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時代を超えて愛されるロングセラー商品「メンターム」。滋賀から全国へ普及させた、近江商人の魂(後編)
株式会社近江兄弟社
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/12/19 (水) - 08:00

傷や肌あれなど、皮膚のトラブルで困った時はとりあえずこの薬に頼っていた―という方も多いのではないだろうか。家庭常備薬「メンターム」。この国民の定番薬ともいえるロングセラー商品を供給してきたのは、実は滋賀県の会社。地方で事業を起こし、アメリカから商品や技術を仕入れ、日本中に発信していったその歩みはまさに、グローカル企業のパイオニアといえるだろう。地方を拠点に発展を続ける「近江兄弟社」の素顔に迫った。

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時代を超えて愛されるロングセラー商品「メンターム」。滋賀から全国へ普及させた、近江商人の魂(前編)

再建を支えた、アイデアと行動力

―続いて、再建当時のお話も伺いたいと思います。大変な努力や苦労をされたと思いますが

私が入社したのは昭和60年。倒産から11年経過していましたが、当時の苦労を知る先輩方からは、「いつも自分の目標を持って、気づきを持っていなさい。仕事の成果を100点満点として、全力投球だけでは85点止まり。更にひと工夫を意味する残り15点が競争相手との差や成長の良し悪しを決めるんだよ。この15点は、常に考えること、好奇心を持つことなんだよ。」と教えられました。
例えば、「メンターム薬用リップ」という商品が生まれた背景があります。ブリスターパッケージのリップは今では当たり前になっていますが、実はこれをリップスティックに日本で最初に取り入れたのは当社だと言われているんです。先達が、昭和45年頃アメリカを旅行した際、視察で訪れたスーパーで見かけた商品の包装にヒントを得たとのことで、当時日本にはまだ無かったブリスター包装で、商品を40個吊り下げたディスプレイ什器をそのまま小売店様の店頭に吊り下げてもらった。このことが功を奏して、当社が一気にリップスティックの増産に移行してきた歴史だと教えられました。お客様の立場に立って、買いやすい、目立ちやすい、すぐ手が出る。ということを考えた気づきの賜物です。もう1つ、忘れてはいけないのが、再建時から続いた自転車での営業活動ですね。

―何を目的に、どのように行われていたのでしょう?

私共は、卸問屋様を通じて小売店様に商品を納めるのですが、やはり小売店様の方も「倒産会社の商品など扱える訳がない。」と思いがちです。潤沢な広告費もありませんし、お客様の認識をくつがえすには、自分たちでアピールしていくしかない。そこでライトバンに折りたたみ自転車を4台積んで、京都や大阪市内に行って、全社員が手分けして薬局薬店様を回っていました。私が入社した頃は、会社再建も少し落ち着いたころですので、毎日ではなく土曜日と木曜日、週に2回ぐらいだったと思います。冬の前になると、リップやメンタームの企画品セットの案内書を作って、1軒1軒しらみつぶしに地図に丸をつけながら、自転車で回っていましたね。普通にやっていては相手にしてもらえません。会社もまだまだコマーシャルを打つわけにもいきませんし、とにかく自分達の足で稼ぎましょうと。これも1つの発想ですね。夏場には、自転車を積んだエアコンの効いていない車を運転して、瘦せこけながら回っていたことを思い出します(笑)。

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―再建のキーポイントも、お客様の目線にいかに立つかということがポイントだったんですね

そうです。モノの売り方と、人のつながりですね。ただ単に小売店様に行っても、ぽんぽんと商談は進みません。やはり地道に卸問屋様と良い関係を作りつつ、小売店様と商談をします。当然1回では済みませんので、何回も何回もお会いして、人と人とのつながりで最終的に良い関係を構築させていただく。この商売スタイルは今も変わっていません。たとえ海外のお取引先様でもやはり人間同士の信頼関係でしょうし、一番大事なのは人と人とのつながり、信頼して頂ける誠実さがお客様から評価いただくポイントだと思います。

―そこには「近江商人」から受け継ぐ伝統、みたいなものもあったのでしょうか?

良い素材をみつけて、情報とともに遠路まで運んで売買し、そこで仕入れてきた都会の息吹をこちらに持ってくる。そういった近江商人の質素倹約で勤勉、そして誠実な「三方よし」という心意気を、ヴォーリズはアメリカ人であったけれども、ナンセンスとは感じなかったのでしょう。むしろ、感動していたのではないでしょうか。我々の中にも、〝商売に必要なのは才気でも経験でもなく、相手の信頼を得る誠実さである〟という先達の教えが、今も大きなテーマとして息づいているんです。

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近江八幡の街には、ヴォーリズ建築や関連施設が見事に融合している

困っている人の悩みを解決する商品を手頃な価格で提供する

―ものづくりにおける御社ならではの強みは、どういったところなのでしょう?

