ウィズコロナ時代に関係人口で考える地方創生③ 副業・兼業などの人材流動化により地域の活性化へ
亀和田 俊明
2021/03/04 (木) - 07:00

国土交通省など4府省や地方公共団体、民間企業も参加し、都市と地方など二つの生活拠点を持って暮らす「二地域居住」を促進する「全国二地域居住促進協議会」が3月9日に設立されます。さまざまな施策や事例等の共有・発信により、定期的な滞在を通じて将来の移住も促していくといいます。副業を通じ地域企業に携わる東京圏の企業人材も増えてきていますが、地域企業の後継者不足や副業人材の活用、都市人材と地域企業をつなぐ副業の仕組みなども交え「副業・兼業」など人材流動化による関係人口、地方創生について考えてみたいと思います。

副業・兼業など「しごと」を通じ企業人材の地域展開促進

「令和3年度予算(案)」の概要が明らかになりましたが、「地方創生の推進」の項では、「企業人材等の地域展開促進事業」が計上されています。概要では即戦力の企業人材と地域企業とのマッチング支援の「プロフェッショナル人材事業」を強力に展開していくため、人材の供給元となる大手企業等における副業・兼業を含めた多様な形態での働き方に関する理解の増進、オンラインセミナー等の開催による企業経営者等への意識醸成、コロナ禍における人材市場の実態を把握し、外部人材活用の有効性を地域企業に広く発信する等を行うとしています。

地方創生において柱の一つである「関係人口の創出・拡大」ですが、副業・兼業など「しごと」を通じた地域との関わりの創出は重要なテーマです。2020年にプロフェッショナル人材事業への応援の拡充とともに、「企業人材等の地域展開促進事業」として、副業・兼業を通じた東京圏の企業人材による地域での活躍を促進するため、プロフェッショナル人材戦略拠点の全国事務局機能の強化が図られました。人員を倍増し500人体制にするとともに、地方での副業・兼業等に要する移動費を3年間で最大150万円支援するなどに取り組んでいます。

【事業の全体像】8938_02.png (105 KB)(出典:内閣府「プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト」より)

地方においては東京圏へ労働人口が流失し、働き手不足が深刻な上に経験やスキルを備えた優秀な人材も都市部に比べ少ないのが現状です。コロナ禍で地方移住や副業に対して関心が高まるなか、副業で都市人材を地域企業が活用できることは好機といえます。現在、都市部で副業を希望する企業人材は約400万人ともいわれますが、実際に副業に関わるのは約1%程度とまだまだ少ないのが実情です。政府の支援や人材ビジネス事業者の取り組みなどにより都市部での仕事と並行しての地域企業での副業は、さらに高まるでしょう。

これまで地方で都市人材を副業で活用できるという情報が乏しいことや受け入れ側の事情もありましたが、地域企業は、副業・兼業用の仕事を積極的に供給することにより、地方にとって必要とする人材を容易に得やすく、人材不足解消にもつながります。今後は受け入れ側の企業ニーズの掘り起こしもありますが、ガイドライン改訂や法改正等により人材の供給側となる首都圏の企業の理解の下、副業・兼業を含めた多様な形態の人材活用を図ることが望まれます。移動費など支援を得て地方との関わりを持つ都市人材が増えることが期待されます。

60歳以上の中小企業経営者の5割以上が後継者難で廃業も

昨年来、新型コロナウイルス感染症の拡大により日本経済を下支えしてきた地方経済も大きな打撃を受けています。特に観光業に頼ってきた地域では深刻といわれています。東京商工リサーチの調べでは、長期化した際には九州や沖縄の中小企業の約8%が廃業を検討する可能性があるといいます。業種別の廃業検討率においても「農業」(40%)に次いで「宿泊業」(37.5%)が挙げられているほか、製造業も経営者が高齢化して後継者難に悩む中小企業は多く、長期化すれば事業継続にも暗い影を落としかねない状況にあります。

