小さな一歩でいい。誰かが喜ぶ仕組みをみんなが創れば、世の中は変わる。

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小さな一歩でいい。誰かが喜ぶ仕組みをみんなが創れば、世の中は変わる。
ウミーベ株式会社 代表取締役CEO カズワタベ(渡部 一紀)さん
金丸 正文
2018/01/03 (水) - 08:00
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知らない街への転職は、かなりの勇気を要する。ましてやゼロからの起業となれば、相当の覚悟と犠牲を伴うはず。そんな固定観念のハードルを軽やかに超えて、縁もゆかりもない福岡で創業し、着実に事業領域を広げる起業家がいます。東京でのバンド活動やITベンチャーの起業を経て、斬新な視点で「釣りをやさしく」するビジネスに挑むカズワタベ氏に、創業の経緯と経営哲学をうかがいました。

釣りをもっと便利に、もっと楽しくするサイトやプロダクトを開発

―まずは現在の事業内容を教えてください。

弊社では「釣りを、やさしく。」というコーポレートビジョンを掲げ、国内最大級の釣り情報サイト「ツリホウ(釣報)」(https://tsuriho.com/)と、釣った魚の写真を共有して釣り人同士で交流を楽しめるスマートフォンアプリ「ツリバカメラ」(https://tsuriba.camera/)を運営しています。ツリホウは釣り人が欲しい情報がわかりやすくまとまっていると好評で、多い時期には月間200万回以上閲覧されています。また、2017年9月には、魚の臭いやぬめりを落とすハンドソープ、その名も「フィッシュソープ」の販売を始めました。事業ドメインを定義するなら、テクノロジーやデザインの力を使って、釣りというレジャーをより便利に、より楽しくするためのプラットフォームやプロダクトを開発する会社、ということになるでしょうか。

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―なぜ“釣り”に注目されたのでしょう?

ひとつには、僕自身が釣り初心者だったからですね。ウミーベの創業は2014年ですが、その少し前、2012年くらいから釣りを始めて、たちまちハマりました。ところが、ネットで釣具の選び方や釣れるスポットを調べようと思っても、飲食店でいうところの食べログのような、欲しい情報が集約されたプラットフォームがないことに気づいたんです。じゃあ自分がつくろう、と思ったのが発端です。最初にローンチしたツリホウも、初心者にもやさしいサイトを、という発想を形にしたものです。
ちなみに、釣りに関するビジネスは起業に際して10通りほど考えた事業プランのひとつでした。プランの中には、人のフィジカルデータを取得して、アパレルやヘルスケアに生かすものもありましたが、最近ほぼ同じ発想のZOZOスーツが出てきてうれしかったですね。
そんな中で最終的に釣りを選んだのは、大手の釣具メーカーが西日本に多く、人口比で西日本の方が釣りが盛んだというデータを見つけたからです。たいていのビジネスは東京で始めた方が成功率が高いけど、福岡でやるなら釣りは面白いぞ、と。地方でやるのがアドバンテージになると判断したんです。

やるリスクより、やらないリスクの方がはるかに大きい

―なるほど。東京から福岡に移住して創業されていますが、移住ありきの起業だったのですか? 創業の経緯とあわせてお聞かせください。

ウミーベに関しては移住が先でした。
もともと父親が転勤族で、松本、長野、新潟、宇都宮、山形…と、転校を繰り返しながら育ったせいか、特定の集団への帰属意識が希薄でした。そのため独立心も強く、中学生の時、家庭訪問で「将来何になりたいか」と聞かれて「自営業」と答えたくらいです。それ、職種じゃない(笑)。
大学は音楽が好きだったので東京で音楽大学に進学しました。在学中に始めたインディーズバンドの活動を24歳まで継続した後、ミュージシャンやクリエイターを支援するWEBサービスを立ち上げたのですが、残念ながら長続きせず、フリーランスに。一度東京を離れたいと真剣に考え始めたのも、その頃です。以前から東京の過密な住環境が肌に合わなかったことに加えて、交通事故で足を骨折したときに思った以上暮らしづらさを感じたんです。そんなこともあって、移住を決意しました。
沖縄や京都など、いくつか移住先候補があったんですが、その中から福岡を選んだ決め手は、生活環境のバランスの良さです。都市として成熟しながらも過密ではなく、自然との距離感が近い点が気に入りました。オフィスをJR今宿駅周辺で探したのも、グーグルの地図で海岸線にいちばん近い駅だったからです。

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まさに海辺のオフィス。窓いっぱいにオーシャンビューが広がる。オフィスには仮眠用のハンモックも。

―未知の地方都市への移住ということで、不安はなかったのですか?

