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農家の後押しをしながら、一緒に坂を登っていく
株式会社坂ノ途中 代表取締役 小野 邦彦さん
鳥羽山 康一郎
2017/11/29 (水) - 08:00

京都市に「野菜提案企業」を謳う「坂ノ途中」という会社があります。「環境負荷を減らす農業を広める」を目標に、新規就農者や若手農家の育てた野菜を取り扱います。ソーシャルビジネスの範疇に入りますが、昨年は2億円の資金調達を果たしました。どんな思いで誕生した会社か、これから何をどう行っていくか──代表取締役の小野邦彦氏が見据える先は、100年後の農業でした。

人間は後ろめたい──そう思っていた子供時代

京都市下京区に建つビル一棟が、株式会社坂ノ途中の社屋です。1階は野菜の出荷を行う作業場。契約農家から集荷された野菜が、段ボール箱に手際よく詰められています。その3階の一室で、代表の小野邦彦氏は会社設立のいきさつを自らの幼児体験を交えながら語ってくれました。
「3、4歳の頃だと思いますが、知らないうちに虫や草を踏んじゃうから外に出ない、なんて言い出す子供でした。大きくなるにつれそういう部分は閉じ込められていったんです」
その原罪意識のようなものは、大学3回生で休学して上海からイスタンブールまでバックパッキングで旅をしたとき、再び姿を現します。
「後天的に身に付けてきた見栄とか虚飾がなくなり、人間は何でこんなに環境に迷惑をかけながらしか生きていけないんだろう、という自分の出発点に立ち返りました。ビジネスをやるならそれをテーマにしようと思ったんです」
チベットを訪れたときには、乏しい植生の中でのシンプルな資源循環を目の当たりにしました。そんな経験を通じて、環境負荷の小さい農業を広げるという目標が徐々にかたまっていきました。そんなイメージを抱いて帰国し、まずは一度社会人経験を積むために東京にある外資系の金融機関に就職。資金も貯めて京都に戻り、坂ノ途中を設立しました。2009年のことです。

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京都で起業したのは「変な発言をしても周りに楽しんでもらえるから」が理由の一つ

なぜ新規就農者の作物はおいしいのか

「環境負荷の低い持続可能な農業を広めるためにはどうしたらいいか、事前リサーチをしました。
尊敬できる複数の方からしばしば指摘されたのは、農業をオシャレに捉えたり盛り上げようとしたりするイベントは都会でたくさんあるが、それは打ち上げ花火的で、農業者が増えるかどうかとは関係ないということです。規模の小さい農業者と安定的に取引する会社があるなら、もっと農家は増えると」
環境負荷の小さな農法で育てられた野菜を取り扱うには、その野菜をつくっている農家探しから始めます。すると新規に就農した農家ほど同じ問題意識を持ち、農薬や化学肥料に頼らない農業に取り組もうとしている人が多いことがわかったのです。しかし条件の悪い空き農地でしか始められないことが多く、収穫量も少量だったり不安定だったり。少量不安定な農業者と取引したがる会社もなく、辞めてしまうケースは多々あります。
「でも、新規就農者は好きで農業を始めているから、勉強熱心でめっちゃよく働きます。狭い農地でやっているので目が行き届きますし、できる野菜は実は高品質なんです。ならば、少量だから不安定だから扱えないではなく、売る側の工夫でなんとかしようと。新規就農者の野菜ばかりを売っている会社は私たちが日本で最初の例でしょう」
坂ノ途中で契約している農家は取材時(2017年11月)には約150戸。うち9割が新規就農者です。

「従来の農産物流通の感覚を無視というか、知らなかったからできているんだと思います。取引農家さんのネットワークで新たに紹介してもらったり、向こうから来てくれたり。農家間でナレッジシェアリングも進めています。こういうのをつくってくださいという品種選定や、収穫後の袋詰め方法とか。経験の少ない農家さんと一緒にやっていきましょうというスタンスです」
売上の6割くらいがネット通販、3割がレストランや小売店向けの卸、残り1割が直営店舗です。直営店舗は京都に1店、東京に2店。なぜ東京に出店したのでしょう。
「売上の半分が関東ですし、雑誌などの取材が来やすいという理由もあります。広告宣伝の一環としてですね。もう一つ、店舗を運営しているのは、『偶然の出会いがあるから』です。最初はたまたま通りかかって店に入ってきた方が、うちの野菜に触れるうち、野菜のとらえ方や買い物の物差しがだんだん変わっていくことがあるんですよ。毎日決まった時間にそんな店を開けていることが、世の中を変えていくのではないかなと」

