地方創生の促進が期待される「関係人口」の拡大
亀和田 俊明
2019/12/30 (月) - 08:00

急激な少子高齢化や人口減少が進む中、ここ2、3年、地方を訪ねた際によく耳にするのが、「関係人口」という言葉です。交流以上、定住未満の人ともいわれますが、地方創生を促進する存在だと期待されており、2019年6月に定められた「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」の「地方への新しいひとの流れをつくる」という項目に「関係人口創出・拡大」が盛り込まれました。今回は「関係人口」を軸に地域の活性化について考えてみたいと思います。

地域外からの交流の入り口を増やすことが必要

2008年に約1億2800万人あった人口は2053年には1億人を割るといわれていますが、このほど厚生労働省が公表した2019年の出生数は初めて90万人を割り込む見通しとなり、予想を上回るペースで少子化が進んでいることが分かりました。地方では急激な人口減少とともに若年層が流出し、空き家や空きビルの増加、商店街の空き店舗も顕著ななか、最大の懸念は地域の担い手が不足することで、地域に多様に関わる人、まさに「関係人口」が求められています。

さて、関係人口が注目されることになったのは2016年に「東北食べる通信」の高橋博之氏が著書「都市と地方をかきまぜる-『食べる通信』の奇跡」で、「観光は一過性で地域の底力にはつながらないし、定住はハードルが高い。交流人口と定住人口の間に眠る『関係人口』を掘り起こすのだ」と述べたほか、雑誌「ソトコト」編集長の指出一正氏も著書「ぼくらは地方で幸せを見つける-ソトコト流ローカル再生論」で同様に関係人口について語られたことに遡ります。

■関係人口とは
移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉。地方圏は人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に変化を生み出す人材が地域に入り始めており、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されます。

(資料:総務省資料より)

関係人口が増える意義としては、地域への想いやスキル・知見等を有する地域外の者を活用して地域課題の解決や地域経済の活性化などに寄与することが望まれるほか、地域を訪れる都市住民にとっても地域住民との交流等を通じ、日々の生活における更なる成長や自己実現などが期待されます。今後、関係人口の創出・拡大に向けては、より都市住民など地域外からの交流の入り口を増やすことが必要になるでしょう。

総務省では、地域外の者が関係人口となる機会やきっかけの提供に取り組む地方公共団体を支援するモデル事業である「関係人口創出・拡大事業」を実施しています。2019年度は、関係人口として主にターゲットとする者の属性により、表1のように団体の取り組みを大きく四類型に分けており、地方公共団体の支援のほか、ポータルサイト運営やセミナー開催など関係人口の意義、モデル団体の取り組み等を全国に周知する機運の醸成を図っています。

(資料:総務省資料より筆者作成)※関係深化・創出型では複数団体の連携事業の場合は増額

「関係深化型」は、地域にルーツがある者等を対象に関係人口を募る仕組みを地方公共団体が設け、取り組みに賛同する者や、ふるさと納税制度を活用し、ふるさとに一定の関心を持っている寄附者に対し、「関係創出型」では、これから地域との関わりを持とうとする者を対象に、地域と継続的なつながりを持つ機会・きっかけを提供し、地域の課題やニーズと関係人口となる者の想いやスキル・知見等をマッチングするための中間支援機能を形成します。

そして、地方公共団体が都市部等に所在するNPO・大学のゼミなどと連携し、都市住民等の地域への関心を高めるための取り組みを実施するのが「裾野拡大型」です。また、地方公共団体が地域住民や地域団体等と連携し、訪日外国人との交流を促進し地域(地域住民や地場産業)との継続的なつながりを創出するために行う取り組みを実施するのが「裾野拡大(外国人)型」になります。

令和元年度はモデル事業実施へ44団体を採択

総務省は、地方にとって緊急性が高い取り組みである関係人口の創出・拡大に向け、令和元年度に「関係人口創出・拡大事業」モデル事業において5億1千万円の予算を組んで、表2のように「関係深化型」で11団体、「関係創出型」で7団体、「裾野拡大型」で21団体、「裾野拡大(外国人)型」で5団体を採択しました。地域づくりの担い手不足で困っている地域を応援しようと国も後押しを推進しています。

(資料:総務省資料より筆者作成) ※下線は複数団体による連携

地域によっては、若者を中心に変化を生み出す地域外の人材も現れてはいますが、採択された地方公共団体においては、都市から地方への新しい人の流れをつくり、関係人口が地域づくりの担い手となることが地方創生を促進すると期待されています。なかでも21団体で最も多いのが、地方公共団体が都市部等に所在する個人・企業・その他団体などと連携して取り組む「裾野拡大型」で、都市部住民等の地域へのより強い関心を創出する狙いといえます。

(資料:総務省資料より)

今までの政府などの取り組みでは、都市部の人たちが一定期間地方に滞在し、働いて収入を得ながら地域住民と交流や学びの場などを通じて地域での暮らしを体感する「ふるさとワーキングホリデー」推進事業、5省が一体となった「農山漁村における農林漁業体験・宿泊体験」事業推進。地方公共団体の例では北陸新幹線で東京から2時間の富山市がセカンドハウス購入の支援を通じて推進する「二地域居住」、山形県遊佐町が取り組む「お試し居住」等があります。

(資料:総務省資料より)

また、大学による取り組みとしては、基礎教育を恵まれた環境の中で行う昭和大学の富士吉田キャンパスや地方で産学連携を展開する近畿大学の和歌山キャンパスなどサテライトキャンパスの例があるほか、東京圏在住の地方出身学生等の地方還流や地元在住学生の地方定着を促進するため、産官学を挙げて地元企業でインターンシップの実施等を支援する「地方創生インターンシップ事業」等があります。

地域住民も都市住民も相互補完的な関係人口の構築へ

類型ごとにいくつかの都市の取り組みについて対象と事業概要を記載したのが表3です。地域外から人を呼び込むためには、そこに住む人々が地域に誇りを感じるとともに、地域ならではの魅力を発信しなければなりません。地域、自治体においては関わる人を増やすことが一層望まれますが、意欲がある首長がリーダーシップを発揮する自治体では、地域外の若い人のチャレンジの場を設け、新たなアイデアや切り口で関係人口を創出しています。

(資料:総務省資料より筆者作成)

観光で訪れる交流人口でもなく、移住先を探している定住人口でもない、移住・定住に向けた地域との関わりのプロセスにある関係人口ですが、結局、移住や定住につながらないとしても地域の発展には地域外からの視点は必要不可欠です。そこでは多様な関わりが望まれますし、地域外からの関係人口と地域内でその土地を盛り上げたいという人たちとの小さいながらも継続される積み重ねが、地域づくりには重要といえます。

やはり、人が人を呼ぶ部分もありますので、地域外からの新しい人や価値観を受け入れたり、さまざまな関わり方に対応できる場や中心となる場所を設けたり、特別視することなく、迎え入れてくれる人たちがいる地域では自ずと関係人口も増えることでしょう。地域を支えるようとするキーパーソン、そして地域の課題に取り組む入り口があると、より地域外の人も想いを寄せやすいかもしれません。

願わくばファンやサポーターで終わることなく、その地域に入り込んでプレイヤーとして課題解決や地域経済の活性化に尽力してくれることが望ましいといえます。その際には、地域住民も訪れる都市住民もお互いに得るものがなければ、継続はしていきませんから双方にとってベストな形での関係人口などの交流は何かを考えるとともに、一方的な関係ではなく、相互補完的な関係を築くことが望ましいといえるのではないでしょうか。

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