日本酒人気で期待される地域の活性化(後編)/地域活性機構リレーコラム
亀和田 俊明
2019/07/05 (金) - 08:00

海外ではワインの試飲ツアーが盛んに行われていますが、日本でも蔵元での試飲や酒蔵見学が人気で、周辺地域の観光資源と組み合わせた「酒蔵ツーリズム」が訪日外国人旅行者にも評判となっています。今回は日本酒を活用した地方都市での取り組みの現状や観光振興などから地域の活性化について事例を交えて考えてみたいと思います。

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日本酒人気で期待される地域の活性化(前編)/地域活性機構リレーコラム

日本酒そのものだけでなく歴史や醸造方法に高い関心

2018年3月にまとめられた観光庁の「訪日外国人受入に関する酒蔵及び外国人への調査事業報告書」によれば、醸造所やワイナリーを訪問した訪日外国人は、日本産酒類そのものに関心が高いだけでなく、日本の歴史や醸造方法に強く惹かれていることが分かりました。滞在中にお土産として購入した酒について、購入理由としては、「味」の割合が最も高く、次いで「パッケージ」でした。こうした数字からも日本産酒類に対する評価が読み取れます。

(資料:「訪日外国人受入に関する酒蔵及び外国人への調査事業報告書」観光庁より筆者作成)

訪日外国人旅行者の多くは和食や日本酒を求めて日本を訪れており、8割が各地を旅行するなかで、「日本酒を飲む」を経験しているといいますが、これがきっかけとなって現地での日本酒の購入につながっているといえます。こうした好循環をさらに伸ばしていくことが期待されますが、そのためには、訪日前に期待していた「日本酒を飲む」、「酒蔵を訪ねる」という「コト消費」を促すためにもニーズに合った当地での受け入れ体制の構築が望まれます。

令和元年版「観光白書」によれば2018年度に沖縄では、「泡盛」を活用した酒蔵ツーリズムの推進及びそれを通じた訪日外国人旅行者の旅行消費額の増加、ひいては販売量増加に資するため酒蔵においてインバウンドへの対応ができるよう、受入体制整備のモデルケース構築の取り組みが実施されました。当該対応マニュアル・ツール作成や講習会開催を踏まえ、酒蔵モニターツアーを実施して効果検証を行い、課題の整理、対応策の検討が行われています。

■泡盛の酒蔵における訪日外国人旅行者受入体制のモデルケース構築の取り組み

・多言語対応について対応マニュアルや指差し確認ツールの作成
・通訳案内士を対象とした専門知識や用語を習得するための講習会の開催
・酒蔵関係者を対象とした外国人接遇スキルを習得するための講習会の開催

※令和元年版「観光白書」より抜粋

鹿島市は市を挙げて「日本酒」を活用した観光振興へ

訪日外国人旅行者の増加に伴い、全国各地で観光資源を用いた地域振興を推進していますが、なかでも「日本酒」を活用し、市を挙げて観光振興に取り組んでいる佐賀県鹿島市は、江戸時代から酒造りが盛んに行われてきた地域で、県内有数の酒どころとなっています。2011年には自社製造する市内の6蔵元が中心となって「鹿島酒蔵ツーリズム推進協議会」を立ち上げました。そもそも「酒蔵ツーリズムR」という言葉も鹿島市の登録商標です。

(資料:鹿島酒蔵ツーリズム資料を基に筆者作成)※2015~2019年は嬉野温泉酒蔵まつり含む

「鹿島酒蔵ツーリズム」というイベントも過去8回開催されていますが、市全体への入れ込み客数もこの6年間で約45万人を超えるなど酒蔵を中心に多くの観光客を呼び込んでいます。具体的な施策としては、試飲し易い環境を作るため無料の循環バスを運行させたり、蔵元それぞれの歴史や蔵内を案内するパネルやガイドブックを制作したり、と観光客が快適に市内を巡ることができるような各種の取り組みが行われています。

近年はインバウンド対応としてウェブサイトやガイドブック等の英語対応も行っていますし、多言語の案内パネルも設置されています。来場者増による交流人口の拡大だけではなく、こうした取り組みの継続によって、地元の女性や若い世代にも酒どころ「鹿島」の認知が広がってきており、地域の観光資源の魅力を再発見する機会としても、さらに重要になっているといえるでしょう。

