吉本芸人からお笑いコンサルタントへ
秘密結社おもしろ人間製作所 三好秀典氏
浅賀 桃子
2018/11/30 (金) - 17:00

2003年から2010年まで毎週放送されていたお笑いネタ番組「エンタの神様」出演、M-1グランプリセミファイナリストでもある元吉本「ガブ&ぴーち」三好秀典氏。高校卒業後ニートを経て芸人になり、芸人を辞めた今は独立し「お笑いコンサルタント」として活動されている三好氏のキャリアを辿ります。

芸人になるまでの道のり

小学校のとき長崎から千葉に引っ越し、とにかく学校の人気者になりたかったんです。(通っていた学校で)人気者になれる3つの条件が「頭がいい、足が速い、顔がかっこいい」だったのですが、僕はこの3つの条件に当てはまっていなかったので、第4の条件は何かと考えました。そして「笑いがある、これなら誰も目指していない」と思って、笑いを研究し始めました。初めのうちは授業中奇声を発して親が呼び出されるなど試行錯誤しつつ、だんだん周りの笑うツボが分かるようになり、小学・中学の卒業後アンケートで「面白い人No.1」をとることができました。

高校卒業後進路を決められずニートに。アルバイトもなかなか決まりませんでした。当時家にインターネットがなく、昼くらいに起きてテレビをみていました。夜はというと、中学の同級生、後に芸人コンビの相方になる人が、GWに大学を中退したこともあって、一緒に軽自動車を借りて近所の田んぼの周りをぐるぐる…そんなことをしばらく続けていたのですが、これって先がないぞと気づきまして。落ち込んで家に帰って、テレビの深夜番組付けたら、笑いのネタ番組をやっていて。僕めちゃくちゃ落ち込んでいたんですが、その番組を見て爆笑したんですよ。お笑いの力って凄いなって感動して、そういえばお笑い好きだったし芸人になりたいなと、ダラダラ過ごすのをやめてお笑いの養成所(吉本NSC)に入ったんです。2002年4月のことでした。

厳しい養成所でしたがなんとか修了して、先述の中学の同級生とコンビ「ガブ&ぴーち」を結成。ルミネtheよしもとや、同期(入学者数700名くらい)の中で初めてM-1グランプリにも出ました。M-1グランプリでセミファイナリストを頂いた後、エンタの神様にも出ました。CSスカパーに1年間レギュラーの冠番組も持たせてもらいました。

とはいえ、十分な収入だったかというとそうでもなかったこともあり、環境を変えたほうがいいかなと思っていた矢先、相方が「お笑いじゃなくて運送の仕事をしたい」と言い出しまして。正直な話、芸人をやめてからだって運送の仕事はできるから、まずは芸人として笑顔を届けるほうが先じゃないかと話したのですが、相方は「笑顔よりも荷物を届けたい」と。結局、コンビでは難しいということで解散になってしまって。2010年夏のことでした。

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芸人解散から独立まで

実は当時借金もあったので、僕もちゃんと企業で働かなきゃと思って、営業の会社に派遣で入りました。この会社は当時の離職率が噂によると149%、入ってくる人より辞める人のほうが多いという状況でした。

仕事は「保険を電話で売る」という営業。90分毎くらいに上司に報告に行って、その都度すごく怒られる職場でした。なんであのマネージャーはあんなに机を叩いているんですか、と同僚にきいたら「マネージャーの机は打楽器だと思いなさい、慣れなさい」といわれたくらい。当然楽しい雰囲気というのはなくて。このころ、芸人時代から興味のあった心理学のスクールで学んだのですが、人の話を聞くことの大切さを学びましたね。人の話を聞く前に怒る人ばかりの職場だけに余計にそう感じたのです。

僕はお笑いをやっていたので、人のことを楽しませたいなという気持ちが強くて、自分の中で出来ることないかなと思った時に、僕の所属する10人くらいのチームをお笑いで明るくしようと思ったんです。

まず何をやったかというと、休憩時間中にお菓子を買ってきて配ったんです。保険を売るよりまず媚びを売ったわけです(笑)。そしたらみんなちょっとした優しさが嬉しいようで、僕に心を開いてくれたんです。で、休み時間にちょっとした小話やネタをするようになったら、そこから僕のチームの離職率が下がりました。離職率低下に貢献して、「仕事っていうのはお金を貰いに来ているんじゃないんだ」と思いました。時給が高くてもコミュニケーションがうまく取れていないと人って辞めちゃうんです。また優秀な上司の下よりも、明るいムードメーカーの下のほうが辞めないことに気づいたんです。

そうしているうちに、友達などの口コミでセミナー依頼の声をかけてもらう機会が増え、自分のお笑い芸人としての経験を話すようになりました。あるとき、僕のキーマンとなる中小企業診断士の方がセミナーに来てくれて、打ち上げで話をしたんです。彼は士業の方へノウハウを教える仕事をしているんですが、「成果が出る人とでない人の違いは仕事の腕じゃなくて、コミュニケーション能力があるかないかだ」と話してくれました。この力がないとノウハウを教えてもなかなか伝わらないと。この出会いがきっかけで、その中小企業診断士の先生主催で「お笑いを士業の先生に伝える」セミナーをやらせていただくことになりました。20名くらいきてくれ、評判がよかったことから、派遣の仕事をしながら本格的に副業としてお笑いセミナーをやるようになりました。

