に夢中だった20代の頃の長友さん

「自由にやらせてもらって、楽しかったですね」

好きな分野で、デザインという仕事に携わり順調に実績を積みあげていった長友さんだが、2011年に1つ目の転機が訪れる。多くの人の人生を変えた東日本大震災だ。長友さんもまた、震災を契機に人生を見つめ直すようになったという。

「原発についてもいろいろ考えさせられましたし、東京で暮らすということに疑問を感じるようになりました。(震災を経験して)人生観が変わりましたね」

ただ、すぐに移住を考えたわけではなく、まずは自分の仕事に向き合うことから始めた。

「音楽のデザインをやるのはもちろん楽しかったのですが、将来を考えた時、それだけでは不安もあったので、デザインをしっかり学んで、デザイナーとしての幅を広げたい」と、東京都内の大手広告制作会社へ転職する。

今までほぼ一人で自由にデザインしていた長友さんにとって、アートディレクターを筆頭に、デザイナー、ライター等で案件ごとにチームを組んで、システマティックにデザインを作り上げていくスタイルはとても新鮮で、大いに勉強になったという。大手のクライアントとの仕事にやりがいも感じていた。

「とにかく忙しくて。毎日、終電で帰るか、徹夜するかのどちらかでした」と苦笑いしつつも、ただ、当時はそんな毎日も苦に感じることはなく、むしろ「広告制作会社とはこんなものだろう』と思っていたんだそう。

子どもの誕生をきっかけに “移住”へシフト

しかし2013年に結婚、そして2015年に子どもが生まれてから、その気持ちに変化が現れる。疲れて帰ると子どもはもう寝ている。声をかわす時間もなく、また次の朝、仕事に出かけていく生活。

「このまま、ずっと仕事に支配されているような生活を続けるのかな、それでいいのかなって考えるようになったんです。しかし仕事のことを考えると移住については一歩を踏み出せず、東京近郊での転職の可能性も探っていました」

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そんな長友さんが最終的に広島県への移住を決断した理由は何だったのか。

「妻と将来について話し合ううちに、子育ての環境を整えることが自分たちにとっても子どもにとっても一番大切だと思ったこと、さらに、その頃、地域デザインが注目され始め、地方でも素晴らしい活動をしているデザイナーの方々がいることや、面白いプロジェクトが増えつつあることを知り、自分もデザインを通して地域を活性化していきたいと思うようになりました」

時代の流れを敏感にキャッチした長友さんは、とりあえずインターネットで、奥さまの実家のある福山近郊でデザインの仕事を探し始めた。始めこそ、思うような仕事は見つからなかったものの、ある時一つの興味深い会社を見つける。それが現在の職場でもある「ディスカバーリンクせとうち」を運営する「せとうちホールディングス」だった。

希望の転職先との接点は意外なところに…

尾道エリアを中心に「ONOMICHI U2」や「デニムプロジェクト」など独創的なプロジェクトを展開する「ディスカバーリンクせとうち」のサイトを見て、「この企業で働きたい」と思ったが、見つけた当時は、求人もでていないし、何のツテもない企業にどうアプローチしていいものかもわからず、八方塞がりの状態だったという。

しかし、思いがけないところから長友さんの転職話が急展開を見せる。2015年7月、奥さまの実家での親戚の集まりに顔を出したときのこと。転職と移住を考えていること、「ディスカバーリンクせとうち」に興味があることを話すと、そこにいた親戚の中に偶然「ディスカバーリンクせとうち」にツテのある人がいることが分かったのだ。すぐに紹介してもらえることになり、その1ヶ月後には面接が受けられることになった。

実はこの時、「せとうちホールディングス」内にブランディングチームが立ち上がる最中で、即戦力で動けるデザイナーを探していたところだった。相思相愛とはまさにこのこと。話はトントン拍子に進み、すぐに内定をもらうことができた。

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「たまたまタイミングが良かったというか、縁があったというか、本当にラッキーでしたね」と長友さん

動くのがもう少し先でも後でも、この転職は実現しなかったのかもしれないと、当時を振り返る。

“地方発のデザイン”の面白さにハマる

せとうちホールディングスは当時2018年12月にオープンした宿泊もできる複合施設「LOG」、2019年3月10日にリニューアルオープンした「尾道駅舎」など、複数の大型プロジェクトを展開中だった。「今すぐにでも来てほしい」と言われ、2016年1月から晴れてせとうちホールディングスの社員となった。 

