【地方都市の魅力】鳥取県・鳥取市 子育て世代に嬉しい自然と都市機能を備えたSDGs未来都市
亀和田 俊明
2021/09/27 (月) - 15:00

コロナ禍での地方移住への関心の高まりを受け、8月末に発表された総務省の2022年度予算の概算要求では、現在約5千人が活動中という「地域おこし協力隊員」を来年度は大幅に増員することや「移住交流情報ガーデン」の情報提供機能の強化や都市と農山漁村の交流支援など地方への新たな人の流れの強化に総額6億5千万円を盛り込む方針を固めたといいます。昨年4月から政令指定都市や中核都市について「移住と暮らし」という視点からさまざまな都市の魅力と実態をお伝えしてきていますが、今回は鳥取県「鳥取市」です。地方都市への移住を考える上で参考にしていただければと思います。

「2021住みたい田舎ランキング」若者部門3位、総合7位

鳥取市は、「ワーケーションからの企業立地」をテーマとして、地域が持つ資源から鳥取方式の先駆型ビジネスを創出し、地域課題を県外企業とともに解決することを目的に、県内外の事業者が利用するワークプレイスの整備を行う事業者を公募していましたが、8月に事業者が(株)スカイヤーに決まったといいます。鳥取砂丘西側玄関口に2022年3月開設予定のワーキングスペース「SAND BOX TOTTORI(サンドボックストットリ)」は、都市圏企業のサテライトオフィス、旅行者のワーケーションなどに活用可能なコワーキングスペースが整備されるほか、飲食の提供、体験型観光の情報発信、災害時の観光客や地域住民の避難場所としても活用予定といいます。

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「SAND BOX TOTTORI(サンドボックストットリ)」(画像提供:鳥取市)

さて、田舎暮らしの専門誌の調査で鳥取市は、「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」大きな市(人口10万人以上)総合部門では9年連続トップ10入りとなる第7位(2021年)でしたが、「若者世代が住みたい田舎」部門では3位、「子育て世代が住みたい田舎」部門は4位、と上位にランクインしているほか、「シニア世代が住みたい田舎」部門でも15位でした。なお、ふるさと回帰支援センターの2020年の「移住希望地ランキング」では、「セミナー参加者」部門で、鳥取県が16位にランクインしています。

日本一広い砂丘、「鳥取砂丘」で知られる鳥取県。北には透明度が高く、水質も良い日本海、南には中国山地が控えていますが、因幡地方の鳥取市は海や山など自然環境へすぐにアクセスでき、かつ都市機能を備えた人口約19万人の県庁所在地のコンパクトに暮らせる街です。全国でも珍しい市街地にある「鳥取温泉」など市内には温泉が多くあるほか、都市部から20分も車を走らせれば雄大な自然に触れることができ、子育て世帯には嬉しい環境が整っています。

鳥取市は全域が日本海側気候で、春から秋は好天の日が多く、冬は曇りや雪、雨の日が多く、「弁当忘れても傘忘れるな」という言い伝えも。東京や大阪より気温は2度前後低く、11月から4月ごろまではこたつやストーブが欠かせないといいます。年間の日照時間の合計値は1669.9時間、年間の降雨量は1931.3mmと平均的で、温和な気候です。1991年から2020年までの平均気温は下表のように15.2度で、2020年は15.9度と上昇。

鳥取市の平均気温(1991~2020年)

空路は鳥取駅からリムジンバスで20分ほどの近距離に鳥取砂丘コナン空港がありますが、羽田空港まで約70分と、東京都心部へも好アクセス。ちなみに、空港内の駐車料金は無料です。陸路は、東西に細長い鳥取県の海岸沿いを走るJR西日本の山陰本線と山陰地方の東の玄関である鳥取駅が起点となる因美線の2路線、若桜鉄道や智頭急行の列車も因美線を経由して乗り入れています。大阪までは特急で最速2時間24分です。

鳥取空港の乗降客数(2020年)

また、鳥取自動車道をはじめ、海岸線沿いを走る山陰道など県内の高速料金は全線無料となっているので自家用車があると大変便利な上、大阪までも2時間半です。なお、降雪量は少ないものの、スタッドレスタイヤは必需品です。市内の路線バスは日交バスと日の丸バスが運行していますが、100円で循環するコミュニティバス「くる梨」が3コース、鳥取駅を起点に公共施設や病院等を約20分間隔で運行しており、市民の足として活用されています。

鳥取駅の1日平均の乗車人員の推移

若者をはじめ多くの世代に選ばれるまちづくりを推進へ

2021年3月に国土交通省から発表された鳥取県の公示地価は、全用途、住宅地、商業地のいずれもが中国地方5県の中で下落率は最大でした。住宅地でマイナス0.8%でしたが、この7年間で約12%も下落をみせているといいます。商業地でも前年より下げ幅が拡大して1.6%の下落となりました。コロナ禍で土地取引が控えめになっていたり、飲食店街やオフィス街、観光地などで価格の下落が顕著。なお、鳥取市の変動率は下表の通リです。

2021年の公示地価の変動率

鳥取市の事業所数は約9千、従業員数は約8万人で、中国地方では事業所数は8位。平成28年の経済センサスによれば、事業所数では、「卸売・小売業」(25.4%)が最も多く、「宿泊業・飲食サービス業」(12.6%)、「生活関連サービス業・娯楽業」(9.9%)、「医療・福祉」(8.8%)の順。従業員数では、「卸売業・小売業」(20.6%)を筆頭に「医療・福祉」(15.8%)、「製造業」(13.9%)、「宿泊業・飲食サービス業」(9.4%)が続きます。

