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糸島への移住者が目論む「ローカル発のイノベーション」
デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社 池 尚大さん
(株)くらしさ 長谷川 浩史&梨紗
2019/04/22 (月) - 08:00

「福岡の西海岸」、「福岡の湘南」とも評される福岡県糸島市。福岡市の中心部まで電車や車で約30分という好立地ながら、海や山に囲まれた自然豊かな環境で、近年人気沸騰中のエリアだ。そんな地に古民家を購入し、リノベーションして、妻と子供2人と新たなくらしをかたち作っている人がいる。池尚大(しょうだい)さん(39歳)。デロイトトーマツベンチャーサポート(株)に勤め、「ローカル発のイノベーション」を目論む傍ら、週末は子供と海や山で過ごす。そんな理想的な暮らしにたどり着くまでの背景とは?

地方の方がやれることが大きくておもしろい

大阪出身、大学も関西で過ごした池さん。就職先の(株)リクルートでの配属先も関西で、6年間、関西圏のスクールを相手に営業に従事した。その後、東京の事業開発室に転勤するも、今もイントネーションに関西弁がにじみ出る池さんにとって、心の故郷は大阪だ。

「今も実家や一族は大阪ですからね。長男ですからいつかは戻らなくてはならないかもしれません。それまでの時間をどこでどんな風に暮らしていたいのか?そう考えたとき、居ても立っても居られなくなったんです」

池さんにとっての初めての価値観の転機は、リクルート内での異動で、九州北部エリアのマネージャーとして大分に赴任したときのこと。美味しい魚と、そこら中で湧き上がる湯気(温泉)、宮崎の方まで少し足を伸ばせばサーフィンで最高の波に乗れる環境…。それまで東京で、サーフィンのために駐車場付きの賃貸で暮らそうとすると15万円前後は下らなかったところが、金銭的にも半額近くで、クオリティの高い暮らしを営むことができることに衝撃を受けたんだとか。

「とにかく魚が美味い。それも安い。高いお金払って美味しいものを食べられるのは当たり前な気がしますが、大衆食堂や居酒屋で日常的にありつける食が、本当にクオリティが高かったんです。それも素材が良いからかと」

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以来、都心での暮らしよりも、地方での暮らしを望むようになっていったという池さん。社内での異動も率先して地方赴任を買ってでて、その後も新潟→北関東と渡り歩いた。同じように新潟の魚も美味かったと振り返る池さんは、「魚好きなのかもしれん」と笑う。

「仕事面でも、東京で1プレーヤーとしてやるよりも、まだまだ未開拓の地方の方が、自分のやれることが大きくておもろいと感じたんです」

当時、ホットペッパービューティーの事業に従事していた池さんは、地方の美容協会と組んで美容室のチームビルディングに取り組むなど、組織外から組織改革を促す媒介役として大きな役割を果たしていた。後にこの時の経験が大きく役立っていくことになる。

移住先を決めてから転職先を探す

プライベート面では、2009年に結婚し、ほどなくして第一子を授かった。地方転勤しながらの子育ては、想像以上に子供に負荷が掛かることを実感していった夫婦は、徐々に転勤のない仕事へのシフトを考えるようになっていく。妻の紗希子さんは、

「子供が小学校に上がるときまでには定住していたいなと。実家は山口県でここから車で2時間の距離。子育て中は何かと助けが必要なことも多いので、実家から近いのが安心かな、と。あと、色んな土地に住んでみて思ったのが、西の気候と風土が自分の肌には合う、ということ。それはとても確かなことで、母親が元気なことが家族にとってもいいことだと思ったんです」

と話す。

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こうして本格的に定住先を探しはじめた矢先、見つかったのが現在、住まう糸島の古民家物件。庭付き300平米の築80年の平屋だった。物件を見た瞬間に決めたという。それも仕事も何も決める前にというところからも、この夫婦のたくましさが垣間見える。

「私の実家にも庭があって、海と山が近かったんです。ここも同じように庭があって、海まで歩いて5分で山も近い。子供が自然のなかで伸び伸び成長していく姿が想像できたんです」

そう紗希子さんが話すように、物件を即決したのは妻。それまでの転勤生活で、奥さんに負荷を掛けていたことを自負していた夫の池さんも、何も異論はなかったという。

「大分時代に、九州の良さは実感してましたからね。福岡なら仕事も見つかるだろうとも思いましたし」

現にその言葉通り、移住に先駆けての転職活動では、複数社から内定を獲得する。その時に活きたのが、(株)リクルート時代に培った様々なスキルだった。

「自分の仕事を引いてみたとき、一見その業界、その地域でしか通用しないと思っていたことが、他の業界や他の地域でも生かせるということは大いにあると思うんです。それが僕の場合、地方での人材採用・育成・マネジメントスキルだったり、大阪・東京でのマーケティングや企画営業・販路開拓スキルでした」

結局、落ち着いた転職先は、九州の多くのスタートアップ企業を支援するデロイトトーマツベンチャーサポート(株)の福岡支社。単純に上司との馬が合ったのが決定打と話すが、自分のスキルを広く生かす機会と捉えたことは間違いない。収入も2割減までは覚悟していたというが、結果、下がることはなかった。

