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コンパクトなまちづくりで地方再生(前編)/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/08/31 (金) - 08:00

2040年までに国全体で2千万人の人口減少が予測されるなか、まちのさまざまな機能を中心部にコンパクトに集約する「コンパクトシティ」は、“人口減少時代のまちづくり”として国が掲げている地方都市においての重要な都市政策であり、都市計画です。各地のコンパクトシティの現状と課題などから今後の地方再生について2回にわたって考えてみたいと思います。

コンパクトなまちづくり推進へ「土地適正化計画」導入

現在、日本の多くの地方都市では急速な人口減少と高齢化が進むなか、市街地の拡散が止まらず、コンパクトなまちづくりも思うように進んでいないのが実情です。住宅や店舗、公共施設を中心部に誘導する計画が作られたものの、郊外の開発案件も変わらず多く、郊外へのスプロール化と中心市街地の空洞化も止まりません。自治体も厳しい財政状況下で、拡散した居住者の生活を支えるサービスの提供が将来困難になりかねない状況にあります。

そもそも、「コンパクトシティ」という言葉が書籍として初めて登場するのは、高速道路の整備や住宅政策などによる1970年代の米国における郊外化と中心部の衰退に際し、モデル都市の提案として書かれた1974年に刊行のG.B.ダンツイクとT.L.サティの著書『コンパクトシティ』といわれていますが、前後して1972年に発表されたローマクラブのレポート『成長の限界』では、持続可能な都市開発というコンパクトシティの概念が提唱されています。

国土交通省では、コンパクトシティの特徴について、高密度で近接した開発形態、公共交通機関でつながった市街地、地域のサービスや職場までの移動の容易さ、という特徴を有した都市構造のことを示すとされています。都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に、中心市街地の活性化が図られた生活に必要な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市、もしくはそれを目指した都市政策のことと定義されています。

最初にコンパクトシティとして注目されたのは青森市でした。青函連絡船の廃止以降、急速ににぎわいを失って中心市街地から郊外へ1万人以上が流失し、郊外における行政コストの増加や除雪費用がかかることなどからコンパクトシティを目指しました。ところが、まちなか居住を実行するために展開されたさまざまな施策のシンボルともいえた大型集客施設「アウガ」の売り上げが伸びなかったという誤算などもあり、「単心型」から「多極型」へ転換を図ったといいます。

▪️立地適正化計画制度(都市再生特別措置法等の改正により2014年に創設)

「立地適正化計画」は、人口減少や超高齢社会が到来する中で、子どもから高齢者まで安心して便利に暮らせる魅力あるまちとして持続的に発展していくため、公共交通ネットワークの構築と連携を図りながら、移住や医療・福祉、商業などの都市の生活を支える機能の立地誘導によりコンパクトなまちづくりを推進するための計画です。

2006年の「まちづくり三法」の改正により国内各地で「コンパクトシティ」や「まちなか居住」を掲げる自治体が増えましたが、その後、2014年の都市再生特別措置法等の改正により「土地適正化計画」が導入されました。同計画は都市全体の観点から居住機能や福祉・医療・商業等の都市機能の立地、公共交通の充実に関する包括的なマスタープランを作成し、民間の都市機能への投資や居住を効果的に誘導するための土俵づくりといえるものです。

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資料:国土交通省「都市再生特別措置法」に基づく立地適正化計画概要パンフレットより

32都市を選定し全国の地方都市の再生を強力に推進へ

国土交通省はコンパクトシティの推進に当たって、医療・福祉、地域公共交通、公共施設再編、中心市街地活性化などまちづくりと密接に関係するさまざまな施策と連携し、整合性や相乗効果等を考慮しつつ総合的な取り組みとして進めていくことが重要で、まちづくりの主体である市町村において施策間連携による効果的な計画が作成されるよう関係府省庁で構成する「コンパクトシティ形成支援チーム」を通じて取り組みを省庁横断的に支援するといいます。

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「多極ネットワーク型コンパクトシティ」 資料:国土交通省

2017年に関係省庁によるコンパクトシティ形成支援チーム会議において、「コンパクト・プラス・ネットワーク」のモデル都市が10都市(青森県弘前市、山形県鶴岡市、新潟県見附市、石川県金沢市、岐阜県岐阜市、大阪府大東市、和歌山県和歌山市、山口県周南市、福岡県飯塚市、熊本県熊本市)選定されています。上の図は、コンパクトなまちづくりと地域交通の再編との連携による「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」のマスタープランです。

そうしたなか、国土交通省では内閣府と連携し、都市のコンパクト化と地域の稼ぐ力の向上にハード・ソフト両面から総合的に取り組む地方都市を募集したところ77都市から応募があり、32都市をモデル都市として選定しました。今後、社会資本整備総合交付金や地方創生推進交付金などを始め、国やUR都市機構の職員によるハンズオン支援や各種支援メニューによりモデル都市の取り組みを集中的に支援し、目に見える形での都市の再生を目指すとしています。

今回の「地方再生コンパクトシティ」のモデル都市(32都市)は、今後3年間の具体的な取り組みが他都市のモデルになると位置づけられたものと考えられますが、この2つのモデル都市いずれにも選定されている5都市(弘前市、鶴岡市、金沢市、和歌山市、熊本市)については、既に他地域のモデルとなるような立地適正化計画が策定されており、さらに地方再生の面で他地域のモデルとなるような事業が予定されている手本となる都市ともいえます。

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資料:国土交通省の資料を基に著者作成(ブロックは資料に準じる)


