【観光産業を盛り上げていきませんか?Vo.8】 ~地域における観光DXと副業人材の支援・活用~
亀和田 俊明
2023/01/30 (月) - 17:00

新型コロナウイルス第8波が猛威を振るっていますが、水際対策が大幅に緩和されたことにより10月の訪日外国人旅行者数は約50万人と前年同月の20倍以上に増え、「全国旅行支援」の実施で国内旅行者の移動も活発化しています。政府はコロナ禍で打撃を受けた観光・交通業界への支援がなお必要との判断から、旅行代金の割引率は現行の40%から20%へ引き下げられるものの、年明け以降も継続されることを発表しました。今後はポストコロナに向け一時的な需要喚起策だけではなく、観光業界を持続的に支える政策も期待されます。さて、今回は観光DXの現状と課題、そして、首都圏の30~40代のビジネスパーソンが仕事を続けながら地方の企業で働く副業について観光産業の事例も交え触れてみたいと思います。

課題解決へ個別事業者のDXから観光地のDXに移行

2021年に観光に関わる宿泊業、飲食店、その他の生活関連サービス業の雇用者数は他業種と比べ大きく減少しています。宿泊業に関わる旅館・ホテル支配人等が含まれる「接客・給仕の職業」の有効求人倍率も2013年の2.3倍から2019 年の4.0倍まで上昇しましたが、観光需要が激減したことにより2021年には1.9倍まで低下。宿泊業の人手不足の要因の一つである離職率も観光産業全体が低迷し、やや低下傾向となっています。観光のV字回復を図るためには、疲弊した観光地の再生・高付加価値化と持続的な観光地経営の確立を強力に推進するとともに、その中核を担う観光産業について、積年の構造的課題を解決し、再生を図ることが必要です。

しかし、生産性の低さ、デジタル化の遅れ等の構造的な課題を抱えており、これらを解決するため、DXを推進することが観光産業には求められています。DXについて、観光庁は令和4年度版「観光白書」で、「個別事業者のDXから観光地のDX」へ移行することを勧めています。これまでのDXでは、旅行会社、宿泊施設、飲食店などが、それぞれ自分の事業としてDXを推進していましたので、観光地のDXは滞り、観光業界は下表のように他業界に比べ遅れていました。昨年度からそれまで個別に進められていた観光DXも観光庁が強い働きかけをした結果、地域全体での推進を視野に入れ、各県・各市町村でモデル事業が進められています。

【DXの取組状況(業種別)】
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(資料:総務省「令和3年版情報通信白書」より)

このほど、一財)地域活性機構が実施した全国39自治体を対象にした「観光DXの実態調査」では、DXについて「非常に有効である」が10件、「有効である」が29件であり、おおむね「有効」と評価され、高い期待を示しているものの、推進については「進んでいる」と答えたのは、2件、「少しは進んでいる」が17件でした。一方で、「大変期待をしている」は5件でしたが、「期待している」は32件と非常に高いものがありました。なかでも期待するテーマとしては「VR観光・オンライン観光」と「多言語自動翻訳・機械翻訳によるインバウンド対策」がともに23件、次いで、「顧客管理ソフトによる顧客動向、ニーズの把握」が20件でした。

オンラインによる宿泊予約やスマホの普及により旅行者側のデジタル化が進展する一方、人材不足、費用不足、必要性が認識されていない等から宿泊施設や観光地域側の対応に遅れがみられます。「観光白書」では今後、個々の事業者やDMO等の主体がデジタル実装を進めつつ、地域全体で連携して観光客に関するデータを多面的に取得・分析し、精度の高いニーズや行動・消費を把握する仕組みを構築することで、地域内の生産額の向上や雇用の質の向上等につなげていくことが重要と指摘しています。なお、観光地におけるデジタル実装の具体例で取り上げられることの多い「気仙沼クルーカード」(気仙沼市)には私の地域活性機構も関わっています。

 「地方副業」に期待できる「地方創生に貢献したい」3割

昨今、「地方転職」や移住を伴わず地方の企業で働く「地方副業」に関心が高まっていますが、みらいワークスが首都圏大企業管理職を対象に実施した「地方への就業意識調査」では、地方副業に興味がある人も昨年より3%増加し、59.8%で過去最高となりましたが、地方の企業で働くことに興味があるのはなぜですかという質問に対し、最も多いのは、「地方ならではの暮らし・ライフスタイルを求めている」が62.4%、次いで「都市部より地方のほうが物価水準が安い」が29.5%、そして僅差の3位には「地方創生に貢献したい」が28.9%で続いています。約3割の声には地方で働き、活躍し地域に貢献したいという強い意欲が感じられます。

