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図書館を核としたまちづくり(前編)/地域活性機構 リレーコラム
一般財団法人地域活性機構 理事 亀和田 俊明
2018/04/06 (金) - 08:00

人口減少や高齢化が進む中、地域にある公共図書館は子どもからお年寄りまで幅広い世代が長年にわたって最も利用する公共施設の一つですが、近年ではまちづくりや地域活性化を支える役割と期待が高まっています。図書館が地域住民や地域の課題とどのように関わり、運営に取り組むことができるのかを各地の最新事例も交えて考えたいと思います。

地域住民集う大学図書館の学生運営によるモデル事業

大小を問わず、日本各地の市町村には公共図書館があります。古くから居住する地域住民にとっても、また新たに住民となる移住者にとっても地域の中で最も利用される公共施設の一つです。現在、日本における図書館数は、日本図書館協会の資料によれば、2017年現在で3,292館あるといいます。ここ5年の推移を見ましてもわずかながら微増傾向ですが、30年前の1987年の1,743館に比べれば倍近くとなっており、それに比例して利用者数も増えています。

最近では、公共図書館は施設と資料のさらなる活用による「読書推進」という役割に加え、地域住民の生活や地域の産業に役立つサービスの提供など、さまざまな手法でまちづくりに貢献することが期待されています。2017年に行われた日本図書館協会の全国図書館大会のテーマも「まちづくりを図書館から」でしたが、公共図書館が地域住民や地域の課題とどう関わり、図書館のサービスや運営に取り組んでいくか、そうした視点がより重要になってきます。

公共図書館の事例の前にユニークな地域との関係性を持った大学図書館のプロジェクトについて少し触れておきたいと思います。つくば市の筑波学院大学で期間限定(2月22日~3月10日)オープンされた図書館カフェ「おいしいミュージアム」は、日本地域資源学会会長で同大学教授を務める塚原正彦先生の指導の下に学生たちがイチゴなど地域の食材を発掘し、図書館のラーニングコモンズを発展させて地域住民が集うという学生運営によるモデル事業でした。

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学生が選んだ本と地元食材スイーツを提供した「おいしいミュージアム」(筑波学院大学)

同大学では、2017年度から地域資源を地域活性化に役立てる文科省の職業実践育成プログラム「地域デザイン学芸員」の育成に取り組んでいますが、「人が集まる“おいしいプロジェクト”をデザインしよう」と起業家や企業、研究機関の講師らが全11回の講座を開講し、その成果として「みんなのミュージアムカンパニー」を起業し、図書館カフェに繋げました。これは、大学をミュージアムとする構想の一環で、図書館と食材、アートを融合させたものです。

周辺には筑波大学附属図書館など学校や図書館が多い文教地区ですが、図書館カフェ期間中には普段あまり訪れることの少ない地域住民も足を止め、展示を見て、スイーツに舌鼓を打ち、サービスする学生たちと触れ合う方も多かったといいます。地域の人が集まる空間を演出する試みも一定の評価を受け、4月から図書館の「食」にまつわる書籍や学生たち手作りの絵本や写真なども常設展示になるほか、学生たちのアイデアによるスイーツも学食でメニュー化されます。

急激な人口増で交流施設機能を有す「まちづくり拠点」

昨今の公共図書館においては、大きな専用の建物が造られる図書館、新たな複合ビル内に入る図書館と大規模改築される図書館などに分けられます。どうしても新規建設の場合には、その街の都市開発事業の中核施設として位置づけられることが多いために、おのずと街中の賑わいづくりや中心市街地の活性化などに果たす役割が期待され、集客数が求められるとともに市民の交流創出が掲げられることになり、さまざまな施設、機能が備えられます。

初めに2012年に「グッドデザイン賞」を受賞し、「世界で最も美しい公共図書館25」にも選ばれた国内でも有数の魅力的な建物を誇る石川県金沢市の「金沢海みらい図書館」を訪ねました。石川県庁が移転し、市街化が急激に進行するなど、人口増加が著しい金沢市西部の工場跡地の有効活用や周辺住民、町内会から強く望まれたことから地域コミュニティ形成の核となる公共施設の整備が進められ、市4番目の図書館として開館し、5月には満7年を迎えます。

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エコロジー設計による「ワンルーム型の図書館」(金沢海みらい図書館)

館内は床から天井まで四方を3種類6000個の丸窓に囲まれた独特の自然光による「ワンルーム型の図書館」で現在の蔵書は約28万冊ですが、一般図書のみならず地域情報フロアとして3階には金沢の伝統工芸や技術に関する書籍や資料を集めた「ものづくり情報コーナー」、周辺地域が北前船の寄港地であったために北前船や環日本海の交流史などを揃えた「日本海情報コーナー」も。また、県内公立図書館初の自動化書庫も導入されており、13万冊に対応できます。

「地域に根差した図書館」や「幅広い世代や地域間の交流促進」を標榜していることもあり、1階部分には集会室や交流ホールなどが備えられ、地域交流部分と図書館部分が一体化されていることから、提携先によるイベントやセミナー、展示なども多く実施されるなど、相互の交流や賑わいを創出する地域の交流施設としての機能を有する「まちづくり拠点」ともいえる新しいランドマークとなる図書館といえます。

地元サッカークラブJ2の「ツエーゲン金沢」や近隣の6大学とも連携が図られており、過去には金沢美術工芸大学と利用者のマナーについて、「図書館の課題解決にアートができること」というテーマでの連携事業も行われています。また、地域住民の利用が多い同図書館では、書棚の整理や本の修理などを行う60名ほどの「海みらいボランティア」という図書館の運営をサポートする応援団が組織されるなど独創的な取り組みも行われています。