一方で、中小企業庁によれば、後継者不足などを理由に休廃業する中小企業・小規模事業者の約60万社が黒字といいます。事業承継の課題として挙げられるのは、後継者難によって多くの中小企業が廃業する可能性が高まっていることです。60歳以上の中小企業経営者のうち、5割以上が廃業を予定しており、個人事業者に限れば約7割にも上ります。日本政策金融公庫の「引退廃業者の実態」調査では廃業する理由は下表の通りですが、家族などを含め後継者候補がいないことが約3割もありました。

【廃業の理由】9054_02.png (7 KB)(資料:日本政策金融公庫)

また、人材不足に悩む地方にとって都市人材、知見は中小企業の課題解決につながる可能性があります。大手企業を中心に副業解禁の動きが大きく進んでおり、政府も働き方改革として推進していることから企業側の制度も整って、各社は業務に支障のない範囲で副業を認めるようになってきています。特にコロナ禍で業務が減少した企業には社員に副業を促すところもあり、今では、東京圏を中心に確実に副業というスタイルが浸透し、働き方の変化に伴って副業に対する興味や副業で地方に貢献したいという人が大幅に増えてきています。

副業人材の活用で関係人口の創出と地域産業の活性化

さて、地方都市にとって自治体が副業人材を活用することは、市内の企業における副業解禁、受け入れ推進事例として先鞭をつける上でも大きな意味があります。自治体として初めての試みは、2017年11月から戦略顧問を募集した広島県の福山市でした。定員1名に対し、全国から395人の応募があったといいます。副業や兼業といった新しい働き方で働き手不足に対応する同市の取り組みは、消極的な地元企業が多かった自治体で副業人材を活用することにより課題解決を図って成果を上げるという前例をつくりました。

【2020年の主な地方自治体の副業・兼業の採用実態】9054_03.png (24 KB)(資料:各自治体の資料を基に筆者作成)

また、早くから関係人口の創出に取り組んできた富山県南砺市は、2018年9月に南砺市商工会、スキルシフト(現みらいワークス)と地域の中小企業の人材確保支援に関する包括連携協定を締結し、「副業応援市民プロジェクト事業」を展開しています。都市部の副業人材と地域企業のマッチングに取り組むことで関係人口の創出・拡大や地域産業の活性化、さらに移住者の増加も視野に入れています。背景には、地域企業に事業拡大のノウハウやスキルを持つ高度人材が少ない、そうした人材を継続雇用する企業体力が不足していることがありました。

同事業は2018年から2019年にかけて32件の募集が行われ、職種は「経営企画」が11件で最も多く、次いで「営業企画」の8件でしたが、2019年末までに318名の応募があり、17名が採用され、1名が移住につながったといいます。採用企業からは事業承継や戦略立案、新規事業等の課題に対し成果を上げるなど評価を得ています。副業人材の理解が進む一方で、利用意欲のある事業者が少なくなっているという現状があり、今後、南砺市では副業人材活用を希望する事業者発掘のため、金融機関や各種団体とより連携し周知を進める必要があるとしています。

9054_04.png (78 KB)(出典:南砺市資料より)

地域企業は経営課題の解決と専門人材の採用が鍵

GDPの7割近くを三大都市圏以外が占めるという統計があります。日本経済を支えているのは地方経済であり、地域企業ですが、モノや技術はあるものの、一方でヒトと知恵が十分とはいえない企業も多くあります。社長が課題解決をする際に頼れる人材がいなく、全て自分で対応せざるを得ない状況になっているのが地域企業の現状です。都市人材が入社したものの、スキルを活かしきれないという実態や募集をしたのに応募がないという現実も少なくありません。

