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「地方創生」の意味と条件について考える/地域活性機構 リレーコラム
一般財団法人地域活性機構副理事長・事務局長、地域活性学会常任理事 尾羽沢 信一
2018/01/26 (金) - 08:00

地方創生や地域活性化の究極の目的とは何でしょうか。それは地域の経済力を高めたり、観光客を増やすことではないと思います。通過点としての数値目標と、最終的に地域で暮らす人々の生活の豊かさや幸福とは異なるはずです。都会から地域に転じて働こうとする方々も、このことについて少し考えていただければと思います。

「地方創生」の文脈を振り返る

人口減少、超高齢型社会、東京一極集中、グローバル競争の激化などの中で、日本の地域の幸福な未来の姿が見えにくくなっていると感じます。
10年ほど前から、地域活性学会や地域の人材育成ということに関わってきて、研究者、官僚、コンサルタント、地域の様々な方とお話してきましたが、どうも今盛んにいわれている「地方の危機」や「地方創生」が一般の市民の実感としてしっくりこないのです。
昨年から、内閣府事業の「地方創生カレッジ」のeラーニングコンテンツ作成に携わってみて、いくつか実感として分かってきたことがありますので、それをお伝えしたいと思います。
私はかつて長らく民間のリサーチ会社で、調査やデータ分析の仕事をしていたので、地域の置かれた客観的状況は少しデータをいじってみれば大体分かります。特に長期トレンドデータや地域間比較をしてみれば、その地域の強みや弱み、課題、今後とるべき常識的な戦略はある程度描くことはできます。
また、地方や田舎の衰退は、特にこの数年の問題というより、古くは高度成長期からの問題ですから、ある意味戦後日本社会の典型的な構造問題ともいえます。刺激があって、より多く稼ぐチャンスがあり、食も文化もナイトライフも充実している東京圏に人が集まるのはごく当然の流れであり、おそらく政策的にそれを逆流させようとしても今は全く無理だと思います。

地域の幸福とは?―小さな動きから未来を考える

しかし、まだメガトレンドとはいえないものの、いくつかの地方(田舎)で注目すべき現象が連続して起こってきているのも事実です。昨年、三つの地域のリーダー、仕掛人の方々のお話をまとまってお聞きする機会がありました。徳島県神山町の大南信也さん(NPO法人グリーンバレー理事長)、長野県小布施町の市村良三さん(町長)、山陰いいものマルシェの仕掛け人の内山興さん(JR西日本)です。
三人とも地方創生の世界では大変な有名人ですので、ご存知の方も多いと思います。いろいろなところで講演もされていますから、お話を聞いた方もいると思います。
頭脳明晰な戦略家が、斬新な発想で地域に大転換を起こしたという文脈で理解されているかもしれません。それは間違ってはいないのですが、私がこの方たちにお会いして感動したのは、それとは少し違った側面です。
例えば今回ご紹介する、神山町の大南さんは、高校進学時に町を出て、東京の大学、シリコンバレーの大学院を経て、家業を継ぐためにUターンをしてきました。家業は公共土木事業で、地域の道路整備などの仕事をしてこられたわけです。それまで未舗装だった山奥の道の整備が終わって、これで便利になったから、住みやすくなるだろうと思っていると、何年後かにその道を通って住民が町外に転出してしまうということが起こった。
どんな田舎でも普通にあることかと思いますが、それが続けば当然町の人口は減少し続けます。人口減少の大きな原因は仕事がない、活気や刺激がない、人間関係が窮屈などです。
それだったら、仕事もある、活気や刺激もある、緩さや隙間のある地域社会に変えていけばいいのだという発想です。しかもこれをビジネスとしてではなく、自分たちが楽しみながらできる、面白い活動として、時間をかけて展開していこうと考えたそうです。
緩さや隙間のある空間、オープンでフラットな空間というのは世界的にもイノベーションが起こりやすい地域に共通の必要条件です。この条件ができて、少しずつ神山という空間の不思議な魅力が伝わっていくと、外国人アーティストやITベンチャー、起業志向の若者などが集まり始めたそうです。

01
IT企業が入居する「えんがわオフィス」
02
宿泊・交流施設「week神山」

第二次国土形成計画(平成27年8月) では次のようなことがうたわれています。

・「個性」と「連携」による「対流」の促進 → 地域の個性を磨き、地域間・国際間の連携によって活発な「対流」を起こす
・ 「ローカルに輝き、グローバルに羽ばたく国土」 → 「住み続けられる国土」と「稼げる国土」の両立

