「仕事」と「作業」の違いを悟り、大企業での価値観がすべて変わった
富士市産業支援センター「f-Biz」センター長 小出宗昭×株式会社日本人材機構 小城武彦
BizReach Regional
2017/09/21 (木) - 08:00

「なぜ行列は絶えないのか?」地方中小企業支援の極意を訊く──その1:概要編


「行列のできる相談所」として全国に名を知らしめている、静岡県の富士市産業支援センター、通称「f-Biz」。地元中小企業を「儲かる会社」「稼ぐ会社」へ変貌させる経営コンサルティングを行い、相談件数は年間4,000件にものぼります。このf-Bizモデルは全国へ広がり、各地に「○○-Biz」がオープン。地方創生の大きな推進力となりつつあります。今回はf-Bizでセンター長を務める小出宗昭氏に、(株)日本人材機構取締役社長の小城武彦がお話をうかがいました。なぜ、成功しているのか。コンサルティングの主眼は何か。どんな経験の上に今があるのかなど、ライブ感たっぷりのエピソードを聞くことができました。

「民間ならどう考えるか」の発想が転換ポイント

小城:小出さんのf-Biz、今や地方企業支援の代表格になりましたが、ご自身はもともと銀行員だったんですね。
小出:静岡銀行に合計26年勤務していました。主にM&Aのアドバイザー業務で、バブル崩壊後、「これからM&Aの時代だ」と銀行内に専門部署を立ち上げたんですが、その後すぐ県の創業支援施設「SOHOしずおか」に出向が決まってしまったんです。はじめは2年で戻るはずだったのが、その施設がうまくいってしまい(笑)、結局7年半出向していました。
小城:うまくいった理由は何だったんですか。
小出:創業支援ということで、インキュベーション施設の中で起業家を育てることだったんですが、中にいるわずか10数名の起業家を対象にしているのでは小さすぎる。外にだって起業家はたくさんいるわけです。だから枠を外して、外へ広げました。ビジネスの接点を数多く作り、頑張っている中小事業者と同じレベルにつかせたわけです。当時、補助金や助成金の相談に来る人はいても、経営相談に来る人は見たことがなかった。道具立ては揃っているのに、それはもったいない。「じゃあ民間だったらどう考えるか」と思考を変えるポイントとなりました。みんなが抱えている悩みや問題点を聞いて、解決策を示す、ということを始めたんです。
小城:それはビジネスコンサルティングそのものですね。
小出:課題を解決するんだから、当然そうなります。求められているものは「結果」です。それを出すためには相談件数を増やすこと。こんなことは当時誰も言ってませんでしたが、続けているうちにだんだん芽が出てきました。

最後は市長に請われて、富士市へ

小城:その頃、既にf-Bizの原型が生まれていたんですね。
小出:SOHOしずおかに6年半いた後、「はままつ産業創造センター」へ移って中小企業のものづくりの相談をしていました。そんな時、富士市から電話があって「相談したい」と。富士市は大企業がどんどん撤退していって経済の落ち込みが酷い。考えるに、大企業依存から脱して地元の中小企業を支えていかねばならない。そのための支援センターを新たに作りたいというわけです。私が富士市生まれということを発見したらしいですね。
小城:大企業依存から脱するべきだということに、よく気がつきましたね(笑)。
小出:ハードじゃなくてソフトだということですね。しかし私に、銀行を辞めて来てくれと。当時銀行からは好きなようにやりなさいと言われ、何不自由なくやっていたんですよ。4回断って、5回目には富士市長が説得に来たんです。さすがにその時は銀行に相談しようと、頭取にアポイントを入れて話をしました。すると「小出、それやったらどうだ」と言われて。当時の最高顧問も「これはうちにとっても名誉だ。行員がひとつの市を担うんだから」と。当時の活動範囲は全国で、既に静岡銀行の業務範囲を超えていましたから、思い切ってやらせてみようと思ってくださったんでしょう。ということで、2008年8月に富士市産業支援センターがスタートしました。私は48歳でした。

f-Bizは、とにかく話を聞く、とにかく褒める

小城:日本で中小企業の割合は99.7%を占めるわけですよ。でも、中小企業からはコンサルフィーが取りにくいから、一握りの大企業、0.3%の市場に対してコンサル会社が群がっている現状がある。
小出:人・モノ・カネのすべてがある大企業ではなく、それらが全然ない中小企業を救うのは、知恵です。知恵を出せるコンサルタントを目指して、頭を振り絞ってきました。地域を支えている中小企業をそのままにしていると、どんどん行き場を失います。我々がうまくサポートすれば、それを防ぐことができる。1社につき1人の雇用を生めば、100社で100人の雇用創生ができるわけです。

