地方創生のいま。令和時代に進化する、地方との新たな関わり方
株式会社日本人材機構 ディレクター/GLOCAL MISSION JobsおよびGLOCAL MISSION Times 編集長 高橋 寛
GLOCAL MISSION Times 編集部
2020/04/28 (火) - 08:00

安倍政権が2014年に「地方創生」を打ち出し、国を挙げた東京一極集中是正への取り組みが始まって早6年。今では、地方創生や地域貢献に興味を持ち、培ってきた知識や経験を活かすべく高い志のもと地方への転職や副業を試みるビジネスパーソンが増えています。そんな時代の中で、地方創生メディアの草分け的存在として情報を発信し続けているGLOCAL MISSION JobsおよびGLOCAL MISSION Times編集長の高橋寛に、地方転職の現状やこれまでの取り組みを通して見えてきた課題について伺いました。

地方企業に足りない、人と知恵。

−まず、地方企業の現状と課題、地方企業オーナーが抱える悩みについてお聞かせください。

まず、データに基づいた話をすると、GDPの7割近くを三大都市圏以外が占めているという統計結果があるわけですが、そこから言えるのは、結局、日本経済を支えているのは地方経済・地方企業であるということ。実際にいろいろな地方企業を見て思うのは、物や技術はあるものの、一方で人と知恵、この2つが圧倒的に足りない企業が多いということです。規模やステージに関わらず、どの地方企業のオーナーさんも、皆さん口を揃えて「課題解決をしようとしたときに、頼れる人がいない」と仰います。先日も長野県の企業を訪問したのですが、「あんなこともこんなことも考えなくちゃで、頭がパンクしそうだ」と仰る社長様の言葉がすごく印象的でした。
地方企業のオーナーさんは本当に責任感が強く、社員を守ろうという覚悟が大きいので、その分、全てを自分ひとりでやらざるを得ない状況になっている。それが、地方企業の現状だと思います。

−実際に、そういったリアルな声をさまざまな地方企業で耳にされているということですね。

はい。もちろん優秀な人材を採りたいということは仰るのですが、どうせ誰も来てくれないんじゃないかというある種の諦めのような声も聞きますし、最近よく耳にするのは、首都圏のハイキャリア人材がこんな地方の中小企業に入社してくれたところで、スキルを持て余してしまうのではないかという躊躇とも取れる言葉。あとは実際に人材会社さんに求人票を出したけれど、全く応募がこないという実感値を持ってしまっているオーナーさんもいらっしゃるので、総じて「難しいのかな」という結論に達してしまいがちです。

首都圏で働く管理職者の約半数が、地方への転職に興味あり。

−一方、都市部で働くビジネスパーソンは、地方企業で働くことについてどのように捉えているのでしょうか。

GLOCAL MISSSION Times、GLOCAL MISSION Jobsと2つの地方創生メディアを立ち上げてみて、その反響の大きさに正直驚いているところがありまして。地方に貢献したいという純粋な想いを持った方がこんなにもいるということを、メディアへの反響を通してすごく感じています。首都圏で働くさまざまなプロ人材の方たちにアプローチした際にまず言われるのが、「こういう選択肢があるんだ」と。「地方に転職してみようだなんて考えもしなかった。でも確かにこういう選択肢はあるし、こういうビジョンを持ったメディアがあるのならもっと早く知りたかった」という言葉をいただくことが多々あります。
“人生100年時代”と言われ世の中の風潮も大きく変わってきている中で、東京の大企業で定年まで働き続けることが果たして幸せなのか?という懐疑的な思いを持つ人が、この1、2年で特に増えてきたのではないかと。そういった流れの中で、地方という選択肢を我々の方から提示することで、意欲的に手を挙げてくださる方が随分と増えてきました。

弊社主導のもとで、首都圏で働く管理職者に向けた意識調査というのを行なっているのですが、今では半数近くの方が「地方で働くことに興味がある」という結果が出ています。また、そこに魅力的なオファーがあればすぐにでも転職したいという方も、2割近くいらっしゃる。地方企業からしたら、そういう方たちと出会える大きな可能性が広がっているということですし、そこをうまくマッチングさせ地方に人が流れる仕組みを作れれば、東京一極集中是正、ひいては地方創生に向けて大きな前進になるのではないかと思います。

