地方移住や転職の推進に期待される「レビキャリ」第2回 「仲介役」となる地域金融機関を介した求人マッチング
亀和田 俊明
2022/02/09 (水) - 18:00

このほど総務省が発表した2021年の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2014年以降初めて東京23区は域外から転入した人数を転出者が1万4828人上回る「転出超過」となったことが分かりました。コロナ禍で地域への関心が高まり、2020年は東京郊外や神奈川・埼玉・千葉などへの転出が5割強を占めていましたが、今回の報告では北関東エリアが増えているほか、四国や九州など西日本への転出も顕著でした。移住という地方への新しいひとの流れが増えつつありますが、今回は大企業人材と地域企業がマッチングを行うための情報登録システム「レビキャリ」において、「人材マッチングの仲介役」となる地域金融機関を介しての求人マッチングの取り組みについて触れてみたいと思います。

地域金融機関に期待される中堅・中小企業への経営人材紹介

金融庁が2021年に約1万社を対象に実施した「企業アンケート」調査で、今後地域金融機関から受けたい支援を確認すると、経営改善支援を受けたいと回答した企業のうち、「経営人材の紹介」と回答した企業は18.6%で、「取引先・販売先の紹介」「各種支援制度の紹介や申請の支援」に次いで高く、手数料を支払ってもよいと回答した割合は、「経営人材の紹介」が47.1%と最も高く、人材確保に関する金融機関への期待も小さくないことがうかがわれます。

【今後金融機関から受けたい経営改善支援】   (複数回答)
image001.png (51 KB)
(出典:金融庁資料より)

現状の経営人材に関する企業の認識は、「経営人材が不足している」と回答した企業が66.6%で、多くの企業で経営人材が不足しているという認識がありました。さらに、「経営人材が不足している」企業のうち、「その人材要件が明確に固まっている」と回答した企業は10%程度にとどまり、金融機関が、企業が必要とする経営人材の要件を明確化し、そのニーズを顕在化させることができれば人材マッチングへ結びつけられる可能性が十分にあると考えられます。

また、直近の約5年間で「経営人材紹介サービス」を活用し、「経営人材を採用した」と回答した企業で、採用した経営人材の属性を見ると、年齢は下表のように30代~50代と回答した企業が74.6%、雇用形態では常勤雇用と回答した企業が91.0%と大半を占めていました。なお、経営人材の紹介者を確認すると、「民間人材紹介会社」と回答した企業が42.3%と最も高かったものの、人材マッチング業務に取り組み始めて日が浅い金融機関は約10%でしたので、今後、後述の地域金融機関による「レビキャリ」を活用した人材マッチング推進が期待されます。

【採用した経営人材の属性】
image002.png (71 KB)
(出典:金融庁資料より)

「先導的人材マッチング事業」へは87地域金融機関が参画

2018年3月に金融庁の監督指針改正を受けて以降、取引先企業への経営改善支援サービスの一環として、人材紹介業務に取り組む金融機関が増加しています。地域金融機関が主な担い手として期待されている二つの施策は、2020年度から開始された内閣府の「先導的人材マッチング事業」と同様に同年度から始まった金融庁の「地域企業経営人材マッチング促進事業」。そして、後者の事業において2021年10月から本格的に稼働している地域経済活性化支援機構(REVIC)に整備された大企業人材の情報登録システム「レビキャリ」があります。

日常的に地域企業と関わり、その経営課題を明確にする役割を担う地域金融機関が経営人材等のマッチングを行う取り組みに対して成果に連動した補助を行う施策の「先導的人材マッチング事業」へは、下図のように全国で80以上の地域金融機関が提携する職業紹介事業者等とコンソーシアムを形成し参画しています。業態の内訳としては、第一地銀等が58行、第二地銀が20行、信用金庫が9行で、令和2年度の補助金交付の対象となる成約件数を見ると、「常勤雇用」が312件、「常勤雇用以外」が346件の計658件でした。令和3年度に入り、金融機関のノウハウ向上等により「常勤雇用「常勤雇用以外」ともに、昨年度対比で倍以上の成約をあげ、着実な増加傾向となっているようで、今後の更なる推進が期待されます。