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(資料:みらいワークス「地方への就業意識調査」より)

地方においては東京圏へ労働人口が流失し、働き手不足が深刻な上にキャリアやスキルを備えた優秀な人材も都市部に比べ少ないのが現状ですが、最近では都市部のプロフェッショナルな職業スキルを持った人材が仕事を続けながら転職や移住を伴わずに地方企業で働く「地方副業」に関心が高まっています。実際に受入側となる全国の自治体も「地方副業」の支援には積極的に取り組んでいます。「地方副業」について、みらいワークスとパーソナルキャリアの大手2社による2022年8月時点での集計では、累計で全国の募集件数は、2154件でしたが、以下の表は募集企業数が多かった上位10府県になります。

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最も募集企業数が多かった鳥取県は、人口減少を背景に移住政策に取り組んでいましたが、2019年に「とっとり副業・兼業プロジェクト『鳥取県で週1副社長』という試みを提唱し、地域企業向けには「副業・兼業人材活用ハンドブック」を作成していたことなども募集企業数に好影響を及ぼしたのかもしれません。下表は総務省の調査で紹介されている副業・兼業に取り組む県や市の事例ですが、いずれの地域の事業においても地域金融機関や地元経済界など行政の実施を強力にサポートする推進役が存在しています。副業・兼業といった事業を推進するためには、地方自治体と推進役が両輪となって進めることが事業の成否の鍵を握るのでしょう。

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コロナ禍で、副業・兼業人材のスキルで経営課題の解決を図りたい、人手不足を補いたい、組織内にいないスキルや経験を持った人材を採用したいなどを切望する地域企業も多くありますが、新たな人の流れをつくり、次への成長へとつなげるために都市部人材の地方での活用が望まれています。上記の南砺市の取組には、プロフェッショナル人材の副業などをサポートするみらいワークスが関わっていますが、「新たな日常」に対応した強靭な地域経済を構築するために求められる「新たな人の流れ」の促進には、今後、事業の伴走支援をする地域金融機関だけではなく、連携先の人材紹介会社の取組もさらに期待されています。

SNSやマーケティング、アドバイザーで観光関連の副業

さて、観光産業においても副業で関わることができる企業や仕事も少なくありません。以前、この連載でも紹介した世界遺産「高野山」で知られる和歌山県伊都郡高野町で、文化観光地域づくりを担い、1,200年にわたり受け継がれてきた歴史と伝統を世界へ発信する企業「株式会社DMC高野山」でも下表のように、事業拡大に向けた体制強化として、業務委託で高野山におけるさまざまなプロジェクトを推進する事業企画・推進コーディネーターの募集が行われています。まちづくり会社では経営マネジメントスキルに加え、地域戦略を考え地域の合意を形成していくための地域マネジメントススキルが必要とされるといいます。

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コロナ禍で大きな打撃を受け、縮小してしまった観光関連市場ですが、全国旅行支援や水際対策関与によるインバウンド需要が回復しつつあることもあり、前述のような自治体をはじめ、地域に根付いた宿泊業やサービス業などの企業でも「地方副業」で関わってもらう人材の募集が増えているといいます。みらいワークスの協力を得て、成約に至った主な事例を下表にまとめてみましたが、最近ではSNS関連やマーケティング、アドバイザー的な役割を期待する募集が多く、成約された方々もそうしたスキルとキャリアを持った即戦力として募集先の期待に応えられる方々が殆どで、年齢的には30代から40代でした。

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観光庁では、観光産業が抱える構造的課題の改善として、観光分野のデジタル実装を進め、消費拡大や再来訪促進等を図るとともに、これを支える人材を育成し、稼ぐ地域を創出するとしています。観光産業は地域経済において重要な役割を果たし、我が国の成長に資する基幹産業ですが、「観光産業の生産性向上」をはじめ、「旅行者の利便性向上・周遊促進」「観光地経営の高度化」「観光デジタル人材の育成・活用」が求められていますので、ITの領域などでスキルとキャリアを持った上に地域の活性化に貢献したいという志がある都市部の方には、「地方副業」を通して観光産業に関わってみてはいかがでしょうか。

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