まったくなかったですね。転勤族で慣れていたのは大きかったです。あと僕は、漫画や小説の影響を受けやすいんですが、何か選択するときは大好きな「BECK」という漫画の主人公の「おれはインスピレーションに従って生きる(ことにした)」というセリフを思い返すようにしています。自分の直感を信じて行動しようということですね。

―なかなかそうは思えないから、多くの人は転職や移住に二の足を踏むのだと思うのですが…

これは経験的にいえることですが、やってみた場合のリスクって実はそれほど大したことないんです。僕は音大に行ったけど音楽では食えてないし、最初のスタートアップも成功しませんでした。でも、この通り元気に生きています。もっと素直に、シンプルに考えればいいんだと思います。環境を変えたいと考えたときに、たとえば全国に支社がある会社なら、転勤を願い出ればいい。マイナスの評価につながるんじゃ…とか、多くの人が失敗のリスクを過大に見積もりすぎてるんじゃないでしょうか。やって失敗したとしても、それじゃ駄目だったという経験を得られるので無駄にはならないんです。
移住や起業は片道切符じゃない。ダメならまた戻ったり、次またやればいいんです。こうしたいという方向性が明確なら、あれこれ思い悩む前に行動すべきだと思います。僕の場合も、福岡が合わなかったら別の街で出直すか、それこそ海外で何か始めてもいいと考えていました。

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―実際には福岡で順調に事業を広げておられます。

外から見ると順調そうと言われますが、思惑通りにいかないこともあれば、想定外の面白い展開もあります。その最たる例がフィッシュソープです。ツリホウとツリバカメラを通して聞こえてきた初心者、特に女性の方からの「魚の生臭い臭いがイヤ」という不満の声に応えて生み出した商品です。創業当初からWEBだけでなく釣り全体のUX改善に貢献できる展開を考えていたので、いい機会だからと共同開発を担ってくれるメーカーを探し、構想から4か月という短期間で商品化しました。特に広告は打っていませんが、テレビやラジオの番組で芸能人が紹介してくれた効果もあり、発売2か月で取扱店舗は全国200店以上に増えています。できるだけ早い段階で全国の釣具店の半分には置きたいですね。

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魚に触れる人たちのために、 こだわり抜いてつくった「フィッシュソープ」

―現在、スタッフは何人ですか? また新人の採用はどのようなルートで?

役員を含めて14人です。うち1人は東京に常駐しています。もともと福岡在住の人もいれば、IターンUターンJターンなど、いろいろです。採用は主にWantedlyやツイッターを通じて。ちなみにメディア運営のスタッフは全員釣り好きですが、開発チームには初心者もいますよ。

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オフィスは、福岡へのIターンを支援する「福岡移住計画」が運営するシェアオフィス「SALT」の5階。JR今宿駅から徒歩10分。

最高に住みやすい福岡で、釣り人が喜ぶ事業を広げていく

―インスピレーションで移住を決めた福岡の住み心地はいかがですか?

文句ナシですね。最寄りのJR今宿駅まで、福岡空港から直通電車で40分弱。その間の博多や天神といった中心地に都市機能がコンパクトに集約されていますし、東京のような満員電車とは無縁で、朝夕を除いてだいたい座れます。
生活コストについても僕は会社の近くに住んでいますが、オートロック付きマンションで家賃4万円代で済んでいます。
それから、なんといっても食べ物がおいしいですね。過去に2軒だけ、ちょっと微妙な店がありましたが、どちらも見事につぶれました(笑)飲食店は日本有数の激戦区なんじゃないでしょうか。
定食系も麺類も、何でも安くておいしいお店が多いですけど、特に魚は新鮮でいいですね。「胡麻サバ」という郷土料理があるんですが、移住を決めた決めてのひとつではありました(笑)。生のサバを胡麻だれで和えただけのシンプルな料理ですが、絶品です。

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オフィス内にはキッチンも完備。その日釣った魚を、スタッフみんなでさばいて食べることも。