今、社員で、近江兄弟社らしさを追求する「あるべき姿」プロジェクトを立ち上げて、いろいろと考えています。当社はもともとメンタームからスタートして、リップクリームに派生して、日やけ止めやハンドクリームを販売させていただいていますが、大手企業様と真っ向勝負してもなかなか勝ち目はありません。ところが、お客様の中には、日やけ止めを使いたいけれども敏感肌で使えないという方も多いのです。アルコールが入っているのはダメだとか、防腐剤が配合されていないものを使いたいといったご要望に応えて、肌に極力負担をかけることなく日やけを抑える―そんな商品の第1弾をこの夏に新発売しました。決して爆発的に売れている訳ではないですけれども、近江兄弟社らしい、他にはない、本当に困っている方の肌に寄り添うような商品づくりをしていこうと考えています。こだわり商品は一般的には価格設定が高いのですが、出来る限りお求め易い価格で消費者の皆様に届けていきたいです。

―低価格で高品質っていうのは、なかなか実現するのが難しいですよね

コマーシャル費用をあまり掛けないのは一つの強みでもあります。その分のコストを会社の利益ではなく、お客様へのコストパフォーマンスとして還元していきたいと思っています。

売り場は生き物。変わっていくニーズやトレンドをどう採り入れるか

―販路の拡大にむけての取り組みも教えてください

営業活動においては、「あの人が来たら良い情報をくれるよ」と言っていただけるようなスキルアップが重要だと思っています。いくら「これは良い商品です。」と言っても「他にもあるから。」となりますので。我々は大手企業さんに敵わないかも知れませんけれども、その1つの市場を分析するノウハウは持っています。「こういう商品だったら機能補完できますよ。」とか、「市場シェアが少なくても、消費者志向の変化に照らすとやはり品揃えが必要ですよ。」と添えるなど、有益な情報も同時に発信していく。これが大事だと思っています。

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―営業時代のご経験がしっかり活かされているんですね。今でも販売の現場に足を運ばれることがあるんですか?

店頭は常にチェックしています。訪問するというより、お客さんとして行く程度ですけれども。どんなものがあるのかだとか、どんな売り方があるのだとか。どんな色が流行っているのだとか。そういうのは常日頃から見ておかないといけません。売り場は生き物。すごく変化していますので。雑貨など違う部門の売場も、どんな素材を使っているのかとか、すごく気になります。中でも食品の変化(表現の仕方など)が顕著ですね。こういう表現の仕方があるんだなと驚くことが多くあります。

―ちなみに最近の傾向は何かお感じになられていますか?

容器や包装素材の「プラスチック問題」、いずれ大きな流れとして必ず来ると思っています。社会的観点からも、資源の量をどう変えていくべきなのかなっていうのを見て考えていますね。

暮らしやすく、働きやすいまち・近江八幡

―地域を拠点にビジネスを展開する魅力については、どうお感じになっていますか?

この近江八幡には、私共の大切なお取引先様にもお越しいただくことが多いんです。皆さん口を揃えて、「良い街だね、定年退職をしたら住みたいよ。」ということをよく仰います。空気が綺麗ですし、夏は湖畔でバーベキュー、冬は近くのスキー場までそれほど時間もかかりません。ビジネス面では首都圏と比べると便利さの面で劣りがちと思われますが、東京へも朝一の便に乗れば9時には到着できます。大阪までは新快速1本で約1時間。仕事と家庭の両立といった観点からも、非常に魅力ある場所だと感じています。

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近江商人の商家が続く町並み。歴史的建築物群保存地区に指定されており、当時の雰囲気を味わうことができる

―都心でしか働いたことのない方にとっては、地方への転職はかなりハードルが高く見えがちですが、そういうお話を聞くとイメージも変わりますね

そうですね、私自身も営業時代はずっと埼玉に住んでいたんです。でもこちらに来てもそんなに変わりませんよ。むしろ時間に余裕があります。朝夕の通勤時間に苦労があまりないので、自分の時間が取れるんです。何より良いのは満員電車に乗らなくていいこと。全然違いますね。東京の皆さんは大変だと思います。

なんのためにできた会社なのか。その想いを継承したい

―経営面での今後のビジョンは?

社員には、数年前から東南アジアは1つの市場であると伝えてきました。それぞれの国でルールが違いますし決して簡単ではないのですが、アジア市場はローカル圏域くらいに捉えていかないとやっていけません。人口減少時代に突入する日本で、会社を存続させていくためにはどうしたら良いのか?ということにも繋がると思います。活発なアジア市場にも我々らしく誠実にチャレンジしていきたいなと考えています。

―会社として成し遂げていきたいこともぜひお聞かせください

ヴォーリズの遺志、創業の精神、私共の会社が社会奉仕のために存在しているということを、後世に継承していかなければなりません。近江兄弟社という組織の存在意義を語り継いでいく。それが代表として一番大事な役割であると私は認識しています。
もう一つは、私共の事業領域として皮膚に関することにより特化していく、より喜んで使っていただける商品開発を探求していくということ。人と人とのつながりとともに、信頼をお寄せいただける誠実な企業姿勢を永く継承していくということです。続く後輩たちに我々が受け継いできた想いを伝えながら、さらに繋いでいければいい。変えてはいけないことと、変えなければならないこと。やるべきことと、やってはいけないことを、社員たちに少しずつ分かってもらえるような会社づくりを進めていければなと思っています。

株式会社近江兄弟社

創業者ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(William Merrell Vories)の精神を継承し、事業を通じて社会奉仕をしていくという経営方針のもと、医薬品・医薬部外品・化粧品の製造販売メーカーとして、薬用性を重視した親しみやすいスキンケア商品を開発・提供している。

住所
滋賀県近江八幡市魚屋町元29(本社・工場)
設立
1920年(大正9年)
従業員数
約200名
資本金
9600万円
事業概要
医薬品・医薬部外品・化粧品製造販売、脱臭剤製造販売、ビル経営
会社HP
http://www.omibh.co.jp

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