図書館と市民学習を融合させた新しい生涯学習施設

最近の公共図書館の傾向として居心地が良く、長く滞在してもらえるような意図から館内のフロア配置や設計、建築をされている例が多く、建物そのものも斬新でモダンなものが少なくありません。従来の図書の貸出しやレファレンスだけではなく、生涯学習支援、青少年活動支援に加え、利用者にファミリー層が多い地域では、子育てやまちづくりなどの市民活動支援を行う機能を備えた図書館も増えているのが現状です。続いて、最新事例の図書館を訪れました。

金沢市のお隣に位置し、人口5万5千人の全国「住みよさランキング」で総合5位(利便性で1位)と評価される新興ベッドタウンともなっている野々市市にも官民連携の整備手法により2017年11月に「学びの杜ののいち カレード」がオープンしました。市民の学びと文化・芸術・創造、情報発信、市民協働におけるシンボルとして図書館と市民学習を融合させた新しい形の生涯学習施設で、図書館と市民学習センターや憩いの広場、カフェで構成されています。

入り口を入ると同市出身のアニメーション映画監督の米林宏昌さんが原画を手掛けた円形状のパオが設置されているほか、中央には高さ9mにも及ぶ書架を組み込んだ「知の集積」を象徴する国内初のブックタワーが2本そびえています。1階には一般図書スペース、幼児や児童の年齢に合わせた棚の高さ、書籍の配置を考えた児童図書スペース、ビジネス支援コーナー、2階に周辺の大学生や中高生を意識した書籍を充実させたヤングアダルトスペースがあります。

また、20台のタブレットの提供、県内初のネットを介した電子書籍の貸出しなど新たな試みもあります。当初13万冊の蔵書でスタートしましたが、徐々に増やしていくといいます。さらに、図書館部分の周囲には音楽スタジオやキッチンスタジオ、陶芸などもできる創作スタジオが取り囲み、各スタジオ付近には関連した書籍が配置され、図書館とスタジオ利用者の交流が図られているほか、幅広いジャンルの展示が行われる市民活動スペースも備えています。

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高さ9mにおよぶ国内初のブックタワー(学びの杜ののいち カレード)

オープン半年ですが、金沢工業大学を始め地域の大学やイオンモールなど商業施設とも連携が図られさまざまなプロジェクト、イベントが共催されるなど、新たな出会いと賑わいを創出するまちづくりの場にもなってきています。公共図書館としては朝9時から夜10時までの長い開館時間も功を奏し、当初目標値の倍以上の利用者がいるといいますし、図書館を核に市民が協働でまちづくりを行う多様な機能があり、今後、地元商店会との関係づくりも注目されます。

サードプレイスの優れた図書館はコミュニティを形成

最近では官民で連携した図書館も増えていますが、3月28日には子育て世代が増加している田園都市線の中央林間駅にリニューアルオープンした「中央林間東急スクエア」内に神奈川県大和市が図書館や子育て支援施設と行政窓口を開館しました。商業施設の通路に面し、壁や仕切りを設けず、開放的な空間とすることで立ち寄りやすさを、そして、図書館を中心に子どもからお年寄りまで幅広い世代が集える市民交流機能を備えた図書館を目指しているといいます。

さて、今回は二つの比較的新しい地方の公共図書館を中心に触れましたが、従来の図書の貸し出し、レファレンス、新聞・雑誌の閲覧、学習スペースなどに加えて地域特有の書籍・資料が取り揃えられ、集会室や交流ホール、各種スタジオなど市民活動をサポートするための機能、設備が備えられるとともに、まちづくりを担おうとする地域住民に対し情報提供等を通じた側面支援やまちづくり、地域課題解決に図書館自身が中心になって取り組む姿が見られました。

子どもから母親、学生、ビジネスマン、シニア層など年齢も目的もさまざまな利用者が図書を軸に思い思いの時間を過ごせる知的インフラが図書館ですが、利用者が図書館に求めるサービスも多岐にわたり、産業振興や観光振興といった地域経済に関係する課題から地域特有の問題解決に向けた市民活動にも向き合わなければなりません。地域のために何がどうできるかという視点で、まちづくりにも役立ち、貢献できる図書館の活動がますます重要になってきます。

米サウスカロライナ大学図書館情報学部R.David.Lankes教授の「ダメな図書館は蔵書を構築する、普通の図書館はサービスを確立する、優れた図書館はコミュニティをつくる」という提言がありますが、雑誌『現代の図書館』(日本図書館協会)で國學院大學の須永和之教授が指摘するように、コミュニティは利用者、図書館職員や設置母体の構成員を始め、利用する可能性のある周囲の人々、資料と情報、施設と設備の関係(つながり)を意味しているのでしょう。

ファーストプレイスの家庭やセカンドプレイスの職場に次ぎ、図書館を含む公共施設が、このような多様なコミュニティを形成するサードプレイスと呼ばれますが、次回は、市民が計画段階から参画した群馬県の「太田市美術館・図書館」と「Library of the Year2017」大賞の岡山県の「瀬戸内市民図書館もみわ広場」という新しい公共図書館の事例を中心に、地域内での図書館の方向性や協働によるまちづくりの広がりなどについても、さらに考えたいと思います。

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亀和田 俊明

一般財団法人地域活性機構 理事 亀和田 俊明

専門誌の編集長、コミュニティFMの役員などを経て地域での映画祭や伝統芸能イベント、出版分野の企画・プロデュースに携わったほか、地域活性機構において全国の「地域活性化」事例についての研究調査・情報発信に携わる。また、全国の「伝統野菜」などについての情報発信プロジェクト「Cook Nippon」実行委員長。新聞や雑誌での書評やコラム執筆、文化人や企業経営者へのインタビューも多数手がける。趣味の分野で著作を5冊執筆。◆研究分野(伝統野菜、祭り、観光など)

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