少し硬いですが、神山という田舎町ではこの見本となるような現象が起こっているのです。ぜひ皆さんも行って、体感してみてください。

地方志向を本物へー開かれた空間・マインドの重要性

ところで、平成27年の世論調査では、「現在の地域に住み続けたい」と考える人が79.2%、「別の地域に移住したい」と考える人が19.1%です。「別の地域に移住したい」人のうち、地方都市を希望する人が55.2%、農山漁村を希望する人が20.3%ですから、「田舎志向」の移住希望者の数はまだそれほど多くはないのです。
それと、「どんな地域に移住したいか」という質問に対しては下記のような回答で、地縁や血縁のあるところが多いのですが、第2位と第3位は注目してよいと思います。地縁がなくても魅力的と感じれば移住したいと思う人がかなりいるということでしょうか。

【どんな地域に移住したいか】
第1位/(ア)自分や配偶者の出身地・・・33.1%
第2位/(カ)(ア)~(オ)以外で,テレビやインターネットなどの情報を通じて魅力を感じている地域・・・24.5%
第3位/(オ)過去に,観光などで滞在したことがある地域・・・21.8%
第4位/(ウ)子どもなど面倒を見てくれる親族が住んでいる地域・・・17.3%
第5位/(イ)自分や配偶者の両親などの親族の出身地・・・16.1%
第6位/(エ)過去に,学生時代や転勤などで住んだことがある地域・・・14.9%
※「国土形成計画の推進に関する世論調査」 平成27年10月 内閣府政府広報室

このような潜在ニーズを確実に潜在化できていくのは神山町や小布施町など、これまでの日本の田舎になかった魅力を創造し続けている地域ということになるのかもしれません。
当たり前ですが、地域は国の競争力向上のためにあるのではないのです。ストップ人口減少、ストップ高齢化、雇用の場の確保、稼げる地域というのは最終目標として掲げられるべきものではないと思います。
地域の人たちが地域を愛し、幸福に暮らしていくことが目標ですから、開かれた場と異能の人材の出会い、ワクワク感をどうやって創出していくかを考えるべきではないでしょうか。

神山町の地方創生戦略には次のように書かれています。

よくできた計画書を作っても実行できなければ意味がありません。
そのようなことにならないように「今やるべきこと」と「今できること」が十分に重なる神山町の創生戦略づくりを心がけました。
私たちがその取り組みを、夢中になって、楽しんでやってゆくことが大切だと思います。
大人たちが柔軟に、いきいきと生きていることが、地域社会において何よりの教育資源であり、ひとづくりの基礎をなすものではないかと思います。

また、リーダーである大南さんは次のようなことを語っています。

オープンでフラットな空間を作ると、創造的な人が集まり始めた。自分たちはいつも面白いことを楽しんでやってきた。仕事だと思ったら続かなかったかもしれない。外の人(企業)に下駄をはかせて、優遇策を示してきてもらおうとしたらうまくいかなくなる。フラットな土壌が揺れ始める。

小布施町は次の機会に紹介しますが、町長の市村さんはインタビューに答えて次のように指摘しています。

昔の田舎はもっと開かれた空間だった。昔の大人はもっと若者の話に耳を傾けた。それだったら小布施をそういう空間にしてしまおうと思った。外から来た人と交わる力、外に向けて発信する力、世代を超えて交流する力が小布施の町民力。

心の豊かさを実現する地域の条件とは

物の豊かさから心の豊かさへのシフトということがいわれますが、心の豊かさを実現する地域の条件とは何でしょうか。
それは、自然や歴史、文化もあるのですが、異質なものを許容し、多様な人材が交錯することでイノベーションを起こし続けることと思います。これが始まると、働く場や所得確保などもついてきます。
外部からの企業誘致や公共事業で地域が良くなることは、この時代にもうあり得ないでしょう。稼ぐ力も地域の幸福も、地域の内発的な力を外部の人材との交流によって最大限に伸ばせるかどうかにかかっていると思います。
開かれた田舎の空間に都会の志を持った有能な人材が移り始めると、神山町や小布施町で起こりつつあるような「わくわくするような新しい田舎」が各地に広がる可能性があるのではないでしょうか。

>>>こちらもあわせてご覧ください。
「地方創生」の意味と条件について考える/第2弾
「地方創生」の意味と条件について考える/第3弾

尾羽沢 信一

一般財団法人地域活性機構副理事長・事務局長、地域活性学会常任理事 尾羽沢 信一

1957年生まれ。株式会社インテージ主任研究員、法政大学地域研究センター特任教授などを経て現職。10年ほど前から「地域活性学会」の運営などに携わり、「地域活性」や「地方創生」の意味と条件について考えている。

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