「新しい文化」eスポーツによる地方創生の可能性/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/08/17 (金) - 08:00

国民体育大会への文化プログラムとしての参加や民放で専門番組が始まるなど、世界的には後進国といわれる日本においても益々「eスポーツ」に関心が高まっています。リアルなスポーツとは別な角度から地方創生に寄与するのではといわれる新しい文化の日本における現状と課題から今後の可能性を考えてみたいと思います。

アジア大会に次ぎパリ五輪も実施競技として採用検討

eスポーツは8月18日からジャカルタで開幕する「アジア競技大会」の公開競技として行われますが、2022年の中国での「アジア競技大会」では正式な競技種目に選ばれました。2024年に開催される「パリ五輪」でも実施競技として採用が検討されているといいますし、国内においても2019年に茨城県で開催される「国民体育大会」で、人気サッカーゲーム「ウイニングイレブン」を用いた都道府県対抗eスポーツ大会が予定されるなど国内外で注目を集めています。

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資料:アジアeスポーツ連盟ホームページより

このようにメジャー化するeスポーツですが、コンピューターを使った競技、しかもスポーツのように勝敗を競うもので、操作技術が必要となる対人ゲームが基本です。サッカーのようなスポーツゲームもありますが、一般に注目されているのはマルチプレイヤー オンラインバトル アリーナ(MOBA)、ファーストパーソン シューティング(FPS)、リアルタイムストラテジー(RTS)など対戦型要素の強いジャンルといいます。

■eスポーツ
「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。

競技人口が1億3千万人にも上り、今年中には市場規模も9億ドル超えが予想されるなど全世界で「eスポーツ」のムーブメントが巻き起こる中、まだブレイクしたとはいえない日本でも新時代を象徴する「新しい文化」として育み発展させていくために、毎日新聞とサードウェーブによる共同プロジェクトの第1弾として、共催による高校生を対象にした初の「全国高校eスポーツ選手権」が12月からオンライン予選、2019年3月には都内の会場で決勝が催されます。

開催に合わせサードウェーブは、eスポーツを支援する「eスポーツ部 発足支援プログラム」を実施します。初年度は本大会へのエントリーを条件に、ゲーミングPC「GALLERIA」が先着100校に対し3年間無償レンタルされます。部活動での機器導入を容易にし、eスポーツを楽しむ高校生の裾野拡大を後押しするものとなりますが、顧問によって部または同好会の継続的な運営が行われることや貸し出したPCは校内に設置するなどの条件が定められています。

日本eスポーツ連合が設立されプロライセンスを発行

一方で、2018年2月1日に競技としてのeスポーツを日本に確立させようと、既存の3つの団体が統合して新団体「日本eスポーツ連合」(JeSU)が設立されました。この団体がプロ選手としての活動を認める基準を設け、プロライセンスを発行することになり、2月10日に幕張メッセで「闘会議2018」が開かれ、国内初となるプロライセンスが発行されました。8月にはサントリーやauなど6社がオフィシャルスポンサーになっています。

日本のゲーム市場は世界2位のシェアを誇りますが、まだeスポーツ市場については世界のわずか5%ほどのシェアしかないとされます。今後、新団体の発足を皮切りに本格稼働していけば、世界各国のeスポーツ市場以上の成長率が期待できるという見方もありますが、まずはリアルなスポーツ競技と同等に選手の地位向上ならびに社会的地位の確立につなげていくために日本オリンピック委員会(JOC)への加盟を目指すことになるでしょう。

また、eスポーツの全国リーグとなる「日本eスポーツリーグ」には、北海道、関東、中部、関西、九州の各地域を代表する5チームが参戦し、「FIFA18」「BLAZBLUE」「OVERWATCH」の3つのゲームタイトルで総当たり戦を行い、総合優勝が決められる形となっています。北海道を拠点として活動する「Naturals北海道」では、全国規模の大会だけではなく、地域でのゲームイベントに参加したり、主催するなど地域でのeスポーツの発展に寄与しているといいます。

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25周年を迎えたサッカーのJリーグのように特定の地域を本拠地として地域に根ざした形で、チームの運営、プレイヤーの育成やスポンサーの獲得、さらにチームや選手を支えるファンとの関係づくりなどがeスポーツにおいても望まれますが、次世代を担う子どもたちが幼少のころから親しめる環境づくりや育成が、裾野を広げるとともにスポーツ資源から地域に活力を生み出していくことにもつながるのではないでしょうか。