また、北海道でも各地の酒蔵めぐりを楽しむ人が増えていますが、年間約20万人の観光客が訪れる蔵元が小樽市にあります。30年ほど前から観光資源としての酒蔵の可能性を模索し、見学し易いように酒蔵をリノベーションした上に配達と卸売から観光造り酒屋に業態変更を図った田中酒造です。酒蔵には無料Wi-Fiが整備され、酒米や仕込み工程などの情報を多言語で発信できるシステムも導入しています。

年間20万人が訪れる観光名所となった田中酒造の酒蔵(北海道小樽市)

同酒造は、2012年に発行された日本酒蔵をはじめワイナリーやブルワリーなどを巡ると多くの特典が受けられるスタンプラリー帳「パ酒ポート」の仕掛人でもあります。「より多くの酒蔵を訪ねたい」と思わせる契機となったもので、認知度向上や消費拡大が課題の北海道を日本酒で地域活性化できないかというところから生まれたアイデアでした。お酒のファンだけでなく、スタンプラリーファンの関心も呼び、新たな利用者により地域が活気づいたといいます。

通年型やイベントなど地域によって多彩な取り組み例

さて、多くの蔵元が酒造期間中に酒蔵を一般公開し、伏見や灘といった著名な醸造地では1年を通して酒の試飲も行われていますが、周辺の観光資源と組み合わせた酒蔵ツーリズムはさまざまな地域で誕生しています。大きく分けて、「通年型酒蔵めぐりを盛り込んだ」取り組み、「さまざまな工夫を行う」取り組み、「酒まつりイベントや蔵開放などを中心とした」取り組み、「地元の酒を関係者で盛り上げる」取り組みといった事例が下記のようにあります。

(資料:観光庁資料を基に筆者作成)※2016年3月

「通年型酒蔵巡り等を盛り込んだ」取り組みでは、兵庫県が神戸市東灘区・灘区の酒蔵地域などにおいて食や文化財などの地域資源を活用し、より多くの観光客に酒文化への理解を深めてもらうために、酒造メーカーや酒造組合、観光施設等と連携して酒蔵等を巡るバスツアー、酒蔵スタンプラリーなどのイベントを実施しているほか、長野県では日本酒が生まれた土地を散策しながらその土地ならではの食や文化を楽しむ「呑みあるき」が行われています。

「酒まつりイベントや蔵開放などを中心とした」取り組みでは、豊後大野市が温泉のない同市への誘客の柱のひとつとして市内の4つの酒蔵を活用したイベント「ぶんごおおの巡蔵(めぐるくら)」(四酒蔵による合同蔵開き)を実施することで、「酒蔵のあるまち豊後大野」 をPRするとともに、酒造りを通じた地域の文化や食、自然など、地域の魅力を広く市内外に発信しています。

「地元の酒を関係者で盛り上げる」取り組みでは、高梁川沿いに多くの酒蔵がある備中県民局が2014年度に酒蔵関係者や観光関係者の参画を得て、「備中杜氏の郷ツーリズム勉強会」を立ち上げ、以降、酒蔵見学データ集や酒めぐりリーフレットの作成など酒蔵への誘客を図る企画や「飲み比べセット」の提供など地元宿泊施設等と連携して地酒を PR するなど、酒蔵ツーリズムへの機運を醸成しています。

このように需要拡大のためには、日本人観光客、訪日外国人旅行者を問わずユーザーと日本酒の現場が接点を持つことができるような場の創出に向けて魅力的なプログラムを生み出し、さらなる知名度の向上と地域におけるファンづくりを図ることが必要ですし、年々増えるインバウンド向けには多言語のもてなしも欠かせないといえるでしょう。日本酒のみならず育てた地域の文化や歴史、米など原料への関心へとつなげるためにもきめ細かな対応が必要です。

酒蔵ツーリズムとは、「酒蔵を巡り、蔵人と触れ合い、地酒を味わう。そして、そのお酒が育まれた土地を散策しながら郷土料理や伝統文化を楽しむこと」だといいます。地域の農業や文化に根付いている日本酒ですが、地方都市の酒蔵を訪れる訪日外国人旅行者を増やすことで輸出拡大につなげ、さらに日本酒ファンを世界に広げるためにも各地における「酒蔵ツーリズム」の取り組みは今後、ますます重要になるといえます。

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