登山をより安全に楽しく!画期的アプリで世界をめざす、福岡のベンチャー

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登山をより安全に楽しく!画期的アプリで世界をめざす、福岡のベンチャー
株式会社ヤマップ 代表取締役 春山 慶彦さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/12/27 (水) - 08:00
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登山が好きな方は、すでに手放せなくなっているのではないだろうか。電波が届かない山の中でも自分の現在位置が正確にわかるスマホ用アプリケーション「YAMAP(ヤマップ)」。現在ダウンロード数は約75万件、月間ページビュー数は約1億。登山用としては日本最大規模のユーザーを誇る人気アプリを開発・運営している会社は、福岡市にある。1980年生まれの若き社長に、起業の歩みとビジョン、地方で働く魅力を伺った。

都市化の反動で振り子のように高まっていく、登山・アウトドアのニーズ

―まずは御社で取り組んでいるビジネスについて教えてください
私たちは、登山・アウトドアユーザーさん向けに、「YAMAP」というアプリケーション・WEBサービスを開発、展開しています。「YAMAP」の最大の特徴は、携帯の電波が届かない山の中でもスマホで自分の現在位置がわかること。直近で解決したいことは、山の遭難事故です。今、山の遭難事故は過去最悪を記録しているんです。そういった事故を1件でも減らし、安全に山や自然を楽しむ環境づくりに貢献していくのが、私たちYAMAPのミッションです。

―なぜ、登山・アウトドア市場に着目したのでしょう?
日本社会の最大の課題は、体を使っていないことにあると思っています。現在、農業や漁業、林業など、自然の中で体を動かして生計を立てている第一次産業の割合は、日本の就労人口の約3%です。数にして130万人ほどしかいません。これはつまり、日本に暮らすほとんどの人は日常的に自然の中で体を動かしていないということでもあります。今後も都市化の流れは進むと思っていて、その反動として、大切な人と大切な時間を自然の中で過ごしたいというニーズも振り子のように大きくなっていくだろうと考えています。しかも、AI(人工知能)が進めば進むほど、人間の知的単純労働はAIに代替されていき、人間の余暇や遊びの時間はもっと増えていくはずです。遊びは人間にとってクリエイティビティの源泉でもあるので、登山・アウトドアといった自然の中で体を動かす遊びは、市場規模も社会的意義も今以上に広がっていくだろう、と。以上のような理由で、登山・アウトドアを自分たちのビジネスの土俵に選びました。

―春山さんはなぜ登山・アウトドアに興味を持つようになったのですか?
私は18歳まで福岡県春日市という福岡市のベットタウンで過ごしました。当時は登山の経験もなく、スポーツばかりしていたので、大学に行ったらアメフト部に入ろうと思っていたくらいです。ところが受験に失敗。とても厳しい予備校に通うことになりました。浪人中は寝る以外ひたすら勉強する毎日でした。受験本番を控えた年末頃になって、ふと思ったんです。「これだけ一所懸命に勉強しているけれど、この努力は自分の受験のためにしか役に立たないのか」「机の前に座っているだけで、この世界の何も見ていないし、世界の何も知らないじゃないか」。狭い世界に閉じた”受験”というものに嫌気が差し、むなしくなったんです。そのときに決意しました。机の上で学ぶスタイルは大学受験で最後にしよう。大学に入ったら、バイトでも旅でもボランティアでも何でもいいから、社会とのつながりの中で学ぶスタイルに変えようと。浪人時代のそんな思いもあり、大学に入ってすぐ、自転車で九州一周の旅へ出ました。その旅の途中で寄った屋久島で大きな出会いがありました。永田という集落にある民宿にお世話になり、そのご主人から「魚の採り方や植物の見分け方、俺が知っていることを全部教えてやるから、しばらくここで働いていかないか」と声をかけてもらったんです。民宿で働きながら屋久島で体験した海や森が、もう、すばらしくて…。身近にこんな美しい世界があったのかと驚きました。自然に触れることで世界に対する見方が180度変わっていきました。

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今回お話を伺った、株式会社ヤマップ 代表取締役 春山 慶彦さん

―登山を始めたきっかけは?
屋久島から帰ったあと、大学でお世話になっていた、登山を趣味とする先生に山へ連れて行ってもらいました。上高地から穂高連峰を縦走するコースでした。すごくつらかったです(笑)。なぜこんな辛い思いまでして山に登るのか、登っている最中は意味がわかりませんでした。ところが山から下りてきて2、3日経ったとき、山で見た風景がフラッシュバックしてきて…。山の大きさが自分の体の中に入ったというか、山の風景が自分の一部になったというか、山へ行く前と行った後では、体の感覚が全く違っていたんです。また、自分の足で山に登り、「都市だけがこの世界のすべてじゃない」と、身をもって知ることができました。

