「複業モデル地域」構想のきっかけ/「複業モデル地区」への挑戦・第1回
一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家 石川 貴志
石川 貴志
2017/09/01 (金) - 12:00

私は、出版流通企業の経営企画部門に勤める一方で、2013年から社団法人Work Design Lab(ワークデザインラボ)の代表として働き方をテーマにしたイベントを開催したり、公益財団法人ひろしま産業振興機構の創業サポーターを務めるなど、様々な社外活動を行っています。兼業・副業という形で業を起こした結果、人々の働き方をリデザインする活動が私のライフワークとなりました。最近では、政府が「働き方改革」を推進しており、兼業・副業が社会的に注目される状況にあります。
私の出身地でもある広島県福山市では、商業機能の低下等により空洞化が進み、まちの魅力やにぎわいが低下したと言われる福山駅前の再生が計画されています。再生に向けた方向性や取り組むべき課題等を検討する「福山駅前再生協議会」が2017年3月に発足し、私も委員として名を連ねています。

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これまでの活動を通じて、また「福山駅前再生協議会」での議論も参考にしながら、新しいワークスタイルやライフスタイルを実現する環境(「複業モデル地区」)を産官学連携で創りたいと考えています。
本連載では、私のこれまでの取り組みや社会背景を踏まえた「複業モデル地区」構想をご紹介し、兼業・副業を行う人材が地域の活性化を推進し、それが地方創生につながるという見解について述べたいと思います。

社会貢献への意欲が「働き方と組織の未来」を考える活動へ発展

初めに、今の活動を行うようになった経緯をお話したいと思います。私が社会的な活動を開始したのは、第一子の誕生がきっかけです。親になったことで価値観が変化し、社会の様々な課題への関心が高まりました。地域や社会に貢献したいという想いが強まり、本業の傍ら、ボランティアや地域活動を開始しました。
その後、東日本大震災を境に、働き方を中心とした個人と組織の関係性を考えるようになりました。震災後、知人が被災地の復興支援に行っていたのですが、頻繁に休暇を取ることで会社を辞めるかもしれないという話を聞きました。私の前職では副業が禁止されていなかったこともあり、仕事と他の活動が両立できる環境が整備されないものか、と考えたのです。「会社にとっては、ルールが整備されていないグレーゾーンであっても社会的には良い活動をしている人」を応援したいという想いから、そういった「志のあるルール違反者」をゲストとしてお呼びし、「働き方と組織の未来」を考えるイベントを開催することから活動が開始しました。そして、同じ問題意識を持つ仲間と一緒に定期的な活動へと変化し、個人のチャレンジ、組織の変革を応援する団体として立ち上げたのがWork Design Labです。“個人と組織のよりよい関係性を創造すること”を目的に活動を行ってきました。やがて、大きなコミュニティとなり、2015年に社団法人化しました。

Work Design Labをはじめとする活動を積極的に展開

Work Design Labは、同じ想いを持つ社会人メンバーによるボランタリーな企画・運営で成り立っています。「働き方と組織の未来」ダイアローグセッションをはじめ、イベント・勉強会等を様々に開催しています。「働き方と組織の未来」ダイアローグセッションでは、新しい働き方を実践・推進している企業側と個人側のゲストをお招きし、双方の対話の場を設けています。2013年から現在までに22回開催しているのですが、これまでに延べ1500名以上の方に参加いただきました。最近の傾向としては、人事や新規事業部門、経営層の方に多く参加いただいています。
広島県、横浜市や福島県と連携してイベントを開催したり、企業の社内イベントやカンファレンスに講師として呼ばれることも増えてきました。こうしたことから、行政も企業もこのようなテーマに関心を持つ現状を肌身で感じています。