セミナーの機会が増えるにつれ本格的に独立を考えるようになりました。その一環としてシェアオフィスの契約をしたんですが、「シェアオフィスを運営している企業が主催するフロントセミナーに参加できる」という特権がありました。セミナーに参加して人脈を広げ、自分のバックエンドの商品を作っていきました。2015年末にこのバックエンド商品が100万くらい売れたんです。これなら独立できるかもしれないと思いました。シェアオフィスで知り合った税理士さんから「国から安い利率でお金を借りられる」ことを知ったことで背中を押され、2016年1月に独立しました。

お笑いコンサルタントとして

セミナーで知り合った税理士さんで、独立しているにもかかわらず月収2万だった方がいるんですね。なんとか自分で頑張りたいというので話を聞いたら、税理士会の集まりでなんか出し物やらないといけないから何か案ないですか?という話になり。それならお笑いのネタやりましょうよ、盛り上がりますよと提案しました。たまたま僕の別の知り合いの税理士さんで月収1万円くらいの人がいて、その人と2人で「お先まっくらーず」というコンビを組んでもらいました。提供したネタは基本的に自虐モノで。「私は今月収2万円しかありませんので妻の扶養家族になっていますが、このまま2万円が続くと、不要な家族になっちゃいます」とか、「将来ぼくはベンツに乗るのが夢なのですが、今のままだとベンツに乗るよりベンチで寝るほうが現実的です」とか。最終的にそこにいる税理士さん全員に「僕の事務所が潰れたら雇ってください」と土下座して終わるんです。プライドの高い税理士さんにひどくウケたんですけど、そこから「なんか面白い先生がいる」という評判が広まって仕事が増えて、月の売上が100倍以上になったそうです。お笑いというのはビジネスにいい影響を与えると思うんですよ。士業の方は人前で話す機会も多いと思いますが、堅苦しくならず笑いがとれる講師を育成する「ニコニコ会話塾」も始めています。

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僕がコンサルさせてもらった中で、笑いとれなかった人いないんですよ。社労士さんがこうすると助成金がとれますよというのと同じで、こういうふうにすれば笑いがとれますよというルールがあるんです。こういったルールを覚えることが大切です。
独立するにあたって、もちろん商品力は大切です。でも商品力だけではなく、この人がやるから買うという「人間力」がある人が、独立して成功すると思うんです。

さらに、お笑いのルールとして、面白さよりも大切なものがあるんです。それは「感じよさ」なんです。感じよく接していないと、どんなに面白くてオチもある話でも笑えなかったりする。好きじゃない人の話は笑わない。アイドルのライブで、大したことをいってなかったとしても、ワーッと笑いが生まれることがあります。それは、そのアイドルが好きだからですよ。既存客が辞めない、そして、紹介が生まれるというのは、やはり人間力があるからですね。

独立を考えている方へのメッセージ

最近、某大手広告代理店さんでのセミナーを受注しました。きっかけになったのはWebでしたので、自分を知ってもらうための発信力、アピール力をつけることが大切だと思います。そして、実際にお会いしたときに相手をがっかりさせないようにすることも必要です。Webでのイメージと対面したときのギャップがある人っていますからね。大切なのは、会いに行くのが楽しみだと思える、相手に気を遣わせるのではなく、いい意味で相手が気を遣わなくてすむような人であること。それも「感じよさ」ですよね。

また、この人といえば○○、というインパクトも必要だと思います。僕、見ての通り全身ピンクで、名刺も携帯もピンクです。「ガブ&ぴーち」というコンビ名でしたので、芸人の頃からピンクを着ていましたけど、セミナーやるようになってからのほうが着ていますね。「ピンクを3つ見ると人は突っ込まれざるを得ない」ですよね(笑)。「なんでピンク好きなんですか」ってきかれたらこちらのもの。逆に、まったくツッこまずにピンクの名刺を黙ってしまうような人は、僕の顧客ターゲットではないです。リトマス試験紙みたいなものですね。分かりやすい材料を持っておくといいと思います。

三好氏は、「普段笑いが入らなさそうな会社説明会など固いところにも笑いを入れられるようにしたい」と今後の夢を語ってくれました。

“人間は一生の中で22時間半しか笑っていない”という調査結果がありますが、三好氏は「笑うのは人間だけの特権なので、もっと笑っている時間を増やせるようにしたい」との強い思いを持ち、お笑いコンサルタントとして活動の幅を広めています。

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三好 秀典さん

1982年生まれ。高校卒業後ニートになるも一念発起して吉本NSC入学。中学の同級生とコンビ「ガブ&ぴーち」結成。2010年相方の就職に伴いコンビ解散、芸人引退。派遣社員を経て2016年1月独立、「秘密結社おもしろ人間製作所」代表となる。お笑いコンサルタントとして士業向け支援を中心に活動。笑いを取れる講師を育成する「ニコニコ会話塾」塾長も務める。

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