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訪れる人も住んでいる人も幸せになる観光地をつくる
せとうち観光推進機構・村橋克則氏
島崎 加奈子
2018/07/09 (月) - 08:00

2017年の訪日外国人観光客は2800万人超。この数は10年前に比べて約4倍に増加し、2020年には4000万人を目指しています。村橋克則(かつのり)さんは2000年にリクルートが運営する宿泊予約サイト「じゃらん」を立ち上げ、現在は2016年に設立された「せとうち観光推進機構」の事業本部長として、地域の魅力を国内外に発信して地域の活性化を図っています。地域と観光についての取り組みや課題について伺いました。

ネット黎明期に立ち上げた宿泊予約サイ卜

旅行に行く際に、どのように、どこへ行き、何を観て、どこに泊まり、何を食べるのか…。今やスマートフォンやパソコンを使い、ネットで簡単に調べられる時代です。その先駆けとして、村橋さんはまだまだ日本ではインターネット黎明期であった2000年に、旅館やホテルの宿泊予約サイト「じゃらんnet 」を立ち上げました。

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「会社から『このさき10年食べていける次の商品をつくれ』といわれて、じゃらんnetを企画したんです。でも社内では情報誌の広告枠の売上が絶好調の時代で、『紙の広告料が減るじゃないか』と猛反対を受けました。それでも『この先、紙は先細るからいま変わらなきゃダメだ』となんとか抑えて、説得して。でも東京の宿ならまだしも、お客さまである宿や旅館は基本的には超ローカルな場所にあることが多くて、ネット掲載の契約をしたのにパソコンをもっていないところもありました。その時には一緒にパソコンを買いに行って、 プロバイダー契約をして、操作を教えて……アナログな時代でしたね(笑)」

村橋さんは旅行関連の部署で、広告の制作、営業職、マネージャーと職種は動き、時には業績不振の立て直しや、新創刊の雑誌をつくるために全国を転勤することも。「好きなことをやるよりも、やるべきことを好きになるタイプ」と自身を分析する村橋さんは、どんな環境でも自身のベストを尽くし、結果を残し続けていたそうです。

もどかしさを感じる地方のコンサルティング

2007年に20年間勤めてきたリクルートを退社した後は起業し、旅館やホテル、地方自治体へのコンサルティング事業などを始めました。地域商品や観光のマーケティングを中心に「誰に何をどうやって伝えるのか」という基本を、役場の公務員、旅館やホテルのオーナー、農業や漁業に従事している人たちなどに伝えて、地域に根付かせていく。村橋さんの知識を吸収して、地域の発信力が随分と上がったケースも多々あったそうです。

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地域のプロモーションの一環で作成した観光パンフレット

しかし、いままでの知識や経験を活かしてサポートしていけることは喜ばしい一方で、もどかしさを感じることも少なくなかったといいます。

「私が地域にコンサルに入る時というのは、国からその地域に予算が下りたからという場合がほとんどで、私がコンサルに入っている時には瞬間風速的に地域に活気が出て良くなるのですが、その後に予算が下りなくなると、私の仕事もそこで終わりで、元の木阿弥。前の状況に戻ってしまうこともありました」

東京から地方に足を運んで親身にコンサルに入るとはいえ、実際にその地域を創っていくのは地元の人たち。せっかく身につけたプロモーションの手法も知識も充分に活かしきれない状況でコンサルの契約が終了し、自走できる状態になるまでその地域に携われないことにやるせなさを感じていました。

そんななかやってきた、「せとうち観光推進機構」の事業本部長の依頼。就任条件の一つは、広島に住むことでした。いままでのコンサル事業とは異なり、その土地にしっかりと腰を据えて「ガッツリと地域に入れるなら」と面白さを感じ、2015年11月、単身広島へ移住しました。

何度も訪れたい地域・瀬戸内を目指して

瀬戸内の親光と聞くと何をイメージするでしょうか? 島がポツポツと浮かぶ風景、しまなみ街道のサイクリング、広島県宮島の厳島神社、香川県のうどん、山口県は下関のふぐ……そもそも瀬戸内とは何県が面したエリアを言うのかもいまいちよくわからないという方も少なくないと思います。せとうち観光推進機構は、県単体ではなく、瀬戸内を囲む7県(兵庫県・岡山県・広島県・山口県・徳島県・香川県・愛媛県)が合同で地域の観光ブランディングをするという、全国的に見ても珍しい組織。国内外へ向けて、2度3度と訪れたい地域となるべく、2016年3月に設置されました。

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村橋さんが赴任した当初の目標は、2020年までに外国人宿泊を当時の3倍にして下さいといわれていたそう。当時は120万人泊だったので360万人泊。ですが、すでに2017年には340万人泊まで数字が伸び、600万人泊に目標が変更されました。主にどんな活動をしているのでしょうか?

