産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル/「複業モデル地区」への挑戦・第2回
一般社団法人Work Design Lab代表理事/複業家 石川 貴志
石川 貴志
2017/09/15 (金) - 08:00

前回の記事では、私が社外活動を行うようになった経緯とともに、兼業・副業に対する個人や企業の意識の変化と、それを後押しする政府の動きが本格化している状況をご紹介しました。そして、このような社会背景を受け、今後、兼業・副業を行うような、想いを持って業を起こす人材が増えていくということ。そんな人材を「主体的市民」と呼称し、「主体的市民」を増やすことが地域の活性化につながるのではないか、という見解の一端を述べました。 今回は、広島県福山市の新しいまちづくりの動きと、「主体的市民」を増やすための方策、そして、産官学連携による地方創生の新しい雛型(「複業モデル地区」)構想について、具体的に話をしたいと思います。

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第4回〉大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦

〈第5回〉公の場での認知、地域連携を模索

新しいまちづくりが胎動する広島県福山市

福山市で「複業モデル地区」を実現したいと考えるに至ったのは、元々「FutureCenterFUKUYAMA」などの地域活動を通じて福山市の未来を考える機会があったからであり、最近では福山市が旗振り役になった新しいまちづくりが動き始めていることがあります。
2016年に市制施行100周年を迎えた福山市では、2017年度から「第五次福山市総合計画」が開始しました。未来づくりの目標に「活力と魅力に満ちた輝くまち」を掲げ、多くの人をひきつける「中国・四国地方の拠点都市」として発展していくための施策を打ち出そうとしています。2017年2月には、幅広い世代の100人の市民が集い、福山の未来づくりを共に考える場「ふくやま未来づくり100人委員会」が設置されました。市民が未来図を描き、その実現に向けてオール福山で取り組む方針のもと、活動が展開されています。

サムネイル


そして、2017年3月に、産学金官民の構成による「福山駅前再生協議会」が発足しました。目指すべきまちの姿として作成された「(仮称)福山駅前再生ビジョン(たたき台)」には、市民のワークスタイルやライフスタイルに関連するテーマが多く含まれました。今後、社会の変化や個人の多様化に即した、新しいワークスタイルやライフスタイルを実現できるまちづくりが推進されていくものと思います。

「主体的市民」を発掘する・呼び込む・育成する

これまでの活動を踏まえ、新しいまちづくりには「主体的市民」の存在が不可欠であり、「主体的市民」を増やすための方策が必要ではないかという持論があります。その方法には、3つのアプローチがあると考えています。まず、「人材を発掘する」。既に活動している方を見つけて、エンパワーメントする方法です。これはどの地域においてもやるべきことであり、実際に動いている地域プロジェクトは多く存在しています。福山市の場合は、「ふくやま未来づくり100人委員会」が該当すると思います。
次に、「人材を呼び込む」。「主体的市民」をその地域に呼び込むという方法です。そして、「人材を育成する」。想いを持つ個人に対してきっかけやノウハウを提供する。大学や市民大学構想などを通じて育成する方法です。取り組みが盛んな地域では、実際に行われているところと思います。
今回、私が実証したいと考えているのは「人材を呼び込む」ことです。言い換えれば、全国の市区町村の中から選ばれる地域になるということであるため、簡単ではありません。「主体的市民」にとって魅力的な環境を整備するとともに、その魅力を発信していくことが求められます。「主体的市民」が暮らしやすく、チャレンジしやすい社会を構築する必要があり、そのためには、行政・大学・企業における変革と連携が不可欠ではないかと考えています。では、どうすべきか。次から、私が考える行政・大学・企業が取り組むべき課題を述べたいと思います。

行政:オープンデータの整備とともに、企業・大学の変革を支援

行政で取り組むべきは、まず「オープンデータ整備の推進」が挙げられます。公共データが利活用できる環境が整備されてこそ、社会活動や起業といった業を起こしやすくなります。また、「地域の企業・大学の変革をサポート」する体制も不可欠です。現状、副業・兼業の人事制度やマネジメントに対する汎用的な雛型がないため、人事制度や運用等の情報収集・発信を行う必要があります。一方で、創業・起業を支援する施策を講じることも肝要です。
そして、「公務員の副業の検討」も視野に入れるべきではないかと考えています。2017年4月から導入された神戸市職員の事例のように、公務で培ったスキルを地域活動に、外部での経験は市民サービスの向上に活かせるのではないかと思います。