地方でも本気でやれば成功できることを証明するために、福岡へ

―その後、どのような歩みで起業したのですか?
在学中は父と同じ弁護士を目指していたんですが、星野道夫さんの写真集と出会ってから、写真家として生きていきたいと思うようになりました。星野さんが活動の舞台としていたアラスカに憧れ、アラスカ大学フェアバンクス校へ留学。生物学を勉強しながら、夏休みは、イヌイットのクジラ猟やアザラシ猟に参加させてもらいました。アラスカでの生活を経て、東京にあるユーラシア旅行社という会社に就職。その会社が出版する「風の旅人」という雑誌で、編集アシスタントをしていました。雑誌編集の手伝いや書店営業をする中で、カメラを持ってシャッターを押すだけが写真家の仕事ではないことに気づきました。写真家の仕事は「人間の視る力を広げること」。写真を撮るだけでなく、写真をどのように見せ、伝えるか。見せ方や伝え方も写真家の大事な仕事なんだ。デザインも、コピーも、文章も、ウェブやアプリ制作も、人間の視覚に関わる仕事である以上、写真家の領域と捉えた方がおもしろい仕事ができるんじゃないかと思ったのです。2年半、その会社でお世話になり、どんな分野でも仕事ができる自信がつきました。それで、30歳になる前に独立をし、東京から福岡へUターンしました。

―なぜ福岡だったのでしょう?
東京は、思っていた以上に暮らしやすい、素敵な街でした。でも、街が巨大過ぎて、自分にとって手触り感のある街ではなかった。表現するのが難しいのですが、自分が手がけている仕事が、暮らしている街に還元できていることを、東京では実感しにくかった。しがらみも含めて、なじみのある街で仕事をする方が、5年、10年経ったとき、後悔しない働き方ができているんじゃないかと思ったんです。それに、「地方で起業しても、本気でやれば成功できる」というロールモデルをつくりたかった。いち地方出身者として、東京一極集中に染まらない働き方をしてみたかったんです。

アイデアを思いついた瞬間、これに人生をかけようと決意

―「YAMAP」が生まれたきっかけは?
YAMAPを思いついたのは、2011年5月に大分県の九重連山へ行っていたときです。山の上でグーグルマップを立ち上げたら、真っ白い画面に、自分の現在位置を示す青い点だけが表示されていました。「あぁ、電波が入らないと、やっぱりスマホは使えないんだなぁ」と最初は思いました。ところが、しばらく歩いた後、もう一度グーグルマップを見たら、現在位置を示す青い点が移動していたんです。そのときに気づきました。位置情報は地上の電波ではなく、宇宙にある衛星から拾っているんだと。であれば、地図データさえ、あらかじめスマホに保存しておけば、電波が届かない山の中でもスマホで現在位置がわかるんじゃないか。この仕組みを思いついたとき、体に電撃が走りました。これはもう、自分でやるしかない。人生をかけてやってもいい。そう思いました。

―会社はどのように立ち上げていったのですか?
会社を立ち上げたいと思っても、どこに行けばいいのか、どうやればいいのか、全くわかりませんでした。2011年頃の福岡市には、スタートアップカフェのような施設もないですし、ベンチャーをやっている人の集まりもほとんどありませんでした。調べていたら、東京にはベンチャー起業家を集めている会社があると知り、当時、孫泰蔵や伊藤健吾さんがやられていた「モビーダ・ジャパン」に応募。第2期のスクール生として選んでいただきました。スクールの講師には、メルカリをやる前の山田進太郎さんや上場する前のgumiの國光さんなど、そうそうたる方がいらっしゃいました。第一線で活躍する先輩起業家の話を直接聞くことで、事業に対する目線がグーっと上がりました。また、同じスクール生だった仲間に、「YAMAPの事業とサムライ・インキュベートの投資方針はマッチするから、会ってみては」とアドバイスを受け、サムライ・インキュベート代表の榊原健太郎さんを紹介してもらったんです。YAMAPの事業内容を榊原さんにプレゼンしたら、会って20分で「出資する」と言ってくださって…。榊原さんには本当に感謝しています。というのも、お金だけじゃなく、事業成長のアドバイスを適時いただくことができましたから。サムライ・インキュベートを通じて、いろんな企業とつながりが持てましたし、企業とコラボすることで、YAMAPのユーザーも増えていきました。サービス初期にYAMAPが成長できたのは、榊原さんはじめサムライ・インキュベートのみなさんのおかげです。

