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日本酒人気で期待される地域の活性化(前編)/地域活性機構リレーコラム
亀和田 俊明
2019/06/21 (金) - 08:00

国内では「日本酒」の消費量は低迷していますが、海外では日本酒の人気が年々高まるとともに輸出量も増えています。訪日外国人旅行者のなかには、日本酒を目当てに来日する人も少なくなく、コアなファンのなかには、地方にある酒蔵まで訪ねる「酒蔵ツーリズム」も話題となっています。2回にわたって、海外での人気も踏まえ日本酒の現状などから地域の活性化について考えてみたいと思います。

輸出量・金額ともに2けたの伸びで初の200億円超え

6月16日は「父の日」でしたが、今年のギフトの一番人気は「お酒」だったといいます。エイチーム引越し侍の実施したネット調査によれば、「父の日」でのビールや日本酒などのお酒の贈答需要は高いようです。日本酒市場が伸び悩むなか、こうした声を反映して百貨店によっては酒売り場に日本酒の特設コーナーを設け、日本各地の酒蔵と組んで限定醸造した日本酒セットを販売し、売り上げにつなげた百貨店もあったといわれます。

国内ではこうした試みも見られる日本酒ですが、海外では2013年にユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」への注目が高まり、日本酒の需要も増えていきました。実際、2018年の日本酒の輸出量は前年比10%増の2,574万6,831リットルで、金額では19%増の222億3,150万7,000円となっています。2010年から9年連続で過去最高を更新していますが、輸出金額が200億円を超えたのは初めてのことですし、海外では高価格帯が人気ともいいます。

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(資料:財務省貿易統計資料を基に筆者作成)

輸出先の数量・金額ともに第1位はアメリカで、最も日本酒への関心が高い国です。続いて、香港、中国、韓国、台湾のアジア諸国がランクインし、中国では現地での関心が高まって輸出量が急増しています。海外での普及につれ、日本酒を醸造する蔵も増え、現在では世界で40ヵ所を超えるほどの現地醸造所があるといわれ、海外の販売を強化している「獺祭」で知られる旭酒造も今秋にはニューヨークに醸造所をオープン予定です。

海外で評価が高まる日本酒ですが、都内でも気軽に味わえる場所があります。2020年の東京オリパラに向け、訪日外国人旅行者の増加も見据えて官・民・地域が一体となり、日本全国の優れた魅力を発信している『旅するマーケット』では、2019年4月から2017年のオープンより2年間で出展した全21自治体の名酒の数々とともに、相性の良い各地域の自慢の料理、そして工芸品が集結する「TABISURU "酒 SAKE" STAND l 旅する酒スタンド」を展開中です。

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新虎通りにオープンしたインバウンド需要も見込む「旅する酒スタンド」(東京都港区)

外国人を対象に日本酒の認知拡大やPRへ魅力を発信

さて、消費者の嗜好の多様化や日本酒の消費の低迷が顕著ですが、生産量の減少は蔵元数の減少にもつながっており、1983年に2552社あった清酒製造業者は2016年には1415社まで減少し、この間で実に約1000社近くが廃業しています。この6年間でも144社減少していますが、高齢化や需要の減少による清酒製造業者の廃業は、古くから地域経済や地域文化を支えてきただけに、各地域においても大きな社会問題といえます。

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(資料:国税庁資料を基に筆者作成)

わが国を代表する京都府の伏見や兵庫県の灘などをはじめとして、北海道から沖縄まですべての都道府県に清酒製造業者が存在していますが、現在、最も多くあるのは新潟県の89で、以下、長野県の74、兵庫県の69、福島県の63と続きます。トップの新潟県には大手の製造業者が多くあるものの、長野県は中小が多く、生産量も兵庫県や広島県に及ばないという実態も見られます。

厳しい状況にある蔵元ですが、国税庁の2017年度の「清酒製造業者の輸出概況」調査によれば、55%の清酒製造業者(大手は100%)がすでに輸出を行っており、輸出国は多い順に香港(441者)、台湾(394者)、シンガポール(383者)、アメリカ、中国、オーストラリア、韓国などが続きます。今後の輸出については、約75%(593者)が拡大する意向で、現状維持と合わせた約97%(766者)が輸出に前向きな意向です。

国税庁では、輸出などの促進を含め、さまざまな施策が講じられていますが、下記のような事業を今年も実施しています。酒類の専門家、在留外国人、駐日外交官といったいずれも発信力を備えた層を対象にした啓発やPR活動で、日本酒への理解を深め、日本酒の魅力を発信することで、さらなる国際的な認知度を高めることにつながっていくこととして期待されます。

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(資料:国税庁資料を基に筆者作成)

地域資源の「日本酒」活用しインバウンド誘客へ

国内では、地域の食の魅力を発信するイベントやブランド化に向けた振興策が推進されていますが、2016年に清酒業界では日本酒蔵ツーリズム推進協議会が発足しています。同協議会は、日本産酒類(日本酒、焼酎、泡盛及び日本産のワイン、ビール等)の認知拡大と価値向上のほか、酒蔵と周辺地域の観光振興とその経済的な発展に寄与することを目的としています。

■酒蔵ツーリズムの基本理念(資料:観光庁「酒蔵ツーリズム」資料より)

・酒蔵ツーリズムとは、酒蔵解放や酒蔵体験、日本酒をテーマにしたイベント、スタンプラリーなどの仕組みづくり、外国人向けツアーのプロデュースなど実施規模も運営主体も異なるさまざまな取り組みや他の観光資源との連携を目指す。
・具体的な取り組みにあたっては、地域一体の取り組み、異業種連携通年型の観光続性の確保などに留意しつつ地域活性化を目指す。

さらに、日本産酒類のブランド力向上のための取り組みのひとつとして、ブランド価値を高め、輸出促進につなげることを目指し、2015年12月には国が優れた地域の産品として保護する地理的表示制度(GI)に新たに「日本酒」を指定しました。酒類の地理的表示としては、2018年に指定された「灘五郷」をはじめ、「山形」、「白山」などが清酒として指定されています。

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(資料:国税庁資料を基に筆者作成)

また、毎年開催されている日本酒のイベントに「サケコンペティション」があります。銘柄を隠して味だけで勝負する日本酒の品評会ですが、清酒製造業者が減少する一方で、出品数は逆に急増しているといいます。その背景には、海外での日本酒人気であり、輸出増がありますが、インバウンドの日本酒への高い関心を踏まえ、業界にとっても、日本酒を製造する各地域おいても活性化への弾みとなるだけに、対外国人への情報発信も望まれます。

国内では酒造りに外国人が参加する例も増えてきています。日本酒の魅力に迫った長編ドキュメンタリー映画『カンパイ!世界が恋する日本酒』(2015年)には、京都府京丹後市の木下酒造で杜氏を務めるフィリップ・ハーパー氏が登場します。他地域でも酒造りに励む外国人や海外から研修生を招き入れている製造業者もあります。愛飲者だけでなく、確実に造り手にも国際化が訪れています。

訪日外国人旅行者の8割が日本各地を旅行するなかで、「日本酒を飲む」を経験しているといいます。インバウンドで高い関心のある日本酒を活用した地方都市でこそ活きる「酒蔵ツーリズム」は、大きなポテンシャルを持っています。地域の資源である日本酒にフォーカスした観光振興、訪日外国人誘客は、重要なコンテンツです。次回の後編では、各地の具体的な事例を交えて訪日外国人の受け入れや取り組みなどについて触れていきます。

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