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また、その他の活動の一つとして、広島県との関わりがあります。広島県地域力創造課とつながりができ、当初は広島県への移住・定住、Uターン・Iターンを増やすための東京側の手伝いをしていました。しかしながら、広島県で働くというイメージがないと移住に結びつかないため、簡単なことではありません。「仕事がないと、移住は成立しないため、移住を単体で考えるのは難しいでしょう」という会話を県の担当者とするようになりました。そこから公益財団法人ひろしま産業振興機構と連携することになり、私自身も創業サポーターという役目をいただき、広島県で起業する方の東京側のサポートを行っています。

「兼業・副業」に対する個人や企業の意識の変化

こうした活動を通じて、様々な業界・職種の方と多く知り合う機会が増え、同じような仲間が必然的に周囲に集まるようになってきました。特に私と同世代は、何らか地域や社会に貢献したいという想いを持つ傾向があるように思います。しかし、実際は企業で精力的に働いているため、ビジネスマインドとパブリックマインドの両方を持ちながら、自身のワークスタイルやライフスタイルを模索している状況にあると感じています。
一方、兼業・副業という形で自ら業を起こし、積極的に取り組んでいる人たちも増えてきました。そんな人たちが、最近、ライフスタイルに合わせて意志を持って住む場所を変え始めています。都心から神奈川県の鎌倉や逗子、遠くは長野県の八ケ岳といった場所へ移住し、二拠点生活を始めました。ワークスタイルが自由になると、人生という時間の再配分が可能となり、ライフスタイルも変化するという事例の一つではないかと考えています。
企業側に目を向けると、最近、人事担当の方からの問い合わせが増えている感覚があります。副業と言った場合、これまでは会社に隠れてこっそり行うという悪いイメージがありました。しかしながら、社会の変化に伴い、個人の価値観も大きく変化してきた今、企業側としてもそんな人材を容認せざるを得ない状況になってきたのではないでしょうか。また、兼業・副業を行うような想いのある個人こそ、想いをもって組織の内と外を繋ぐハブになる可能性があります。従って、そんな人材をどのようにエンゲージメントしていくかという観点で、企業としても準備を始めているように感じています。

「兼業・副業」を後押しする政府の動きが本格化

兼業・副業にまつわる政府の動きとしては、2016年10月に内閣官房に「働き方改革実現推進室」が設置されました。11月には「副業兼業×地方創生」をテーマにした内閣府主催のシンポジウム「『地方創生×プロ人材×兼業』―新たな働き方が地方を変える―」が開催されています。私はパネルディスカッションのパネリストとして登壇したのですが、当日は企業の人事部門の方が多く参加されたと聞いています。
また、経済産業省(中小企業庁)では、2016年11月に「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」を設置し、2017年3月には「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言」を公表しました。さらに、企業が就業規則を作成する際に参考とする厚生労働省の「モデル就業規則」では、これまで原則禁止となっていた副業・兼業を容認する様式に改めるという方針が打ち出されています。

「想いを持って業を起こす人材(主体的市民)」が地域を変える

このように、兼業・副業の普及拡大に向けた政府の動きが本格化しており、今後、想いを持って業を起こす人材はますます増えていくのではないかと考えています。想いを持って業を起こす人材を「主体的市民」と呼びたいと思うのですが、そんな「主体的市民」を増やすことが地域の活性化につながるのではないか。これまでの経験を通して、どこかでそれを実証したいと考えていました。
そんな中、「福山駅前再生協議会」と関わりを持たせていただいたことで、地方創生の新しい雛型(「複業モデル地区」)を福山市で実現できたらと考えるに至りました。
新しいワークスタイルやライフスタイルを実現できるまちには「主体的市民」が多く集まり、多様な人材リソースを地域全体で活用できるのではないか。そして、人材のシェアリングエコノミーが形成されると、労働力人口減少などの課題解決ができるとともに、地域の活性化がなされるのではないか。このように考えています。
では、「主体的市民」をどう増やせばよいのか。次回は、産官学連携によるまちづくり「複業モデル地区」構想について、より具体的に話をしたいと思います。

〈第2回〉「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第4回〉大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦

〈第5回〉公の場での認知、地域連携を模索

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