公の場での認知、地域連携を模索/「複業モデル地区」への挑戦・第5回
石川 貴志
2018/03/30 (金) - 08:00

広島県福山市では2016年の9月に市長が変わり、福山駅前の再生計画が始動。再生に向けた方向性や取り組むべき課題等を検討する「福山駅前再生協議会」が2017年3月に発足しています。協議会の委員は錚々たる方々で、私も委員として名を連ねています。協議会では、人口が減少していく中で、駅前に新しい建物を建てるのではなく、まち全体の中で駅前がどうあるべきか、議論が展開されています。
先般、「福山駅前再生協議会」の場で「複業モデル地区」構想を提案させていただきました。また、広島県中小企業家同友会 福山支部の経営者の方に向けて講演を行い、連携の可能性を探りました。
本稿では、協議会委員や同友会参加者のご意見を紹介し、複業が地域連携の未来を切り開く鍵になるという持論を改めてお伝えしたいと思います。

福山駅前再生協議会での提案

石川氏:
私は、新しいワークスタイルやライフスタイルを実現する環境を産官学連携で整備して、パブリックマインドを持って業を起こす個人、人材を福山に呼び込もうというプロジェクトを考えています。これまでの活動紹介とともに、なぜここに帰着したか。今後どのようなことをやっていきたいか、発表させていただきます。

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第2回〉「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第4回〉大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦

-委員のご意見

地方では人が何よりも大事な資源/いきがいを感じる暮らしとは?

渡邉委員(福山市立大学 都市経営学部 都市経営学科 教授):
地域研究所(仮)を設立するのは非常にいい案だと思います。福山市立大学の設置者は市長なので、市長が設置に向け動き出せば実現可能だと考えられます。今日の話を是非とも市長に上げていただきたい。

佐々木委員(福山大学 工学部建築学科 准教授):
石川さんが提案された、地域で人を育てるという構想は素晴らしいと思います。地方創生、再生は地方の価値をどうつくるかだと思います。そうした時に、資源がない多くの地方では、人が何よりも大事な資源になります。人づくり、人育てを一つの軸に位置付けるのはこれから福山には必要なことではないでしょうか。福山市内にまちづくりに志を持っておられるような方々が集まってきていて、その人たちが新しい動きをつくっているという話もありました。福山市とおり町商店街は前田委員が5年の歳月をかけてアーケードを改修し、地ならしをされたところ。集まる人たちが変わりつつあります。今、いい流れがあると思いますので、人育てや、駅周辺でその人が何かをできる場所が必要ではないでしょうか。

アドバイザー 嶋田洋平氏(株式会社らいおん建築事務所 代表取締役。株式会社北九州家守舎 代表取締役。株式会社リノベリング 代表取締役。株式会社都電家守舎 取締役):
私は複数の会社を経営しています。私自身が同じ場所で幾つかの会社をシェアして働き、すべての代表を務めています。スタッフたちには「どの会社で働いてもいいよ」と言っているのですが、まさに石川さんの話にあった兼業を推進しています。
今日、皆さんが議論されたビジョンの中で思ったことは、いきがいを感じる暮らしや自分らしく働きたい人などと書いてありましたが、「いきがいを感じる暮らしって何?」。「自分らしく働きたい人は誰?」で、「自分らしく働いている状態って何であるか?」。これらのことを具体的にイメージすることが大事なのではないかと思いました。

-広島県中小企業家同友会 福山支部 講演

複業ワーカーを受け入れ、複業というワークスタイルの推進を

石川氏:
本日は、「福山駅前再生協議会」で提案させていただいた「複業モデル地区」構想についてご紹介し、皆さんのご意見を伺いたいと思います。
新しいワークスタイルやライフスタイルを実現する環境を「産官学」連携で整備して「パブリックマインドをもって業を起こす人材」を福山市に呼び込みたいと考えています。
業を起こす人材とは、最近、「副業・兼業」という言葉を政府や行政関係者も使われていて、パラレルの方の「複業」というキーワードをメディアで見られている方もいらっしゃるかもしれません。

-省略―

副業のイメージって、経営者の方と会話をすると、悪いイメージがかなり強いという印象があります。自分の会社の社員が副業することで、人材リソースが流出するという、ソト向きの矢印のイメージがあるのではないかと思います。
しかし、経営者の視点から「複業求人」を行えば、人件費を抑えながら外部のリソースを確保できる可能性が生まれます。積極的に複業ワーカーを受け入れ、「複業というワークスタイルを推進」すべきではないでしょうか。また、「首都圏の複業ワーカーとの連携による企業価値向上施策」を講じることもできます。
ウチ向きの矢印における複業と捉え、まち全体で柔軟な働き方を推進し、うまく発信することができれば、地域が活性化するのではないでしょうか。
今後、首都圏の複業ワーカーはどんどん増えていくと思いますので、そういった方々との連携を皆さんと一緒に模索できたらと思っています。