自分たちの理想の住まいをつくる

移住先も決まり、晴れて転職先も決まった後、夫婦が取り掛かったのは古民家のリノベーションだ。立地は抜群とはいえ築80年の古民家。そのまま住むには現代のライフスタイルには合わない箇所もあった。自分たちの理想の住まいをつくるため、ここでも池さんの仕事でのスキルが生かされることになる。

「予算、期日、自分たちのイメージなどを、優先順位を付けた企画書を作って、複数の施工会社に投げかけたんです。結構な無茶ぶりだったので、残った会社は2社でしたが、なんとか予算内に仕上げることができました」

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企画書のイメージのページ

平屋は間仕切りを取っ払えば、広々とした空間になる。さらに平屋は増改築もしやすく、リビング直結で寝室も増築。外壁はセルフリノベーションでペンキを塗り、予算を極力抑えた。その結果、都心でマンションを買うよりも圧倒的に安価に、自分たちの理想とする住まいを作り上げていったのだ。

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もともと広大な畑だった裏庭は、紗希子さんが手入れできる範囲に狭めて季節の野菜やハーブを育て楽しんでいる。もちろん自分たちが食べるためもあるが、どちらかというと近所の人からおすそ分けしてもらった時のお返しのためもあるという。

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「移住してきてからというもの、野菜は買う必要ないほど、近所の人が持ってきてくれるんです。この地域にはおすそ分け文化が根付いて、野菜のみならず、子供のおもちゃや本なども。家の前にぽんって置いていかれるんですよ(笑)」

こうした住民の懐の深さも、糸島が人気の理由の一つなのかもしれない。移住して約1年、すっかり地元民にも受け入れられているようだ。
裏庭の残り半分は、子どもの遊び場に。

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「太陽の光を浴びながら、土を触っているのが至福の時間です。あと都会でのマンション暮らしのときは、家事をしながら子どもを自由に遊ばせる場所がありませんでしたが、今は自然の中でゆったり子育てができているように思います」

ローカル発の「イノベーションエコシステム」を目指して

こうして自分たちの理想とする暮らしの形を一つずつ形づくっていった池夫妻。仕事面ではどうなのだろうか?

「地方から日本を変えたい」と意気込む池さんは現在、九州各地で“アクセラレーション”というスタートアップ企業の支援イベントを開催していっている。そこでつながった企業を横でマッチングしていくことで、イノベーションを起こせるのではないかと目論む。

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「例えば、宮崎のきゅうり農家のための収穫ロボットを、北九州の高専が開発する。一産業だけでは解決できないことを、補助金に頼ることなく、別産業とマッチングすることで解決していく仕組みを作りたいんです」

そう話す池さんの目標は、「地域資源」×「テクノロジー」を掛け合わせて『地域課題を解決する』こと。「日本全体、人口が減っているわけだから、各地で人を獲り合っても意味がない。とうの昔から陥っている地方の人材不足を、AIなどの技術開発で補っていくことの方がよっぽど大事」と話す。これを池さんは、ローカル発「イノベーションエコシステム」と呼ぶ。

「そんな仕組みを創り上げ、地方の方が進んでいる、地方の方がかっこいい、という状況を作り上げたいんです。そうすれば一度、就職で東京に出た人も、地方に戻ってくる基盤ができていくのではないかと」

また地方でバリューを発揮しようとするには、単品スキルというよりは、2~3個くらいのスキルを複合的に組み合わせて、どうすれば売上をあげれるか?を考えていく必要があると話す。そのために地方に出る前に一度、都心や別エリアで鍛えてきたことは決して無駄ではなかったようだ。

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一方の奥さんも、着々と自分の仕事を創る準備をしていた。セラピストの資格を持つ紗希子さんは、自宅の一部をサロンに仕立て、糸島のちいさなおうちサロン-アンドハナ-をこの春オープン。産前産後ケアにも力を入れており、小さな子ども連れでも通えるよう、託児環境を整えていきたいと話す。

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もともと個店の多い糸島にして、リノベーションした池邸が目立つものだから、実際に取材中にも、オープン前から既に何かのお店ではないかと足を止める人も多くいた。

こうして夫婦共に多忙を極めるが、週末は子供と近くの海で過ごしたり、小料理屋で美味しい魚料理を堪能している。片道30分で、福岡の都心部から帰宅すればこの環境だから、否が応でもオンとオフは切り替えられる。そんな30分の通勤時間ですら、最近は長く感じるようになってきたというから贅沢だ。

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「いずれは自分の故郷(大阪)に戻る運命なら、それまでの間は思いっきりこの環境を楽しみたいです」

過剰でない地方で、自分たちの理想とする暮らしをつくる。池夫妻のように、そんな行動に移せる人が増えれば、地方はもっと面白くなるかもしれない。また、そんな道を切り拓いている2人にこそ、楽しい人生が待っていることは間違いない。

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デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社

池 尚大さん

1979年年生まれ、大阪府大阪市出身。新卒で(株)リクルートに入社し、進学事業、事業開発室、人事部、ホットペッパービューティーと従事し退職。その実績を持って福岡県糸島市に2018年3月に移住。デロイトトーマツベンチャーサポート(株)の福岡支社に転職を果たし、ローカル発のイノベーションエコシステムの確立を目指す。プライベートではリノベーションした古民家で妻と2人の子と暮らし、理想とするライフスタイルを追求しづけている。

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