「私たちは欧米各国で、その国の市場に精通したマーケティングエージェンシーと提携をして、そこに観光情報を送ってそれぞれの国のメディアや旅行会社に発信してもらっています。国や地域によって市場の構造も消費者の旅行行動も違うので、一律のやり方では難しいと判断したからです。また、主な発信手段として私たちはデジタルに舵をきっています。訪日客の情報収集がデジタルに移行しているにも関わらず、日本各地の観光プロモーションはまだまだ紙の比率が9割以上。そこに先駆けて手を打ちました」

まだまだ新設の組織で使える予算も少ないといいますが、状況と時代に合わせて、選択と集中でお金を使う村橋さんの判断は、じゃらんnetを押し切って進めたときのそれと似ているような気がします。

「海外向けのプロモーションに加えて、私たちの役割はもう一つあって、地元の企業が自ら、瀬戸内に訪れた人を楽しませるための商品やサービスづくりができるようなサポート。この2つの仕組みを回して地域をマネジメントしています」

大切なことは、地元の人自らが考えてアイディアを出し、官民共同で地域を盛り上げていくこと。その舵取りをする組織は「せとうちDMO」と呼ばれ、主に地域全体のマーケティングを担う一般社団法人せとうち観光推進機構と、各企業の経営支援・資金支援を担う株式会社瀬戸内ブランドコーポレーションの2法人で構成されています。

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せとうちDMOの仕組み。ヒト・モノ・カネの循環を促し、地域の魅力を自ら生み出し市場を創造する

「観光の仕事は、プロモーションをやって一過性で人を集めるだけでは意味がなくて、地域の皆さんが自分たちで商品をつくったり、おもてなしをしたりして主体になる。当然観光で交流人口が増えたときに、地域に経済的なメリットがないと続かないので、売るものがないとだめ。だから商品やサービスをつくることが大切です。その後押しをするために、せとうちDMOではメンバーズ制度を設けていて、企業や事業者が商品・サービスを生み出しやすい環境を整備しています。月会費費3000~5000円で集客や商品開発に役立つ様々なサービスを提供しています。これも無料だと単なる“付き合い”になってしまうので、本気で取り組んでもらうためにも年会費を設けています。せっかく払ったのだからDMOの仕組みを使い倒してやろうと思って欲しいんです」

こうして地域の人を巻き込んでいく、せとうちDMOの仕組みが出来上がっています。自分たちで考えてマーケティングを身につけてもらうことで、自律的・永続的に地域を発展させていく人を育成していけるように。現在は900社が登録しているそうですが、目標は1万社だといいます。

住んでいる人が幸せだと思える観光地づくり

観光で人が来るのはいいものの、その都度問題になるのが、観光客のモラルなど。特に文化の異なる外国人との間には、住民とのトラブルが絶えません。村橋さんは観光地化が進むなかでどうしてもぶつかるこの壁を乗り越え、住民の人に幸せになってもらえる観光を目指しています。

「私たち組織の最終目標は、住民幸福度にしています。約25年間観光の仕事をしていますが、いままで観光は必ずしも地域では歓迎されてこなかったことなんです。実際に起っていますが、外国人観光客が来ると自分たちの生活が脅かされる。電車が混んで、ゴミが増えて、騒音問題、治安が悪化するという問題があって。これからは住んでいる人も観光客も楽しんで満足できる地域づくりをしていかないと、時代遅れの観光施策になってしまうと思います」

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島国である日本では、昔から外国人に対しての順応性が低いといわれていますが、 ただ経済的に潤うだけでは、 人の幸せは叶えられないようです。この課題をクリアして、住んでいる人も幸せになってもらうために、どんなことが必要になってくるのでしょうか。

「たとえば町のシンボルになっている歴史的な建造物。維持するためにかなりの税金が投入されていて、取り壊しも検討せざるを得ないというようなケース。観光資源として活かすことで、地域に経済効果をもたらすなら残そうとなる。そのことをちゃんと住民に伝えて、一緒に観光をつくり上げていく努力をした方がいい」

観光がその土地にもたらすメリットは、経済的なものばかりではないといいます。徳島県のある観光地の村では、外国人に対応するためにお年寄りが英会話を習い、学ぶ楽しみから生きがいになっているという地域もあるそう。

「まだまだこれからですが、地域の皆さんが喜んでお迎えをして、経済効果も出て、雇用も増えて、最終的には地域に人が戻ってくる。そういった永続的な循環を瀬戸内で創り出したいと思っています」と村橋さん。

2020年の東京オリンピックはすぐそこまで来ています。どうしても新しいことや、外からの来客に消極的な日本人ですが、自分たちの幸せのために一歩踏み出せる地域を日本中で創っていけたら…瀬戸内の事例がこれからの観光に対して前向きに向き合えるきっかけになるのかもしれません。

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村橋克則さん

1987年株式会社リクルートに入社し、観光関連の部署に従事。2000年じゃらんネットを立ち上げる。2005年リクルートコミュニケーションズ執行役員に。2007年に独立し株式会社オブリージュを設立(代表取締役就任)。観光・地域のコンサルティング事業を開始。2016年3月せとうち観光推進機構の事業本部長に就任し、瀬戸内7県の観光ブランディングやプロモーションを行っている。

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