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出荷作業中。通販の離脱率がとても低いのはやはりおいしいからです

「百年先も続く、農業を」このフレーズが生まれた背景

「野菜提案型企業」「未来からの前借り、やめましょう」そして、「百年先も続く、農業を」──いずれも心のどこかに刺さるフレーズを掲げて活動している、坂ノ途中。小野氏は、これらのフレーズをつくった背景を「持続不可能な生き方や社会は、遠くへの想像力を欠いている」と説明します。
「『遠く』には地理的・時間的2つの意味があります。地理的な遠くというのは、イメージしやすいと思います。地理的な遠くへの想像力がないと、いわゆる途上国に負担を強いたり、都市と農村の断絶が生まれるわけです。時間的な遠くというのは、未来や過去を意味します。過去の遺産を消費しているだけじゃないの?とか、未来に負担を押し付けていないか?とか、想像できる社会でありたいと思うのです。持続可能性は、時間的・地理的公平性によって担保されるんです。『未来からの前借り』は、その将来への持続可能性を捨てていることを表現しています。」

安価で楽に収穫できる農業のあり方に対してのアンチテーゼ。ただ最近は、「百年先も……」のフレーズを多く使うようになっているとか。もう少し広がりのある捉え方をしてもらえるから、だそうです。
「農業はとても多面的です。実は、人間が持っている最大の環境破壊ツールは農業です。世界中の農地は現在14億ヘクタールですが、今までダメにしてきた農地は通算20億ヘクタールと言われています。毎年日本の農地より広い面積が砂漠化しているのは、土地に負担を強いる農業をした結果です」
「どんな農業を選ぶか」は、「どんなふうに人が自然環境と向き合うのか」と同義だと、小野氏は語る。
虫や草を踏みつぶすのがいやだから外へ出ないと思っていた少年時代。その罪悪感と、現代農業の問題とがつながり、坂ノ途中の「100年先も続く、農業を」というメッセージは生まれました。

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自社でも「やまのあいだファーム」という農場を持ち、自然に近いスタイルの農法を実践しています

「有機農業村」に黒船を呼んでくる

さて、今回坂ノ途中では外部のエクイティファイナンスで資金調達を行いました。総額は2億円に及びます。その理由を、小野氏は3つ挙げています。
「1つは『我々のために』。この会社は相当イケている人材が集まっているんですよ。やっていることもイケている。ほんとに社会的に意味のあることをやっている。これでそれなりのイグジットにたどり着けなければ夢がないでしょうと」
「2つ目は『有機農業村への黒船』。有機農業の業界ってちょっと閉鎖的だと思っています。僕らが黒船を呼んでくるという役割を果たしたい。僕らは村で貴重な元気な会社です。僕らが成長することで、村の外からの関心を集められると思うんです。それで村を外圧によって変えてしまおう、開いていこうと。3つ目は『ソーシャルビジネス村のため』。ソーシャルビジネスは、とても過酷なんです。途中で燃え尽きてしまう人も少なくない。終わりが見えないのがその理由の一つだと思います。ソーシャルビジネスって顕在化していないニーズの掘り起こしからスタートすることが多いため、どうしても事業の立ち上がりに時間がかかります。そこは、なかなか変えがたい。だけど、もろもろ整えて事業化できれば、そのあとの成長スピードはいわゆる投資家が求めるレベルでも可能かもしれませんよ、というのを坂ノ途中で示したい。」

今回はいくつかの事業会社も参加しています。今回の調達を事業提携の機会にもしたいという考えからです。また、調達した資金は基本的に「人集め」の用途に充てられます。社内スタッフを集める以外に、広告宣伝費によるお客さん集め、取引する農家さん集めも含まれます。
「有機農業村のことを話しましたが、この中では農法や地域、世代などによるいろいろな断絶が起きています。ネットの力でそれをなくそうと、有機農業のプラットフォーム「farmO(ファーモ)」をつくり始めています。農業者さんとバイヤーさんのマッチングがすでに始まっています。情報交換やヒト、モノのシェアリングが進むようなサービスに育てていくつもりです。」
(farmO:https://www.farm-o.net/

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農業を志す人が諦めずに成長を続けられるような体制をつくっていきたいです