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エントランスやオフィスフロアは、木材を基調とした温かな雰囲気

理想はワークとライフを分けない生き方

―社員は今何人ですか?
メンバー(経営層を含めた正社員)は今21人です。東京支社には営業が1人いて、あとは全員福岡にいます。エンジニアの採用に関して、福岡は他の地方都市と比べて恵まれている方だと思います。昔からゲーム会社が多くあり、エンジニアが活躍できる土壌があるからです。東京や大阪からメンバーを採用しようとすると、なかなか厳しいですね。本人がYAMAPに共感し、福岡に来たいと言ってくれても、奥さんが移住に反対する「嫁ブロック」のパターンを何度も経験しています。ただ、採用は会社にとって最重要事項なので、経営者である私が愚直に続けています。

―採用する際に気をつけていることは?
会社が目指す方向と、個人がやりたいことにズレがないかどうかを確認するようにしています。というのも、私は仲間になってくれるメンバーに「会社のために働いてほしい」とは微塵も思っていなくて。会社が実現したいことと自分のやりたいことが、どれだけマッチするかが大事ですから。そのおかげか、これまで会社を辞めたメンバーは実質ゼロです。とはいえ、会社の方向性と自分のやりたいことが合わなくなったら、いつでも会社を卒業してもらっていいと思っています。ただ卒業するとき、「YAMAPで働いてよかった」「世界観が広がり、成長できた」とメンバーに思ってもらえるかどうか。仕事を通してメンバーの学びや成長につながる環境をつくれているかどうかも、経営者としての私の役割だと思っています。

―社内ではどんな働き方をめざしていますか?
暮らしと仕事が乖離しない働き方を目指しています。最近「ワークライフバランス」という言葉をよく目にしますが、今の時代、ワークとライフをわざわざ分ける必要性はあまりないんじゃないでしょうか。ワークとライフを分けるのではなく、作り手と使い手を分けるのでもない働き方、暮らし方が理想です。公私混同、仕事がライフワークになる生き方ができれば、やりがいも、生きがいも増していきますので。また、仕事だけやっていても人生は楽しくないですし、暮らしに対する視点を欠くと、やっている仕事が世間からズレていってしまいます。それもあって、YAMAPは基本的に長時間労働をしないようにしています。メンバーのほとんどは18時半には帰宅しています。家庭を持っているメンバーは、育児や子どもとの時間を楽しんだり、男性でも家族の夕食をつくったり、帰社後は会社とは別のコミュニティに属しているメンバーもいます。会社の外で得た気づきが、今やっている仕事にもつながってくる。もちろんベンチャーなので、ハードワークは必須です。でも、それは時間ではなく集中の問題だと思っています。サッカーなど多くのスポーツは試合時間が決められていますよね。決められた時間内にどれだけパフォーマンスを上げ、結果を出すか。それは仕事でも同じ。スポーツスタイルで仕事をし、メリハリをつけて働く。そんな働き方を、経営層だけでなくメンバー全員で目指しています。

福岡はベンチャーへのサポートが厚い街。今後の課題は人材

―資金調達のほうはどのように推移していますか?
ベンチャーの資金調達には、いくつかのラウンド(段階)があるんですが、YAMAPは2016年1月に「シリーズA」ラウンドで1.7億円、次の「シリーズB」ラウンドで5億から7億円の資金を調達させていただくべく、奔走している最中です。資金調達をする度に思うのは、人様から何億円ものお金をお預かりするのは、本当にクレージーなことだな、と。資金調達を通して、経営者としての覚悟や事業の価値を自問自答し、純度を極極にまで高めるようにしています。

―今後の課題は?
第一は採用です。優秀でおもしろいメンバーを増やすこと。第二はサービスの規模を圧倒的ナンバー1に育てること。今、YAMAPアプリのダウンロード数は約75万です。なるべく早い段階で100万、200万まで成長させたい。というのも、アプリ・WEBサービスは一強多弱の、とても厳しい世界なので。

―どんな人材を求めていますか?
仲間になって欲しいメンバーは、エンジニア、デザイナー、マーケター…。すべての領域においてですね(笑)。YAMAPのビジョンに共感してくれる、優秀でおもしろい人であれば基本ウェルカムです。

