今回お話を伺ったのは、長年の金融業界でのキャリアを経て現在は熊本県天草市の病院で事務長を務める高坂美男さん。福岡での勤務を希望していた高坂さんが、なぜあえてアクセスが良いとは言えない離島・天草を選んだのか。そこには、九州全県を巡った高坂さんの「運命的な縁」と、地域医療の最前線で働くという新たな使命がありました。
「目の前がオーシャンビュー」という恵まれた住環境、残業月10時間以下というホワイトな働き方、そして地域になくてはならない病院を支える誇り。地方移住を検討しているビジネスパーソン必読の、リアルな実体験をお届けします。
異業種からの転身、そして「天草」との出会い
-- 高坂さんのこれまでのご経歴と、医療業界へ進まれた経緯を教えていただけますか。
もともとは金融業界で25年ほど営業職に携わっていました。管理職として全国転勤を繰り返す日々でしたが、実は妻との間に「子供が中学校に入ったら、それ以降の転勤には帯同しない」という約束がありまして。そのため転勤暮らしの後半は単身赴任生活を送っていたんです。しかし約6年前に妻が大病を患い、それを機に「家族のそばにいられる仕事」を最優先に考え、福岡で転職を決意しました。その時ご縁があったのが医療業界だったんです。
-- 異業種へのチャレンジだったのですね。熊本県天草市へ転職されたきっかけは何だったのでしょうか。
金融業界に携わった後に医療業界で5年ほど働き、病院運営の面白さを感じる中で「もっと経営の深い部分に関わりたい」という思いが強くなりました。当初は家族がいる福岡県内での転職を考えていたのですが、みらいワークスさんから紹介されたのが、天草の現職だったんです。最初は「また単身赴任になるし通える範囲ではない」とお断りしようと思っていました。
ただこれまでの転勤人生を振り返ると、沖縄を除く九州全県のうち唯一熊本県にだけは住んだことがなかったんです。「これも何かの縁かもしれない」と、ふと感じたのを覚えています。
-- そこから心変わりされた決め手は何だったのですか。
1つは、仕事内容や条件面が非常に魅力的だったこと。そしてもう1つの大きな理由が「長崎へのアクセス」です。
実は私、長崎出身なんです。地図を見てハッとしたのですが、天草からだと船を使えば30〜40分で長崎市内の実家に帰れるんですよ。当時は父の体調が思わしくなかったこともあり、福岡から陸路で向かうよりも断然近いこの場所なら頻繁に顔を見に行けるため、大きな後押しになりました。
また、採用プロセスでの「移動時間」も大きかったですね。熊本駅から病院までは車で片道2時間半ほどかかります。面接の際には、みらいワークスの担当者さんに送迎していただいたのですが、往復5時間の車内でお互いの腹を割って話せたことで、信頼関係が深まり、不安が払拭されました。結果として、転職活動開始から内定まで2ヵ月弱というスピード決断に至りました。
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オーシャンビューの宿舎とストレスフリーな生活
-- 実際に天草での暮らしはいかがですか? 橋でつながっているとはいえ、実質的には離島のような環境かと思いますが。
そうですね。福岡からの飛行機は風ですぐ欠航しますし、アクセスの不便さは否めません。ですが、買い物などの日常生活で困ることはほとんどありませんね。スーパーに行くと病院の職員によく会うくらいです(笑)。
何より素晴らしいのは環境。病院が用意してくれた宿舎は職場から徒歩2分で、部屋の目の前はオーシャンビューなんです。
仕事で多少ストレスを感じることがあっても、家に帰ってその景色を見るだけで癒やされます。わざわざどこかへ出かけなくても、日常の中にリフレッシュできる環境がある。これは都会では味わえない贅沢ですね。
-- ワークライフバランスについてはいかがですか。
非常に良好です。私の場合、給与体系は固定残業代を含む年俸制となっているのですが、実際の残業は月10時間を超えることはほぼありません。
もちろん、離島ならではの業務もあります。当院では福岡などから飛行機で来られる非常勤の先生が多いため、その送迎業務が発生します。最終便のお迎えがある日は出勤時間を遅らせるなど、自分の裁量でシフトを調整できるので、無理なく働けます。
ただ贅沢な悩みですが、平日は仕事、週末は福岡の自宅か長崎の実家へ帰省することが多いため、実はまだ天草でのんびり過ごす時間があまりないんです。「もっと天草での生活を満喫したい」というのが、今の正直な願望ですね。
「地域に1つ」の病院を守る、事務長としての使命
-- 現在の業務内容と、仕事のやりがいについて教えてください。
前職と同じ「事務長」という肩書ですが、役割は大きく異なります。
前職では医師の採用やコンサルティング的な業務が主でしたが、私が着任した時点で前任者が不在の「空席」状態でした。ゼロベースで組織全体を見渡すことから着手しています。
また、以前いた都市部の病院では「競合他社にどう勝つか」に主眼を置いていましたが、ここでは「地域にこの病院をどう残すか」が最大のミッション。実は地域医療の「最後の砦」として重要な経営基盤を持っています。
-- 地域のインフラを守る、非常に社会貢献度の高いお仕事ですね。
おっしゃる通りです。少子高齢化が進む地域において、この病院がなくなれば住民の方々は困窮します。理事長も「地域のために絶対に病院を存続させる」という強い理念を持っておられ、その方針にブレがありません。
そのような中、私が特に力を入れているのが「教育」です。医療専門職向けの教育は充実していますが、事務などの一般職向けの教育はまだ手薄な部分があります。まずは現在働いている職員や非常勤の先生方が「働きやすい」と感じる環境を整えること。こうした皆さんの口コミで評判が徐々に広がり、優秀な人材が集まるような組織づくりを目指しています。
移住を検討する方へ。「条件」だけでなく「暮らし」を見る
-- 最後に、地方移住や転職を考えている方へアドバイスをお願いします。
転職活動では、どうしても仕事内容や給与などの「条件面」に目が行きがちです。ですが、移住を伴う場合は「そこで生活できるかどうか」が非常に重要です。
面接で少し訪れるだけでなく、できれば1泊か2泊して、実際に街を歩いてみてください。買い物をしたり、ご飯を食べたりして、その土地の空気を感じてみる。そうすれば「ここなら住める」「ここは合わない」という直感が働くはずです。
-- 高坂さんご自身も、事前に確認されたのですか?
はい、私は採用が決まるまでに3回足を運びました。観光も兼ねて泊まってみて「ここなら大丈夫だ」と確信してから決断しましたね。
仕事は人生の一部ですが、暮らしの基盤はその土地にあります。ぜひ、現地での「リアルな生活」をイメージする時間を大切にしてください。
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