【地方転職・起業の先駆者】「課題先進地」からのアイデア
月刊事業構想 編集部
2019/02/14 (木) - 08:00

地域は、少子高齢化や人口減少の影響を真っ先に受けている「課題先進地」。裏を返せば、課題はビジネスアイデアの宝庫でもある。ソーシャルビジネスをおこし、全国から注目される地域企業は少なくない。

※トップ写真:北林陽児 私の絵本カンパニー代表

課題を「楽しく」解決する

10月、鹿児島市で開催された「南九州移住ドラフト会議2018」。プロ野球のドラフト会議を見立て、移住者を受け入れたい地域を「球団」、移住志望者を「選手」として、それぞれがプレゼンテーションを行い、指名会議で地域側が移住志望者を指名するマッチングイベントだ。今回、鹿児島と宮崎の12団体が36人を指名した。
 
移住ドラフト会議は2016年に鹿児島県で初開催され、大きな話題を集めたことで各地に広がってきた。地域の人材不足という課題の解決に貢献する、このイベントの発案者が、一般社団法人・鹿児島天文館総合研究所(Ten-Lab)の永山由高理事長。Ten-Labは、地域でコミュニティを形成・活性化して、地域の課題解決やソーシャルビジネス創出につなげることを目指して活動する団体である。

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永山由高 鹿児島天文館総合研究所理事長

永山氏は九州大学卒業後、日本政策投資銀行に就職し、大企業向けの投融資に3年半携わった。転機となったのは2008年秋のリーマンショック。金融収縮と景気後退の中で、自らが直接地域に関わることを決意し、翌年に鹿児島に帰郷。NPOで起業家育成事業のマネージャーを務めたあと、独立して2011年にTen-Labを設立した。
 
Ten-Labは離島エリアを含めて県内各地で地域づくりのサポートを行っている。ユニークなプロジェクトの一例が、鹿児島県垂水市海潟で実施した「スポーツ灰集め」。桜島と地続きの垂水は長年、その降灰被害に悩まされてきた。市民にとってキツい・汚い灰の除去作業を、楽しい・面白いスポーツイベントに転換するために発案されたスポーツ灰集めは、1チーム3000円の参加費がかかるものの、「お金を払ってでも参加したい」と好評を博した。参加者には付近の温泉やカンパチなどのグルメを楽しんでもらい、垂水とのつながりを持つきっかけを生み出すことにも成功した。

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「スポーツ灰集め」でも「移住ドラフト会議」でも、多くのプロジェクトに共通しているのは、『地域を何とかしたい、関わりたい』という想いを抱く人のコミュニティをつくり、対話から地域の課題を洗い出し、コミュニティ内の連携を通して解決の道筋を探る、というスキームである。「地方都市においても、コミュニティに集まる個人が持つ知識や経験を結集すれば、社会にインパクトを与えることができる」と永山氏は話す。

高齢化率日本一の県からの発想

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高齢化率日本一の秋田で、自分史づくりを通した認知症ケアを行う、私の絵本カンパニー(秋田市)。同社の自分史は、写真を多く使い、文字とページ数は少なめの、絵本のようなスタイルだ。高齢者が繰り返し自分史を読むことで、「回想法」という心理療法で認知症を予防・改善する。
 
私の絵本カンパニーの北林陽児代表は、「事業のヒントは祖母からもらいました」と話す。北林氏は東京の大手電機メーカーに勤めたあと、秋田に帰郷。「介護施設に入居する認知症の祖母を見舞ったところ、同じ昔話ばかりを繰り返すことに気づきました。そこで、話をまとめて写真と組み合わせ、祖母の自分史を手作りしてみたのです」。その自分史を読むようになってから、祖母の認知症は目に見えて改善。さまざまな記憶がよみがえり、最終的に介護施設を出て自宅に戻ることができたという。
 
その効果に驚き、回復の要因を調べたところ、「回想法」に行き当たった。回想法は、過去の思い出を語ることで脳が刺激され、精神的な安定や癒やしの効果が期待される、認知症の非薬物療法。北林氏のつくった絵本のような自分史は、視覚効果で記憶をよみがえらせることができたのだ。
 
ビジネスチャンスを感じた北林氏は2013年に私の絵本カンパニーを設立、秋田県内で自分史制作ビジネスをスタートする。すでに多くの出版社が自分史制作ビジネスを展開していたが、認知症ケアという観点から事業をしている会社は皆無だった。
 
「他社の自分史は分厚く、豪華です。しかし、作った本人でさえ読まずに本棚にしまっておくことが多い。私が目指すものは本人、家族、友人が『繰り返し読みたくなる』自分史であり、明確な差別化ができると考えました」
 
私の絵本カンパニーの自分史は、約20ページと少なく、文字サイズは大きくしてある。「短い文章だからこそ感動が伝わるし、制作コストも安くできる」という。
2014年にはグッドデザイン賞を「メモリーブックによる認知症の予防・改善」というテーマで受賞。「事業の信用度が上がり、大きな転機になったと思います。お客さんが涙を流して喜んでくれたり、家族で出版記念パーティーを開いてくれたり。これほどやりがいのある仕事はありません」と北林氏は話す。
 
この他にも、ソーシャルな課題に着目してビジネスに取り組み、全国区の企業になった地域発ベンチャーは多数存在する。授乳服ブランド「モーハウス」は、代表の光畑由佳氏が結婚を機に移住した茨城県つくば市で立ち上げた。

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光畑由佳 モーハウス代表取締役

“授乳のしやすさ”にこだわった授乳服やインナー、ブラジャーを次々と開発し、女性たちの支持を獲得。近年は、子育て支援に取り組む自治体との連携を深めており、授乳服協定(出産のお祝いに自治体から授乳服をプレゼント)やふるさと納税(納税のお礼に授乳服)などの活動を行っている。

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本稿で挙げた事例以外にも、教育や交通、環境エネルギーなど、地域が直面する課題は様々であり、首都圏人材の持つ専門知識やアイデアが活きるはずだ。まずは地域に入り、リアルな課題を知ることがソーシャルビジネス創出の第一歩だろう。

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