【令和3年度先導的人材マッチング事業採択結果】
pic.png (549 KB)
(出典:金融庁資料より)

一方、金融庁の「地域企業経営人材マッチング促進事業」は、地域金融機関の人材仲介機能を強化し、転籍や兼業・副業、出向というさまざまな形を通じ大企業から地域の中堅・中小企業へのひとの流れを創出し、地域企業の経営人材確保を支援するものですが、前述の「レビキャリ」に登録されている大企業人材リストを活用して経営人材を獲得した地域企業にはREVICから一定額の補助を行うほか、大企業人材に研修・ワークショップの機会を提供するのが特徴。

継続的なフォローと定着支援が地域金融機関の取り組みの特徴

昨今、多くの企業が経営者の高齢化から事業承継の時期を迎えている中、後継者や企業幹部といった経営人材の不足が大きな課題となっていますが、こうした経営人材の不足に対応できない場合、地域の中堅・中小企業の廃業が増加することも考えられ、地域金融機関の経営基盤への影響も懸念されます。また、コロナ禍で事業環境が大きく変化する中、地域の中堅・中小企業にとっては事業内容の見直しやDXなどに対応できる実務家や専門人材も求められています。

地域金融機関にとって人材紹介は取引先の地域企業に提供するソリューションの一部であり、経営人材紹介は事業継続・承継や経営改善など取引先の課題解決に通じます。地域金融機関における人材マッチングのフローについては、以下のような流れですが、取引先企業への継続的なフォロー、人材要件を詳細に把握可能などキープレイヤーである地域金融機関のポテンシャルは高いものがありますし、一般の人材紹介会社と異なる地域金融機関の取り組みの特徴といえ、「レビキャリ」においても期待されるところです。

fig.png (14 KB)

現在、「レビキャリ」においては、さまざまな業種の大企業人材の登録が行われています。有料職業紹介事業の許可を受けている地域金融機関又は地域金融機関と提携している有料職業紹介事業者は登録されている大企業人材にシステム上でアプローチができるほか、今年1月からは大企業や求職者からも登録された求人票などデータベースを閲覧できる機能が実装され、求人票をもとに大企業から地域金融機関へオファーを出すことも可能になっています。

金融庁が2021年に地方銀行や第二地方銀行100行を対象に実施した「人材マッチング業務に関するアンケート」調査では、地域銀行等で有料職業紹介業の許可を取得していたのは72%でしたが、今後、許可取得の予定がある先も含めると約9割に上りました。また、人材マッチング業務を推進するにあたり、多くの地域銀行が「ノウハウの蓄積」を課題に挙げましたが、今後ノウハウの蓄積に向けた具体的取り組みが増えるとともに、有料職業紹介業の取得金融機関が増えることで、「レビキャリ」による人材マッチングも推進することでしょう。

少子高齢化や人口急減に伴い地域社会や地域経済など地方を取り巻く環境は年々厳しさを増していますが、新型コロナウイルス感染症の影響も相まって地域の課題はますます深刻化しており、コロナ禍で苦しむ地域企業にとって都市部の大企業人材の活用は必要不可欠な取り組みです。地域で果たす役割が高まる地域金融機関は、求人の掘り起こしや定着支援などに強みがありますので、「レビキャリ」を積極的に活用することにより人材マッチングも含めた地域企業の経営課題の解決支援に取り組むことが期待されますし、地域企業、大企業や登録者の4者にとって「レビキャリ」を利用することで、マッチングがうまくいけば皆、ウィンウィンになることでしょう。次回は地域企業で働き、活躍したいと考える都市部の大企業人材のネクストキャリアの選択肢について触れてみたいと思います。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索