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尾道駅舎内にオープンしたホステルのデザインも担当した

せとうちホールディングスは、尾道、鞆の浦を拠点に瀬戸内海エリアの観光資源を活用し、地方に事業と雇用の創出を掲げている。今回、取材場所となった複合施設「LOG」のプロジェクトで長友さんは、ロゴ、サイン(看板)、オリジナル商品のパッケージ全般を任された。

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長友さんがパッケージデザインしたLOGオリジナル商品

「今は、街やエンドユーザーのためになっているのかを一層考えるようになりました。単純にグラフィックデザインだけではなくて、空間のコンセプト作りとか企画の段階からプロジェクトに参加できるので、仕事の幅が広がったし、面白いですね。東京で仕事をしていた頃に比べてデザインの方向性も変化したと思います。地方には魅力的なものがまだまだたくさんあります。それをどう見せて、多くの人に伝えられるか。そしてそれに興味を持って訪れてくれたり移住してくれる人が増えたら地域活性にもつながるし生産者やそこに住む方々の自信にも繋がる。それが地域でデザインすることの役割なのかなと思います。自分が住む街をもっと魅力的なものにしていきたいと思っています」

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また地方の仕事ならではの面白さ、出会いもあるという。

「建築家やデザイナーなどいろいろなクリエイターやアーティストとのコラボレーションができる楽しさがここにはあります。これは偶然ですが、東京時代から好きだったプロダクションチームと尾道で一緒に仕事ができる機会にも恵まれました。東京では接点のなかった人たちと、逆に地方で一緒に仕事ができるというのは、地方が注目を集めている今ならではなのかなとも思います」

最高の環境で、唯一の悩みは子どもの学校

仕事はいたって順調な長友さんだが、転職・移住後のワークライフバランス面ではどうなのだろうか?

「こちらでの仕事も忙しいです。ただ東京の頃と違うのは、メリハリがしっかりしているところ。東京では電車で1時間以上かけて通勤して、帰りはいつも終電。職場も“遅くまで残っているのが当たり前”という空気がなんとなくありました。でもこちらはそういうのが全くなくて、もちろん遅くなるときもあるけど、普段は7時か8時には帰って、子どもと一緒にご飯も食べて、お風呂に入って。そんな生活ができるようになりましたね」

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家の目の前は広がる海景色。子育てには最適の環境だ

いいことづくしのようだが、移住してみて東京とのギャップを感じることはないのだろうか?

「家は妻の親戚の空き家を借りているんですが、目の前が海で景色はいいし、環境としては最高です。ただ、尾道の中でも交通の便があまり良くない場所なので、車がないと生活できないというところはやっぱり大きく違うところですね。スーパーやコンビニ、病院なども車で10分くらいかかるので、生活するには車が必須。それと自分が住んでいるところはインターネットの光回線が来ていないので、早く通ってほしい。仕事のことを考えるとこれは切実ですね」。

広島県尾道市という場所は、子育て世代にとってはどんな場所なのだろう。

「尾道自体、面白い取り組みをしている地域なので、特に市街地周辺は若い移住者が多く、思った以上に子育て世代が多いという印象ですね。自分が住んでいる場所は、市街地から離れているので、子どもの数はそれほど多くはないんですが、子どもがのびのびと遊べる自然があって、環境としては最高だと思います」。

ただし悩みもあるという。

「小学校・中学校が1つしかないので、これ以上子どもの数が減ったらどうなるんだろうとか、高校が近くに無いので、それが今一番の悩みですね」

とにかく自分の気持ちを人に話してみることが大切

最後に転職・移住を考えている人へのメッセージを聞いてみた。

「『転職したいな、移住したいな』と思っているのに踏み切れないときは、気持ちはそちらにシフトしているのに何か足かせがあって、迷っている状態だと思うんですね。そんなときは、周りの人に自分の気持ちをとにかく話してみると自分の気持ちを整理できるし、思いがけないつながりが見つかって、面白いことが起きることもあると思います」 

まさに一歩踏み出すことで、いろいろな縁とチャンスをつかんできた長友さん。彼の未来は、さらなる未知の面白いことに溢れているに違いない。

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長友 浩之さん

1983年生まれ、埼玉県出身。グラフィックデザイナー。インディーズのレコード会社、広告制作会社を経て、2016年に妻の故郷である広島県尾道市に移住、転職した。独創的な地方創生プロジェクトを多く手がける「せとうちホールディングス」で、全国的に注目を集める複合施設「LOG」や「尾道駅舎」のグラフィックデザインを担当する。この4月1日のせとうちホールディングスとツネイシホールディングス合併に伴い、現在はツネイシLRに所属。目の前が海という恵まれた環境で、暮らしも充実。東京ではできなかった家族とのスローライフを満喫している。

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