首都圏の複業ワーカーとは、企業の管理部門や営業部門の人材、Uターン・Iターン予定者を想定しています。企業の広報、情報システム、財務などの管理部門は基本的に必要な部門です。最近の傾向として、このような部門の方々がベンチャー企業を社外活動で手伝うケースも増えており、人材獲得がしやすいのではないかと思います。営業部門の人材は連携のために少し工夫が必要ですが、代理店営業のイメージで獲得できたら面白いと考えています。

Uターン・Iターン予定者としては、今は東京で働いているが、いずれ家業を継がないとならないなど、地元に帰る可能性が高い方を想定しています。東京にいる間に地元とのかかわりを増やしておけば、Uターン後も東京との関係が活用しやすいと考えています。
私自身もメディアの方々と「週末転勤」をコンセプトとした活動に少し関わっています。東京から新しいビジネスを考えている人材が集まり、福山市とうまく連携できれば新しい価値が生まれる可能性があるのではないかと考えています。

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ワークスタイルの変化に伴い、組織はどうあるべきか

今、個人へのパワーシフトが起きている時代なので、「個人にとって利用価値の高い『場』」に組織が変わっていく必要があるのではないかと考えています。
そして、「人生設計の変化にあわせて利用の仕方を変えていける『場』」である必要もある。最近、ダイバーシティと言われていますが、子どもが生まれたら時間の使い方が必然的に変わりますので、遠くのダイバーシティではなく、身近なダイバーシティから考えるべきではと思います。また、女性を採用しにくいという話がありますが、一方で「予防退職」という言葉もあります。「今の会社で結婚後も働くイメージが湧かない。でも、結婚してから転職しようとすると、すぐに産休に入る可能性があると思われて企業に嫌がられてしまう。子どもが生まれた後はさらに転職が難しくなるから、独身のうちに転職しておこう」と。問題がおきる前、先に転職しておくというのが予防退職です。

多くの経営者の方はビジネスに女性の力を活用したい言われていますが、女性はライフイベントも想定しながら自分自身の人生をうまくコントロールできる場に移っておきたいという考えもあります。こういう現状を経営者の方は理解して準備しておく必要もあるのではないでしょうか。
また、当然ながら、「利用できなくなると困るので、適切な『利益』を出す必要がある」。社員は会社に対して貢献したいという気持ちがあると思います。やはり、組織側としても、「『飽きる』ことのないように『成長』と『変化』が必要」です。社長はどんどん成長していくのですが、社長と一緒に社員も成長のフィールドにのっていけるようにしないと社員が出ていってしまいそうだと感じておられる経営者の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

従って、「『利益』を出し続け『変化』と『成長』をするためには、『場に貢献し育てていく当事者意識』が社員にも必要」です。ただし、その「『当事者意識』は強制ではなく内発的なもの」でないとならない。言葉にすると簡単ですが、とても難しい問題だと感じています。「よって『組織』は、メンバーにとって『貢献し育てたい場』である必要がある」という話を経営者の方々ともよくお話しています。

個人のライフスタイルの変化と価値観の多様化

一方、個人としては「大人の働き方を選択するか」ということがあります。『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という本もありますが、今や人生100年時代。医療が発達し寿命が延びることで「60歳で定年して引退」というケースは少なくなるといわれています。会社に人生を預ければ、定年まで面倒をみるという「会社が大人で従業員が子ども」のような関係も今後「大人と大人」の関係に変わっていくと思います。その前提としては、個人がきちんと自立しているというが大切になりますが、自らの意思で「大人の働き方を選択する」ことが大切になる思います。
そして、「自分と社会の間を会社でつなぐ」。若い世代には働くことに対して「社会との繋がり」をとても重要なテーマとしている方が増えてきていると感じます。世代によって育ってきた時代背景も違いますので「幸せの価値観の多様化」は、当然の変化かと思います。
皆さんとの連携を模索していますので、アドバイスやご意見をいただけると幸いです。

-質疑応答での議論

世の中のニーズとして、副業は求められているのか?

参加者A:
そもそも、副業ってニーズがあるんでしょうか?行政が言っているのは分かりますし、「働き方改革」などいろいろな動きがありますが、現実に働いている人たちがそういったものを望んでいる状況があるのでしょうか?