―確かに、ゴマサバ最高ですよね。あえてうかがいますが、起業に際して、福岡のマイナス点を挙げるとすれば、どんなところでしょう。

しいて言えばメンターが少ないことでしょうか。東京だと、成功した起業家がエンジェル投資家やメンターの役割を果たしていますが、福岡にはまだそれがない。スタートアップが買収されたり、上場して支援側に回るまでの1回転目がまだ終わってない印象です。ただ、福岡のコミュニティも少しづつではありますが厚みを増しているので、数年後には様変わりしていそうです。個人的にはプレイヤーとして自由に動ける環境と捉えれば、むしろやりやすい。この環境で、地方で成功するモデルを作りたいという思いもありますね。

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「窓から魚が跳ねるのを見つけて、釣りに行くスタッフもいます。それも仕事ですから(笑)」

―事業を進めていくうえで、「これだけは譲れない」といった経営哲学はありますか?

周囲から「楽しく生きてるなコイツ」と思われることですね。好きなこと、やりたいことにはエネルギーいくらでも注げる性質なので(笑)。冗談で自分のことを「意識低い系経営者」と呼んだりもしますが、ウミーべが解決しようとしてる課題って社会にとってシリアスなものではありません。でも自分も含めて、釣りに興味があるけど敷居の高さを感じてしまっている人に、釣りを「やさしく」して提供していくことで、余暇を豊かに過ごす人が増えたら社会全体の幸福度は改善すると思うんですよね。これからAIやロボット技術が発達して人間が働かなくてよくなったときに、人間はただ楽しいことに時間を使えばよくなるはずなので。
ウミーベの力だけで社会を動かせるわけではないけれど、誰かが喜ぶ商品や仕組みづくりに、みんなが、それぞれの持ち場で努力すれば、世の中は確実に変わると思います。ウミーベはこれからも、釣り人や釣りに興味を持った人が喜ぶソリューションやプロダクトを、私たち自身も楽しみながら、世に送りつづけていきたいです。

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オフィスの窓から望む大パノラマの美景。おだやかな波の音をBGMに。
カズワタベ氏

ウミーベ株式会社 代表取締役CEO

カズワタベ(渡部 一紀)さん

1986年長野県松本市生まれ。音楽大学卒業後、クラブジャズバンドの活動を経て2011年にGrow株式会社を創業。その後、フリーランスのWEBクリエイターを経て福岡に転居。2014年8月にウミーベ株式会社を設立し。代表取締役CEOに就任

ウミーベ株式会社(umeebe Inc.)

「釣りを、やさしく。」というコーポレートビジョンを掲げ、国内最大級の釣り情報サイト「ツリホウ(釣報)」と、釣った魚の写真を共有して釣り人同士で交流を楽しめるスマートフォンアプリ「ツリバカメラ」を運営。また、魚に触れるすべての人の悩みをなくすために開発されたハンドソープ「フィッシュソープ」の開発・販売も手掛け、さまざまなメディアで紹介されている。

住所
〒819-0168 福岡市西区今宿駅前 1-15-18 マリブ今宿シーサイドテラス5階
設立
2014年8月1日
企業HP
https://umee.be/
前田亮斗氏

[interviewer] デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社 プラットフォーム事業部 副事業部長/地域イノベーションリーダー

前田 亮斗さん

佐賀県佐賀市出身。公益法人の立ち上げを経て、2014年デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。ベンチャー支援を軸とし、延べ30地域の産業政策立案・実行支援の統括、全国23拠点の経営企画支援を担当。地域エコシステム形成等の地方創生関連事業、ベンチャー企業と官公庁・自治体の協業を生み出すピッチイベント「Public Pitch」の責任者を務め、地域リソースを活用した新規事業創出支援等を行っている。『地方創生 実現ハンドブック』(日経BP社)執筆。 Forbes JAPAN 「LOCAL INNOVATOR AWARD2017」アドバイザリーボード選出。県知事委嘱和歌山県スタートアップ創出支援チームメンター。

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金丸正文

金丸 正文

ライター/コピーライター/プランナー

人材サービス会社勤務を経て、東京でフリーライターとして独立。その後、地元福岡へUターン。半農半漁の村で育ち、地方政令指定都市で学び、首都で20代を過ごして体得した複眼思考で、採用広報、企業広報、大学広報、インタビュー記事などを書く。

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