安倍政権が2014年に「地方創生」を打ち出し、国を挙げた東京一極集中是正への取り組みが始まって早6年。今では、地方創生や地域貢献に興味を持ち、培ってきた知識や経験を活かすべく高い志のもと地方への転職や副業を試みるビジネスパーソンが増えています。前編では、GLOCAL MISSION JobsおよびGLOCAL MISSION Times編集長の高橋寛に、地方転職の現状やこれまでの取り組みについて語ってもらいました。後編では、「地方×副業」の可能性、副業を通して得られる企業側・労働者側双方のメリットについて伺います。
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地方創生のいま。令和時代に進化する、地方との新たな関わり方
地方創生における「関係人口」への期待。
−まずはじめに、政府主導にて行われている「関係人口」創出・拡大への取り組みについてお聞かせください。
令和2年より、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の第2期実行フェースが始まるわけですが、戦略における大きなキーワードが「関係人口」です。東京一極集中是正に向けてさまざまな施策が講じられていますが、前述の(前編でお伝えした)通り、地方への移住はなかなかハードルが高く、むしろ東京一極集中が加速してしまっているのが現状です。その流れを逆回転させるために、まずは地域との関係を持ってもらい、今まで縁もゆかりもなかった地域に対して関心を深め、その地域のために何か貢献しようという人を増やすこと。そういった人が増えることが、結果としてより地方に人の目を向け、東京から地方へ人が動く流れをつくれるのではないかというのが、この「関係人口」の考え方です。
政府は今、「東京圏転入超過ゼロ」という目標を掲げておりますが、短期間で効果を上げるのはなかなか難しいため、そこを突破口にしていかないと構造自体が変わりません。なので、政府は2020年度より、東京圏に住みながら地方で兼業や副業をする人に交通費を支援する取り組みを始めますし、いま我々がお付き合いをしている「プロフェッショナル人材戦略事業」でも、副業を推進するよう内閣府からの指令が出ています。
副業解禁の動きを後押しする、ビジネスパーソンの志。
−そういった戦略に対し、首都圏のビジネスパーソンは、地方で副業を行うことに対してどのような意識を持っているのでしょうか?
副業に関するアンケートは世の中に結構ありますが、どんなアンケートをとっても7割くらいの方が「興味がある」という回答をしています。先ほど(前編でも)申し上げた、弊社独自のアンケート調査でも、首都圏で管理職として働く方の51%が「月に1〜3日の地方企業で行う副業」に対し「興味がある」と答えています。特にこの一年、大企業を中心に副業解禁の動きが大きく進んでおり、働き方の変化に伴って、副業に対する興味や副業で地方に貢献したいという人が非常に増えてきている印象を受けます。
−副業への関心をオープンにしやすくなったというところもあるのでしょうね。
そうですね、これまではどちらかというと副業=ネガティブなイメージでしたが、今では東京圏を中心にすっかり副業というスタイルが浸透してきました。政府の推進もあって企業側の制度も整ってきましたし、自分自身の成長や経験を活かす場として副業を求める方が増えているんじゃないかと思います。
前述の首都圏の管理職者を対象とした意識調査によると、副収入が目的という人は4割程で、もちろん副収入も一つの理由ではあるものの、残りの約6割の方はそれ以上にやりがいを求めています。その背景として、大企業には組織の縦割り文化があるので、本当にやりたいことがあってもなかなかそのバッターボックスに立つことができず、くすぶっている方が多いのではないかと。一方、副業であれば、自らチャレンジしたいミッションやテーマにすぐにアプローチすることができる。地方企業に副業で携わられている方にもお会いするのですが、皆さん本当にイキイキとした顔で働かれています。
あとは、故郷に貢献したいという想いのもとで副業にチャレンジされるケースもあります。故郷に帰って定住するのはなかなかまだ難しいけれど、リモートでその地域の企業を支援することで、故郷をもっと元気にしたいという、そんな想いを持つ方もたくさんいます。
地方ならではの組織課題が、優れた人材の応募を集める。
−具体的に、どんな方が副業案件に応募されるんですか?
前述の、我々が推奨しているテーマに基づくところもあるのですが、オーナーさんが悩まれている経営課題に対して、実務として経験を積まれ、いろいろと試行錯誤しながらも課題解決に取り組まれてきた方というのが非常に多いです。月5万、10万程の報酬にも関わらず、立派なキャリアでどこからも引く手数多のような人材が、地方企業に貢献したいという想いで多数応募されてきます。
応募者の経歴を見てオーナーさんがよく仰るのが、「こんな人、採用では絶対に来てくれないよね」と(笑)。先日も鹿児島のとある企業に伺った際に、その企業の幹部の方が「これまでは、人と知恵が足りなく本当に鎖国状態でした」と仰っていて。それが、この副業という新しい人材活用手段ができたので、途端に外交が始まったような感覚とのことでした。その鹿児島の企業では、世界的に有名な企業の第一線で活躍しているような方が、本当に親身になって知恵を貸してくれているとのことで、副業人材の活用にものすごく満足されていました。
−なるほど。ハイキャリアとなると、やはり年齢層も高くなるのですか?