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小城:f-Bizではどんな風に相談を受けているんですか。
小出:センターの中にはテーブルが6つあって、そこで相談を受けます。1つの案件に対して4?5人のプロがつき、フォローしていきます。1回の相談は1時間と決めています。
小城:料金は取らないんですね?
小出:はい、一切無料です。そして、案件に対して具体的なアドバイスをしていくんです。
小城:決算書なんかを持ってきてもらうんですか。
小出:持ってくる人もいますが、ほとんど見ません。その代わり、徹底的に話を聞きます。特に、その会社の歴史を深く掘り下げて語ってもらいます。そして、問題点を指摘するよりも、セールスポイントを発見して褒めまくります。「これはすごいですね」と。すべての会社がセールスポイントを持っていると思っていますから、それを引き出すためには歴史を聞くことが大切なんです。
小城:もうその場で解決策を話してしまうんですか。
小出:というときもありますし、相談者が帰ってから話したり、朝の雑談の中でも話したり。どうしたらいいかは、みんなで共有しています。

目の前にあるのは地域──これは銀行の理念そのものだった

小城:私たち日本人材機構は、人がほしいという地方企業に大企業にいる人材を紹介することもしています。小出さんは大企業の出身でよくおわかりかと思いますが、地方の中小企業を見る目というのは、どうしても上からになりがちですよね。
小出:別世界です。大企業から見るとあれもない、これもない。部下もいなくてひとりでやっている。でも、ないんだから仕方ない。そういう目線が持てるということが大事なんでしょうね。目線を合わせられることが。
小城:大企業に勤めている人たちに、「本当に楽しくやっていますか」というメッセージを出し始めています。それが「SELF TURN」です。自分自身に返って、自分のやりがいを持って、自分の力を発揮しているかどうかを、もう一度自ら問う。そういった人たちに、事業規模は小さいけれど、東京の大企業よりもやりがいがある企業が地方にはたくさんあるんだ、と発信しています。

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小出:今のお話で思い当たることがあって。静岡銀行時代、私は仕事嫌いだったんです。最小限の時間で成果を出し、汗水垂らすのはまっぴらというスマートな銀行員でした。そのときの自分に「何のために仕事をしているか」と訊いたら、たぶん答えは出せなかったでしょう。でも「こっち」に来て、その考えは180°ひっくり返ってしまったんです。SOHOしずおかでは、あるのは箱だけ。マニュアルも目標も何にもなかった。全部自分で作り、企画を出して実行に移し、結果に結びつけるんです。そんなことを何カ月も続けて、「あれ、俺働いてるじゃん」と。仕事嫌いの自分も、汗水垂らして働いていた。「何もない」ことは、起業家と同じだなとわかりました。
小城:仕事における「ミッション」という部分はどうでしたか。
小出:静岡銀行には「地域とともに夢と豊かさを広げる」という企業理念があります。でも銀行員時代、地域のためと思って仕事をしたことは一度もなかった。まず自分の成績と支店の実績、銀行の利益でした。そんな自分が地域の最前線に来てしまった。目の前にある「地域」を見て、これは企業理念そのものだと気づいたんです。

「仕事」と「作業」は、決定的に違う

小城:小出さんのお話を聞いていると、社会起業家ととても共通点がありますね。気づいたことを見逃さなかったり、問題意識を持っていたり。他人が見過ごすことを見過ごさないでしょう。できない100個の理由より、できるひとつの理由を突き詰める。
小出:各地に○○Bizが開設されて、そのセンター長の選抜にも関わっているんですが、応募してくる人たちも社会起業家と同じく強い問題意識を持っていますね。自分自身でも気づいたことがあって、銀行で与えられたマニュアルや目標をクリアするのは「作業」、自分で考えて自分の意思でするのが「仕事」ということです。だから楽しいんです。地域が目の前にあると言いましたが、その大切さを実感してます。心から感謝されるんですよ。「ありがとう」とは銀行員時代にも言われましたが、質が違う。涙を流してくれることもある。仕事嫌いの自分でもスイッチが入りますよね。職業観、社会観、人生観、すべてが変わりました。世の中は外観や大企業のバッジではなく、中身なんだって。その気づきがいちばん大きかったですね。
小城:私はよく「リンゴの木」のたとえ話をするんです。リンゴの実がたくさんなるのは、自動的に起こることではない。地下に深く根っこを張っているから。根っここそが起業の力で、歴史や人、知恵だったりする。財務諸表にはでてこない部分です。それを見失っているか、忘れているだけなんです。そこに光を当てて企業本来の力を取り戻すというわけです。
小出:大企業の人が中小企業で働くことになったとき、その視点はすごく大事ですね。何のために働くかは、言われたことしかやってない人にはわからない。大企業至上主義的な考えを捨ててみれば、明確な職業意識が形成されると思います。仕事だって楽しくなるでしょ。もっと自分が活躍する可能性が見つかるかも、もっと活躍したいかもというスイッチが入るんですね。

この対談は、「その2:現場編」へ続きます。どうぞお楽しみに。

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