企業:複業ワーカーを受け入れ、複業というワークスタイルを推進

副業・兼業を経営者の視点から見た場合、人件費を抑えながら外部のリソースを取り込めるというメリットがあります。このため企業では、積極的に副業・兼業ワーカー(複業ワーカー)を受け入れ、「複業というワークスタイルを推進」すべきではないかと考えています。
実は福山市に、まもなく二代目社長になる同世代の知人がいるのですが、「先代社長とは別の、何か新しい取り組みを行いたい。大きな資本投下は厳しいのだが、何かできないか」という後継者ならではの声があります。「新しい人材の獲得方法の一つとして、複業求人を考えたらどうか」と話をしたところ、関心を持たれました。複業求人を行うことで、首都圏を含めた福山市出身者のリソースを、固定費をかけずに確保できる可能性が生じます。場合によっては、東京に支店が作れるかもしれません。知人からは地域の経営者が集まる会合などで「誤解なき複業や複業求人をテーマにした講演をして欲しい」と依頼されており、複業求人、複業ワーカー受け入れの試験的な導入を進めたいと考えています。

大学:評価軸を就職力から創業力へ。地域研究所を設立し、社会人研究員を採用

サムネイル

大学においては、「地域研究所(仮)を設立し、Uターン・Iターン者を研究員(仮)として採用」できないかと考えています。
Work Design Labのメンバーに、フリーランスで活動しながら、慶応義塾大学大学院に研究員としても所属する者がいます。個人で活動する場合、大学の研究員として活動していることで、社会に対する信頼性が高まるという実態があります。
このようなことから、大学主体で地域研究所(仮)を設立し、Uターン・Iターンする人を期間限定で研究員として採用する。そして、地域イノベーションマネージャーなどビジネス的な肩書きを与えることで、業を起こす個人を大学がサポートできるのではないかと考えています。個人は大学の名刺を持つことで信頼性が保証され、社会活動や起業がしやすくなります。また、業を起こし、手が足りなくなった時には、大学生を雇用してもらうことも考えられます。学生にとっては、一時的なインターンシップよりも力強い経験となり、就職活動にも役立つとともに、先に述べた「人材を育成する」にもつながります。
大学による地域研究所の設立と運用事例としては、釧路公立大学地域経済研究センターの「共同研究プロジェクト」が挙げられます。地元の行政関係者や民間人を客員研究員として導入し、地域と連携した好例ではないかと思います。
一方、東京側にも研究員を配置することを考えています。東京で働くビジネスパーソンを対象とし、福山市に仕事を増やす活動を行うことが研究員のミッションです。また、そんな研究員の後進者を育成するというミッションもあります。東京の大学には福山市出身の学生が多くいます。東京に住んでいながらも、福山市の企業を応援する研究員になれるという文脈で巻き込むことが可能ではないかと思います。
次に、大学の評価軸を「就職力から創業力へ」変えていくことが必要ではないかと考えています。現在、大学の評価軸は「就職力」となっている状況があります。しかし、地方の場合は地元の企業が少ないこともあり、就職力を高めれば高めるほど学生が東京の会社に就職するという現象が生じています。「創業力」に評価軸を変えると、起業したい学生を大学を中心とした地域全体でサポートすることができます。その結果、地元での起業につながり、将来的には新たな雇用を生み出せます。また、「人材を育成する」という観点で、高校と大学を接続させることも可能です。
このように、大学での取り組みは多様な展開が可能であり、広島県出身の学生を対象に東京で学生寮を運営する公益財団法人誠之舎など、後進の育成に力を入れている様々な活動とも連携できるのではないかと考えています。

「主体的市民」を呼び込むことで、まちは輝き、地域は活性化する

新しいまちづくりを通じて、行政・大学・企業が変革・連携して「主体的市民」をサポートする環境を整備すると、外部からの流入が増え、若者が残るまちに変わっていくのではないでしょうか。「主体的市民」が集まることで、多様な人材リソースを地域全体で活用でき、やがて人材のシェアリングエコノミーが形成されるという好循環が生まれます。また、一人ひとりのワークスタイルやライフスタイルが充実し、活き活きとした市民が増えるということからも、まちは輝き、地域の活性化がなされるのではないでしょうか。
このような好循環サイクルを生み出す「複業モデル地区」は他に例がないため、実現すれば、全国から選ばれるまちとしてさらに「主体的市民」を呼び込め、持続可能なまちづくりを行うことができると感じています。
行政と市民(個人・大学・企業等)が協働で新しいまちづくりを推進している福山市だからこそ、地方創生の新しい取り組みを実現したいと思います。今後、「福山駅前再生協議会」をはじめ、福山市内の大学に協力を呼びかけるなど、実現の可能性を模索していきたいと考えています。
本連載の最終回は、建築・都市・地域再生プロデューサーの清水義次さんに、リノベーションまちづくりの観点から見た「複業モデル地区」構想について、専門的な見地からご意見をお伺いしたいと思います。

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第4回〉大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索