いえ、30代から50、60代まで結構幅広いです。採用だと、どうしても年齢も一つの採用条件になりがちですが、副業の場合は“これができる”という経験とスキルが最優先なので、年齢に捉われず活用しやすいというのも一つの特徴ですね。
副業活用で得られる企業側のメリットと留意点。
−副業プロ人材を活用することで得られる、企業側のメリットはどんなことでしょうか?
地方企業は本当にさまざまな経営課題を抱える中で、それを解決できる人材が社内や地域にそこまでいらっしゃらない。そこに対して、月数万円の投資で副業を導入することで、優秀な人材や知恵を借りることができる。採用となると、年収、さらには紹介手数料なども含め数百万円かかる上に、雇用という形になるのでもしも合わなかったとしても簡単に解雇はできません。しかし、副業であれば一つのテーマが終わればそこで契約を終了してもいいですし、次のテーマに向けて継続することもできる。導入する企業側にとって、非常に柔軟に活用しやすい点もメリットではないでしょうか。
現在協業している企業と共に集計したデータによると、いま、副業人材を活用したい会社と副業をやりたい方との割合は4:1なんです。採用マーケットでは「売り手市場」と言われて久しいですが、副業となると途端に圧倒的な「買い手市場」になるわけです。企業側は優秀で経験豊富な人材を数多の中から選ぶことができる。そんなチャンスが転がっているのが、いまこの瞬間の副業マーケットというわけです。
このように副業人材の活用で得られるメリットについて我々もよく見えてきているので、内閣府とも密に連携を取り、GLOCAL MISSION Jobsというメディアもうまく使いながら、「副業」を大きなテーマとして掲げ、地方企業の経営課題解決に努めていきたいと思っています。
−企業側にとっては今がまさに、副業人材活用の狙いどきというわけですね。
そうですね。ぜひこの「買い手市場」のうちにチャレンジいただいて、外部の人や知恵を活用する手段が選択肢としてある、ということを知ってもらうことは、非常に有意義なのではないかと思います。
−まさに鎖国を解き放つ最先端の手段ということですね。あとは、基本的にリモートでのワークになるので労働管理も難しいと思うのですが、そういう点でのトラブルはありますか?
副業人材は皆さん志が高いので、そんなに多くはないですね。もちろん最初の期待値調整はすごく大事で、ここでしっかり握れていないと後々トラブルに繋がりかねないです。活用する企業側と副業人材本人との、“どこまでやるか”というすり合わせを丁寧に行っていただく必要があります。アウトプットの形はもちろん、どういうコミュニケーションスタイルで月に何回訪問するのか、実際にどれくらい稼動できるかなど、最初にしっかり目線合わせをしておくことが、スムーズに案件を進める上で重要となります。
−なるほど。そういったところが、活用する企業側の留意点なのですね。高橋さんもオーナーさんに直接アドバイスされるのですか?
そうですね。副業を活用する側も、従事する側も、お互いにとって初めてのことが多いので、そこは結構丁寧に、面談で聞くべきポイントやメールでのフォロー術など、アドバイスさせていただいています。
多くの人が助っ人となり地域を元気にする仕組みをつくりたい。
−副業のコンサルのような。高橋さんがやられていることも、これからの時代ますます求められていきそうですね。
そうですね。まだ地方副業というマーケットがあって無いような状態で、これからまだまだ、チャレンジする余白はあると思います。副業人材を活用してもらうことがゴールではなく、副業活用により企業が発展しなければ意味が無いと思っているので、我々も日々試行錯誤しながら取り組んでいます。地方企業ならではの副業モデルのかたちも見えてきているので、さらにブラッシュアップさせながら、より首都圏人材が気軽に地方企業を支援できるような仕組みを内閣府と一緒につくっていきます。
労働者側にとっても、“会社に行って働く”という形では無い働き方をこの大きな環境変化のもとで体験し、「こういう働き方でもパフォーマンスを発揮できる」という感触を多くの方が持ったときに、副業の可能性もより広がっていくと思います。副業を通して自分のやりがいや成長を感じてもらい、ひいてはそれがスキルやキャリアに繋がり、本人の市場価値も高まる。自分の可能性をいろいろなフィールドで広げていく、そんな時代へ一気に進んでいくのではないかと思います。
−最後に、高橋さんご自身がこの先目指したい姿や世界観についてお聞かせいただけますか。
冒頭の話に戻ってはしまうのですが、地方には本当に魅力的な企業も環境もあるのですが、とにかく人と知恵が足りない。我々はGLOCAL MISSION Jobsというメディアをつくっているわけですが、メディアというより社会インフラ、すなわち地方に向けて人や知恵が流れる大きなバイパスづくりだと思っています。現状主軸にしているのは「地方転職」と「副業」ですが、そこを起点に、たとえば事業継承や空き屋問題など、いろいろな地域課題を解決するためのプラットフォームに進化・昇華できるのではないかと思っています。このバイパスを通じて、いろいろな人が地方の助っ人となる。それくらいの可能性を秘めていると自負していますし、そう思うようになったのは、地域に対して貢献したいという想いを持った方が相当数いるということを知れたからです。
人と知恵と地方をつなぐ道をつくり、その道をどんどん太くして、地域を元気にしたい。日本社会の明るい未来に向けて、どんどん進化させていきたいと思っています。