前述のように地方の中小企業にとっては、次世代を担う後継者問題、事業承継という大きな課題がありますが、一定期間で副業人材の知恵や経験などを借りることで業績が伸び、企業自体が大きく変わるような経営課題が地域企業には多くあります。先ずは抱える課題を整理し明確にする必要があります。下表は、地域企業が抱える主な課題と副業人材を募集するに際しての主な職種です。地域に少ない東京圏の優秀な人材を呼び込む好機でもあることから募集に当たっては、自己実現の機会を提供できるような要素や動機付けなども重要かと思われます。

【地方の中小企業の課題と募集職種】9054_05.png (8 KB) (資料:筆者作成)

働く側にとってもメリットは多くあります。縁もゆかりもなかった地域に副業で足を運ぶことで、観光とは違う地域の魅力を感じることができ、移住で住むことになるような土地で暮らすという現実感を持てるようになります。いきなり転職は壁が高いものの、副業で週1程度携わることにより壁を越え、経験を通し地方で働く魅力を肌で感じることができるでしょう。首都圏の大手企業でも副業・兼業を容認する流れが徐々に広がるとともに、働く人材も今までに培った経験やスキルを活かし地方での仕事に関わり地域貢献したいと考える人が増えています。

富山県南砺市では、みらいワークスと連携するなか、地域企業の副業人材の採用を支援していますが、地方自治体の表でも記載しましたように、さまざまな人材ビジネス事業者が個々にプラットフォームを運営し取り組んでいます。基本的な仕組みは、人材を募集したい地域企業は求人情報をそれらのプラットフォームに掲載して募集告知が行われ、都市部の副業人材の応募を受け付け、面談を経て採用が決まれば契約期間に副業として業務に関わることになるという地域企業と都市部人材を「副業」でマッチングするサービスです。

地域金融機関による取り組みで地方経済活性化に期待

地域金融機関の副業についての取り組みですが、みらいワークスでは、昨年12月に宮崎県延岡市と市内に拠点を持つ全金融機関7行庫と人材支援による地域企業の事業強化を目的として、『地域貢献副業人材活用プロジェクトに関する包括連携協定』を締結しました。今後、提携を通じて同市の地域企業と都市部の副業人材をマッチングすることにより人材不足解消と地域経済の活性化を目指すとしていますが、現在、同社は24地域金融機関と地方転職・副業人材の活用を推進しており、さらなる広がりが予想されます。

地方圏の信用金庫や地方銀行などの地域金融機関にとっても地方経済の活性化につながる地域企業にとっての副業人材の活用は、特にコロナ禍で打撃を受けた中小企業においては、重要な取り組みです。地方自治体や取引先とのネットワークを通じ、各地域の事情に精通していることから、地域企業の新規事業開発や業務改善、販路開拓などさまざまな経営課題等を把握している地域金融機関が、人材ビジネス事業者等との連携により企業の成長戦略を全面的にサポートする先導的・モデル的な事業を展開していくことが期待されています。

地域企業と副業について述べてきましたが、副業を導入することで優秀な都市人材や知恵を借りることができます。副業であれば一つのテーマが終われば契約を終了でき、次のテーマに向けて継続することもできます。導入する地域企業にとって非常に柔軟に活用しやすい点もメリットです。マッチングサービスの活用により、企業側は優秀で経験豊富な人材を応募者の中から選ぶことができますが、副業を活用する側も従事する側も互いに初めてのことが多いので、問題なく成果を上げるためにも擦り合わせを丁寧に行う必要があるでしょう。

地域企業で副業・兼業をすることによって地方と関わる「関係人口」を増やしていくことは、地方へ人や資金の流れを作るための有効な手段の一つとして政府も積極的に推進していますが、ウィズコロナ時代は「働き方改革」によって人材流動が加速度的に進むと見られています。地方企業が必要としている都市部の豊富な知見やネットワークを持った優秀な人材が移住や転職を伴わずに貢献できる副業・兼業などの人材流動化が地方創生の鍵として期待されています。次回は、「ワーケーション」について考えてみたいと思います。

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