弘前市は、公的不動産(PRE)の活用や PFI 事業によるリノベーションなどに重点を置いており、民間活力を生かし明治期の赤レンガ倉庫を芸術文化施設としてリニューアルします。また、和歌山市は廃校舎を活用した大学誘致、道路空間の広場化、民間による公園活用などを行い、まちの居場所、こどもに遊び場を創出することを目指しています。いずれも立地適正化計画をベースにして官民連携の推進や地域資源の活用により地方再生の効果が期待されます。

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資料:国土交通省の資料を基に著者作成

宇都宮はLRTと一体となるコンパクトシティ形成へ

国土交通省の「地方再生のモデル都市」に選ばれた宇都宮市は人口約52万人の北関東の玄関口ですが、地方都市のご多分に漏れず人口減少に転じ始めるとともに都市の外延化も進み、中心市街地の活力低下など社会的な課題を抱えているほか、自動車依存度も約72%に上り、通勤渋滞も慢性化していますが、現在、日本初の全線新設によるLRT(次世代型路面電車システム)開業が決まり、LRT整備を見据えたネットワーク型のコンパクトなまちづくりが進められています。

同市では、「ネットワーク型コンパクトシティ形成によるLRT整備を見据えた都市拠点の賑わいづくり」をテーマに掲げていますが、高齢者を含め誰もが快適にどこにでも移動でき、人や企業の活動を活性化させる「交通未来都市うつのみや」の実現を目指しており、公共交通でネットワーク化を図る「ネットワーク型コンパクトシティ」というまちづくりを支える総合的な公共交通ネットワークの要としてLRTという新しい交通システムが位置づけられています。

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2022年3月に開業を予定している全線新設のLRT(栃木県宇都宮市)

LRTは、JR宇都宮駅東口から工業団地のある芳賀町との14.6kmとなり、2022年3月の開業を目指していますが、将来的には西口から大谷地区への延伸も検討されています。さらに、LRTの整備に合わせたバスネットワークの再編に取り組むほか、さまざまな公共交通が連携した利便性の高い公共交通ネットワークを形成するために主要な停留所付近にはトランジットセンターも設けられますし、LRTやバスで共通で使える交通ICカードも導入される予定です。

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「宇都宮市のLRTの整備区画」 資料:宇都宮市のホームページより

宇都宮の街は可住地面積が市域の約8割を占め、広域に住居が存在していますが、「ネットワーク型コンパクトシティ」はひとつにまとめるのではなく、市内14ヵ所に核となる地域拠点を定め、それぞれの拠点における機能・役割分担の明確化と拠点規模の適正化により都市機能の質や機能性の向上を図る構想です。地域特性を踏まえ都市拠点、産業・観光拠点、地域拠点、生活拠点を形成し、地域交通を含め拠点間の連携や補完を進めるネットワーク化の促進を図ります。

また、空き店舗が増え、通行量も減少していた中心市街地が誰もが暮らしやすく活力とにぎわいあふれる街となるよう立地適正化計画等に基づく医療・福祉、商業等の都市機能の集約や周辺のアクセス道路の整備、中心商業地にある市民広場の高質化を図るとともにNPOや商店街との官民連携でのオープンカフェの実施、親水空間を利用した賑わい創出事業など市内外からの交流人口増加に資する各種取り組みも推進され、徐々に成果が形になって現れ始めているといいます。

コンパクトなまちづくりと地域公共交通との共存・連携

地域の交通機関と連携した同市の「ネットワーク型コンパクトシティ」ですが、LRTという新たな交通システムを導入するとともにバス路線の再編を行うほか、市内に14の拠点を設け、拠点間相互に連携を図るという宇都宮市の取り組みは、全国的にも注目される事例になることと思われます。地方では鉄道の廃線も珍しいものではなくなるなか、LRTへの注目とともに自動車依存社会からの脱却というまちづくりが指針となるのではないでしょうか。

地方都市においては、自家用車の普及と同時に公共交通機関の輸送人員が減少化しましたが、ますます公共交通ネットワークの縮小やサービス水準の一層の低下が懸念されています。このような現実は、通学生や自力で移動することが困難な高齢者等にとっては買い物や通院に不便を感じる深刻な問題といえます。コミュニティバスやデマンド交通、LRTやBRTなど地域特性に応じたコンパクトなまちづくりと連携した地域公共交通の再編と充実を図ることが急務です。

コンパクトシティの取り組みが成功するには、コンパクトなまちづくりと同時に拠点間や市街地へのアクセス手段など市街地間の交通手段を確保することが不可欠ですし、地域公共交通との連携を図ることが重要です。2014年に「地域公共交通活性化再生法」が改正され、地域のまちづくりと調和した「地域公共交通網形成計画」を策定・実行・評価していく枠組みもでき、地方都市では地域全体を見渡した面的な公共交通ネットワークの再構築が望まれます。

また、コンパクトシティ政策が推進されるなか、都市部においては低密度化、空き地や空き家等の大量発生、低未利用の空間など都市のスポンジ化といった現象も起こっています。利便性が確保された持続可能な都市の成長を図るため、早急にコンパクトシティの形成を進めていくことが求められています。中心市街地の活性化や公共投資の抑制、自動車依存からの脱却によるスプロール抑制のために地方都市におけるコンパクトシティ実現にますます期待が高まっています。

後編(9月28日掲載予定)では、先進事例ともいえる「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を推進する富山市と「古いものと新しいものが調和する美しいまちづくり」を推進する金沢市の事例も交えてさらに考えてみたいと思います。

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