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―福岡市はベンチャーにとってどんな街?
福岡市はベンチャーに関する支援が充実しています。 Fukuoka Growth Nextという官民共同型ベンチャー支援施設もあるし、起業をサポートしてくれるスタートアップカフェも用意されています。特に重要だと思うのは、「ベンチャーが盛り上がっている」という雰囲気が、福岡市にできたことです。盛り上がっている雰囲気に引かれておもしろい人が集まってきますから。私は「人がすべて」だと思っていて、おもしろい人、優秀な人が集まれば、結果は自ずとついてくると思っています。福岡の雰囲気をもっと盛り上げるためにも、プレーヤーである私たちが結果を出し、ひとつの成功例をつくりたい。また、企業に就職するのとは別の働き方があることを、高校生や大学生といった若い世代へ伝えていきたいと思っています。

暮らしそのものを大事にしようとする余裕。この街に貢献しているという実感

―海外展開の予定は?
あります。台湾と北米には、なるべく早い段階で進出する予定です。登山・アウトドアといったニッチなサービスであっても、海外のユーザーを獲得していけばマスになりますし、「グローバルニッチ」は今後、地方企業がとるべき大事な戦略だと考えています。

―最近、米国のメディア「Red Herring」社が選ぶ世界で最も革新的なベンチャーにも選ばれたそうですね。(「2017 Red Herring Top100 Global Winners」を受賞)
ありがとうございます。今回の受賞を海外展開のステップにつなげていきたいです。

―社員は全員、登山マニアなのですか?
いえいえ(笑)。YAMAPに入るまで登山をやったことがないというメンバーも一定数います。でも、開発者である私たちもユーザーじゃないと良いサービスはつくれないと思っているので、会社の勤務時間内に山へ登る機会を月に一度つくっています。「社内登山」という名目で、近場の山に出かけています。「社内登山」を通じて山が好きになり、週末は登山に出かけているメンバーもいますよ。

―福岡以外からの中途入社組は何人いますか?
大阪から1人、IターンUターンを含め東京から10人、合計11人です。福岡とは縁のないメンバーも、奥さんと一緒に東京から移住してきてくれて…。今いるメンバーには本当に感謝しています。

―地方で働く魅力は何だと思われますか?
仕事だけでなく、暮らしそのものを大事にしようとする余裕というか幅があるところでしょうか。仕事のために生活が犠牲になるような暮らし方ではなく、暮らしを大事にする延長に仕事や家庭やコミュニティがあると実感できる環境が地方にはあります。もうひとつは、仕事を通して誰かの役に立っている、小さくても地域に貢献しているという実感を得やすいのも、地方ならではではないでしょうか。東京のように大きすぎる街だと、「自分たちの事業で雇用が生まれ、この街の役に立っている」とは実感しづらいですから。どんなに会社が大きくなっても、地域に根差し、地域とともに成熟する会社でありたい。グローバルでたたかうためにも、ローカルな街・福岡にこだわって仕事をしていきたいです。

株式会社ヤマップ

“登山・アウトドア”を通して、身体感覚を置き去りにしがちな日常をもう一度見つめ直すきっかけとなり、利用者のより豊かで素敵な未来を切り拓くべく、さまざまな事業を展開。
[ 事業概要 ]
・登山アウトドア向け WEB サービス・スマートフォンアプリ「YAMAP」開発・運営
・「YAMAP Gears」開発・運営
・「YAMAP Events」開発・運営
・自然愛好者向けオウンドメディア「.HYAKKEI」運営
・山岳保険「YAMAP アウトドア保険」販売

住所
福岡市博多区綱場町2-2 福岡第一ビル6F(本社)
設立
2013年7月18日
従業員数
21人
資本金
2億849万9000円
企業HP
https://corporate.yamap.co.jp/
前田亮斗氏

[interviewer] デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 プラットフォーム事業部 副事業部長/地域イノベーションリーダー

前田 亮斗さん

佐賀県佐賀市出身。公益法人の立ち上げを経て、2014年デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。ベンチャー支援を軸とし、延べ30地域の産業政策立案・実行支援の統括、全国23拠点の経営企画支援を担当。地域エコシステム形成等の地方創生関連事業、ベンチャー企業と官公庁・自治体の協業を生み出すピッチイベント「Public Pitch」の責任者を務め、地域リソースを活用した新規事業創出支援等を行っている。『地方創生 実現ハンドブック』(日経BP社)執筆。 Forbes JAPAN 「LOCAL INNOVATOR AWARD2017」アドバイザリーボード選出。県知事委嘱和歌山県スタートアップ創出支援チームメンター。

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