多様性のある組織はタフだ

調達資金を人集めにということで、気になるのはどんな人材を求めているかです。
「具体的な職種で言うとエンジニアです。実はうちの受発注システムは、小ロット取引が多いのでめちゃくちゃ複雑なんです。150戸の農家がそれぞれ40種類の野菜をつくったとしたら、年間とんでもない商品数となりますから。社内でエンジニアが独自の受発注システムをつくっているのですが、そのコントロールがまだまだ大変で。そして、その他の職種も何なりと、という感じです」
小野氏は、職種の枠ありきでの採用はしない方針です。こういう人が来たからこんなことができるんじゃないかと、人ありきで戦略がつくられていくのです。
「『豊かな土』というのは、生き物がいっぱいいる生物多様性を持った土です。菌がいっぱいいる、虫もいっぱいいるから、パンデミックにならないし害虫も大量発生しません。根っこの張り方も違うんです。とてもタフ。会社も同じだと思います。多様性があって、いろんな人間がちゃんと息をしていること。いろいろな人がうちにはいます。元力士もいるし、水産系の研究者だった人もいるし、東京でビジネスの第一線で活躍していた人もいる。こういう組織がタフなんじゃないでしょうか」

東京方面からの入社は半分弱とのことですが、都内で転職するのとはわけが違います。京都へ移住してくるわけですから、ある程度腹をくくっている人ばかり。また、基本的に会社の掲げるビジョンに共感した人が集まることもあり、離職率はとても低く、正社員で今まで退職した人は数人とのこと。
「この会社は僕がつくったのですが、今はどうやって会社の人格を僕の人格から切り離していけるかを考えています。社員それぞれが持っているものをもちよって、会社としての価値観や世界観を形作っていかなければ。僕が何かアイデアを出した際に、『それ、うちっぽくないですよ』と言ってくれるようにしていきたい」
坂ノ途中の社名は、「成長途中の新規就農者を支えるパートナーでありたい」という意味から取ったもの。一緒に坂を登って成長していくのは、農家でありこの会社です。成長し続ける限り、いい意味でずっと坂の途中にいるのかもしれません。

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社屋1階の作業場に積まれた出荷用段ボール。カタカナの「ノ」に意思を感じます
小野邦彦氏

株式会社 坂ノ途中 代表取締役

小野 邦彦さん

1983年奈良県出身。京都大学総合人間学部卒業。学生時代に友人たちとリサイクル着物の販売を行う。卒業後外資系金融機関で金融工学を用いた商品開発の業務に就き、退社後の2009年に京都にて株式会社坂ノ途中を設立。農薬や化学肥料に頼らない環境負荷の小さい農業の普及を目指す。2016年12月、三井住友海上キャピタルや朝日放送など8社から総額2億円の資金調達を実施。

株式会社 坂ノ途中

新規就農者を中心とした提携生産者が栽培した農産物の販売や、環境負荷の小さい農業を広げるためのさまざまな事業を展開。「百年先も続く、農業を」というコンセプトのもと、「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」を目指している。また、それを通じ、農業を持続可能なものにしたい、ひいては持続可能な社会にたどり着きたいと考えている。

住所
〒600-8888 京都市下京区西七条八幡町21
設立
2009年7月
従業員数
40名程度
資本金
250百万円(資本準備金含む)
企業HP
http://www.on-the-slope.com/
前田亮斗氏

[interviewer] デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 プラットフォーム事業部 副事業部長/地域イノベーションリーダー

前田 亮斗さん

佐賀県佐賀市出身。公益法人の立ち上げを経て、2014年デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。ベンチャー支援を軸とし、延べ30地域の産業政策立案・実行支援の統括、全国23拠点の経営企画支援を担当。地域エコシステム形成等の地方創生関連事業、ベンチャー企業と官公庁・自治体の協業を生み出すピッチイベント「Public Pitch」の責任者を務め、地域リソースを活用した新規事業創出支援等を行っている。『地方創生 実現ハンドブック』(日経BP社)執筆。 Forbes JAPAN 「LOCAL INNOVATOR AWARD2017」アドバイザリーボード選出。県知事委嘱和歌山県スタートアップ創出支援チームメンター。

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鳥羽山 康一郎

鳥羽山 康一郎

ライター/コピーライター/プランナー

文字を通じてのコミュニケーションを真ん中に置きながら、映像、画像などにも手を出しつつ活動。数多くのインタビューを通じ、その人の数だけの生き方に感動し感化される。自身もオフィスを持たない生き方を模索している。

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