鳥取市の事業所数・従業員数

鳥取市は令和3年度の予算編成に当たって、アフターコロナに向け「ひと・まち・しごと創生」の推進、デジタル化、防災・減災、地域共生社会の実現、妊娠・出産・子育て支援、連携中枢都市圏域が一体的に取り組む連携事業、SDGsの目標達成など、将来を見据えた持続可能な地域づくりを目指すとしています。重点配分の柱は下表のように、「重点施策の推進」「ひと・しごと・まち創生」「防災、減災、国土強靭化」「持続可能な財政基盤の確立」の4つです。

令和3年度の主な事業

また、同市は3月に「第11次鳥取市総合計画」を策定し、「鳥取市を飛躍させる、発展させる」というまちづくりの理念の下、「いつまでも暮らしたい、誰もが暮らしたくなる、自慢と誇り・夢と希望に満ちた鳥取市」を目指す将来像として掲げています。人口減少や少子高齢化などの課題に的確に対応し、地方創生を推進するため策定された「第2期鳥取市創生総合戦略」を構成する施策をどう総合計画に位置付け、「ひとづくり」「しごとづくり」「まちづくり」を戦略の柱として多くの世代に選ばれるまちづくりを総合的に推進する施策を展開するといいます。

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(出典:鳥取市「第11次鳥取市総合計画」より)

教育・医療も充実した子育て王国は女性就業率全国4位

鳥取市の社会動態をみると、下表のように2015年以降は転出超過が続いていますが、2018年をピークに271人に減少してきています。同市では移住希望者向けの情報収集・発信機能を強化するとともに、相談者へのきめ細やかで親身な対応を行うため、2006年に「鳥取市定住促進・Uターン相談支援窓口」が開設され、現在相談員3名を配置。2012年には首都圏(現在休止中)・関西圏に各1名ずつ相談員を配置したほか、2016年は「鳥取市移住・交流情報ガーデン」を設置し、移住定住コンシェルジュを3名配置するなど計7名の相談員体制により移住定住の促進を図っています。

鳥取市の転入者数・転出者数・転入超過数の推移

鳥取市では東京圏から同市への移住に当たっては、「鳥取市移住支援金」(世帯:100万円、単身:60万円)や県外から移住した若者夫婦への支援となる「鳥取市ふるさとでの新しいライフステージ支援事業補助金」をはじめ、将来的にUターンを希望される人をサポートする「Uターン支援登録制度」、Uターン登録者を対象に市内での就職活動に要する交通費の一部を補助する「鳥取市Uターン者就職活動交通費支援事業補助金」、さらに、「UJIターン者住宅利活用推進事業」、「お試し定住体験事業」等さまざまな移住者への支援策が講じられています。

待機児童数は2006年以降ゼロで推移しており、市内に地域子育て支援センターが13ヵ所、病児・病後児保育施設は5ヵ所設置され、子育て環境も充実しています。人口あたりの保育所と地域子育て支援センターの設置率が高く、県の医療費助成制度は18歳までが対象となり、通院の場合、自己負担金の上限が1日530円。出産費用は全国で最も安い396,331円(2016年)でした。子育てに関する情報は県が運営する「子育て王国とっとり」が便利です。

鳥取市「子育て安心プラン実施計画」

鳥取県は女性就業率も育児をする女性の有業率も全国4位ですが、鳥取市内には女性・中高年者・高齢者の就業支援と中小企業の人材確保を強化するために一元化した「ミドル・シニア・レディーズ仕事ぷらざ」があるほか、仕事と子育ての両立をサポートするマザーズコーナーがハローワーク鳥取内に設置され、キッズスペースなどがあるので子ども連れでも安心。「働く女性のストレスが少ない県」全国1位(2019年)と女性が働きやすい環境が整っています。

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鳥取県の人口規模あたりの病児・病後児施設数は全国4位ですが、鳥取市内の病院数、医師・看護師数も全国平均を上回る医療環境に恵まれています。休日・夜間の軽症の救急患者の医療を確保するため、東部医師会急患診療所に休日夜間急患センターが設置されているほか、救命救急センターは鳥取県立中央病院に整備されています。県内の医療情報は「とっとり医療情報ネット」にまとめられています。

鳥取市は、森記念財団都市戦略研究所が経済規模や文化度などを都市力として138都市を対象にした「日本の都市特性評価2021」によれば、総合ランクでは56位ですが、環境分野は自然環境の満足度や都市地域緑化率などが高く8位、生活居住分野は子どもの医療費支援や保育ニーズの充足度、住宅の広さなどが評価されて44位。アクターズ別スコアでは、シングルは37位ですが、ファミリーは23位と上位でした。

5月に鳥取市は、SDGsの達成に向けた優れた取組や提案を行う自治体として「SDGs未来都市」に選定されました。『サステナビリティ×イノベーションで「農村から真の持続可能なまち」を実現する』が優れた内容と認められたもので、今後、市民や企業、団体等の多様なステークホルダーと連携・協働しながら、「生産性の高い次世代農業の育成支援」「新たな電源供給モデルの実用化支援」「新たなワーケーションプログラムの創出支援」など、具体的な施策を進めていくといいます。

さて、全国で最も人口の少ない鳥取県ですが、2020年の移住者数は2000人を超えています。冒頭の「住みたい田舎」ランキングでも分かるように、鳥取県も鳥取市も子育て世代を中心に移住地として高い人気を得ています。それは、県や市の移住者のための施設や施策が充実しているからでしょう。人口減少や少子高齢化が進行するなか、持続可能な地域づくりを目指すため、若者の定住につながる就職支援や子育て支援、企業誘致などの施策に取り組んでいますが、妊娠・出産、幼少期から学童期へと、それぞれのステージに寄り添った子育て支援体制が整っており、「日本一子育てがしやすい」といわれる鳥取市は、地方都市への移住を考える上で有力な候補地の一つといえるのではないでしょうか。

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