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舵を取り、血を送る。地方という舞台ならではのダイナミズム。

−貴社小城代表も「東京の歯車から地方の心臓へ」というスローガンを掲げておられますが、地方企業で働くメリットや得られるビジネスフィールド、キャリアについてお聞かせください。

我々が「心臓」と表現している意味合いについてなのですが、地方企業へ幹部候補人材として転職した場合、企業の中核として大きなミッションを与えられ、社長と二人三脚で企業変革に取り組むような重大な役割を担うことが本当に多い。一方比較として「東京の歯車」という表現を用いていますが、大企業では分業化され、裁量もある程度絞られ、縦割りの組織ゆえに社内の意思決定プロセスも非常に時間がかかるということからすると、対照的に地方企業では、本当に自分自身の動きが企業を変え、且つ事業としての手触り感も得られ、舵を取り血を送るダイナミズムを感じることができる。そんなフィールドがあるということが、地方企業ならではの魅力だと思います。
さらにその地方には地場に根ざした企業も多いので、企業が発展することでその地域自体も活性化していくことが往往にしてある。自身の活躍が企業を発展させ、地域の未来にまで繋がっていくという点が、ビジネスとしても非常に面白いフィールドだと感じています。

−確かに、地域の未来を背負っている地方企業は多いですよね。だからこそオーナー様の覚悟も大きくて。

そうですね。オーナーさんも社員を守るというのは大前提として、さらにその先に、どうしたらもっと地域を盛り上げていけるかという視野を持っていらっしゃる方が非常に多いです。
「地方創生」という抽象度の高いキーワードに対し、最も直接的に、ダイナミックに携われるのが、地方企業への転職だと思うんです。地方企業に入り、自身の活躍が企業の成長となり、企業の成長が地域の発展となるわけですから、地方を元気にさせる最も直接的な手段なのではないかと思います。実際に、地域の防災機能を考えたり、地域の保育環境を整えるために事業を立ち上げられたり、ビジネスメリットがないところまで手がけられる企業が地方にはいくつもあって、本当にその地域に根っこを張って、未来を牽引していこうという気概が感じられます。地域を巻き込みながら、一緒に変革していくという醍醐味が、地方企業にはあります。

転職に伴う不安要素を、いかに払拭するか。

−なるほど。とはいえ、どうしても地方転職につきまとう不安というのはあるかと思います。求職者の方から、たとえばどんな声が挙がりますか?

たしかに、どんなに高い志があろうとも、いざ地方へ転職となるといろんな不安がつきまとうのは当然で、実際はなかなか踏み切るのが難しいものです。
やはり転職に伴う「移住」、ここが大きなワードとして出てきます。故郷に帰るという場合であれば別ですが、我々のメディアに訪れてくれる大半の方は、「この地域に住もう」というところまでは定まっていない状態です。というのも、魅力的な企業やミッションがあればチャレンジしたい、というあくまで“キャリア軸”で地方を視野に入れているから。逆をいえば、たとえ魅力的な企業があったとしても、その地域に対する知識も縁もないわけなので、家族を共にしライフスタイルが大きく変わることに不安を抱くのも事実です。また、ご本人は前向きであっても、奥様に反対され思い止まってしまうケースもよく目にします。
あとは、地方企業となると社長との距離もすごく近くなるので、社長との相性が合うかという点を気にされる方も多い。もちろんそのあたりは、面接の中で丁寧にすり合わせながら進めていくのですが、どうしても一歩踏み出す勇気が出ないという方もいらっしゃいます。

−私たち編集部も、実際に首都圏から地方へ転職された方にお話を伺うと、皆さん口を揃えて仰るのが「面接にすごく時間をかけてもらい、オーナーさんの人柄がよくわかって、そこに腹落ちして決めた」と。

そうですね。やっぱり地方に行くという人生の岐路に立ったとき、不安要素を挙げればキリがないですし、家族がいる場合自分だけの問題でもないわけで、いろいろなものを巻き込み環境を大きく変化させるということに躊躇するのは当たり前のことだと思います。
でも、首都圏で場数を踏んで、豊富な経験とスキルを持ち合わせた方は地方では本当に引く手数多で、皆さんが想像している以上に、必要としている企業が溢れています。

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「地方×副業」がもたらす可能性と、働く側のメリットとは。