産業・地域振興を見据え地方で広がるイベント開催

地方での動きを追うと2006年に「ゲーム都市宣言」を掲げた福岡市は、産学官が連携したゲーム産業推進組織があり、eスポーツビジネスの振興を通してゲーム産業ならびに地域振興を図る絶好の機会と捉えています。eスポーツの普及やイベントの誘致を中心にしたビジネス創出を推進することで、福岡市がMICE誘致の重点分野と位置付けている「コンテンツ」や「スポーツ」分野の産業振興やeスポーツを活かした豊かな社会づくりを実現していくとしています。

若年層の集客を見込めるeスポーツは、最近では全国各地の地域振興のイベントにも活用されるようになってきていますが、2016年7月に青森県弘前市で開催された「東北最大級のダンスとパフォーマンスの祭典」と銘打った「城フェス」では、レッドブル社が主催するダンスイベントと「ストリートファイターV」がコラボレーションした「Red Bull BC One 2016×ストリートファイターV」が行われ、イベントの盛り上げに一役買ったといいます。

2016年9月に設立された富山県eスポーツ協会は、地方での本格的な普及を目指して交流の場や対戦の場を設けるために年間で大小45回の大会を催してきたといいますが、地元の伝統産業とのコラボレーションにも取り組んでおり、2017年4月には老舗酒蔵「若鶴酒造」の大正蔵を借りてeスポーツと地酒と伝統を味わえるイベントを開催したほか、8月にはクラウドファンディングにより31万4千円の支援を受けてプロ選手を招き再び酒蔵でイベントが開かれました。

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富山県高岡市の老舗酒蔵で開催されたeスポーツイベント(写真提供:富山県eスポーツ協会)

 

県外からの参加者も多く、eスポーツを通じ地酒や酒蔵といった地域資源などにも触れる機会や場を提供したほか、優勝者への副賞としては、400年の歴史を誇る「高岡銅器」の伝統産業職人が作る特製の銅メダルを授与したといいます。また、同協会ではeスポーツを地方都市で普及させ、盛り上げるためにはコミュニティの存在が不可欠なことから高岡市内にコミュニティ作りの拠点の一つとして、ゲーム好きが集まれる施設「JOYN」を運営しています。

競技人口増へ専用施設新設やスタジアムなどの活用も

現在、アメリカと韓国がリードしているeスポーツですが、韓国の若者の間では野球やサッカーに次ぐ人気スポーツで、会場に詰めかけるファンの約8割が女性、専用のスタジアムもあるといいます。また、アメリカや中国、韓国の三大市場が世界の売り上げの約6割を占めていますが、遅ればせながらドイツでもeスポーツが正式なスポーツとして認められるなど、イギリスやフランスを含めたヨーロッパ圏でも市場が活性化しています。

これまで日本では、海外での人気ジャンルの対戦型ゲームが流行していないことや韓国のように国全体で盛り上げる意識が薄かったこと、賞金についての法律上の解釈をめぐる課題、イメージや社会的認知などから世界の潮流に遅れをとっていましたが、新たな団体の誕生、プロライセンスの発行、eスポーツの全国リーグの展開、そして、高校生を対象とした大会や部活動の支援など追い風が吹いて徐々に市場が熟しつつあるのが現状です。

政府により「日本再興戦略2016」でスポーツの成長産業化が位置づけられ、日本のスポーツ市場規模を2025年までに現在の2倍以上となる15.2兆円にする目標を掲げています。そうした中で、さまざまなスポーツの場を提供するスタジアム・アリーナは、集客力を有する「観るスポーツ」のコンテンツとしての潜在力を最大化させる格好の舞台といえます。政府は2025年までに20ヵ所の整備を行うとしており、関係省庁が連携して取り組んでいるといいます。

eスポーツの競技人口を増やし市場を広げるにはプレイする専用施設が望まれますし、大規模大会を地方で開催するにはスタジアム・アリーナの活用も考える必要があります。地方都市のスタジアム・アリーナは住民にとって愛着あるシンボルになっていく地域の交流拠点ともいえます。さらにeスポーツ大会の開催で参加者や観戦者など交流人口の拡大をもたらし、飲食や宿泊、観光等を巻き込んだスポーツツーリズムが地域活性化に寄与することも期待されます。

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