石川氏:
個人に対する副業のニーズは、圧倒的に増えてきていると感じます。大企業45社1600人の若手・中堅社員へのアンケートでは、約75%が副業に対して興味をもっています。ただ実際に副業をしている人は約5%で、この差分の70%が今後、複業ワーカーとして労働市場にでてくるポテンシャルだと感じています。ただ私自身も企業に所属していますが、副業やプロボノの話をしても「何それ?」といった反応をする人が多いのも実情です。副業を希望する理由はいくつかあると思います。収入を得たいというのもあるかもしれませんが、本業で十分な収入がある人も副業を希望されています。
副業に関するサービスもいくつか存在していて、最近メディアでもよく紹介されているのをみかけます。自分のスキルをサイトに登録し、そんな個人のスキルを企業が買いにきています。それを仲介する個人スキルのマーケットプレイスサービスはシェアリングエコノミーの文脈でも大変注目されていますし、私の周りにも実際の利用者が存在します。
副業の社会的ニーズはまだ小さいかもしれませんが、今後、増えていくと思いますし、その兆しを私自身も感じています。

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経営者に必要なのは社員にとって魅了ある職場づくり

参加者B:
お話を伺って、これまで大企業が優秀な人材を採用して、事業にマンパワーを投入していた状況から、地方の中小企業は、副業という形で優秀な人材をマンパワーとして使えるチャンスが生まれる。そのためには、中小企業が魅力のある仕事の場にならないといけないと思いました。そうなってくると、もともと雇用している社員の流動性も高まり、社員との兼ね合いが難しくなってくると思います。
いずれにせよ、魅力ある、共感性のある職場をつくれる経営者にならないと、この先やっていけないのではないかという焦燥感を抱きました。また、その場をつくる、つくり方の論法が同友会と一緒だなと思いながら、石川さんのお話をお聞きしました。

フォロワー数など影響力のある社員の採用も不可欠

参加者C:
例えば、美容師になろうとする人のSNSに5万人のフォロワーがいるとします。その人がある美容室に就職する。そうすると、お客としてそのフォロワーが来てくれて、新しく入った1、2年目の子がその美容室でトップになる。そんな時代なのかもしれません。地元でたくさんのフォロワーがいる人は影響力がある。企業側はそういうところにも目を向けないといけないのかもしれない。

-グループ討論

能力ある人材とどんな縁をつくるか/地方企業の価値を高めていく

グループA:
いろいろな業種業態の方とのグループ討論となったため、一つの意見としてはうまくまとまりませんでした。
困ったことは誰かに聞いたら答えてくれるという異業種のネットワークがあるのは、この同友会のお陰だと感じています。私が生業としている土木建築業は資格が必要であったり、取引先との信用など様々なハードルがあります。これまでとは違う形で土木を行う時に、東京の人材から新しい情報があったり、そこから新しいビジネスが始まるということになるのであれば、また、土木の仕事がなくなっていき、土木以外のことも考えないといけないという意味では、新しくネットワークをつくることも必要かと思いました。しかし、今ある縁を大切にすること、現在の顧客や社員のことをしっかり考えることも、経営者としてやはり必要かと思います。
上場企業は残業規制で18時以降は時間があると聞きます。そういった能力ある人材とどんな縁をつくり、何ができるかを考えることは今後、必要なような気がします。
また私は、広島の中小企業を東京に連れていき、東京の新規事業担当者と引き合わせることが多いのですが、今、東京の上場企業の新規事業部門の方は困っています。大きな会社は情報があるようで持っていない。上場企業同士の情報はあるけれど、中小企業の情報は持っていないと感じています。そういう意味では、自分たちが東京に出ていき、何らかの成功事例を考える機会として今日のような集まりがあればいいと思いました。

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グループB:
グループ討論では、中小企業をこれからどうするかは、経営者の考え方が大事である。社員が副業をするには社員のスキルが高くないとできない。社員のみんなができる訳ではなく、その中の数%が副業をできるのではないか。ただこれから希望する社員が増える可能性があるのではないか、という話になりました。
今までは会社が社員を独り占めしていましたが、個の時代になり、個のスキルが上がると副業ができるということだと思います。仕事をしながら、趣味に興じていたのが、趣味がお金になる時代です。趣味で何かを作り、人にあげていたのが、これからは趣味が高じて人に買ってもらえる。そういう人が出てくるんじゃないかという意見もありました。
SNSがこれだけ普及している中で、どうやって東京からUターン・Iターン者を求めるかについては、やはり、地方の企業が東京に負けない価値を高めていかないといけないという話になりました。

石川氏:
今日は貴重な機会をありがとうございました。働き方にはいろいろな考え方があり、正解はないと思っています。どのような方向に持っていくかは、人それぞれにイメージがあると思います。東京や様々な地域でいろいろな動きがあり、私も各地のメンバーと一緒に動いています。今後、このテーマについて、皆さんと継続的にコミュニケーションをとらせていただけると嬉しいです。

〈第1回〉「複業モデル地域」構想のきっかけ

〈第2回〉「産官学連携で創りだす、新しいワークスタイル」

〈第3回〉リノベーションまちづくりという切り口から広がる複業ムーブメント

〈第4回〉大学との共同可能性 /「複業モデル地区」への挑戦

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