−そういった不安要素を払拭するために、今は「副業」で地方に関わってみるという選択肢もありますね。「副業」が地方にもたらす可能性については、いかがでしょうか。

負の要素がある中で、それでもやっぱり興味はあるし、いつか地方に行くという選択肢をよりリアルに考えてみたいという方は大勢います。我々はそういった方々に向けて、「週一、地方で副社長をやってみませんか?」というメッセージを発信しているのですが、フルタイムで週5日の固定稼働をしなくとも、たとえばその企業の性質に合った人事制度をつくるとか、スポットでその副業人材の知恵を借りることで、一気に売上が伸びたり、企業自体が大きく変わるような、そんな経営課題が地方企業にはたくさんあります。
また、副業は働く側にとってもメリットが多いと思います。これまで縁もゆかりもなかった土地に副業を通して何度か足を運ぶことで、旅行や観光で行くのとはまた違うその地域の魅力を感じることができ、「ここで暮らす」ということにリアリティを持てるようになる。
副業を経験した方からは、「本業よりもよっぽどワクワクしながら取り組める」ということもよく言われますし、週一回の支援を通して、地方企業で働くことのダイナミズムを感じることができるのは、非常に魅力的だと思います。
いきなり転職となるとなかなかハードルが高いけれど、副業で週一くらいから携わることで、まずは一つ低いハードルを飛び越えていただく。その経験を通して地方で働く魅力を直に感じてもらうことが、より地方創生に携わりたい、地方に行きたいという方を増やすきっかけになるのではという想いのもと、今まさに「副業」を強く推進しています。

−先ほど仰っていた、“スポットで副業人材の知恵を借りる”ということについて、専門性を持っている方のほうがより地方企業からのニーズは高いのでしょうか?

もちろん、スペシャリストのニーズはありますが、今我々が支援しているのは中小企業のオーナーが抱える課題解決なので、何か尖ったITスキルが必要とか、優れたデザインができるとか、そういうことではありません。
具体的な話でいうと、いま副業として3つの推奨テーマを掲げていて、1つは「新規事業開発」。新たな事業づくりに向けて、オーナーさんの頭の中にあるアイデアを具現化し、企画からどういう形で進めるかまでを副業として解決してくれませんか?というお題。
もう1つは「マーケティング戦略」。地方には良い商材やプロダクトを持っている企業がたくさんあるんですが、それをどう売ればいいのかわからないという課題も多い。ECサイトや海外展開なども含め、販路開拓に向けた具体的なアイデアだったり、戦略を一緒に考えてほしい、というのがこのテーマのお題。
最後は、どの地方企業も悩まれる大きな課題、「人事戦略」。特に、従業員規模が最初は10名20名だったのが、そこから3倍4倍と増えていくと、従業員の満足度を上げつつ組織活性していくにはどうしたらいいのか、自分たちだけでは術が見出せなくなってしまう。評価制度を設けたり、社員の研修・育成のためのマニュアルを考えたり、働き方改革に向けた規定をつくったり、皆さん考えはするものの、じゃあそれを実行できる経験豊富な人事部長を採用するかというと、やはりそこは一気にハードルが高くなってしまう。でも、やはり社員のパフォーマンスやモチベーションは上げたいし、離職率も下げたいというのがオーナーさんの悩みなので、そこは副業へのお題としてかなり出てきます。
この3つのテーマを軸に、首都圏の企業で経験がある方を対象として、まずは副業から地方企業変革を、という方針で進めています。働き方は、週一テレビ会議を行ったり、本業の隙間時間でワークをしてもらったり、毎週報告書をあげてもらったり、さまざまです。

−そこで人脈が構築されていくというのも、労働者側にとっては非常に大きな利点ですよね。

そうですね。当然そこにネットワークができていきますし、“この地域ならではの働き方”みたいなものもリアリティを持って感じられるでしょうし、そこでの関係性をもとにある種“お見合い”を経て、居心地がよければ副業先企業はもちろんその関連企業も含めて、“結婚”という形で自ら転職という道を選ぶこともできますし。だからこそまずはその第一歩として、「副業」というかたちで地方に関わっていただくという取り組みを進めたいなと思っています。

>>>後編:「副業」という新たな選択肢で挑む、地方創生と日本の未来へと続きます。

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